トライアングル・ブルー


第二部

−1−

「よっすぃーのバカ!ざけんな!!」
ごっちんに怒りをぶつけられ、私はうなだれた。

ごっちんにバカと言われるのも、もう慣れたけどいや、そうじゃない、ごっちんの気持ちも分かるけどさ。

梨華ちゃんと別れた後、今度はごっちんに呼び出されている私。
例のごっちんとキスした公園である。

良く考えたら、梨華ちゃんの性格からして、あっさり別れられるわけないんだよね。
だって、梨華ちゃんってストーカーっぽい要素がなくもないし。
でも、梨華ちゃんちょっと強くなった感じ。
それは良い事だよ、うん。(ん?いいのか?)深く考えないようにしよう。


「吉澤!聞いてんのかよ!!」
あぁ...目の前にも私をややこしくさせる人物、後藤真希が怒ってる…。

「そんな空板の矢口先輩みたいな口調で言わないでよ…」
思わず口に出してしまって『しまった!』と思った時は既に遅かった。
「空とか、矢口先輩とか何バカな事言ってんのよ!真面目に人の話聞いてんの?(怒)」
ますます、ごっちんを怒らせてしまったらしい…。
ハァ、またバカって言われたよ。

「ごめんなさい」
「これから、どうすんのよ?」
また同じ質問だ。それはこっちが聞きたいよ、全く。

「大体よっすぃーは、簡単に梨華ちゃんと別れられると思ってたの?」
少し小馬鹿にした目でごっちんに言われ、さすがの私もムッとした。
「思ってないけどさー」
ぶっきらぼうに私は答える。
「梨華ちゃんしつこそーじゃん。ストーカーっぽいし」
私と同じ事言ってるよ…。
「思い詰めて、包丁握りしめて、よっすぃー殺して私も死ぬ!とか言いそうだよね。
 まぁ刺されるのは、よっすぃーだから後藤には関係ないけど」
がが。一体何てコワイ事言うんだ!
とても、昨日愛し合った二人の会話とは思えない殺伐とした雰囲気。


「冷たいね、ごっちん」
私は怒りに震えながら、梨華ちゃんに刺される姿を想像して身震いした。
−その可能性は否定出来ないな−

「で、梨華ちゃんは何て言ったの?」
「『ごっちんと別れて…。別れたとしても私は許さないけど』って言われちゃった」
私は梨華ちゃんの声マネ(似てない)をしながら言った。
ごっちんは冷ややかな目で見ている。
あぁ、また余計な事しちゃった。

「別れても別れなくても許さないなら、別れるコトないじゃん。
 やっぱ、よっすぃーが梨華ちゃんと別れるべきだね」
それが出来ないから困ってるんだろー!
って???私、梨華ちゃんと別れたくないんだった。
ホントは、梨華ちゃんに別れないって言われて嬉しかったんだった。
あれ?でも、ごっちんとも別れたくないよ…。

・・・こんなコトなら、ごっちんと深い関係にならなければ良かった。
傷の浅いウチに、梨華ちゃんに謝っておけば良かったんだ。
でも、ごっちんとも気持ちよかったしなぁ・・・。


「私は、よっすぃーと別れる気ないからね」
「はぁ…」
「はぁって何なのよ!その反応は!大体、私の身体奪っておいて…」
「なっ、最初に攻めたのは、ごっちんの方でしょーが!」
「元はと言えば、よっすぃーが私のくちびる奪うからでしょ!」

こうなると痴話喧嘩。この後、散々どうでもいい喧嘩をして静まったのは10分後だった。

「大体、よっすぃー、自分のコトなんだからもうちょっと真剣になりなよ。
 なぁんか見てると楽観視してるんだけど…」
「だって…。ごっちんも梨華ちゃんも好きだし…」
「この欲張り者!……でも、好きになってくれたんだ…」
急にごっちんが私の方に顔を寄せて来た。


そりゃぁ、あれだけ愛し合えば、情だって移っちゃうよ。
それに、ごっちんって、かなりうまいし・・・。ヨシコはかなり萌えたよ。
私はごっちんの肩に手を置くと、キスをした。
「梨華ちゃんには、よっすぃー渡さないんだから…」
ごっちんは、そう言うと、私の腰に手を回して来て、更に熱いキスをした。
そして、ごっちんの舌が攻撃的に、私の舌に絡まってくる。
は、激しいよ、ごっちん…。と急に、舌を引っ込めて軽くキスをする。
い、一体、なんなんだ、そのキスは。と思うと、また激しく絡ませてくる。
ふいに、くちびるを離して、ごっちんは囁いた。
「ねぇ、しようか…」
「こ、ここで?」
私は思わず聞き返してしまった。




−2−

「他に、どこですんのよ?」
そう言いながら、後藤は吉澤を自分の膝の上に抱っこさせて、手は既に吉澤のシャツのボタンを外していた。
「ま、待ってよ」
しかし、後藤は吉澤のブラを半分上にずらして、既に吉澤の胸を弄んでいた。
早すぎる。
(ほんとに、ごっちん女の人とは初めてなの?うますぎるよ…)
「だめだよ、ごっちん…」
「ダメダメって、こんな立ってるのに?」
後藤はわざと胸の突起を指で転がしてみる。
「ぁあん・・・」
誰かに見られてるかも知れないと言う不安もあって、吉澤はますます興奮してしまう。


「よっすぃーはスケベだからね…」
後藤は笑うと、既にはだけているシャツをずらして露わになった吉澤の乳房に吸い付いた。
「はぁあっ!…」
(よっすぃー声デカイよ。もぅ、誰か来ちゃうじゃない…)
後藤も一応周りを気にしながら行為に及んでいるのだが吉澤の声が大きい事を忘れていた。
後藤は吉澤の口を塞ぐと、また手で乳房を優しく揉みしだいた。
「ん…ぅ」
吉澤の甘い息が漏れる。
あんまり長い事していられないので、後藤は下の方にも手を伸ばした。
「そこはダ…メ...」
吉澤に手首を掴まれて制された。
「大丈夫、すぐ済むから…」
途端に吉澤は"もっと"と切ない目をした。
(っとに、よっすぃーって淫乱なんだから…)


後藤は吉澤のスカートをたくし上げると、下着の外から指をなぞってみた。
既にソコは、外からでも分かるくらい濡れていた。
ちょっと触っただけで、吉澤は敏感に反応する。
なんだか、その反応がたまらなく可愛くて、余計虐めたくなってしまう。
「よっすぃーカワイイ…」
もう少し虐めたかったが、さすがに人目も気になるので、後藤は吉澤のショーツに
手を忍ばせると、既に固くなっている蕾を優しく刺激した。
「はぁぁんっ…」
吉澤は気持ち良いのか、自分で腰を動かし始めた。
そして、後藤に夢中にしがみつく。
(ぅぅ、カワイイ…)
実は後藤にとって、この瞬間が至極幸せなのである。
「可愛いよ、よっすぃー」
「はやくぅ…」
切なそうに懇願する吉澤の瞳を見つめながら、また後藤はくちびるを塞いだ。


しかし、後藤は再びくちびるを離し、手の動きも止めてしまった。
快感に酔いしれていた吉澤は、一瞬後藤を見つめる。
"なんでやめちゃうの?"と言いたげな顔をして…。
「意地悪しないで、ごっちん…」
吉澤の求める顔を見て、後藤は意地悪な質問を吉澤に投げかけた。
「私と梨華ちゃん、どっちが好き?」
自分でもズルイ質問をすると思う。
でも、後藤は刹那でもいいから、吉澤に自分を選んで欲しかった。
−−身体だけで繋がってるのはイヤだから‥でも、そのうちきっと…−−

既に頭の中は真っ白状態に近い吉澤はためらわずにこう言った。
「ごっちん。ごっちんが好き...」
後藤は嬉しそうに微笑むと
「私も、よっすぃーが大好きだよ…」
そう言って、吉澤の一番敏感なところに中指を挿入した。
すでにソコは愛液で溢れ返っていた。
そして、軽く蕾を刺激しながら、指を動かすと、吉澤は身体を少し反らせたかと思うとあっと言う間にイッてしまった。


