Triangle Blue -番外編-1-  

−1−

吉澤と石川が別れてから約1ヶ月が過ぎようとしていた。
2人が実質別れた事は保田と後藤以外知られていない。
それだけ2人の関係は傍目からは、変わっていなかった。

そして今は新曲『Mr.Moonlight〜愛のビッグバンド〜』
の出演目白押しである。
衣裳もスーツ姿で決めている一際目立つのは、勿論吉澤ひとみ。

「よっすぃ〜モテモテじゃん」

同じく男役の後藤がニヤけながら言う。
別れた当初は多少後藤とぎこちなかった時もあったが
今では前と変わらない関係に戻っていた。

「そんなことないよ」
「数々の誘惑にも負けず…。吉澤くん!君も大人になったね」

肩を叩きながら後藤は感心したように言う。


「なぁ〜に言ってんだか…」

誘惑と言うか、矢口が「よっすぃ〜カッコいい」と言って抱きついたりその程度の話である。

「よっすぃ〜狙ってる人多いじゃん」
「あまりヘンな事言わないでよね〜」

確かに今度の新曲は宝塚の男役のようだと自分でも思うし、自然とそういう格好をしていると、立ち振る舞いも男っぽくなるから不思議だ。

「新メン4人も、よっすぃ〜見てキャーキャー言ってたよ。
 小川ちゃん、マジでよっすぃ〜に惚れたりして」
「やめてよ、も〜〜〜ぉ!」
「でも寂しがりやのよっすぃ〜が、良く我慢出来るなぁーって思うよ」
「何が?」
「……だって…してないんでしょ?」
「・・・ま、まぁね」

実際していないのだが、気恥ずかしくて吉澤は言葉を濁した。


「その場で流されるよっすぃ〜がねぇ…」

そう言いながら後藤は吉澤の肩に手をかけた。

「私と別れたコト後悔してる?」
「・・・してないよ。感謝してる。ごっちんにはホント感謝してるよ」

ここまで前と同じようにつき合えるのも後藤がサッパリした性格だった事もあるのだろう。

「感謝かぁー。よっすぃ〜、もうそろそろ梨華ちゃんのコト迎えにいけば?」
「あぁーーーまだちょっと時期的に・・・」

吉澤は曖昧に返事をした。

「私のコトなら、気にしないでね。もう大丈夫なんだから」
「それは気にしてないよ」
「そう言われちゃうと、少しは気にして欲しくなるよ」

後藤は苦笑いした。

「ごめんなさい」
素直に謝る。


「それは冗談だけど…。……もしかしてクリスマス辺りを狙ってるとか?」
「(う"・・・)・・・」

ズバリ当てられて吉澤は黙ってしまった。

「ヤダ。図星?」

吉澤の反応を見て楽しむ後藤に吉澤は溜息をついた。
(あ〜ぁ、ごっちんには何か知らないけどバレちゃんだよなぁ。
 もしかして私の考えが単純なだけかも知れないけど)

「よっすぃ〜って、結構ロマンチーなのね。カワイイ」

少しからかい半分で言われて吉澤はムッとした。

「カワイイ言うな」
「でもまだ1ヶ月半以上もあるじゃん。それまで待てるの?」
「待てるよ!!もぅからかわないでよ〜!」


しかし後藤は続ける。
「なんかプッチの新曲と微妙に被るねー。
 "頭の中 ほとんど梨華ちゃん♪"
 結構よっすぃ〜"サンタさぁ〜〜ん!"って叫ぶとこ
 "梨華ちゃぁぁぁ〜〜ん!"って思ってるとか」
「もぅ、ごっちんカンベンしてよー」
(そんなコト言われたら歌うたびに思い出しちゃうじゃん…)

「あ、でもタンポポの新曲もさー『王子様と雪の夜』なんて、梨華ちゃんは自然とよっすぃ〜を連想してんだろうね」
後藤は勝手な事を言っている。
「そんなコトないって…」

「でも梨華ちゃんに訊いたら否定しなかったけど?」
後藤はしたり顔で言う。
「そういうコト、訊かないでよ〜」


困り果てた様子の吉澤の隣りに保田と石川がやってきた。

「なんか楽しそうね。2人とも」
「楽しんでるのは、ごっちんだけですよ」
「満更でもないクセに」

後藤が、まだニヤニヤしながら言う。

「また、ごっちんにからかわれてたの?」
「そうなんだよ。梨華ちゃん助けて〜」

わざと石川にすがりつくように言うと、石川は
「ごっちん、もっとよっすぃ〜のコト、いぢめてあげて」
と楽しそうに言う。
「梨華ちゃんまで〜(涙)」

そんな3人の光景を見て保田は1ヶ月前の出来事がまるでウソのように思えた。
(まっ、後藤の潔い別れ、吉澤の憎めない性格、石川の吉澤を最終的には許した心の広さが、うまく合わさったのかな)

『よっすぃ〜が戻ってくるところは、結局私なんですよ』
以前、石川が保田に言った言葉だ。
「大した自信だ」と保田は思って聞いていたが、結果的にはそうなったようなものだ。  
例え、今は別れていても、2人の心は繋がっている。
(羨ましい関係だよ。石川……吉澤……)




−2−

石川と吉澤が先に、スタジオに行ってしまうと、保田は後藤に言った。

「後藤、もうすっかり立ち直ったようね」
「まぁねー。いつまでも引きずってたって仕方ないしさー。
 それに私には圭ちゃんがいるし…あはっ」

後藤はカラッと明るく言う。
最後の「あはっ」が気になったが、保田も満更でもない。

「今年のクリスマスって圭ちゃん予定あんの?」

彼氏がいない事を知ってて、わざと聞くあたりに悪意を感じなくもないが後藤だから保田も許してしまう。

「失礼なコト聞くわねー。勿論ないわよ」
「良かった…」
(っとに、良くないっての!!)
「じゃぁ後藤と寂しく過ごそうか」
「なんでわざわざクリスマスの日まで後藤と一緒にいなきゃいけないのよ」
「プッチの新曲でもかけながら…」
「余計寂しいじゃないの…」
「もー、圭ちゃんプジティブだよっ」
「ソレとコレは関係ないでしょうに」


後藤は急に真面目になると
「でもマジでその日あけといて。ね?圭ちゃん」
「…う、うん」
保田は黙って頷いた。

「圭ちゃんのコト、襲ったりしないから安心してね♪」
後藤はまたいつもの顔に戻るとウィンクした。

あの一件以来、保田と後藤は急接近した。
その感情は恋愛までは発展していないが、良い関係である事は間違いなかった。
ただ、吉澤同様、からかわれる事も多くなったのだが。

「あんまりからかうと、逆に私が襲うからね!」
「アハハッ。圭ちゃんムキになってカワイイ」
(ほんと懲りないね。後藤は。でもイヤじゃない。そんな後藤も好きだよ)
保田は後藤の笑い顔を見つめながら、そう思った。




−3−

いち早くスタジオ入りした吉澤と石川はスタジオの隅で待機していた。
カッコ良く決めてる吉澤を見る度に石川は、いつも惚れ直してしまいそうになる。
(カッコいいよ、よっすぃ〜)
今日も無意識に吉澤の顔をじっと見つめてしまっていた。
それに気付いた吉澤は口を開いた。

「どうしたの?梨華ちゃん…」
「え?…あぁ、なんでもないよ」

そこへ「よっすぃ〜」と言いながら駆け寄って加護が吉澤に抱きついて来た。

「ホンマ、よっすぃ〜は、かっけーなぁ…。梨華ちゃん幸せもんやでー」

そう言ってる割には、これ見よがしに、かなり密着して抱きついている。
そして、辻もやって来て
「今度は、ののの番れすー。あいぼん変わって〜」

勝手な事を言っている。更に矢口が割り込んで来て

「次は矢口だよ〜。よっすぃ〜はあとはあと

嬉しそうに抱きつく矢口に、吉澤も照れ笑いしている。
「矢口さぁ〜ん…」


吉澤が娘。の中で誰からも好かれているのは分かるのだが、
こうあからさまに目の前で抱きつかれるのを見ていると石川は複雑だった。

「石川は毎晩、よっすぃ〜独占してんだから、こんくらいは許してよね」
「…ハ、ハイ」
(全然そんなコトないんだけどな…)
石川は曖昧に答えるしかなかった。

別れの誓い?のキスをして以来、仕事以外では指1本触れようとしないのだ。
それ以外は、以前と変わらない。むしろ以前よりも優しくなった感じがする。

今までの吉澤を知っているので1週間くらいで自分の元に戻ってくると
軽く見ていたが、あっと言う間に1ヶ月が経ってしまった。
吉澤は、そんな素振りも見せないし、石川は時々「まさか、このままずっと…」とかすかな不安も覚える。
それでも以前のように、吉澤に対して不信感を持つコトは全くなくなったのだが。


再び吉澤に視線を戻すと、飯田までもが吉澤に抱きついていた。
(い、飯田さぁ〜〜〜ん(泣)私だって、抱き締めて欲しいよ〜)
石川はいたたまれなくなり、スタジオから一旦離れると、控え室に戻ろうとした。
吉澤は、すぐに気付くと、石川の後を追った。

「梨華ちゃん、どこ行くの?もう本番間近だよ」
「分かってる…」

他メンが抱きついたくらいで、嫉妬してるなんて思われたら、なんだか恥ずかしくて石川は言えなかった。

無言で吉澤は石川の腕を取ると人気のないスタジオの隅に連れていく。
そして石川を思い切り、ぎゅぅ〜〜〜っと抱き締めた。
久しぶりの抱擁に、昔の感覚が甦って来て、石川は思わず涙がこぼれそうになった。

「やっぱり梨華ちゃんを抱き締めてると安心するよ」
「よっすぃ〜…」

吉澤の腕の温もりを感じながら、石川は呟いた。

「こんくらいで泣くなよぉー」
「泣いてないもん」

石川は吉澤の視線から、照れくさくて一旦目を反らした。


吉澤は一瞬考えて"仕方ないなぁ"と言った顔でこう言った。

「梨華ちゃん、目ぇ閉じて…」

石川は言われるまま目を閉じた。
吉澤は周りに人がいないか確認すると、少し屈んで石川に軽くくちびるを重ねた。
(…え??)
あれほど待ちこがれたキスを簡単にされて、石川は拍子抜けした。

「相変わらず、梨華ちゃんのくちびるは柔らかいね」
「ずるい、よっすぃ〜」

戸惑いながら石川は答えた。吉澤は優しく微笑んでいる。

「まだキスは先のつもりだったんだけどね。特別サービスだよ」
「だったら、もっとちゃんとして…」

吉澤のスーツの袖を掴んで石川は言った。

「口紅落ちちゃうじゃん」

吉澤も多少なりとも気は遣っているつもりだった。


「じゃぁ本番終わったら……」

そう石川が言いかけた時に後藤が二人を見つけて近寄って来た。

「ブチュッとしちゃったの?よっすぃ〜?」

吉澤は慌てて石川から離れた。

「ごっごっちん…」
「もう始まるよ。よっすぃ〜さっきの話をさぁ〜梨華ちゃんに…」

吉澤は後藤の口を慌てて手で押さえると、肩に腕を回して、そのまま石川を残して足早に歩いて行った。

「まだ梨華ちゃんには、言ってないんだから、余計なコト言わないでよね」
「分かってるって〜」
「分かってないよ」


軽く触れただけなのに、石川はさっきのキスでドキドキしてしまった。
付き合い始めた頃を思い出す。
(やっぱり私、よっすぃ〜のコトが凄く好きなんだ)
改めて実感する石川だった。




−4−

更に数週間が過ぎ、ユニットでの仕事も多くなった。
吉澤は、プッチモニ、石川はタンポポ……

当然また、後藤と保田と一緒になる事が多い吉澤は相変わらず2人から突っ込まれまくっていた。

「まぁーだ言ってないの?ヨシコ遅すぎ!」
プッチモニの収録の合間に、また後藤から言われる。

「なかなか最近会う時間ないんだよ。梨華ちゃんもタンポポで忙しいみたいだしさぁー」
「んなの言い訳っしょ!時間は無ければ作るもの!!
 もめてた時だって忙しいのは変わらないよ?あの時は殆ど毎日会ってたじゃん」
後藤が真面目に言うので、吉澤は「まぁね」と曖昧に答えた。


「今頃、梨華ちゃん、やぐっつぁんに口説かれてたりして…」
後藤がイヤな事を言うので吉澤は顔をしかめた。

「案外、圭織が誘ってたりして…」
保田まで、意地悪な事を言う。
「結構、加護んちに呼ばれてたりして…」

あり得ない事もないので吉澤は急に不安になった。

確かに石川は矢口と2人で焼き肉食べに行ったり、加護の家に泊まりに行ったりとかしているし……
それに、保田は石川とお揃いの携帯ストラップだし。

「保田さん、ズルイ…」
「え?何が??」
「…なんでもありません」

今は石川と事実上?付き合ってないから、偉そうな事は言えないが、
それを知った時点で石川のストラップは「外して」とお願いしたいくらいだった。
寄りによって、保田とは……。


「吉澤も、そんな淋しそうな顔しないで、石川呼び出して、やっちゃえばいいじゃないの!ホンットにじれったいわね!!」

「やるって……。圭ちゃんストレートだねぇ〜」
隣りで、後藤が苦笑いしている。

(おばちゃんになると、言い方が露骨だなぁ…)
「ロマンティックじゃないですよ、保田さんはぁ〜!」
「あんたねぇ、相手いるクセに待たせといて贅沢なのよ。
 元からいない私とか他のメンバーから見たら、吉澤、袋叩きよ!」
「こわ〜...」

後藤はそう言ってる割に楽しそうだ。

「よっすぃ〜私なんか圭ちゃんとX’mas過ごすんだよ」
「私なんかって何よ」
保田は後藤を睨むが、後藤は動じない。

「"ぴったりしたいX’mas"って感じじゃ全然ないけどね〜。アハハッ。
 ってか "ぴったりしたくないX’mas"だよ」
「ちょっと後藤!自分から誘っといて何?その言いぐさは!!(怒)」
「どうせ圭ちゃんも一人だしさー。やぐっつぁんとか圭織に誘われないうちに圭ちゃんリザーブしたのに…」


吉澤と石川以外みんな1人と言うのも寂しい状況であるが。

「リザーブだなんて…。後藤!高いわよ!!」
「私の身体で返しても…」
なんて後藤は冗談で言っている。

なんだかんだで後藤と保田は仲が良いのだ。

「いらないわよ!」
とか言ってる割に保田の顔は赤い。

「あー、ごっちんイイですよ。保田さん」
「イイって?」
保田は吉澤を見る。
「身体・・・」
と言うと同時に保田から頭を思い切りはたかれた。

「っとに吉澤も素で返すんじゃないわヨ!!」
「えっ?あっぃゃぁ〜…」
吉澤も赤くなってしまった。

「ちょ、ちょっとトイレ行ってきます…」
自分でも恥ずかしくなり席を立つ。


一瞬でも後藤と愛し合った日々を思い出して、吉澤は胸がキュンとなってしまった。
(あの時は溺れてたもんなー私・・・)
刺激的な後藤とのえっちに酔いしれながら思い出すだけで………。
(今まで思い出した事なかったのに…。保田さんがヘンな事言うから!!)

トイレの洗面所の鏡の前にボーッと佇んでいると、当の後藤が入ってくる。
鏡の自分と後藤と目が合って、吉澤は慌てて視線を落とした。

(もう済んだ事なのに…何を今更思い出してんだろ・・・バカだな)

「よっすぃ〜?」
「はい?」
ビクッとして、隣りにいる後藤を見た。
「何かしこまってんの?おっかしい…」
「そうかな」

意識しなければ後藤とは友達のまま接する事が出来る。
意識すると…今みたいにぎこちなくなる。

「思わず思い出しちゃった?私との愛の日々を…」
後藤が目を細める。
ピンクの衣裳は、あまりにも娘。の時の吉澤と対照的で……

「カワイイ…」
後藤の目は、あの時と同じ目をしていた・・・

(だめ・・・。よしてよして…)


「よっすぃ〜ダメだよっ!」
すぐに、いつもの後藤に戻る。
「え?」
「そんな風にされるとさぁ〜、また、よっすぃ〜のコト
 襲いたくなっちゃうじゃん…。フッてあげた意味ないじゃん」
後藤は冗談めかして言う。
「だから後藤と圭ちゃんのためにもX’masと言わず、早いとこ梨華ちゃんと、ぴったりしなきゃ。
 雪の夜まで王子様は待ってるコトないんだよ…」

「う、うん…」
「そーいうコト、いちいち後藤に言わすなよっ!!」
そう言って、吉澤の背中をバシッと叩く。
「いつもサンキュ!!ごっちん…」
(ちょっと、ごっちん強く叩きすぎ…(泪))
吉澤は少し涙目になりながら言った。


「へなちょこりんでも、よっすぃ〜は、梨華ちゃんの王子様だもんな〜」

「ごっちんの王子様は……保田さん?」
「…げっ……。それは、ちょっと……」
後藤の顔が一瞬曇る。

「後藤、それ、どういう意味?(怒)さっきから失礼なコトばっか言ってぇ!」
いつから居たのか、保田が入ってくる。
「盗み聞きですかぁ?保田さん、趣味悪い!!」
どの辺りから、保田が聞いていたのか分からない吉澤は、一瞬慌てた。

「本番近いんだから、いつまでも2人で喋ってんじゃないわよ。行くわよ!」
「「はぁ〜ぃ」」

(思い立ったら吉日!今夜、梨華ちゃんちに行こう!)
スタジオに向かいながら、単純な吉澤は心に誓うのだった。






−5−

石川はタンポポの収録で別のスタジオにいた。

「石川さぁ〜」
矢口が石川に話しかけてきた。
収録も終わって後は帰るだけだ。

「ハイ?」
「最近、よっすぃ〜と、どうなの?」
「…どうって。普通ですよ」

本当に普通としか言いようがない。何もないんだし。
結局スタジオ裏でキスして以来、また何もないし殆ど喋ってもいなかった。
タンポポのメンバーと会って話してる時間の方が多いくらいだ。

「普通って、どう普通なんだよぉ〜」
「梨華ちゃんの普通はウチらの普通とは、違うねんなぁ〜」
一人、お菓子を食べながら加護が口を挟む。

「加護・・・それは、どう違うの?」
交信していたハズの飯田が加護に聞いてくる。

(もー、あいぼんも余計なコトを・・・!)

今日は3人から、しつこく絡まれて石川も対応に困っていた。


「一般人は"普通"なんやけど、梨華ちゃんとよっすぃ〜はぁ〜
 "ふつー""ふつ〜"って感じやな」
「加護、言ってる意味分かんねーよっ」
矢口が突っ込む。

「紙に書かんと分かりづらいねんなぁ〜」
加護はメモとペンを取り出しながら言うが・・・

「カオリには見えたよ。そっかー」
何が見えたのか、飯田は納得している。

とても付き合いきれない石川は一人先に帰ろうと立ち上がったが、
矢口に腕を掴まれてしまう。

「今日は帰さないよ?石川」
矢口はニヤリと笑った。

いつもは気を利かせてるのか?石川を誘わない矢口だが、今日は飯田と共に石川と喫茶店に来ていた。

この前、矢口に焼き肉をおごってもらったので、あまり強く断れず石川も半ば強制的に連れて来られた。
加護もついて来たがっていたが、矢口に「来るな」と一蹴されて1人帰って行った。
尤も、夜も遅いし、ついてきても眠ってしまう可能性が大だった事もあったのだが。


「本当のところは、どうなの?」
「本当って???」
(もぅ、矢口さんしつこいです……)

「よっすぃ〜、結構ごっつぁんと一緒が多いからさぁ…」
「プッチの仕事もあるんだし、後藤と一緒でもおかしくないじゃん?」
飯田は矢口を見るが・・・

「甘いよ、圭織。一時期、妙に2人が接近してた時あったじゃん」
「そうだっけ?いちいち覚えてないよー。リーダーは大変なんだよ矢口ぃ」
「ホラ、ごっつぁんとよっすぃ〜が仕事すっぽかして謹慎受けた時…」

(もーイヤな事を思い出させてくれるなー矢口さん・・・。
 と言うか鋭いな、やっぱり・・・・)
石川は視線をテーブルに落とした。

「あぁー、後藤がえらく荒れてた時ね」
飯田は思い出したと言うように言った。

「あん時は、圭ちゃんもキリキリしてたよねー」
「圭ちゃんは、いつもキリキリしてるけどね」
「最近は、圭ちゃん、後藤狙いって感じだけど…」

(さすが矢口さん、良く見てるなぁ〜…)
矢口の観察力の鋭さには、石川も感心してしまう。

「圭ちゃんは、石川狙いじゃないの?」

(う…。飯田さんも、侮れないなー…)


「だから実際、どうなの?石川」

ずっと2人の会話に耳を傾けていた石川だったが急に話を振られて矢口を見た。

「実際って?」
「クリスマスは、よっすぃ〜と過ごすんでしょ?いいよなぁ〜」
本当に羨ましそうに言う矢口に、石川は曖昧に答えるしかない。
「去年も吉澤と過ごしたんでしょー?カオリなんかぁ…去年どうだったっけ?」

今年・・・吉澤からは、まだ何も言ってこない。
勿論、石川は予定をあけているのだが、不安にもなる。

(まさか、お正月とか言わないよね?よっすぃ〜・・・)

「圭ちゃんに、この前クリスマスの話振ったらさぁ、今年は予定入ってる♪
 なんて嬉しそうに言われちゃったんだよね。どうせ女友達だろうけどさ」

矢口は、その相手は後藤だと言う事までは知らないらしい。


「なっちとカオリと3人で寂しく過ごそうか?」
飯田まで諦め口調で言うので、矢口は笑ってしまう。

「それだったら裕ちゃんも誘おっかー。裕ちゃん、今年も仕事いれてそうだな〜」

また石川を無視して、矢口と飯田は話している。

(待ってるコトないんだよね。私から、よっすぃ〜に誘ってみようかな…)

最悪独りぼっちのクリスマスだったら、本当に寂しすぎるではないか。

何とか適当に誤魔化して、石川はやっと解放された。




−6−

「もぉ〜梨華ちゃん、おせーよっっ!!(怒)」
アポなしで石川のマンションの前で待つこと1時間。
吉澤は寒さに震えながら文句を言っていた。

(いつもタイミング悪いんだよな・・・)

石川が遅い日や帰って来ない日に限って吉澤は石川の家にやってくる確率が高い。
合い鍵を持っているのだから入って待っていればいいのだが、やはり、それは出来なかった。
石川の家の鍵はお守りの中に大事にしまわれている。

石川のマンションの前は吉澤にとって色々な思い出がある。
その大半が、ロクなものではなかったけれど、今となってはそれも良い思い出か。


(自販機にでも行ってくるかなー。さみぃっす…)
そんな事を思って、歩こうとしたところで石川が帰って来た。

「よっすぃ〜?」
「梨華ちゃん・・・」
石川の顔を見た途端、吉澤の寒さなんか、どこかへ吹っ飛んでしまう。

「どうしたの?」
「話があってさ・・・」
石川の家に来るのは、吉澤が別れ話をして以来だから、もう2ヶ月近くが経つ。

「どうして中に入って待ってないの?鍵持ってるでしょ?」

―また怒られた。

「もう、お母さんじゃないんだから、そんなコト言わないで」
「せめて、お姉さんって言ってよ。いつから待ってたの?」
「ん〜・・・10分くらい前・・・」
いつも怒って待つクセに、石川に問われると、かなり短縮して言ってしまう。
「うそ・・・」
石川は、吉澤の冷え切った両手を自分の手で包み込むと
「こんなに冷たいじゃない」
「・・・まぁね」
「まぁね、じゃないよ、全くぅ」
石川は鍵を取り出すと開けて中に入った。


前だったら…『二人であったかくなろう♪』とか言って、即誘ってしまう
吉澤だったが、今はそんなセリフ恥ずかしくて言えたものではない。

(もしかして私って…少しは大人になった?)