「ハァハァ…。ごっちん…好き」
吉澤は少し息を荒くさせながら、後藤に抱き付いた。
額にうっすらと汗をかいて、髪が乱れているのを直してやりながら後藤は優しくキスをする。
「急にするんだもん。びっくりしちゃった…」
「イヤだった?」
吉澤は、首を振った。
「よっすぃーがイク時の顔って、凄く可愛いね」
後藤は誉めたつもりだったが、吉澤は真っ赤になってしまう。
「やぁだぁ。恥ずかしいな、もぅ...」
「さっきは、もっと恥ずかしいコトしてたクセにさ」
「‥……」
吉澤は立ち上がると、服の乱れを直した。
(はぁぁ、ショーツびっしょりだよ(泣)。替えないしなぁ…イヤだなぁ…)

「よっすぃー、トイレ行ってくれば?気持ち悪いでしょ、あそこ…」
「う、うん。ちょっと行ってくる」
そう言って、吉澤は駈けだして行った。




−3−

薄暗いトイレに入ると吉澤はショーツを下ろした。
(うわ〜、もぅ、こんなのはいてられないよ〜)
改めて見るまでもなく、吉澤のショーツは濡れ濡れ状態。
「いやだぁ、もう…」

(コンビニでパンツ買って、モー娘。ってバレたら、超恥ずかしいしなぁ。
 2chにスレッド立てられちゃったら最悪じゃん)
先日終わったばっかりで、ハンペンも持ち合わせていない。
(コンビニでハンペン買うのもなぁ。紙袋に入れられたりして、また恥ずかしいし…)

取りあえず、吉澤はティッシュを出すと、そっと拭った。
まだ、その敏感な場所は疼いていて、熱かった。
(もぅ、ごっちん激しすぎ…)
あんなに激しいえっちを(と言うか野外)したのは初めてだったのでスリルもあり、更に吉澤は興奮してしまっていた。


吉澤は、先ほどの行為を思い浮かべて、指をソコに触れてみた。
「ぅうぅんっ…」
ソコは、凄く熱くて。。。更に中へと触れようとした時・・・

−突然、ドアが開いた−

「ひゃぁぁああ???」
マヌケな声を出して、ショーツを下ろしたまま、立って後ろを振り返る間抜けな吉澤の姿がそこにあった。
(ごっちん!??)

「ちゃんとカギしなきゃダメじゃん。強姦されちゃうよ?」
まるでカギがかかってなかったのを知ってるかのように、後藤は当たり前のようにツカツカと入ってくる。
(なんで、入ってくるの?・・・)
吉澤は呆然としながら、後藤を見つめていた。
カギをカチャッと閉めると、後藤は吉澤を自分の方に向かせた。
「よっすぃーのコト、もっと犯したくなっちゃった」
後藤は小悪魔的に、微笑んだ。
「よっすぃ〜のヤラしい顔、もっと見たいんだ…」

石川とのえっちとは、対照的に激しい後藤とのえっちに、吉澤は既に溺れそうだった。
いや、もう深みにハマっていたのかも知れない・・・。
この小悪魔な後藤に完全に吉澤は翻弄されていた。




−4−

吉澤はその場から動けずにいた。
ドアに押しつけれると手首を掴まれ、強引にくちびるを奪われる。
「っん……。もぅダメだったら…」
吉澤の声は弱々しかった。心のどこかでは、もっとと叫んでいる自分がいる。
淫らになりたい自分がいる。

「よっすぃー独りでやっちゃダメだよ。後藤がいるのに…」
「…!?」
(さっきの、聞かれてたんだ……(恥))
吉澤は羞恥心でいっぱいになり、後藤から視線を逸らせた。
「恥ずかしがるコトないよ。気持ちよくなろ?」
後藤は自分の指を吉澤のくちびるに撫でるように軽くあてがうと指を吉澤の口の中に入れた。
「カワイイよっすぃーのくちびる・・・。下のくちびるもカワイイよ」
そう言って、もう片方の手を下に這わせた。
「はぁああぁあああぁっ…」
再び、吉澤の口から甘い溜息が漏れる。
吉澤の下のくちびるは、もうどうしようもない位、溢れていて今にも垂れていきそうだった。
先ほど逝った時から、まだ時間はさほど経っていないので、すぐにでも快感の波が押し寄せてきそうだった。
「でも、声は出しちゃダメだよ…」
そう言われると、出したくなるもの。
吉澤の頭は完全にとんでいた。


「立ちながら、するのもイイでしょ…」
完全に後藤に主導権を握られている吉澤は、ただ頷くしかなかった。
後藤は自分の足を吉澤の両足の間に入れて、更に激しく指を動かした。
「んふっぅ。あぁんっ…」
吉澤は立っていられない位の衝撃を受けて、後藤にしがみつく。
「ぅぅん、ダメ、感じすぎて、イきそう…だ‥よ‥…」
「大丈夫。私が支えてあげるから‥」
後藤は吉澤の腰に腕を回すと、しっかりと支えた。
勿論、片方の手は休ませずに。
「ねぇ、好き?後藤のコト好き??」
後藤は吉澤の耳元で囁きながら、吉澤の中で指をこねくりまわした。
「大好きだよ、ごっちん‥。だから、早くイかせて…」
ふふっと後藤は笑うと、指の動きを止め、今度は吉澤の乳房に吸い付いた。
舌で、ころころとなめ回すとたちまち、吉澤のピンクの突起は固くなる。
「焦らさないでよぅ…。早く‥して……」


「分かったよ。もぅせっかちなんだから...」
後藤は、スカートの中に手を入れると、吉澤のソコをつついた。
後藤の指は既に吉澤の愛液でベタベタになっていたが、再び挿入する。
「あ゛ぁっはぁぁあんっふ・・・」
吉澤は、何か昇りつめるような感覚に陥った瞬間、イってしまった。
後藤に崩れるように寄りかかると、吉澤はグッタリとした。
太股からは、愛液が伝って垂れていた……。

「淫らなよっすぃーって好きだよ‥」
後藤は満足げに微笑むと、吉澤を抱きしめた。


駅までの道を二人は殆ど話さないで歩いた。
結局、吉澤の下着は、とても大変な状態だったのでその場で脱いで
「私が、よっすぃーのパンツ汚しちゃったからね、責任取るよ」
と言ってコンビニで後藤が買って来てくれたパンツでなんとかなった。
「その使用済みパンツ私にくれない?」
冗談なのか本気なのか(本気だったら変態だ)後藤は意地悪く言った。
「なっ、何言うんだよっ!」
「吉澤ひとみの使用済みパンツをオークションで売ったら高く売れそうじゃない」
「はぁ・・・」
吉澤は呆れてモノが言えなかった。
「その売ったお金で、またラブホにでも行こうよっ」
「なんかコメントに困るわ、ソレ‥」


「そんじゃぁ、また明日ね!」
後藤は何事もなかったかのように言うと、改札を抜けて行った。

後藤の後ろ姿を見送りながら、吉澤は思う。
(人をこんな気持ちにさせておいて、また明日ね!って‥…)
そして、更に吉澤の心は揺れ動くのだ。
(これじゃぁ、もう梨華ちゃんの元に戻れないよ…)
石川の事が100%好きだった自分は、もういなかった。
次第に自分の中で、後藤の占める割合が高くなって行くのが分かる。
(もぅ弁解出来ない。私は、ごっちんを愛し始めている……)

−キスから始まる恋−まさにその通りになってしまった。




−5−

案の定、翌日、吉澤は保田に呼ばれた。
今日は後藤はソロの仕事で、今はいない。
あんな事があった翌日、会わない事に吉澤はほっとしている。
(会っちゃったら赤面だよ…)
尤も、当の後藤は平気そうな感じではあるが。

「吉澤ぁ、言わなくても分かってるよね?」
保田が仁王立ちをしている。ただでさえ怖いのに、更に怖い顔をして。
「はぁ・・・」
保田には話す事はないのだが、「梨華ちゃんを任せる」と言った手前相手にしない訳にもいかなかった。
穏便にすませたいものだが、多分、そうはいかないだろう。


「石川を悲しませるなって言ったろ?」
「はい…」
(保田さんも、なかなか男前なキャラなんだよな…こうして見ると)
吉澤は怒られているにも、かかわらず呑気な事を思っていた。
「結局、あんたたち、どうなったの?」
吉澤は顔をあげると
「梨華ちゃんから聞いてないんですか?」
「聞くもなにも、全く吉澤の話しないからね」
「そうですか…」
「だから、どうなったのよ!(怒)」
保田が声をあらげた。
(もぅ、ビックリするじゃないですか…)
「結局、なんだか私にも良く分かりません」
ホントに、良く分からなかった。

(梨華ちゃんは別れないって言ったけど、私はごっちんと一緒にいるし、
 今さら、前みたく梨華ちゃんと接する事なんて出来ないし…。
 梨華ちゃんの方から話しかけてこないし、私からは話しかけずらいし
 それに・・・梨華ちゃんから、えっちは勿論の事、キスの禁止令も出された。
 おまけに『家にも来るな!』『私に触ったら、ただじゃおかないんだからっ』
 怒った顔もカワイイ梨華ちゃんだったけど、やっぱり触れないのは寂しいよ)


どう考えたって修復出来ない。答えは出ない。
(それに、私は、ごっちんの事も大好きだから……。
 これを言ったら、保田さんには殺されそうだけど)

「吉澤見損なったよ!(怒)」
キリキリしながら、保田は更に声をあげる。
(そんな大声出したら、誰かに聞かれちゃいますよ・・・)
「あんた、石川一筋だと思ってたのに、後藤にまで手を出して」
「ごっちんにも手を出した事が気に入らないんですか?」
論点がずれてる気がしたが、吉澤は聞き返した。
「そうじゃないわよっ。っとに…」
(保田さんは何に対して怒ってるんだろう?分かりにくいなぁ…)

「保田さんは、人を好きになった事はないんですか?
 そりゃ、梨華ちゃん一筋だったのが、今では同時にごっちんの事も好きになっちゃったのは事実だから否定出来ませんけど…」


(う。。。)
保田を見ると、青筋が立ちそうなくらい、吉澤を睨み付けていた。
なんだか余計な事を言ってしまったようだ。

「結局、保田さんに話しても何の解決にもならないんですよ。
 これは、梨華ちゃんと私の問題なんですから。だから、もう失礼しますっ」
吉澤は頭を下げると控え室へと戻っていった。

(それにしても、私ってば、今考えるとかなり恐ろしい事を言ってしまったみたい。
 あの保田さんに喧嘩売るようなマネを・・・(冷や汗)
 これで、完全に保田さんを敵に回したな…。まぁ最初から保田さんは梨華ちゃん派だけど)


「よっすぃーどうしたのぉ?なんかヤバイ顔してるよぉ」
キャハハと笑って、矢口が話しかけてきた。
「矢口さん・・・。矢口さんは、どっち派ですか?」
「どっち派って???」
「あ、いえ・・・」
またそのまま口にしてしまって吉澤は口ごもる。
(矢口さんは、私のコト好きそうだけど、でも最近梨華ちゃんのコトも好きそうだしなぁ・・・。ってか、この状況知ってるのかな…。
 矢口さん、ミニモニ。で疲れてるみたいだし、悪いからいいや)
「矢口さん、今日も一段とカワイイですね」
「ヤダ、よっすぃー当たり前だよ〜!」
矢口は嬉しそうに吉澤の肩を叩いた。
そして、こっそりと吉澤は石川を見るが、石川は台本を読んでいた。
(あ〜ぁ、なんだかなぁ…。こういう状況ツラいよなぁ…)

ほんの少し経って保田も戻って来ると、今度は石川を呼び出して再び出て行った。
(保田さん、今の話、梨華ちゃんにするんじゃ……)
ふぅぅぅっと吉澤は溜息をついた。




−6−

石川は自販機コーナーの前でアイスレモンティを飲みながら焦りを感じていた。

甘く見ていた。
吉澤が後藤にすっかりなびいてしまっているのが手に取るように分かる。
吉澤まで後藤に取られるなんて…。
保田にも言われたが、吉澤は後藤の事も好きだと保田に言ったらしい。
石川自身がツラくなるだけだから、吉澤の事は諦めろと言われた。
(諦めるなんて、出来る訳ない…)

しかし、今のままでは、確実に吉澤は後藤の方に行ってしまう。
気持ちまでも・・・。
−後藤には負けたくない。−
だが、吉澤の前で強く出た手前、急に媚びを売ったりする行為はしたくなかった。
それは石川のプライドが許さない。
(どうしよう・・・)

石川は既に飲み干した空の紙コップを握りつぶした。


「梨華ちゃん・・・」
いつの間にか後藤が石川の前に立っていて、隣りに座ってきた。
「…なによ」
「よっすぃ〜のコト、諦めてくれないかなぁ?」
「・・・」
「梨華ちゃんが別れないって言ったって、もうよっすぃ〜の気持ちは私の方にあるんだし。邪魔なんだよ、梨華ちゃんが」
「邪魔なのは、ごっちんでしょ?ヘンなコト言わないで」
後藤のどこか自信に満ちた顔をしている、その自信が余計石川を不安にさせた。

「ちゃんと闘う気ないなら、とっとと別れてよ!」
「闘うってなによ〜!」
「何も行動しないくせに、いつまでも彼女ヅラしてんじゃないわヨ!
 これ以上、よっすぃ〜を束縛しないで!」
さすがの石川もカチンと来た。
「そっちこそ、私のよっすぃ〜奪っといて、良くそんなコト言えるわね!」


こうなると売り言葉に買い言葉である。

「そっちに隙があるからでしょ?それに、よっすぃ〜からいきなり私にキスしてきたんだから...」
急に後藤は声のトーンを落とした。
今、思い出しても腹が立つ。
(ムカつく。私は梨華ちゃんじゃないっつの)
「梨華ちゃんが、よっすぃ〜のコト寂しがらせるから、こーいうコトになったのよ!」
後藤は乱暴に言うと、その場から立ち去った。
「なんなのよ、一体…」
石川は散々後藤に言いたいコトを言われて腹が立ち、潰した紙コップを思い切りゴミ箱へ投げつけた。


(絶対負けたくない!)
こうなったら力尽くでも、吉澤を奪い返してみせる!
プライドだのなんだの言ってられない。
石川は後藤の挑発に「受けて立とうじゃないの!」とザ☆ピ〜ス!の最後の
自分の決めポーズよろしく、拳を上に上げて誓った。

しかし、意気込んだものの、どうやって吉澤とまた二人きりになれるのか?
やはり、家に呼ぶしかない。しかし、そう簡単に家に来てくれそうにない。
それでなくても、石川は吉澤に対して「家に来るな!」「触るな!」と先日言ってしまったのだ。
悪いとは思ったが、ここは、やはり保田にお願いしようと石川は思い立った。

「保田さん、お願いがあるんですけど……」
石川は保田の力を借りた。




−7−

−数日後−
この日の最終仕事はプッチモニのダイバーの収録。
それが終わって・・・。

「「お疲れさまでしたぁ〜」」
当然、吉澤と後藤は一緒に帰ろうとしたが「吉澤、ちょっと」と保田が呼び止める。
「後藤は、もう帰っていいから。お疲れさま」
そういうと吉澤の腕を掴み、2人してタクシーに乗り込み去っていく。
あっと言う間の出来事で、後藤は呆気に取られていた。

「な、なんですか?急に」
吉澤も突然の事で訳が分からなかった。
「XX駅に行って下さい」
運転手に行き先を告げると、保田はやっと吉澤の腕を離した。
「XX駅って1駅先じゃないですかぁ」
「うるさいっ。黙ってついてきな!」
「はーぃ」
(相変わらず保田さんはコワイ)
吉澤は首をすくめた。