吉澤が玄関の前で、いつまでも入って来ないので石川は

「よっすぃ〜いつまで突っ立ってるの?早く入りなよ」
「…うん」

石川はヤカンに水をいれると火を点けた。

「すっかり寒くなったよね」

吉澤は石川の後ろから抱きしめたい衝動に駆られ、手が伸びたが、止まってしまう。
伸ばしかけた手を、引っ込ませると椅子に座った。
すっかり自信がなくなったと言うか、石川に手を出せない自分に苦笑いをする。
こんな事で、一体クリスマスは、石川とぴったり過ごせるのか?今から不安になる。


「梨華ちゃん今まで仕事だったの?」
「うぅん。仕事終わって矢口さん達に無理矢理お茶付き合わされちゃった」

なんかイヤな予感・・・。
「…矢口さんに何か言われた?」
不安そうに訊く吉澤を見て石川は笑う。
「色々訊かれたけど適当に答えておいたよ。でも別に何もないじゃない。
 よっすぃ〜の方が大変なんじゃない?保田さんとごっちんじゃ…」
「まぁ…いつものコトだから。もう慣れたよ。
 ところで…梨華ちゃんさぁ〜クリスマス……どうしてる?」

(来た来た!遅いよ、よっすぃ〜!!)
話を振るのが遅いと不満気な石川は、わざと吉澤に意地悪をしてからかおうと思いついた。

「どうって…仕事してるよ。よっすぃ〜もそうでしょ?」
「そうだけど…。その後、どうするのかな〜って…」
吉澤はテーブルの上で、手持ちぶさたに手を動かしながら言う。


相変わらずハッキリ言わない吉澤に石川は

「予定なら入ってるヨ。(よっすぃ〜とはあとはあと)」
「えーーー…」
吉澤は真に受けたのか、かなり落胆した声をあげた。

(やっぱ先約入ってたのか…。ごっちんの言う通りだった……)
この日のために知り合いを使って何とか一流ホテルの予約を入れたと言うのに(号泣)。
これだったら保田と後藤と一緒に過ごす方が、まだマシではないか―――。
(やっぱり私って、何から何までタイミング悪い………(涙))

吉澤が黙っているのを見て、石川は
「よっすぃ〜だって予定入ってるでしょ?(私と…)」
(…もう黙ってないで、何か言ってよ〜!)
と聞くが・・・

「入ってたけど…ダメになりそう」
目に涙を浮かべて話す吉澤に石川は、やれやれと言った顔で吉澤の側に行くと吉澤の頭を自分に引き寄せて抱きしめた。


「梨華ちゃん・・・」
「私はよっすぃ〜と二人で過ごすもんだと思ってたんだけどなぁ〜」
「…だって……いま・・・」
「ホントによっすぃ〜は鈍感なんだから。毎年クリスマスは二人っきりで過ごすんでしょ?これからも、ずっと…」
石川は吉澤の髪を優しく撫でながら言う。

「うん。ずっとね。梨華ちゃんと一緒……」
吉澤も安心したのか、石川の胸に顔を埋める。
「ずっと一緒だよ。私達・・・」
そう言って、石川は吉澤の顔を自分に向かせると屈んでキスをした。




−7−

「もう待つのはイヤ。クリスマスまでなんて待てない」
「…梨華ちゃん……?」

吉澤は石川からキスされただけでも胸がいっぱいなのに更に『待てない』なんて言われた日には・・・。

「よっすぃ〜から言わないなら、私から誘っちゃうヨ?」
「………」

吉澤は何も言えずに俯いてしまう。
そんな右斜め45度で、言われた日には、断れる人なんて、いないハズ。
(梨華ちゃんから誘ってくれたのって、いつ以来だっけ?
 …もう覚えてない!!)

「よっすぃ〜?耳まで真っ赤だヨ」
「…っっ!!」

吉澤は指摘されて、咄嗟に耳を隠した。

「今さら、何テレてるの?」
「て、照れてなんか!!」

吉澤のくちびるは、再び石川のソレに遮られてしまう。


「カワイイよ、よっすぃ〜」

いつもは『カッコいい!』って言われるから『カワイイ』なんて言われると余計照れてしまう。
でも石川に言われる分には逆に嬉しい吉澤だった。
それは、決して他のメンバーには、見せない顔だから。
吉澤が甘えられる、唯一気を許せるのは、石川だけだから……。

石川に手を引かれて、そのまま立ち上がると、ベッドへと導かれた。

(今日の梨華ちゃんは、いつにも増して大人に見えるなぁ〜…)

完全に吉澤は石川のペースに呑まれていた。
それでも、話をしたら帰るつもりでいたから、吉澤は

「今日は、遅いし……」

なんて、そのつもりじゃないと言う意思を伝えるため、何となく言ってみる。

「久しぶりに来たのに、そのまま帰るつもり?」

石川は、悪戯っぽく笑って見せると、先にベッドに腰をかけて、上目遣いで吉澤を見つめた。


「だって、だって今日は話をしに来ただけだから…」

何となく言い訳っぽく聞こえるけど、やはりケジメはつけないといけないと思う。
その上目遣いも、反則だ…なんて、吉澤は思いながら。

「友達だからとか…恋人だからとか、待つとか、もうやめにしようよ。
 そんなの関係ないよ。私は、もうよっすぃ〜のコト放したくない」

石川は、そう言うと、側に立っている吉澤の腕を引いた。
吉澤は、ストンと、そのままベッドへと落ちる。
積極的な、石川に戸惑いながらも、吉澤は

「私だって、梨華ちゃんのコト…放したくないよ?」

泣きそうになりながら、吉澤も訴える。

「別にクリスマスに、こだわるコトないじゃない。
 2人の再スタートが、何でもない日でも、その日が記念日なんだから。
 今日を、2人の記念日にしよう」
「梨華ちゃん・・・」

既に吉澤の目には涙が溢れていた。
今日の石川は、酷く大人に見えて、吉澤は惚れ直してしまう。

「ちょっと、カッコつけすぎたかな?」

石川は、はにかむように笑った。

「そんなコトないよっ。梨華ちゃん、かっけ〜!!ヨシコ マジ惚れっす!」

真面目に言うと照れてしまうから、少し冗談めかして言う。


「今日は、いつもと逆だね」

石川も少し照れたようで、足をブラブラさせて言う。
そんな、仕種が吉澤には、可愛く見えて、ふいに抱き寄せると石川にくちづけをした。

「でもね、やっぱり、梨華ちゃんは『カワイイよはあとはあと
 私には勿体ないくらい…」
「今頃 気付いたの?」

吉澤の腕の中で、石川は呟く。

「付き合う前から知ってたよ」

吉澤も負け惜しみを言う。

「よっすぃ〜の彼女は、私にしか務まらないもん」
「大した自信だね…でも・・・彼女と言うより……」

でも、その通りかも知れない。今回だって、石川が許してくれなかったら今みたく、元に戻る事は出来なかったかも知れない。
と、同時に、保田にも頭が上がらない吉澤なのだった。


「なに?」
「奥さんにしたいくらい」

また恥ずかしい事を言ったと思った吉澤は、照れ隠しに石川を思い切り抱き締めた。

「…バ‥カ」
「あ〜、聞き流して今の!!ちょっと、キザでした」
「ちょっと、どころか……かなり………」
「もぅ言わないから・・・」

クリスマスに言おうとしたセリフを言ってしまって吉澤は後悔する。
(キザなセリフは、ここ一発の時に言いたかったのに。また考えなきゃ…)

「…もっと言って。よっすぃ〜」
石川は潤んだ目で、吉澤を見上げる。
「梨華ちゃん……」
「大好き!!」

石川は、そう言うなり吉澤をそのまま押し倒した。




−8−

そして、そのまま無言で、見つめ合う2人・・・。
一瞬、時が止まったかのように見えた。

「・・・なんか、ドキドキしてきちゃった…」

吉澤は、石川から視線をそらして言った。まともに視線を合わせられないのだ。

「私もだよ?…久しぶりだね、こんな気持ちになるの…」

石川は吉澤の手を、自分の胸に押し当てた。

「あ・・・」
一瞬固まる吉澤に、石川は

「なに緊張してるの?・・・」
「だってさ、梨華ちゃんの胸触るの、ひさしぶり・・・」
「前は、言わなくても触って来てたクセに」
「そんなコト言わないでよ!」


吉澤が起き上がろうとするのを、そのまま石川は強引に阻止して吉澤のくちびるに、自分のくちびるをくちづけた。
そして、うっすらと開いた口に、舌をそのまま滑り込ませる。

「っっ・・・ん…」

久しぶりの甘くて熱いくちづけに、吉澤は早くも、とろけそうになっていた。
(梨華・・・ちゃん・・・反則・・・)

いつも攻め側の吉澤に、受け側の石川に攻められては、それも、かなりご無沙汰とあっては、吉澤は、早くも・・・・(略

吉澤が、既に昇天しそうな程なのに、石川は手を既に下の方に移動させていた。

(梨華ちゃん!そんな・・・早すぎ!!)