10分くらいすると駅に着き降りる間際に「吉澤払っといて!」
と言ってさっさと自分だけ降りてしまう。
「えぇ?」
保田に呼ばれたのに、なんで私が…と言いたかったが、渋々吉澤は財布を取り出した。
そこからは電車で乗り換え、駅を降りると、どこへ行くのかは、検討がついた。
(なんで、こんな回りくどい事を。しかも保田さん使って)


「梨華ちゃんに頼まれたんですか?」
駅から石川のマンションへ向かう途中、吉澤は聞いた。
「こうでもしないと吉澤来ないでしょ。それに後藤と一緒に帰られても困るしね」
保田は困る事ないだろーと思ったが、口にしなかった。
「大体私、梨華ちゃんに『家に来るな!』って言われてるんですよ?」
「そんな事まで知らないわよ」
保田には、干渉されたくなかったが、石川が何かと保田を頼りにして相談しているらしい…。
石川のマンションの前に来ると、保田は
「じゃぁ、後は吉澤一人でヨロシク。絶対帰ったりするんじゃないわヨ!」
そう釘を刺して、また駅へと戻って行く。
「保田さん!」
「何よ?」
「コレだけのために、わざわざ?」
「…そうよ。悪い?」
「いえ、別に…。お疲れさまでした」
吉澤は保田の後ろ姿を見送っていた。
(こんな事、保田さんに頼む梨華ちゃんも凄いけど、ソレを受ける保田さんもなんだか・・・)
吉澤は妙なところで感心していた。


しかし、さっきから石川宅のインターホンを押しているのだが、一向に出て来る気配がない。
(まったく、呼び出しておいて、留守ってどういうことだよっ)
吉澤は、まだ合い鍵を持ったままだったので先に入っていても良かったのだが『家に入るな!』と言われた手前、入るのは躊躇した。
保田を信用していない訳ではないが、石川の口から直接呼ばれた訳ではないのでやはり外で待つことにした。
吉澤はドアの前に座り込むと以前も、こんな事があったなと思い出していた。
(懐かしい・・・)

まだそれほど月日が経った訳でもないのに・・・。

一旦、外れた歯車は、ズレたまま動きだし、再び元に戻る事はないのだろうか?

そんな事を考えていたら、石川が帰って来た。
「ゴメン。待たせちゃった?」
「うぅん…」


「ちょっと調子が悪かったから、薬屋さんに寄ってたの。ごめんね」
「だっ大丈夫なの?」
吉澤は急に心配そうな顔をして聞いてくる。
具合が悪いと言うのは、勿論ウソなのだが…。
「う、うん。一応、ドリンクとか買って来たし」
「そっか」
吉澤は安心したようだった。

(はぁぁ。びっくりした…)
石川は着替えながら思っていた。
(作戦はこれからヨ!梨華!!ファイト!!)
自分に気合いを入れると吉澤のいるキッチンへと向かった。




−8−

「ハイ。コレ!」
「えっ?」
吉澤はニッコリと微笑んで、先ほど石川が買って来たドリンクをわざわざキャップまで取って石川に差し出していた。
石川が受け取らないので吉澤は不思議そうな顔をする。
「飲まないの?梨華ちゃん飲むから買って来たんでしょう?」
至極当然の事を言う。

(そうだけど、ソレはよっすぃ〜に飲ませるための媚薬なんだよ…)
石川はひきつりながらソレを受け取った。
(私が飲んだら意味ないじゃん…)
それにしても吉澤は気付かないのか???
(あぁ、よっすぃ〜も英語弱いから、きっと読めないんだ)
英語が分かれば、その飲物が何であるか分かるハズだった。
失楽した表情で、瓶を見つめている石川。
「梨華ちゃん、また具合悪くなってきたの?」
「大丈夫だよっ。じゃぁ飲むね」
ここまで来たら飲むしかない。石川はヤケになりながら一気に飲み干した。


作戦はあえなく失敗。
(今日は、もうよっすぃ〜には帰ってもらおう(涙)。
 ホントに具合悪くなってきちゃった…)
石川は急にやる気をなくし、ネガティブになった。

「梨華ちゃん、旅行の疲れが今頃出て来たんじゃないの?」
尚も心配そうに聞いてくる吉澤に石川は
「悪いけど帰ってくれる?こっちから呼んどいて悪いんだけど」
薬が効き始める前に帰ってもらわなくては…。

石川は媚薬と言うモノを飲んだ事がない。
どの程度の効果が表れるのかは見当がつかなかったが、一人の方がいいに違いなかった。吉澤も
「具合悪いんじゃ、しょうがないね」
と言って素直に従ってくれたので、石川もホっとした。
「ゴメンね」
「また日、改めて来るよ。お大事にね」

(ホントに熱出てきそう…)
石川はベッドに潜り込んだ。
急に石川は胸の鼓動が激しくなる感じがした。
(きっと作戦が失敗して動揺してるんだ。そんなに早く効く訳ないもん)
石川は自分に言い聞かせた。


「梨華ちゃん、マジで大丈夫?」
「きゃぁっ」
既に帰ったと思っていた吉澤から急に声をかけられて、更に石川は飛び上がる程驚いた。
吉澤は石川の顔色を見ると急に石川の前髪を上げて自分の額を石川の額に押し当てた。
吉澤の息がかかる。
「……ん。ちょっと熱が出て来たカモ」
石川はビクンとなると、吉澤をはね除けた。
「触らないで!!」
吉澤は一瞬驚いた顔をしたが、すぐ気付くと
「ゴメン。触るなって言われてたっけ…。でも梨華ちゃんの様子がヘンだったから」
素直に謝る吉澤に石川は苛立ちを隠せない。
(身体が熱い。もぅヤダ……)
「いいから帰ってよ!」
半ば壊れ気味に石川は叫んだ。
「う、うん」
しかし、吉澤も石川の異変に気付き、このまま帰る訳にはいかなかった。
(帰る方が却って心配だよ…)


吉澤は帰ったフリをして、暫く石川の様子を陰から見ていた。
(ゴメン梨華ちゃん。覗き見する訳じゃないけど)
何もなかったら、こっそり帰るつもりだったのだが・・・。

石川は身体が敏感になっていくのが分かった。
(あぁん…。何かヘンな気持ち・・・)
吉澤が見ているとは知る由もない石川は、Tシャツとブラを脱ぎ捨てると自分で既に固くなっている胸の突起を見つめた。
(イヤだぁもぅ…。これが媚薬のせいなの?)
見る間でもなく感じている。
「あぁぁあんっ」
石川は自分の手で触れただけで声を出してしまった。

「り、梨華ちゃん!?」
驚いたのは吉澤だった。石川の甘い喘ぎ声に気付いて吉澤は思わず声をあげた。
(梨華ちゃんが、一人えっち?)


「きゃぁああああ〜〜〜!!!」
石川は再び悲鳴を上げると、タオルケットで前を隠した。
「どうしちゃったんだよ!梨華ちゃぁぁぁああん!」
思わず吉澤はベッドに駆け寄る。
「帰ったんじゃなかったの?」
「心配で…」
「覗き見?サイテー!よっすぃ〜のバカ!!」
石川は叫ぶと布団をかぶってしまった。
「梨華ちゃん、落ち着いてよぉぉ〜!」
吉澤は石川の布団を揺さぶる。
「いいから、早く帰ってよお!」
石川は恥ずかしさと身体の異変からパニック状態になっていた。


吉澤は一瞬戸惑ったが、布団を引きはがすと、石川を抱き寄せキスをした。
反則だが、キスで落ち着かせた事が過去にあったので、今回もその手段を使ったつもりだったのだが・・・!?
しかし、そのキスは落ち着かせるどころか石川に火をつけてしまった。
(よし!これで安心だねっ・・・)
怒られるのを覚悟でしたキスだが、すぐに石川も大人しくなりホっとしたのも束の間、石川の目を見て吉澤はギョっとする。
「よっすぃ〜…」
甘く囁くように名前を呼ばれ、吉澤は身震いした。
― 明らかに、誘っている目だった・・・


(ひぃぃ〜。梨華ちゃん本当に壊れちゃったよ)
「ゴメン。私、本当に今度こそ帰るね」
身の危険を感じた吉澤は慌てて帰ろうとしたが、石川に引き寄せられて強引にくちびるを奪われてしまう。
それも、えっちの最中にするような、ねっとりとしたしつこいヤツを…。
吉澤は慌てて舌を引っ込めるが、石川の舌が追いかけるように執拗に攻めてくる。
「…ん...」
最初、引き気味だった吉澤も石川のキスに酔ってしまっていた。
吉澤は石川を抱き寄せ、久々に石川の温もり、匂いを肌で感じ、優しい気分になっていた。
「よっすぃ〜抱いて
石川の甘い誘いに吉澤が堕ちるのは至極簡単だった。
「梨華ちゃん...」
吉澤は、ゆっくり石川をベッドに押し倒した。




−9−

吉澤は石川の首筋に顔を埋め、石川の胸を優しく揉みしだいた。
石川の胸のピンクの蕾は、すでに立っていて触るだけで、石川は声をあげた。
「あぁああぁぁん…」
(梨華ちゃん、もうこんなに感じてる…ヨシコ感激だよ)
吉澤は媚薬のせいで、石川がおかしくなっている事に気づかないので勝手に感激していた。
(ひさぶりだし、ヨシコ頑張るよ〜!)
吉澤も自分の服を脱ぎ捨て裸になり、石川の胸をしゃぶりながら、片手は太股の方へ滑らす。
そして、ショーツの上から指でなぞる。
石川は思わず身体を反らせてしまう。
(はぁあぁぁ、もうイっちゃいそう…)
石川は久しぶりのえっちに既に思考回路が飛びそうになっていた。
なかなかショーツを下ろさない吉澤にもどかしさを感じてしまう。


「よっすぃ〜 は、早く・・・」
「梨華ちゃんの、せっかちさん
それでも、吉澤はショーツの上からしか触らない。
「焦らさないでヨ...」
石川は熱くなっている部分に早く触れて欲しくて懇願する。
そんな潤んだ瞳を見つめながら、吉澤も激しく燃えてしまう。
「梨華ちゃん、可愛いよ、とっても…。大好きだよ」
石川は吉澤にキスをして更に懇願する。
「お願いだからぁ…」
(うぅ〜たまらん!梨華ちゃん…)
石川のせがむ顔をもう少し見ていたかったが、さすがに可哀相なので
吉澤はショーツを脱がすと、石川の足を開脚させて、直接吉澤はくちびるを押し当てた。


「…んっうぅぅはぁぁっ」
石川のソコは既に溢れていた。
「シーツ汚れちゃう…」
そんな心配をする石川に吉澤は
「大丈夫、梨華ちゃんのジュースは私が飲み干すから…」
そう言いながら、すでに音を立てて飲み始めていた。
(うぅ恥ずかしいよお)
何を今さら、石川はそのクチュクチュ言う音に、更に感じてしまう。
吉澤の舌が生き物のように石川のソコを舐め回し動く感触に、石川は既に最高潮に達しそうになっていた。


「よっすぃ〜、もぅダメだよ、イっちゃうよぉ…」
吉澤の頭を抱きしめながら、石川は呟く。
吉澤は一旦、顔を上げると今度は優しく石川の中に指を挿入した。
「梨華ちゃんのココ、温かいね…」
吉澤は指をゆっくりと上下に動かしながら嬉しそうに言う。
「気持ち良いなら、腰動かしていいんだよ?」
吉澤は石川を抱きかかえると囁いた。
「はぅぅ…」
石川は頷くと腰を動かした。
「梨華ちゃん...愛してる・・・」
吉澤は急に指の動きを早くする。
(そんなにされたら壊れちゃうよぉぉ…)


石川の中で何かが弾けて昇り詰めていく快感と同時にすぐにイッてしまった。
「ああああぁぁああっ、よっすぃ〜〜〜!!!!!!!!」
石川は叫ぶと吉澤の腕の中で果てた。
吉澤は指を抜くと、それを口に持っていって舐める。
「おいしかったよ、梨華ちゃんのジュース…」
石川は、まだ吉澤の腕の中で荒い息を立てていた。
「まだ残ってるから、飲んじゃうね…」
吉澤は再び石川のソコに顔を埋めると、またあふれ出している石川の愛液を飲み始めた。
敏感になって熱くなっているソコは、吉澤の舌にまたすぐ反応してしまう。
「はぁん、ダメだよぉ。恥ずかしいよ…」
吉澤はそんな石川の言葉には耳も貸さないで、更に攻め続けながら舐めていた。


石川のソコは泉のように溢れかえって止まる事を知らなかった。
「もぅ梨華ちゃんのえっち。いくら飲み放題でもお腹いっぱいだよ。
 でも、勿体ないから飲んじゃうけどね」
吉澤は、そう言いながらも嬉しそうに飲んでいた。
「ヤァだぁ、もぅ…」
石川はそう言いながらも、感じまくっていた。ソコの疼きは収まらない。
「もっと欲しいよ、よっすぃ〜のコト…」
石川は吉澤の顔を上げさせると、口づけをし今度は吉澤を押し倒した。




−10−

重なり合う肌と肌。お互い求め合う気持ちが絡み合って石川と吉澤は何度も求め合った。
二人の愛の嵐が去ったのは、明け方近かった。

―こんなに愛情溢れるえっちをしたのは、いつ以来だろう?―

吉澤は隣りで安心したように眠る石川の寝顔を見て思う。
突然、誘って来た時は吉澤も驚いたが、素直に甘えて来る石川に吉澤は非常に嬉しかったのだ。
付き合い始めた頃の石川に良く似ていた。

―やっぱり、私は梨華ちゃんを愛している…―

後藤とのえっちでは味わえない感情が石川に対してはある。
−それは、安心感、お互いを信頼しあえる気持ち…
そして、愛しいと思う気持ち。守ってあげたい気持ち。
石川といると優しい気持ちになれる自分がいる。


―梨華ちゃんと、また付き合いたい―

そう思った吉澤だったが、後藤の事を考えると、そうもいかなかった。

後藤とのえっちは、刺激的で吉澤を満足させてくれた。
ストレートに感情をぶつけてくる後藤。
石川とは対照的な後藤にも強く惹かれている自分がいる。
―好きだけど、でも・・・愛してはいない…。

(私はどうしたらいい???)
吉澤は思い悩んでいた。


「よっすぃ〜?」
石川も目が覚めたらしい、思い詰めた表情の吉澤に心配そうな顔をして見つめている。
「起こしちゃった?」
吉澤は半身を起こすと、石川を見つめ返した。
石川は自分も身体を起こすと吉澤の肩に身体を預けた。
「私、ずっと、よっすぃ〜の側にいたい…」
「う、うん…」
吉澤は石川の髪を撫でながら、頷いた。

(ごっちんとは別れよう・・・。梨華ちゃんを悲しませたくない)
しかし、そう決意したものの、後藤と別れると言う事は、後藤を傷つけてしまう事になるわけで、
吉澤も、なかなかその話を切り出せそうになかった。
「ねぇ、よっすぃ〜・・・」
「ん?」
「もう一度しない?」
石川は吉澤の胸に顔を埋めながら、吉澤の背中に手を回した…。




−11−

―翌日―

メンバーが楽屋で石川と吉澤を囲んで話をしていた。

「いやぁ〜良かったよねぇ、ホントに…」
「もぅ矢口、言わなかったけどさーハラハラしちゃったよ」
「梨華ちゃん、顔怖かったけど、元に戻ったので良かったのれす」
「よっすぃ〜は、やっぱり梨華ちゃんとお似合いなんやなぁ」
「ま、仲直りしてくれて良かったわよ。石川良かったね」
保田も吉澤を許した訳ではなかったが一安心な顔をしていた。