吉澤はくちびるを遮られているので、答えられず焦りながらも身体は感じていて、思うように動かなかった。




−9−

吉澤は石川の手を掴むと、やんわり押しのけようとした。
(ダメだよっ梨華ちゃん…‥)

石川はくちびるを離すと『どうして?』と言う顔をする。
今日の石川は積極的で、そして少し意地悪だ。

「…久しぶりなんだから…もうちょっと……その...」
恥ずかしそうに言う吉澤に、石川は

「もうちょっと何?ちゃんと言ってくれないと分からないなぁ〜?」

なんて、知っているくせに、わざと聞き返す。

「梨華ちゃんの...いぢわる…」

吉澤は口を尖らせて言うと、そっぽを向いた。

「もっと意地悪なのは、よっすぃ〜の方じゃない」


石川は、構わず、また吉澤の下へと手を伸ばした。

「ダメだってば!!」

少し焦り気味に、顔を紅潮させて言う吉澤に石川はニヤッと笑った。

「もしかして、もう感じちゃってるとか?よっすぃ〜のココ…」

そう言うなり、石川の手は素早く吉澤のショーツの中へと滑り込ませた。

「……っっ ひゃっっ....」

ぬるっとした感触が石川の指にまとわりついて、吉澤の顔は更に真っ赤になった。

「カワイイはあとはあとよっすぃ〜。もう感じてるのねっ。
 せっかちなんだからはあとはあと

石川は、いつになく嬉しそうに言う。
石川の指が、吉澤の蕾をいきなり撫で始めたので、吉澤の身体は思わず一瞬ビクついた。


「梨ぃ〜華ぁ〜ちゃぁん…」

懇願するように掠れた声で言う吉澤に、石川の心は更に疼いてしまう。

「よっすぃ〜、カワイイよ〜〜〜ぅはあとはあと

石川は、それが"もっと"と言う意味だと取って、指を吉澤のソコに入れると、上下に動かし始めた。

「あ゛ぅっっ.....」

吉澤は、腰が退けてしまい、石川から逃れようとするが、石川の片方の腕が吉澤の腰をしっかり支えて動かなくしていた。

「よっすぃ〜、気持ちよくなって♪」

石川が耳元で囁くものだから、既に気持ちの良い吉澤は更に気持ち良くなり………

「はぁぁぁぁぁっん....梨華ちゃぁんっ」


吉澤は石川にしがみつく。イク直前になると、しがみつくクセのある吉澤は早くも昇天しそうになっていたが・・・

(もうイッっちゃったら、つまらないよ、よっすぃ〜)

なんて石川は心の中で呟くと、すっと指を抜いた。

「・・・?」

気持ちよく腰を動かしていた吉澤だったが、急に行為を中断させられて少し不満そうな目で石川を見つめた。

「よっすぃ〜が、ダメって言うから…」

ここで、こんな事を言うなんて、自分でも、とっても意地悪だなんて思いながらも、
その懇願するような潤んだ大きな瞳を見ていると、つい吉澤を虐めたくなってしまう。

「…梨華ちゃん...。意地悪しないで」

吉澤は甘えた声を出すと、石川にギュッと抱き付いて来た。


その後、石川は思う存分吉澤を愛し、吉澤はすぐにイッてしまった。
2人が、深い眠りに就いたのは、もう明け方近かった。




−10−

翌日、寝不足でも楽屋に来るのは、一番乗りの吉澤は、さすがに2時間前には来れなかったが、1時間前には来ていた。
1人、マッタリする時間が好きな吉澤は、ソファに寝そべりながら
自然に顔がニヤけてしまう。昨夜の事を思い出しては、頬が緩みっぱなしだった。

「頭の中、ほとんど梨華ぁちゃん♪ 自慢したい わたしの〜梨華ぁちゃん♪」

プッチモニの歌を変えて歌っている吉澤は、こっそり後藤が入って来た事に気づいていなかった。

「このバカップルが!!」
「わっっっ!!!」

急に後藤が顔を出して、耳元で言うものだから、吉澤はビックリして飛び上がった。


「…ご、ごっちん…。びっくりさせないでよ〜」
「外まで聞こえてたヨ。よっすぃ〜の声…」
「マジ?」

吉澤が昨日と同じ服なのをめざとくチェックした後藤はニヤっとすると

「昨日、梨華ちゃんちに泊まったでしょ」
「・・・・・うん」
「その様子だと…我慢出来ずに、やっちゃいましたね?吉澤くん!!」

後藤は嬉しそうに、あはっと笑うと、吉澤を思いっきり叩いた。

「なっ………」

吉澤の顔はみるみる赤くなっていく。

「そう言う言い方、よしてよね〜。私は別に・・」

後藤から視線を外すと、吉澤はあさっての方向を向いた。


「その首に付いてる、それは何?」

後藤が何気に指をさすと、吉澤はハッとして首を隠した。

「あはっ。よっすぃ〜カワイイ。なんだと思ったの?…キスマークだと思った?」

半分からかう感じで言う後藤に、吉澤は、少しムッとすると

「また、からかってぇ〜…」

言葉を濁す。
(本当に、ごっちんは、すぐ私のコト………)

「案外、梨華ちゃんがリードしてたりして?」
「ノッノーコメント!!」
「よっすぃ〜、結構、甘えちゃったりして…。梨華ちゃんも、たまらなくなっちゃったのかもね〜」

なんて言いながら、後藤は吉澤の頬を撫でる。

「ごっちん、もうやめてよ〜」
「やっぱり、よっすぃ〜フッたの、惜しかったかなぁ〜」


外では、入りづらい様子の、高橋と小川がドアの前で突っ立っていた。
そこへ、保田がやって来る。

「おはよう」
「「おはようございます!!」」

保田の声に、弾かれたように2人はドアから離れた。

「どうしたの?入らないの??」
「ちょ、ちょっと入りづらくて……」

言葉を濁す高橋に、少し顔が赤らんでるなんて思いながら保田はノックするとドアを開けた。




−11−

ドアを開けると、そこにはソファで、いちゃつく(ように保田には見えた)
後藤と吉澤の姿が目に飛びこんで来た。

「ちょっと!!吉澤!!!!!!!!!後藤に何してんのよ!!!!!!」

凄い剣幕で、保田は、吉澤の側に、すっ飛んで来ると、後藤を引き離した。

「あ゛、これは・・・違うんですよ」

なんで、後藤からちょっかいを出して来てるのに、私なんだと、心の中で思いながら、吉澤は、言い訳をした。

「それに、吉澤!!あんた、昨日石川の家に泊まったわね?」

保田も、吉澤の服をチェックすると、厳しい目で言った。

「は、はい。そうですけど……」


「全く、石川とヤッたと思ったら、次の日は、後藤と!ほんとに懲りないわね!」
「保田さん!何勘違いしてんですかぁ!!!!!!」
(ヤッたって、保田さんまで・・・ほんとに。否定出来ないけど…(照))

「勘違い?それに、今日はなんの日か、知ってて、やってるんでしょうね?」
「へ?」

保田が凄い形相で言うので、吉澤は、すっかり震え上がってしまった。
(保田さん・・・恐すぎです・・・・・・(涙))

「今日って12月6日だよね〜」
「ごっちん知ってる?」
「んあーー、なんだっけ?」

後藤は知っててわざととぼけたフリをした。

「吉澤!!良く覚えておきなさい!今日は保田記念日!」
「へ?競馬っすか?」
「吉澤、逝ってヨシだよ!!(怒)」
「はぁ?もう、保田さん、わかんないっす(汗)」


後藤は、吉澤の腕を取ると、保田から離れた。

「よっすぃ〜、マジでわかんないの?」
「うん」

後藤は吉澤に、耳打ちする。

「今日は、圭ちゃんの21歳の誕生日なんだよ」
「え〜?マジっすかぁ?」

思わず、吉澤は後藤の顔を見た。

「吉澤、見る相手が違うでしょ!その様子じゃ、すっかり忘れてたようね。
 でも、プレゼントは随時受け付け中だから、いつでもカモ〜ン洋子!」
「「・・・・・・・・・」」
「ちょっと、そこ笑うとこよ!」
「や、保田さん、今日熱ありますか?」
「吉澤、ぶっ飛ばれたいようね」

保田は握り拳を作ると、ニヤッと笑った。

とにかく、今日の保田はハイテンションで・・・
外は雨で、凄く寒いと言うのに、そんなのを吹き飛ばすような勢いだった。




−12−

そんなわけで、12月6日(保田記念日)の仕事はFNS歌謡祭だった。

――― 保田さんにBDプレゼントかぁ。何がいいんだろ?

忘れてたのは迂闊だった。このところ原付免許を取りに行かされたり
特番の収録が立て続けに入ったり(おかげで倒れた)石川と"ぴったりしたいX'mas!"
作戦を考えていたり(実はコレがメイン)で、とても保田まで頭が回る余裕などなかったのだ。

――― 事務所もね、働かせすぎなんだよ。

――― 林家ペーじゃあるまいし、いちいちメンバーの誕生日なんか把握してないって!
あぅ……保田さんのプレゼント...プレゼント・・・

しかし、石川の姿を見つけた途端、吉澤の頭は既に保田の"ヤ"の字もなかった。

(梨華ちゃん...ハァーーーーーー カワイイはあとはあとはあとはあとはあと)

待ち状態の舞台の袖で、吉澤の心は既に石川だけになっている。
それを見つけた保田は、

(吉澤のヤツ、すっかり石川に魂抜かれてるわねっ。っとに後藤も、なんでこんなバカ吉好きになったんだか・・・!)


そして、更にそんな吉澤を見ていたメンバーが2人・・・

「あ〜、やっぱり吉澤さん・・・」
「なに?愛ちゃん」
「石川さん見つけた途端、心が飛んでっちゃったよ」
「何ソレ?」

小川が笑う。
今朝、なかなか入れずに立ち往生していた小川と高橋だったが。

「吉澤さん、後藤さんと仲良いじゃん」

後藤ファンの小川としては、そっちの方が気になる。
"好きです"なんて、後藤の携帯にメールを送るほどだ。

「私、まこっちゃんが来る前に、先に来て自販機の前でジュース買ってたんだけど控え室から、吉澤さんが歌ってるの聞いちゃったんだよね」
「別に歌っててもいいと思うけど?」
「それがさ〜、プッチモニの新曲で"彼氏"のところを石川さんの名前で歌ってたんだよ?・・・それって、相当・・・」

高橋は言葉を濁す。

「噂はやっぱり、本当だったんだ?」
「でも、私、元宝塚ファンだから、あの2人はお似合いだと思うよ!
 まさに、男役と女役って感じだもん」
「愛ちゃん、それ自分に言い聞かせてない?」
「そんなコトないってば」

でも、これが本当だとしたら・・・高橋はちょっと嬉しいと感じていた。


「ぅわっ!」

急に小川が声を出したので、高橋は小川を見た。

「どうしたの?」
「い、今、保田さんと目が合っちゃった・・・」

(小川のヤツ、今慌てて私から視線反らせたわ。そんなに私恐いかしら?
 別に見たからって石になんかならないわよ!!!!!(怒))

「圭ちゃん、何キリキリしてんの?」

後藤が保田の後ろから声をかけてきた。

「今、小川がさ、私と目が合った途端に視線外したからね」
「もぅ、圭ちゃん被害妄想激しいよ〜」

後藤は笑うと、小川の方を見た。
そして、目が合うと後藤は微笑んだ。

「わっ。後藤さんが微笑んでくれたよ〜♪」

小川は大喜び。

「小川ちゃん、カワイイじゃん」
「けっ。全く・・・面白くないわねっ(怒)」

保田は吐き捨てるように言った。




−13−

ザ☆ピ〜ス!が終わって、今度はミスムンの衣装替えも済み、また待機中・・・。
今日は、やたら待ち時間が多い・・・。

(梨華ちゃん、どこにいるんだろう?)

見ると、辻の衣装を直してあげていた。

(やっぱり、優しいよね〜。梨華ちゃん!)