口々にメンバーが二人に対して話しているのを見て、ただ独り笑っていない人物がいた。
言わずと知れた後藤である。

二人の嬉しそうな顔を見て、後藤は不機嫌極まりない顔をしていた。


(梨華ちゃん、早速挑発に乗ってよっすぃ〜を誘惑したのね)
案の定と言うか、やっぱりと言うか、吉澤は石川と寝たのだ。
石川は後藤と目が合うと、勝ち誇ったような目をして見返していた。

「あ〜、後藤さんキョワイ顔してるぅぅ」
「よっすぃ〜が、また梨華ちゃんの方に行っちゃって寂しいれすか?」
来て欲しくない相手・辻と加護が近づいてくる。

吉澤と後藤が親密になった事はメンバーには保田以外気づかれていない。
元々吉澤と後藤は仲が良かったし、石川と喧嘩した吉澤が後藤と一緒にいるだけだと思われていたからだ。

「うっせぇんだよ!!」
後藤は吐き捨てるように言うと、楽屋から出ていってしまう。

「ちょっと後藤!言葉遣いには気をつけなさいよ!」
飯田がたしなめるように言ったが、その言葉は届いていなかった。


保田も楽屋から出ると後藤を追いかけた。

「後藤待ちなよ!」
保田に呼ばれて後藤は立ち止まった。
「圭ちゃんは、梨華ちゃんの味方だから嬉しいんでしょうね」
「そう言う訳じゃないけどさ…。今の言い方は良くないよ。
 今度から新メンも入るんだし、圭織が言ったように言葉遣いには気をつけな」
「どうだっていいよ、そんなの」
後藤は、けだるそうに言うと俯いた。
「吉澤の事、マジで好きなの?」
「圭ちゃんには関係ないでしょ。一人にしてよ」
そう言って、後藤は階段を下りていった。
「プッチモニやりにくいじゃんよ。勘弁してよ」
保田は独り言を呟いた。




−12−

自販機コーナーの前で抱き合う二人の影。
目を瞑りくちびるを突き出す石川に吉澤は照れたように聞き返す。
「ここで?」
「んー」
吉澤は周囲を見渡すと、石川の手を引いて、隅の見えにくい位置に移動した。
「誰かに見られちゃうよ…」
「見られたって構わないよ?メンバー全員公認の仲なんだから」
(一人を除いてね・・・)
吉澤は、尚も気にしていたが石川を引き寄せると頬にキスをした。
「ほっぺたなの?…」
石川は不満気な声を出す。
「いや、だってさ…」
「私がさっき出したのは、くちびるだよ?」
意地悪そうに言う石川に吉澤も観念した。
肩に手を置くと、顔を近づけくちびるに軽く重ねた・・・。
「これでいい?」
すぐにくちびるを離すと吉澤が囁いた。


「じゃぁ、続きは今夜帰ってからね…」
「え?」
「今日も家に来てくれるでしょ?」
石川は吉澤の腰に手を回すと、甘えるように言う。
「でも、梨華ちゃん、カントリーの取材かなんか入ってなかったっけ?」
「そんなに遅くならないからさ、先に行って待っててよ…」
「いいけど・・・」
「じゃぁ決まりだネ!」
そう言うと石川は吉澤のくちびるにチュッと口づけて先に楽屋に戻っていった。

急に吉澤に甘えるようになった石川に、少し吉澤は戸惑っていたがそれが却って新鮮で吉澤には嬉しかった。
一人になってからも、吉澤の顔は自然にニヤけていた。

―その光景をそっと見ていたメンバーがいた事に二人は気づいていなかった。


「よっすぃ〜!」
急に呼ばれて、吉澤は驚いて振り返った。
「ご、ごっちん……」
バツが悪そうに吉澤は下を向いた。
「今日さ、仕事終わってから会えない?」
「今日は、えっと用事があるから会えないよ…。ゴメン」
後藤は一瞬残念そうな顔をしたが
「そっか。じゃぁいいや。また今度会ってね」
そう言うと後藤は自販機でコーヒーを買って、そのまま楽屋に戻ってしまう。
ヤケにすんなり引き下がった後藤の態度が気になりながらも、吉澤はほっとしていた。


「マネージャー、今日の仕事って何時頃終わりそうですか?」
「んー、後藤のNGが出なければ、すぐにあがれそうだよ」
マネージャーは手帳を見ながら答えた。
「ちなみに、梨華ちゃんは?」
後藤は手帳を覗きながらさりげなく聞いた。
後藤も石川も娘。の仕事が終わるとソロの仕事が残っている。
「石川は、2つ取材入ってるけど、それがなにか?」
「あ、いえ、なんでもありません」
(梨華ちゃんより絶対先に仕事終わらせなきゃ…)


吉澤は石川の家につくとカギを開けて中に入った。
「また戻ってきちゃったなぁ…」
吉澤はカバンを居間に置くと、ベッドに寝転がった。
「梨華ちゃんのにおい・・・」
石川の布団を思い切り吸い込むと、昨夜の事を思い出した。
(梨華ちゃん大胆だったなぁ。嬉しかったけど……)
「梨華ちゃぁぁん」
吉澤は石川の枕を抱きしめると、そのまま眠ってしまった。

そして、何回かインターホンが鳴る音で吉澤は目を覚ました。
「んー?あぁ、寝ちゃったんだ」
時計を見ると、ここへ着いてから3時間あまり過ぎていた。
吉澤は目を擦りながら、石川が帰って来たと思い確かめずにドアを開けた。

「梨華ちゃん、お帰り・・・」
「ただいま、よっすぃ〜…」
そこに立っていたのは石川ではなく、後藤だった。




−13−

「梨華ちゃんじゃなくて残念だったね…」
驚きのあまり声を出せないでいる吉澤の横をスルリと抜けて後藤が勝手に上がり込む。

「な、なんで?」
「やっぱり、よっすぃ〜は私のコトよりも梨華ちゃん優先なんだね」
吉澤は後藤の正面に行くと
「聞いてたの?自販機のとこで・・・」
そうとしか考えられなかった。だから、あっさりと引き下がったのか。
最初から、吉澤がことわる事も石川の家に押し掛ける事も計算の上で。
「キスシーンも甘い会話も、ちゃんと見てたよ…。すっかり元に戻ってんのね」
石川のベッドに腰を降ろすと、立っている吉澤を見上げた。


「ごっちんも仕事だったんじゃ……」
「私は急いで仕事終わらせて、すぐこっちに直行したんだよ。
 まだ梨華ちゃんの仕事が終わってなくて良かったけどね」
「なんで、そんな事・・・」
「なんでって、よっすぃ〜に会いたかったからに決まってんじゃん…」
「・・・」
「私を捨てて梨華ちゃんの元に戻るコトなんて許さないからね?
 私だって、よっすぃ〜のコト大好きなんだよ」
突っ立っている吉澤の腕を引いてベッドに座らせると、後藤は顔を近づけた。
「やめてよ……」
それでもしつこく後藤は顔を近づける。
「やめてったら!」
その言葉をムシして
「本当は好きなクセに。あんなに愛し合ったじゃない。もう忘れたの?」
後藤は強引に吉澤のくちびるを奪うと吉澤を押し倒した。


吉澤の手首を掴み、組み敷くと、後藤は吉澤の首にくちびるを強く押しつけた。
「ダメだって……」
吉澤は後藤の目を見ようとしない。後藤はカッとなる。
「私とえっちしたのは、単に欲求を晴らすだけ?」
「そんなんじゃないよ!あの時は本気だったんだ…」
吉澤は後藤を見つめると真剣に言った。
「ごっちんのコト、好きなのは本当。好きじゃなきゃ抱けないし。でも...」
「もう梨華ちゃんとも、えっちしたし寄り戻せたから私はお払い箱ってわけ?」
「そんな言い方・・・」
「私じゃダメなの?なんで、梨華ちゃんじゃなきゃダメなんだよ!」
後藤は叫ぶと吉澤の上にかぶさってきた。
シャツのボタンに手をかけたところで・・・