「吉澤!!」
「きゃぁ…」

石川に見取れていた吉澤は、急に保田に声をかけられて、後ずさった。

「保田さん、ビックリさせないでくださいよ〜」
「あんた、また石川見てニヤけてたわねっ!」
「別にニヤけてなんか」
「ウソおっしゃい!それにしても・・・」
「何スか?」

保田は吉澤の周りをグルリと一周して

「吉澤の女装姿、結構似合ってるわよ!」
「じょ、女装って・・・(元から女です!!)」
「なっちも後藤も似合ってるけどね。後藤が一番かしら」
「・・・」
(保田さん、何が言いたいんだろう?)


「や〜ん、よっすぃ〜!!」

後藤が吉澤に抱き付いてくる。

(や〜んって、なんだよ?)

「ヨシコが、女っぽいと後藤困っちゃうよ」
「なにが困るんだか…」
いつになく色っぽい後藤を見て、吉澤は視線を反らした。
(ごっちんも、充分女っぽいよ・・・)

「吉澤ぁ!今度は後藤にニヤけてるわねっ!」
「ニヤけてませんっ!!」

――― 今日の保田さんは、やたら絡んで来るなぁ。
そんなに、誕生日を忘れてた事に腹を立ててるのかな?
ミスムン終わったら、ケーキでお祝いする事は、ケーキを運ぶ私とごっちんしか知らない。


そして、本番が始まり、あっと言う間に終了・・・。
あの女装で、シャウトするのは、かなり恥ずかしかった。
今回もレモンのような♪は、ないから、梨華ちゃんとの絡みも少なくて(涙)。

保田さんをケーキで祝うのは、なんだか失敗だったようで。
歌もぼろぼろだった。でも保田さんは嬉しそうだった。良かった。
これだったら、梨華ちゃんに「初めてのハッピィバースデー」でも音外しながらでも歌ってもらった方が、良かったんじゃないかな。

それにしても、司会の楠田枝里子さんは、保田さんに向かって『一番お姉さんになりますね』なんて、恐い事を・・(汗)。

でも気になったのは、楠田さんの呼び方。
真希ちゃん 吉澤さん なっち 保田さん 圭織ちゃん
なんて、一貫性がないんだろう?まぁ、別にいいけど。

私たち年少組は、21時までしか出られないから、ギリギリで終わってあとは控え室で、着替えて待っていた。
お姉さん組は、エンディングに、ちらっと出るらしくて、衣装のままだった。
矢口さんは、この後ラジオもあるし、忙しいらしい。


保田さんは、矢口さんに焼き肉をおごってもらおうと思ってたらしいんだけど仕事だと聞いて、舌打ちしていた。
ごっちんは、今日は誘わないのかな?

って、なんだかさっきから、私、保田さんのコトばっかり!それに説明ばっかり!!
梨華ちゃんは???視線を辿ると、ののとあいぼんと遊んでいた。
梨華ちゃん・・・君は、本当に可愛いよ(溜息)。

しかし、そんなささやかな時間も、ごっちんの声で醒める。

「よっすぃ〜?・・・これから、どうする?」
「・・・どうするって?ごっちんは?保田さんのどうするの?」

別に特に決めていないが、やはり保田記念の事が気になる。

「まだ何も言ってないけど。予定入ってなかったら、梨華ちゃんも入れてみんなで食事にでも行こうか?」
「梨華ちゃんもぉ?」
「その方が、圭ちゃんも喜ぶんじゃない?」

だったら、梨華ちゃんと二人っきりがいい なんて思ったけれど、さすがにそれは言えなかった。まぁ、梨華ちゃんと一緒なら、いいか♪




−14−

「梨華ちゃんだけいれば、いいとか思ってんでしょ!」
「(ドキ!)そ、そんなコトないってば(汗)。
 今日は、保田さんの誕生日だしさ〜」

「誕生日が、どうだって?」

いつの間にか保田が立っていて、後藤と吉澤の間に入り込む。

「あ、あの保田さん、、今日のこれからの予定は?
 当然、入ってますよね・・・・」

入っていてくれと期待して、吉澤は返答を待つ。

「それがさぁ、みんな予定が先に入ってると思って誰も誘ってくれないのよ」

保田の話によると、クリスマスの予定が入っているのを知っていたから、
遠慮?して当然予定が入っているものと思って誘わなかったらしい。

「あぁ、そうですか…」

吉澤は、落胆した。


「ちょっと、なんだか残念そうね?吉澤??」
「そんなコトないですよ。これから保田さん誘って食事にって話してたとこなんですよ」
「そうだよー。圭ちゃんの好きな焼き肉でも食べに行こうって。
 梨華ちゃんも誘ってさ」

途端に保田の目が輝く。

「たまには良いコト言うわね。今日はヤスレボリューション21だから盛大に食べるわよぉ♪じゃぁ、もうちょっと待っててね」

そう言うと保田は、またどこかへ行ってしまった。

「ヤスレボリューション21ってなに?恋愛レボリューション21にかけてるのかなぁ?」
「じゃない?じゃない??」

――― 保田さんって、時々訳分かんない事言うんだよね。

しかし吉澤は「あ!」と声をあげると、別の事が心配になってきた。
お金・・・今日そんなに持って来てない・・・。
それに、さすがに保田の誕生日なのに本人に奢らせる訳にはいかない。
とすると・・・4人分を、後藤と自分で払う事になる訳で・・・。
石川の分も、いつも出してるので当然石川の分も自分が・・・。
考えたら恐ろしくなってきた。


それでなくても12月は、石川とのクリスマスで出費がかさむと言うのに
保田のためのお金は、当然予定に入っていなかった。

――― 保田さん、こんな時に生まれないでよ!

「ごっちん…」
「どうしたの?」
「今日お金あんまり持ってないんだよね」
「気にしなくても何とかなるんじゃない?あはっ」
「・・・・・」

後藤は呑気にかまえている。自分から提案しておいて・・・ホントに。

「あ〜、梨華ちゃん…」

後藤が石川を見つけると声をかけた。

「今日、これから空いてる?圭ちゃんとよっすぃ〜と私とで焼き肉食べに行くんだけど梨華ちゃんも行くよね」

当然最初から行くものとして誘っている。

「私はいいけど・・・よっすぃ〜は、いいの?」

石川は吉澤が、あまり肉が好きではないのを知っているので気を遣って聞いてきた。


「気にしないで。私は、梨華ちゃんがいればいいから…」
「よっすぃ・・・」

石川が赤くなると同時に後藤の突っ込みが入る。

「梨華ちゃんを、おかずにご飯食べます♪って?ヤラしーよっすぃ〜」
「そんなコト思ってないっつーの!」
「そんなにムキにならなくたって、いいじゃん。それに…」

後藤は吉澤の耳に近づけると、そっと囁いた。

「昨日は梨華ちゃん食べちゃったんでしょ?」
「なっ・・・・」

吉澤は耳まで真っ赤になった。

「ごっちん、よっすぃ〜に何言ったの?私にも教えて?」

石川も楽しそうに聞いてくる。

(梨華ちゃんまでぇ(涙)聞かなくていいって!!)

「よっすぃ〜から直接訊けば?」

なんて後藤も笑いながら吉澤を見て言う。

(なんで、私ばっかり・・・)


吉澤は石川の手を引くと、控え室から出て行く。

「も〜、私からかわれてばっかりだよ・・・」
「でも良かった。ごっちんとよっすぃ〜、前みたいになって…」
「・・・うん。なんか前より、遊ばれてる感じがするけどね」

通路を歩きながら、2人は自然とトイレへ行く。
メンバー公認といえど、やはり人目のつく場所はつい避けてしまう。
個室に入ると、便座を下ろして、吉澤が腰をかけて、その上にまたがるように向き合うように石川を座らせ、石川の腰に手を回した。

「今日、ちゃんと話すのって、これが初めてだよね?」
「そうだね」

息が触れ合うくらいに、石川と接近して吉澤の心臓は早くも・・・
(イヤんなっちゃうなぁ。もうドキドキしてきちゃったよ)

「よっすぃ〜顔赤いよ?」
「梨華ちゃんが、可愛すぎるから・・・」

自分でも良く恥ずかしげもなく言えるなぁなんて感心しながら、でも止まらない。

「梨華ちゃんが好き…」


なんか我慢出来なくなってきた。
しかし、石川は余裕の笑顔で、吉澤を見つめて微笑んでいる。
なんだか、自分だけ「好き」の度合いが多いような気がして損した気分になる。
目の前が急に真っ暗になって、吉澤のくちびるは石川の柔らかいくちびるで塞がれた。

「ふふ。私もよっすぃ〜が大好きだヨはあとはあと

そして、もう一度今度はしっかりと、くちびるを重ねる。
顔の角度を変えて、何度もキスを繰り返しながら、今度は舌を忍ばせた。

「・・・っ」
「っっ・・・ふっ」

二人の間からは、甘い息づかいだけが聞こえてきて・・・
すでに、吉澤の心は真っ白になり、キスだけじゃ我慢出来なくなっていた。

「…梨華・・・ちゃん」

吉澤は切なそうに石川の名前を呼ぶと、回していた手をほどいた。
しかし、石川は察したのか、その手を再び元に戻す。


「だ〜め!今日は、ここまでね」
「・・・いじわる」

明らかに不満そうに言う吉澤に石川は

「子どもじゃないんだから・・・」
「梨華ちゃんの前では、子どもだよ。甘えたいもん」

口を尖らせて言う吉澤に、石川は苦笑いする。
(可愛いんだから、よっすぃ〜・・・)
「でも、今日はこれから保田さんを祝うんだから、その前に2人で盛り上がっちゃダメでしょ」
「・・・梨華ちゃんから、誘ったクセに」

まだ文句を言っていた吉澤だったが、渋々頷いた。

吉澤と石川が戻ってみると、保田と後藤はすでに待っていた。

「遅いよ〜、2人共!主役待たせて、どうすんのよ」
「「ごめんなさいっ」」

そんなに時間は経ってる感じがしなかったのに、やはり石川の判断は正しかったのかと、吉澤は感心する。
あそこで盛り上がってたら・・・やっぱり。危なかった!!

「まぁた2人で、イチャイチャしてたんじゃないのぉ?」
「してませんよ。もう行きましょう!」

吉澤は強くは言えずに、保田と後藤を促すと、焼き肉やへと目指していった。




−15−

入った焼き肉屋は、客が全然いなかった。
一瞬、やばいかなと思ったが、店の人に「いらっしゃ〜い♪」
なんて、大声で迎えられて、入るのをやめる訳にはいかなかった。

「圭ちゃんの為に貸し切りって感じだね〜」

吉澤は後藤のフォローを聞いていなく

「やっぱ狂牛病の影響なのかなぁ?大丈夫かね…」
「よっすぃ〜!!」

石川に言われた時は既に遅く・・・保田の恐い目が吉澤に降り注いでいた。

「あ〜・・・保田さん、どんどん食べちゃって下さい!
 空いてるから、待たずにすぐ来ますよ、きっと!」

「ホントよっすぃ〜って、ダメなんだから…」

4人が座敷に座ると、後藤が言った。更に続ける。

「でも、こんなダメヨシコだから放っておけないってのがあるんだよねえ」
「石川、こんなバカ吉を良く許したよ。さすが私が教育しただけあるね」

(それは関係ないと思うんですけど。それにダメとかバカとか…(泣))
言いたくても口に出せない吉澤は歯がゆい思いをした。

「よっすぃ〜は、私には優しいんですよ。特別に♪」
「梨華ちゃん・・・」

吉澤は、急に溶ろけるような顔になる。


(まったく、ポスペがモモぬい抱いた時に出るようなハートマーク
 たくさん出しちゃうみたいな顔しちゃって。って例えが判りにくいかしら)

「もー、あんたらのノロケを聞くために今日呼んだわけ?
 保田記念でしょ!それ忘れてんじゃないわよ!」
「!!・・保田さん、そんなつもりじゃないっすよ!」

吉澤は、慌てて否定した。
(・・・やっぱり梨華ちゃん連れてくるんじゃなかった)

「圭ちゃんも、そんなムキになんないでさぁ。大人なんだから」

後藤がなだめる。

「ムキになってなんか、ないわ。今日はじゃんじゃん食べるわよ!」

そんなわけで・・・クリスマスの予定をしつこく聞かれたりしたけど
適当に誤魔化しつつ、保田さんは、肉を本当にたくさん食べて、会計になった時は、私は気絶しそうになった・・・。


結局・・・保田さんが足りない分を払ってくれて(殆ど足りなかった事は内緒)
全然祝った気分にはならなくて保田さんに申し訳なかったけれど、保田さんは喜んでくれた。
途中、何度も携帯を見ていた保田さん。一体何を見ていたのだろう?
「あっちの保田祭りも盛り上がってるわね」なんて独り言を言っていたから、
多分、ファンのページでもチェックしてたのかな?なんて。
保田さんも、気になるんだね。でも「ワショーイ」って何ですか?

その後は、保田さんの奢りで、カラオケへGO!!
プッチモニを歌って、私は・・・"彼氏"を"梨華ちゃん"に変えて本人の前で歌ってしまった。恥ずかすぃー!
『梨華ちゃぁぁぁ〜〜〜〜〜んっ』

梨華ちゃんと、ぴったりしたいX’mas!
あと2週間ちょい。カウントダウンは始まった・・・・。




−16−

連日、仕事仕事で帰りが遅くなり、ついに約束のクリスマスイブの前日になってしまった。
結局・・・石川とは、まともに2人で会う時間も殆どなく今日まで来てしまった。

「明日も、ちゃんと0時前には仕事終わるのかな・・・」

吉澤は不安になる。終わらないと困る。困るのだ。
それより・・・今日これからケーキを作らない事には間に合わなかった。

「眠いけど・・・作らなきゃね…」

吉澤は予め用意しておいた材料を出すと、支度を始めた。


12月24日当日―――

寝不足の目を擦りながら、それでも控え室には一番乗り。

「長い1日になりそうだなぁ・・・」

吉澤はポツリと独り言を言うと、控え室の長椅子に横たわり目を閉じた。

・・・・・・・・・・

「ヨシコ起きなよ〜・・・」

――― ・・・折角人が気持ち良く寝てるのに、誰だ起こすヤツは!

吉澤が面倒臭そうに目を開けると、後藤の顔が目前に迫っていた。

――― ちょっと、近寄りすぎなんだけど・・・

「もうちょっと寝かせてよ!」
「もうちょっとって、もうみんな行っちゃったよ?」
「えーーー??」

慌てて吉澤は飛び起きる。

「なんで早く教えてくれないのさ!」

急いで時計に目をやる。
ひょえー、そんなに寝ていたのかと吉澤は愕然とする。


「あんまり気持ち良く寝てるからさー。しかもニヤけてるし」

後藤は、悪戯っぽく微笑む。

「なんだよ、いやらしい言い方するなー」

吉澤は慌ててブラシで髪の毛を整えながら鏡に映る後藤を見る。

「よっすぃ〜今日は男らしく決めるんだもんね。待ちに待ったイブだもん」
「・・・ほんと、ごっちんは私をからかうのが好きだね…」
「そりゃ、よっすぃ〜のコト好きだし・・・」

そして、後藤は後ろに隠し持っていた小さな包みを吉澤に渡す。

「これ、早いけどプレゼント」
「わたしに?」

手を止めると、吉澤はプレゼントを受け取る。

「大したもんじゃないけどさ」

包みを開けると中から小さなクリスマスツリーが出て来た。

「可愛いね…」

思わず吉澤は呟く。
嬉しいけど、自分は何も持って来てない事に気付く。

「ありがと。でも私・・・」

「いいんだ。それあげるのよっすぃ〜と圭ちゃんだけだし」
「私も特別扱いしてくれてるんだ。嬉しいね」
「そうだよ。よっすぃ〜は梨華ちゃん”だけ”なのにね」

そこだけ強調する後藤に吉澤は苦笑いする。


「もう、こりごりだからさ。梨華ちゃん泣かせないって決めたから」
「ベッドでは泣かせてたりして・・・」
「なっ・・・!!」

みるみる吉澤の顔が紅く染まると、後藤は弾かれたように笑い出した。

「あはっ。よっすぃ〜カワイイ。そういうトコ、大好きだよっ」
「っとに、すぐからかって楽しむんだから!」

吉澤は立ち上がると、まだ笑っている後藤の肩を掴んだ。
後藤は笑うのを止め、吉澤の顔を覗き込む。

「・・・怒った???ゴメンね…」
「あ・・・」

――― そんなに素直に謝られたら何も言えないじゃんか・・・。

「サンキュ。ごっちん」

吉澤はそう言うと、後藤の前髪を軽く上げて額にキスをした。
今度は後藤が紅くなる番だった。まさか額とは言えキスされるとは思ってもいなかった後藤は・・・

「なにすんのよ〜〜〜!」

驚きながら後ずさりする。


「友情のしるし・・・。何驚いてんの?おっかしぃ〜」

さっきの仕返し。
――― オデコぐらいならいいよね?梨華ちゃん・・・
なんて心の中で言い訳しながら…。

「それより早く行かないとマズイよね…」

吉澤は話を変えると控え室から出て行こうとする。
またヘンな雰囲気になったりすると困るしね。

ドアに手をかけたところで、後藤が後ろから抱きついて来た。

――― え???

「ズルイよ、よっすぃ〜は・・・」
「はぃ?」
「やっと諦められそうになった時に、そういうコトするなんて…」

後藤の抱き締めている力が少し強くなった気がした…。

――― やっとって・・・今までもしかして引きずってたの?

急にそんな事を言われて吉澤も動揺を隠せない。
後藤の気持ちは、保田に行ったものと信じていた・・・。

「ごっちん・・・」

しかし、すぐに後藤は力を弱めて吉澤から離れた。

「・・・なぁんてね。ウソだよ。ゴトーに気持ちがないのに
 いつまでも想ってる程、後藤真希は女々しくないのだ」
「・・・」
「さってと、行こう。ホントに遅れちゃう」

後藤はいつもの顔に戻ると先に控え室から出て行った。




−17−

・・・・・・・

「ヨシコ起きなよ〜・・・」

――― ・・・折角人が気持ち良く寝てるのに、誰だ起こすヤツは!

吉澤が面倒臭そうに目を開けると、後藤の顔が目前に迫っていた。

――― あれ?この光景どこかで・・・

「どったの?よっすぃ〜??まだ夢の中?」
「きゃぁ〜〜〜!」

吉澤は長椅子からずり落ちそうになる位、驚いて慌てて座り直した。

「なんで、そんなに驚くのさ。失礼なヤツだなぁ。圭ちゃんならともかく」
(って、そんなごっちんも充分失礼なんですけど・・・)

吉澤は時計に目をやる。さっきと全く同じだ。
夢の夢???あぁ・・・起き抜けで頭が回らないせいか、まだ寝ぼけてる…かも?

「もう、みんな行っちゃってんだ・・・」
「あんまり気持ち良く寝てるからさー。しかもニヤけてるし」

ぐはっ。夢の中とセリフ一緒だよ。となると、このあとごっちんは
私にプレゼントをくれて・・・その前に泣かせるとか言ったら、からかわれたんだった!
それは言わないでおこう。


「なに、よっすぃ〜ぶつぶつ言ってんの?」
「あれ?セリフが違う・・・あわわ・・・」

余計な事を言ったと吉澤は口を押さえたが・・・。

「寝過ぎて頭おかしくなったかー?」

後藤は吉澤の額に自分の手のひらを当てる。

――― ドキッ! ―――

吉澤は思わず後ずさりをした。

みるみる吉澤の顔が紅く染まると、後藤は弾かれたように笑い出した。

「あはっ。よっすぃ〜カワイイ。そういうトコ、大好きだよっ」
「っとに、すぐからかって楽しむんだから!」

――― ってプレゼント貰う前から、このセリフに飛んでんじゃん!
プレゼントはーー??って欲しいのか?自分・・・
って何一人突っ込みしてんだろ・・・鬱・・・(涙)
きっと保田さんがいたら『逝ってヨシ!』とか言われてそう・・・。

夢か現実は分からなくなって来た。
同じように進んでいったら恐いから、ぐちゃぐちゃにしてしまえ!

「ごっちん、私にプレゼントないの?」

そう言ってわざと手を出す仕種をする。

「へ?・・・何言ってんの?」
「・・・だよね」


良かった。吉澤がホッとしたのも束の間・・・

「良く分かったねぇ。勘が冴えてんじゃんよっすぃー」

後藤はゴソゴソと紙袋から小さい包みを出しながら言う。

げげげ。マジっすか?一体、どこまで本当なの???
これで中身がクリスマスツリーだったら笑えないよ。マジで・・・。
これが「カボチャのコロッケ」だったら?・・・モー。たいSP見てたね?

「よっすぃ〜さっきから、どうしたの?」
「な、なにが?」
「なんかさー。交信してるみたいな・・・。よっすぃ〜まで圭織みたくならないでよぉ」

後藤は吉澤の両肩を掴むと、真面目な顔をして言う。

――― 交信って・・・マジショックなんですけど・・・。はぁぁぁ嗚呼…なむなむ

「これあげるの、よっすぃ〜と圭ちゃんだけだし」

――― うげっ!またセリフが一緒かよっ!!

「私も特別扱いしてくれてるんだ。嬉しいね」
「そうだよ。よっすぃ〜は梨華ちゃん”だけ”なのにね」

そこだけ強調する後藤に自分も同じセリフを言う自分に苦笑いする。


しかし包みを開けてみると・・・そこには小さなクリスマスケーキが入っていた。

「ゴトー特製のクリスマスケーキ!梨華ちゃんと二人で食べてよ」
「あ、あ、あ、ありがと・・・」
「どうせ甘々な2人だから、ほろ苦くしてあるからねー。
 そんなのも気にせず溶けてしまいそうな2人なんだろうけどさっ」

そう言うと後藤はアハッと笑って吉澤の背中を思い切り叩いた。

(いったぁい・・・(涙))

しかし吉澤は美味しそうなケーキを目の前にして思わず声を上げる。

「めちゃ美味しそう〜〜♪」

「あったりまえでしょ!」

エッヘンと言いたいように後藤は威張った素振りを見せる。
(愛情も入ってるしね・・・。怨念は・・・入ってないよ。圭ちゃんじゃないからね
 って誰に喋ってんだろ?私まで・・・移った???ひょえ〜!)