「人の部屋で何してるの???」
いつの間にか石川が仕事から帰って来ていた。
「なんで、ごっちんが此処にいるの???」
疑わしい顔で石川は見つめている。
「よっすぃ〜に呼ばれたんだよ。梨華ちゃんが帰って来る間、えっちしようって」
「なっ、そんな訳ないでしょ!!」
吉澤は真っ赤になって身体を起こすと、後藤をにらみ返した。
「あんなに激しく愛し合ったのに、なんでそんなコト言うの?
 この間だって、外でやったよねぇ…」
「そ、外っ…」
石川は真っ赤になる。
「あんなによっすぃ〜乱れてたのに…」
更に後藤は話し続けようとするので、吉澤は慌てて後藤の口を押さえた。
「やめてよ!そんなコト言うの!!」
後藤は手を振りのけると
「事実じゃん。梨華ちゃんも知っておいた方がいいんじゃない?今後の参考として」
石川は急に後藤の腕を掴むと
「帰ってよ!ごっちんには関係ないでしょ!!(怒)」
無理矢理立たせようとする石川に後藤は振り払った。
そして、石川に向けて手をあげた。


バシッ☆と言う響いた音が石川の部屋で鳴り響く。
「梨華ちゃんに手を出さないで!!」
「・・・どうして・・・」
後藤が振り上げた手は、咄嗟にかばった吉澤の頬に命中した。
吉澤は一瞬星が出る程の衝撃を受けたが、石川をかばう事で精一杯だった。
「梨華ちゃんは悪くないんだから、叩くなら私にしてよ…」
石川を守る形で吉澤は後藤に言い放った。
「…ふん」
後藤は、手を下ろすと無言で石川の部屋から出ていった。
「ごっちん……」

「梨華ちゃん大丈夫?」
「よっすぃ〜こそ・・・」
「うん。ちょっと待ってて…」
外へ出て行こうとする吉澤を見て、石川は呼び止める。
「ごっちん追うの?」
「うん」
「なんでよ、私のそばにいてよ」
「ごっちんの事も放っておけない。すぐ戻るから…」
そう言って、吉澤は石川の言葉を無視して、慌てて飛び出して行った。
「なんで追いかけるのよ。よっすぃ〜のバカ…」
一人残された石川の目からは涙が伝っていた。




−14−

「ごっちーん!!」
階段を駆け下りると、吉澤は大声で後藤の名を叫んだ。
「ごっちーん!!待ってよ、ごっちん!」

後藤は振り返ると
「そんなに何回も人の名前呼ばないでよっ!恥ずかしい」
早足で歩く後藤に、吉澤は腕を掴んだ。
「待てってば」

「なんで、追いかけてくるのよ…。梨華ちゃんと仲良くやればいいでしょ」
「放っておけないもん。ごっちんのコト」
「梨華ちゃんと、寄り戻したくせに…」
そう言いながら、後藤は吉澤に抱き付いた。
(よっすぃ〜の腕ってあったかい…)
「あ、あの……」
吉澤は、なんとか別れの言葉を切り出したいのだが、なかなか言えずにいた。
後藤を抱きしめると決心が揺らいでしまう。


後藤は吉澤の頬に手を添えると
「ごめんね。痛くなかった?」
優しい眼差しで見つめた。
「星が出るくらい、痛かったよ」
「まぁね。後藤スペシャルだったからね…」
今頃になって、じんじんしてきた。
「違うスペシャルだったら嬉しかったのになぁ」
(って、なんだよソレ・・・。でも、元は梨華ちゃんが受けるハズだったんだ)
「よっすぃ〜のえっち……」
「ち、違うってば。なんで、そっちの想像するかなぁ」
(っつうか、なんで、甘い雰囲気になってんだ?さっきの険悪ムードは……)


「あ、あのさ。。。」
吉澤は、わざと話を変えた。
空気を察したのか、後藤は途端に顔を曇らせた。
「喋っちゃヤダ・・」
「ごっちん……」
「なんで優しくするんだよ」
後藤は吉澤の胸に顔を埋めた。
「優しくされたら、余計ツラいよ...」
「ゴメン...」
「でも、追いかけて来てくれて、凄く嬉しかった」
後藤はそう言うと、吉澤の頬にキスをした。
「じゃぁね!」
後藤は無理に笑うと走って帰っていった。
「優しいのかな…」
後藤の姿が見えなくなるまで、その場に立っていた吉澤は呟いた。

単に優柔不断なだけなんだと思う。
後藤を失いたくない気持ち。
でも、それは後藤を却って傷つけてしまう。
やはり早く言わなくては・・・。でも・・・。




−15−

吉澤は玄関の前に立つと深呼吸して、ドアを開けた。
「ただいま…」
「・・・」
返事はない。
「梨華ちゃん?」
「戻って来ないかと思ったよ」
石川はベッドにもたれていた。
「梨華ちゃん...」
「どうして、ごっちん来たの?」
「私達の会話聞いてたみたいで…」
「そっか・・・」
「・・・」
気まずい空気が流れる。


「…今日は帰るね」
吉澤は重苦しい空気に耐えられず、そう言うとカバンを取った。
「ごっちんと会うの?」
石川の疑わしい目。
「まさか…。何言ってんの?梨華ちゃん。そんな訳ないじゃん」
「どうだか」
「信じられないの?」
「よっすぃ〜分かんないよ。私のコトかばったかと思えば、
 ごっちんのコト追いかけて行くし。どっちが大事なの?」
「いや、それは…」
「即答出来ないってコトは、どういうコトよ?」
石川に詰め寄られ、吉澤は言葉に詰まる。
「ごっちんも好きってズルイよ。よっすぃ〜。
 そんなにごっちんの、えっちっていいの?」
「はぁ?」
「だって、外でやったとか……」
石川は口ごもる。
「だから、それは・・・」
(どうして話がそっちになるんだよ・・・)


「本当にしたの?」
「・・・した…」
吉澤は一瞬迷ったが、認めた。
途端に石川は顔を真っ赤にして怒る。
「なんでそんなコト言うのよ!ウソでも、してないって言ってよ!バカ!」
「してないって言っても、どうせバレるし…」
「バカぁ〜!」
そう言いながら、石川は吉澤に抱き付く。
「それでも、好きなんだよ、よっすぃ〜が。離れたくない…。
 なんで、こんなバカよっすぃ〜が好きなんだろ・・・」


(バカバカって・・・)
吉澤も石川を抱きしめ返す。
「ムカつく・・・」
石川が付け足した。
「えぇ?」
吉澤は石川を見つめ返す。
「ねぇ、どうしたら、私だけ見てくれるの?」
(そんな答えにくい質問を・・・)
「それは…」
「私もごっちんみたく、えっちがうまくなればいい?」
「だから、そういうんじゃなくてさ・・・」
「私がよっすぃ〜満足させてあげられなかったから?」
石川は涙目になっている。
(うわっ。違うのに、なんで泣くんだよぉ〜!梨華ちゃぁん!)


後藤のテクで吉澤は後藤の事が好きだと思いこんでいるらしい石川はそっちの事で頭がいっぱいだった。
「私が、よっすぃ〜にえっちさせてあげなかったから、ごっちんの方が良くなっちゃったの?」
「そんなんじゃないって!落ち着いてよ、梨華ちゃん!」
「だったら、毎日よっすぃ〜としてもいいよ、私」
(そんな事したら、私の身体もたないよ・・・嬉しいけど)
「梨華ちゃん!」
吉澤は大声で言うと、石川のくちびるに強く自分のくちびるを押し当てた。
(今日はキスで落ち着かないかな・・・って昨日は逆効果だったか)
「梨華ちゃんとは、えっちしなくても繋がってると思ってるよ。
 だから、余計な心配しないで」
「余計心配するよ・・・」
「へ?」
「昼間言った約束覚えてる?・・・続きしようって…」
ひとみは目を見開いた。
(こんな状況でも、しようって言う気???)
ひとみは梨華が分からなくなる。何故?何故??