どう見ても吉澤が作ったでっかいケーキよりも美味しそうだった。


「うぅぅぅ。ごっちん、ありがと〜〜〜〜!!!!!」

吉澤は感激の余り、思わず後藤に抱き付いてしまう。

(ヤベッ!・・・)

あ゛っと思って吉澤は慌てて後藤から離れようとしたが・・・。

「嬉しいよ!よっすぃ〜!イブの日に、梨華ちゃん"より"先にヨシコと抱き合えるなんて♪」

なんて、また強調しながら抱きしめ返して来る。

(あぁ。そうだった。私、寝てたから、まだ梨華ちゃんに会ってないんだった(涙))

おかしいと言った顔をして、後藤は吉澤から離れると、まだ笑っていた。

(結局、私は・・・からかわれるのね・・・)

吉澤は溜息をついた。




−18−

そして、淡々と仕事をこなして・・・やっと仕事が終わったのは夜もすっかり更けた深夜だった・・・。

折角、ホテルの近くの洒落たレストランを予約したと言うのに残念ながら、キャンセル・・・。

無言で吉澤と石川はタクシーに揺られながら、まずは目的のホテルへと向かった。
二人の手は、しっかりと握りしめられていた。

しかし、石川は行き先を自分の家へと変更する。

「梨華ちゃん???」
「遅くなったから、今日はウチでご飯食べよう!」
「え?」
「その後からでも遅くないでしょ?」

石川は吉澤に微笑む。

「・・・うん」

吉澤も嬉しそうに微笑み返した。




「ゴメンね。ホントはさ〜レストランに予約入れてたんだよ」

残念そうに言う吉澤に、石川は

「しょうがないよ、仕事だったんだからさ。私はよっすぃ〜と一緒ならどこだっていいんだから・・・」

そう言って吉澤の腕に自分の腕を絡めて来る。

「嬉しいよ、梨華ちゃん。その気持ち大切にするね・・・」
「ふふ。今日はずっと一緒だよはあとはあと
「梨華ちゃん!」

――― 幸せだな。梨華ちゃん・・・今日は吉澤ひとみ頑張るよ!!
ぎゃはっ。頑張るって、ナニを?・・・きひひ

自然に笑みがこぼれてしまう。

「よっすぃ〜何ニヤけてるのぉ?」
「別にぃ・・・」

慌てて吉澤は流れる外の風景に目を移した。

――― 梨華ちゃんにバレバレだろうな、きっと・・・。

12/13 OAのモー。たいを見て吉澤は愕然としたものだ。
『人生問答』でクリスマスにホテルを予約する男は是か非かとか言うので・・・。
しかも、それに石川が出ていたのだ。

――― やっぱり、下心見え見えかな・・・(しょぼん)。


石川の家に着くと、石川は寒そうに手を擦りながら、ヒーターを入れる。

「すぐ作るから、あっち行って待ってて!」

石川は忙しなく動きながら冷蔵庫を開けて材料を出す。

「いいよ、梨華ちゃんゆっくりで。慌てなくたっていいんだから」
「ダメだよっ。ご飯はメインじゃないんだから」
「!!」

石川はエプロンをつけると、あらかじめ用意しておいた材料を取り出しガスに火を点けた。

「梨華ちゃん、どういう意味?」

石川の後ろで、うろうろしている吉澤が問いかける。
石川は吉澤の方に向くと

「よっすぃ〜お願いだから、あっちに行ってて!」

吉澤のくちびるに軽くチュッ♪とやると吉澤の背中をクルリとリビングに向かせそのまま背中を押した。

吉澤はくちびるを指で触れながら、取りあえず腰を降ろした。

――― ご飯がメインじゃないって、どういう意味だろ・・・。
もしかして・・・???
それは・・・アレしかない。アレだよね、アレ!!

吉澤の顔が途端にニヤける。あまりのしまりのない顔に
ここに、後藤や保田がいたら、間髪入れずに突っ込まれていた事だろう。


何気に目を落とすと、石川が出た号の『FLASH』が置いてある。
吉澤は一発で石川の出ているページを開けた。

――― 私、気付いたら14冊も買ってたんだよね。思わぬ出費だったよ。
そこで買うの止めたけど。石川の14を取って区切り良くね。
それにしても、梨華ちゃんの太もも・・・はぁ〜・・・・・。
やっぱり、他のヲタに梨華ちゃんの太もも晒されるのはね耐えられないのさ。

石川は、その頃キッチンで悪戦苦闘していた。
勿論、作っているのはオムライス。
何度か練習して後藤にも教わったと言うのに・・・やっぱり上手に出来ない。

「あ〜〜〜んっ。どうしても玉子が旨く焼けない・・・」

石川は独り言を言いながらフライパンと闘っていた。

なんとかイビツながらも、2つ作り終えた石川はリビングにいる吉澤の方に目を向けた。
声をかけようとしたが、「FLASH」を食い入るように見る吉澤に石川は言葉が出ない。

――― もぅ、よっすぃ〜ったら、やらしいんだから!
そんなの見なくても生の私はココにいるのに・・・。生って…やらしいかな私。

「よっすぃ〜出来たよ!」
「う、うん」

吉澤は慌てて「FLASH」を閉じると振り返った。




−19−

その頃、保田は鍋奉行に勤しみつつ、後藤は・・・鍋をつついていた。

「んぁー、今頃、よっすぃ〜と梨華ちゃん…。ピタクリなのかなぁ〜」

箸を止めつつ後藤は呟く。

「なに、その言い方わぁ。吉澤と石川のコトは忘れなさいよ!
 ホレッ!食べる食べる!今日は食べるわよ〜!ワショーイ!!」

一人盛り上がる保田に、後藤は箸を置いて頬杖をついた。

「2人で鍋って、なんか寂しいね。やっぱさぁ〜他のメンバーも誘った方が良かったかなぁ・・・」
「寂しいって、後藤!!アンタが誘ったクセに!これでも一応2人っきりなのよ。
 今夜は祭りよ、祭り!ワショーイ!!」
「圭ちゃん、浮いてるよ・・・」

後藤は醒めたツッコミを入れる。

「後藤、暗い・・・暗すぎよ。もっと、こうパァー!っとさ!
 浮いてたっていいのよ。後藤しかいないんだから・・・」


「圭ちゃん、ゴトーにも「いしよし写真集」ちょうだい」

後藤は唐突に、話題を変える。

「はぁ?・・・後藤、いきなり何言ってんの?そりゃ時々、石川と吉澤の写真撮ってるけど・・・その話は保田違いよ?聞いてる?後藤???」
「・・・聞いてるよ〜。なんかムードないね。ゴトー寂しい」

――― あららら。マジで鬱入ってるわね。鬱田氏脳ってヤツ?

「取りあえず、今はひたすら食べる!食べる!!食べる!!!いい?」
「はぁぃ…」
「ヨシ!食ってヨシよ!!」

――― 「はぁぃ」の言い方がカワイイわね、後藤。

暫く、2人共食べる事に集中―――

「ねぇ、よっすぃ〜に電話してみようか」

後藤は口をもぐもぐさせながら携帯を取り出す。

「やめなって。既に営み・・ぃゃ…邪魔しちゃ悪いでしょ」

保田は言い直すが、後藤は鋭く突っ込む。

「営みってやらしい言い方だなー。圭ちゃんの方がよっぽど気にしてんじゃん」


「そんなコトないわよ」

しかし保田は顔を赤らめた。
後藤は素早く保田の隣りに行くと耳元で囁いた。

「ウチらも、しちゃおっか・・・」
「・・・(ポ)!!・・・後藤!この保田人をからかうんじゃない!」

後藤は「保田人って何?」と思いながらも謝りながら笑う。

「ゴメンゴメン!だって圭ちゃん、なんかカワイイんだもん。アハッ」

お腹を抱えて笑っている後藤に、保田は、ちょっと不機嫌になりながらもちょっと期待した自分にも腹を立てた。

「後藤、なんでもアハッで片づくと思うなよ?ゴルァ!」
「分かってるってぇ」

まだ笑っている。

「もう店出るわよっ!次行くわよ!!」

保田は伝票をひったくるように掴むと会計を済ませに立ち上がった。




−20−

テーブルの上にあるのは、紛れもなく石川特製のオムライス。
見た目は、へなちょこりんだけど、美味しそうな・・・感じ(苦しい)。

「ちょっと、ぐちゃぐちゃになっちゃったけど、味の保障も出来ない…けど
 でも、よっすぃ〜への愛は、たっぷり入ってるよはあとはあと
「ありがと〜。梨華ちゃん!!」

吉澤は、石川の気持ちが嬉しくて、ギュ〜ッと抱きしめた。

(トイレ味じゃなければ平気だよっ。言わないけどね♪)

「「いただきまぁ〜す♪」」

スプーンを持って胸の位置で手を合わせて言うと、早速口に運んだ。

「どぉ?・・・」

心配そうに眉を八の字にして、吉澤の瞳を覗き込むように聞いてくる石川に吉澤は満面の笑みを浮かべて親指を突き出した。

「んま〜いよ!梨華ちゃん!!どうしたの?」
「えへっ♪(照)」


吉澤の『どうしたの?』には引っかかったが、敢えて気にしない事にして
自分も一口すくって食べてようとしたが、いつの間にか吉澤が一口すくって
石川の口の前に差し出していた。

「梨華ちゃん、あ〜んっ・・・」
「え?・・・(恥ずかしいよぅ)」

無言で俯く石川に吉澤は

「何照れてんだよっ!いつもの梨華ちゃんらしくないぞ!ほらっ」

なんて言って吉澤の方が口を開けている。

ホントだったら、私がソレしたかったのに…なんて思いながら石川はおずおずと口を開けた。
そして、一口一口噛み締めるようにして食べる。

「ホントだ。(思ったよりイケてる!良かった)」

「ね?意外にオイシイでしょ?」
「!!意外にって、よっすぃ〜ひどぉい…(涙)」

思わず頬を膨らます石川に、吉澤はすぐに謝る。

「ゴメン!梨華ちゃんの料理って、正直期待してなかったけど…。
 でも、一生懸命作ってくれれば味なんて、二の次三の次だなって思ったよ」
「よっすぃ〜、ソレ誉めてない・・・(更に涙)」
「あ゛、いや、オイシイって!!梨華ちゃん自分で食べてみてオイシイって思ったでしょ?」

吉澤は慌ててフォローする。


「う、うん。そうだけどさ」
「それにさ、梨華ちゃん、さっき言ったじゃん。ご飯はメインじゃないって・・・」

吉澤は、意味深に微笑んだ。

――― よっすぃ〜そういうのだけは良く覚えてるなぁ・・・(溜息)。

「梨華ちゃん。口に付いてるよ」
「え?」

石川が、そう言った時には、吉澤は身を乗り出し、石川のくちびるの端を吉澤の舌がペロッと舐めていた。

「へへっ。私がやっちゃった♪」
「・・・ズルイよぉ〜!ソレも私がやりたかったのにぃ」
「わざとケチャップ付けたら、いかにもで、やらしいじゃん。だからさ・・・」

(ホントはケチャップなんか付いてなかったけど・・・梨華ちゃん可愛かったから。)

「ずる〜ぃ」

余程悔しかったのか、まだ石川は文句を言っている。

「でもさ、梨華ちゃん。ソレもって何?他にも何かやりたかった?」
「へ???ぁ、別に何も・・・」

すぐに石川は素に戻ると口ごもった。

「言ってよ!!じゃないと・・・」
「ん?」

吉澤は石川の傍に行くと、おもむろに、また抱きしめた。

「今日は、許さないからはあとはあと

二人のクリスマスは、まだまだ、これからのようで・・・。




−21−

「次って、まだどっか行くの?」

後藤は帰り間際に、保田にプレゼントのケーキを渡そうと
思っているのに、これではまだ当分帰してもらえそうになかった。

「これだけで帰るのって寂しいじゃない。それとも圭織達と合流する?
 どうせ、どっかでやってんでしょ」
「ダメだよ」

携帯を取り出そうとする保田の手を掴む。
(ケーキ渡せないじゃん!)

「どうして?」
「クリスマス圭ちゃんと2人きりなんて誤解されちゃうし」
「誤解って何?なんも、やましいコトしてないのにっ!」

保田はキッと後藤を睨む。


「い、いや・・・もう遅いし、終電なくなっちゃうからさ」
「そんなの気にしてるの?今日はクリスマスよ。んなのタクシー代くらい
 この保田様が出してあげるわよ!」

そう言って保田は胸をドンと叩く。

「ありがと・・・圭ちゃん」

あんまり断ってばかりだと保田にまた何か言われそうで後藤は頷いた。

「じゃぁ、私の家に行って飲み直そうか?」
「・・・(結局、圭ちゃん飲みたいだけじゃん・・・)」

「なんか言った?」
「え?何も・・・」

後藤はブンブンと頭を振る。
(圭ちゃん、心の中読めるのかな?こわ〜・・)

「なんだか言いたげな顔ね。まぁいいわ。取りあえず移動ね」

後藤の腕を掴むと丁度来たタクシーに乗り込んだ。




−22−

吉澤と石川は場所を移動して、海の見えるホテルの前に来ていた。

『夜景がとっても綺麗だね。よっすぃ〜』
『梨華ちゃんの方が綺麗だよ。寒くないかい?もっとこっちへおいで』

なんて吉澤は妄想していたのだが現実は厳しく・・・寒いのなんの。
時は既に0時近いし、さすがにこの時間だとカップルの姿も既に無くなっていた。

――― 今日の私のシナリオは最初から台無し!!

大体始まる時間からして既に2時間もオーバーしていた。
レストランで食事の予定が、石川邸で食事(でも嬉しい誤算♪)。

桟橋で石川と歩きながらお喋り。上記の台詞。そして抱き寄せてキス。
そして花火が・・・さすがに、それは出来ないけれど。


「梨華ちゃん、もうホテルに行こう」

吉澤はコートのポケットから手を出すと、石川の手を握った。

「よっすぃ〜寒いんでしょ」
「そんなコトないよ。梨華ちゃんと一緒なら・・・身体は寒くても心はあったかいよ」
「やっぱり寒いんじゃない」

石川は吉澤の手を両手で包み込むと、そのまま口に持って行き優しくキスをした。

「も、も、もうホテル入ろうか。風邪ひいちゃうといけないから」

何故か吉澤は動揺しながら、石川に包まれている手をほどくと、また無造作にコートのポケットに手を入れ直した。

(よっすぃ〜照れてるんだ。カワイイはあとはあと

先に歩いている吉澤の腕に石川は腕を絡ませると2人並んで目の前にあるホテルに入って行った。




−23−

保田に家に着くと、すかさず後藤は「はい!これ!!」と言って保田の目の前に、箱形のプレゼントを渡した。

「これ、私に?」
「うん。ゴトーが怨念を込めて・・・じゃなくて友情を込めて作りました」
「へぇ〜。後藤特製の?」

嬉しそうに保田は箱を開ける。

『メリクリ!L O V E LOVELY 保田』なんて書かれている。

「あ゛、それはプッチのネタってコトで深い意味ないから」
「ネタ!!(一瞬本気にしたじゃないの!!)」
「だって深い意味あったら、圭ちゃんだって困るでしょ?」

後藤は保田の首に両手を絡ませて来る。

「・・・・(ポ)」
「圭ちゃん聞いてる?」
「!!聞いてるわよ!ってか、なに絡ませてんのよ!
 いしよしじゃないんだから近づきすぎよ!後藤!!」

保田は赤くなりながら、ムリヤリ後藤の手をほどこうとした。
しかし後藤は目を閉じて・・・




吉澤は予約した部屋に行くとカードを差し込み、石川を先に招き入れた。

「すごぉい!」

石川は駆け寄って、すぐに大きい窓へ駆け寄る。
このホテルの最上階で夜景が良く見える。外のネオンがキラキラと光っていた。

吉澤は事前に予約で入れておいた薔薇の花束を後ろに隠し持つと、まだ外を見入っている石川の前に立った。

「この夜景もプレゼントするよ。梨華ちゃんのために。
 そして、はいコレ!」

と言って花束を石川の前に差し出す。

「よっすぃ〜・・・」
「100万本はムリだけど気持ちの上では100万本以上だから」

さっきから私って臭い事ばっかり言ってる?なんて自分で突っ込みながら石川に愛の言葉攻撃をしていた。

「あとね、私が作ったクリスマスケーキも!」

石川は真っ先に外の夜景に目が行って気付かなかったがテーブルの上には
吉澤が作ったらしい大きな箱が置いてあった。その隣にはシャンパンも。

「よっすぃ〜も作ってくれたの?」
「うん。まぁね。時間経ってるけど平気かなぁ…」

不安そうに言う吉澤に石川は、そっと箱を開けた。


大きなケーキが、これまたへなちょこりんな感じでフルーツたっぷりで箱の中に窮屈そうに入っていた。
『いとしいリカちゃんへ。メリクリスマス』

石川はフフッと笑う。

「あ〜梨華ちゃん笑ってる。ひどい・・・」
「違うの。よっすぃ〜らしいなぁって」
「棒入れるの忘れちゃったんだよ。あとね、愛しいの「愛」は字がぐちゃぐちゃになっ
 ちゃうからね、わざと平仮名なの。梨華ちゃんの名前もね。漢字が分からない訳じゃないよ」

必死で言い訳している吉澤がなんだか可愛くて石川は、また笑ってしまう。

「そんなの分かってるよ〜。ありがとうよっすぃ〜」
「・・・味の保障は出来ないけどね」
「私のオムライスと一緒?・・・でも、こんなにたくさん食べられないよぅ」

石川は嬉しい半面、ちょっと困った顔をしている。


「大丈夫でしょ?フジの特番で、梨華ちゃんは6個、私は7個もケーキ食べたじゃん。
 それに比べたら楽勝でしょ」

他のメンバーは平均2〜3個しか食べていなかったのに、このバカップルだけは
真剣に食べていたのだった。その記憶はまだ新しい。

「あのケーキは美味しかったもん。それに必死だったし」
「別に早食いじゃないんだし持ち帰ってもいいよ。このケーキだってオイシイよ!(多分)」
「今日ウチ帰らないじゃんかー」
「じゃぁ2人で食べようよ・・・」

――― なんか、また話がズレてきてるような・・・。
なかなかシナリオ通りには、いかないものだね・・・。

取りあえず1/8に切り、シャンパンも開けて乾杯をした。

「オイシイでしょ?梨華ちゃん・・・」

石川はちょっと眉間に皺を寄せている。

――― ぉぃぉぃぉぃ、マズイのよ???

吉澤は不安になりながら、はしたないと思いながらも手づかみで口に運んだ。


狙ったのかどうか分からないが当然吉澤の鼻や口の周りにはクリームが付く訳で・・・。
すかさず、石川はチャンス!とばかりに目を輝かせた。
しかし、吉澤はケーキの味に気を取られていて、石川には気付かなかった。

「そんなにマズくな・・・」

そう言いかけた時には石川は吉澤の傍に来ていて、前屈みになると
吉澤の顔に付いているクリームを舐め始めた。

「ひゃっ・・・」

思わず身を引く吉澤に石川は吉澤の顔を両手で包み込む。

「さっき、よっすぃ〜にされたから、お返しはあとはあと

そのまま石川は吉澤の顔を仔犬が舐めるようにペロペロと舐める。
そして、そのまま吉澤のくちびるへとスライドさせていく。
吉澤のくちびるをなぞるように石川の舌が伝っていく。

――― なんか、結構えっちぃ・・・

吉澤は、そのまま目を閉じた。




−24−

保田は一瞬どうしようか迷ったが(迷うなよ)そこは理性が働いて

「・・・後藤、目を開けなって」

そう言って絡まっている後藤の手をほどいた。

「・・・やっぱりねぇ。そうだと思った」

後藤は目を開けると、いつものアハ顔をして悪戯っぽく笑った。

「またからかったわね。調子に乗るなよ!ゴルァ!」

保田は照れ隠しなのかゲンコツを振りかざすと殴る真似をした。

後藤は保田がどう出るか一か八か賭けたのだが予想通りだった。
(ま、梨華ちゃんの時だって、誘ったのに断ったんだもんね。キスぐらいじゃ動じないか)

「圭ちゃん!」
「何よ?」
「メリークリスマス!!」

そう言って、後藤は保田の頬にキスをした。




−25−

吉澤はいつの間にかベッドに横たわっていて、石川のキスの嵐を浴びていた。

吉澤のシナリオは、既に番外編へ・・・。(番外編って何?)
まだプレゼントあるのに。

石川のキスだけですっかりメロメロの吉澤は既に力が入っていなく
例の如く石川のペースに早くも呑まれていた。

「梨華ちゃん・・・」
「喋らないで、よっすぃ〜」

囁くように石川は吉澤の耳朶を優しく噛みながら囁く。

「ぁふっ………」

「よっすぃ〜・・・メリークリスマス!」

そして、ゆっくりと石川は吉澤の服を脱がし始めた。


・・・・・
・・・・
・・・
・・


汗ばむ二つの身体。重なり合う身体。まだ二人の呼吸は乱れていた。

「梨華ちゃん、ズルイなぁ…」

一回目の営みが終わると、吉澤は身を起こして梨華を見つめながら悔しそうに言った。

「ズルイって…嫌だったの?よっすぃ〜…」

いつも以上に可愛い声で言う石川に吉澤はまたもや、鼓動が早くなる。
(梨華ちゃん・・・反則だよぅ・・・)

「イヤじゃないけどさ。今日ぐらい私にかっけ〜コトさせてよ。まだ途中だったのに」
「途中って???」
「ケーキの後にさ、メインのがあったんだよ」

そう言って、吉澤はベッドの近くにあるクリスマスツリーを石川に渡す。

「これが、どうかしたの?」
「ちゃんと見てみて」

石川も身を起こすと渡されたツリーを見つめた。
そこには、色々と飾られていたが、一つ光るモノが飾ってあった。

「よっすぃ〜、これ・・・」
「うん・・・」

照れくさそうに吉澤はソレをツリーから外すと石川の薬指にはめた。


「シルバーリング・・・」
「あんまり高いもんじゃないんだけど。今日の日付とイニシャルも入ってるんだ。
 私もお揃いで買ったんだけど」

そう言って吉澤はネックレスにかけてあるシルバーリングを見せる。
石川は行為中、そのリングは気になっていたが、まさかそういうモノだったとは。

――― 2001.12.24.H to R ―――

「もっと良いヤツは、私がもう少し大人になってからね」
「よっすぃ〜ありがとぅ…」

石川は感激の余りうっすらと涙を浮かべていた。

「泣いたらダメだよ。これから別の意味で梨華ちゃん泣かせるんだから!」
「え〜?」

石川は、わざと聞き返す。

吉澤は笑うと、ゆっくりと石川のくちびるに自分のくちびるを重ねた。

「私から、まだ言ってなかったね。メリークリスマス!」


二人はまだまだピッタリしたいようです。

一足早いですが、皆様 Merry X’mas!!そして良いお年を。


――― The END ―――



 

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