(心が私にあっても、身体はごっちんなんてイヤだよ…)
梨華はひとみの胸に飛びこんだ。




−16−

吉澤は石川を抱こうかどうか珍しく?悩んでいた。
今まで、石川が拒む事はあっても、吉澤が拒否する事は一度もなかった。
それを知ってて石川は、敢えて吉澤と寝ようとしているのか?

「あのね、梨華ちゃん…」
吉澤は言いにくそうに言う。
「こんな気持ちで抱くコト出来ないよ……」
いくら、えっちが好きな吉澤でも、石川の気持ちを考えると抱くことは出来なかった。
石川は顔を上げると
「それでも抱いて欲しいって言ったら??」
石川の哀しく見つめる瞳に、吉澤の心は切なくなる。
「私に恥をかかせないで…」
「ぃぃの?」
らしくない吉澤の言葉に石川は笑う。
「よっすぃ〜から断るなんてコト、今までなかったクセに…」
そう言って、石川は自ら服を脱ぎ始めた・・・。


「ダメだよ…」
吉澤は優しく石川の手を止めると
「私の役目を取っちゃダメ」
吉澤は、石川を抱き寄せると優しくキスしながら、服を脱がせ始めた。

ブラのホックを取ると、石川のカタチの良い胸が現れる。
優しく指で円を描くように、撫で回しながら、吉澤は、もう片方の手で器用に、ブラウスを脱がせた。
そして、脱がせたところで、吉澤は石川の胸に顔をうずめ、キスをしながら胸のピンクの突起に移動する。
吉澤は、その突起を舌で転がすように舐めると、石川の口から甘い吐息が漏れた。
「はぁん…」
吉澤は石川を愛撫しながら、それでも、まだ迷っていた。
このまま、続けていいのか?それとも・・・。
ここまで来て、今さら止める事が出来ないのは、吉澤自身一番良く分かっていたが吉澤は迷いを吹っ切って、石川を抱く決心をした。


吉澤は荒々しくスカートとパンストを脱がすと、ショーツの上から、なぞり始めた。
「…んっ」
ビクンと石川は動くと、吉澤に抱き付く。
吉澤は石川の腰に手を回して、自分の膝に、石川を横たわらせる。
そして、一気にショーツを下ろすと、うっすらとした繁みに指を這わせた。
少しだけ上下に動かすと、すぐに石川のソコからは甘い蜜があふれ出す。
石川の喘ぐ声を口で塞ぎながら、吉澤は石川に気持ちよくなってもらう事だけを考えていた。
膝からベッドに石川を下ろすと、吉澤は石川の繁みに顔をうずめそして、蜜を吸い始めた。
「っやっ」
石川が拒否を示し、吉澤の髪を掴む。
「どうして?」
吉澤は一旦、M字に開脚した石川の股間の間から顔を上げた。なんとも、猥褻な画である。
「汚いから・・・」
「汚くないよ、梨華ちゃんのココは・・・」
「そんなこと…」
石川は真っ赤になり、足をすぼめてしまう。
「梨華ちゃん力抜いて。気持ち良くなりたいなら…。いい子だから、ね?梨華ちゃん」
吉澤は、石川の髪を優しく撫でて、額にキスをした。
「私は子どもじゃないもん…」
「梨華ちゃん…」
吉澤は再び石川の蜜を吸い始める。石川も気持ちよさに、ふっと力を緩めた。


石川は抱かれながら、吉澤が遠慮してる感が否めなかった。
(……もぅ、前みたく戻れないんだね、私たち・・・)
悔しくて哀しくて涙が出るが、心とは裏腹に身体はちゃんと反応していて・・・
それが、余計石川を哀しくさせた・・・
そして、吉澤のえっちの仕方が微妙に変わった事も石川は気づいていた…。




−17−

― 翌日 ―

後藤が時間になっても仕事場に現れず、大騒ぎになっていた。
家にも携帯にも連絡が取れず、本番まで数分に迫っても後藤は来る気配がなかった。

「一体、後藤は何、考えてんだか」
後藤が遅刻ギリギリで来る事があっても、仕事を無断ですっぽかす事は今までなかった。
「吉澤、あんた知らないの?」
保田に問いつめられ、吉澤は首を振った。

「仕方ないですね。後藤さん抜きで収録しましょうか」
スタッフの声に、他のメンバーは立ち上がると、楽屋を出て行く。

「よっすぃ〜、もう行こうよ。待ってたって仕方ないよ」
石川に促され、吉澤も立ち上がったが・・・

「ゴメン。私、探してくる」
吉澤は、石川に言うと財布と携帯を掴んだ。
「待ってよ!よっすぃ〜!!」
石川の止める声に耳を貸さず、吉澤は飛び出していった。
「なんで、追いかけるのよ、よっすぃ〜...」
石川は、その場に立ち尽くしていた。


飛び出したものの、後藤が居そうな場所の見当なんかつくハズがなかった。
無駄だと知りつつ、後藤の携帯に電話をする。当然留守番センターに繋がる。
吉澤は留守電に入れると、メールも打った。
電源を切ってるのだろうから、メールを打ってもすぐに見る確率は少なさそうだが。
<<どこにいるの?ごっちん。教えて!! 吉澤>>

「何やってんだろう。私・・・」
吉澤は、思い立ったらすぐに後先考えずに行動に出るクセがある。
今回も、後藤の事を考えたら、行動が先に出ていた。
「ごっちんの行きそうな場所って・・・?」

ほどなくして、吉澤の携帯にメールが入る。
<<日本。 後藤>>

日本・・・またかよ。ん?
こんなやりとりを以前した事がある。
吉澤はダメもとで、良く後藤と話をした公園へと向かった。ダメでも、この場所にいるよりはマシだ。


公園につくと、吉澤は周りを見渡した。
朝の10時頃、まだ人影もまばらだが、そこそこ人はいる。
暇そうなサラリーマン、子ども連れの母親。
こんな時間から、なんでサラリーマンがいるのか、酷く場違いな気がしたが自分も、他人から見れば、場違いなのだろう。
いつも座るベンチへと視線を移す。座っているのは、くたびれたサラリーマン風の人。

― やっぱりダメか・・・
吉澤は、がっくり肩を落とすと、もう1つのベンチへと目をやった。
帽子を深々と被り、サングラスをかけ、大きい荷物を持っている若い女性が目に入る。
一見して、あやしい人物なのだが、それが後藤だと確信するのに時間はかからなかった。


吉澤は後藤に気づかれないように、背後から回り込み、肩を叩いた。
一瞬後藤は驚いたようなリアクションを取り、振り返った。
「どうして仕事に来ないの?」
後藤を叱るでもなく、吉澤は普通に尋ねる。
「…これから行くつもりだったんだよ。寝坊しちゃってさ…」
悪びれた様子もなく後藤は答える。
吉澤は後藤の隣りに座った。
「心配したんだから...」
吉澤は後藤を見つめた。
「良くここが分かったね…」
そう言いながらも、後藤は嬉しそうだ。
「ごっちんも実は私と同じで単純なのかも」
「単純って…。よっすぃ〜と一緒にしないでよね」
「それより・・・早く戻らなきゃ」


肝心の事を忘れていた。自分も仕事をすっぽかしてしまったのだ。
吉澤は急に不安になり立ち上がった。
「今から行っても同じだよ。なんかご飯食べてから行かない?」
のんびりと後藤は言う。
「なに、呑気なコト言ってんだよぉ!」
「急に怖じ気づいちゃって、よっすぃ〜って案外小心者なのね」
「そんなコトないけどっ」
無理に吉澤は言うと、またベンチに腰掛けた。

「どうせ怒られるのは一緒なんだから、腹ごしらえしてからにしよっ。
 私、まだ何も食べてないんだ」
後藤は吉澤の腕を取ると立ち上がった。

どうして後藤は呑気に構えていられるのか吉澤は不思議だった。




−18−

結局二人が戻ったのは昼を過ぎていて、当然二人は厳重に叱られたのだった。

飯田と保田に呼ばれ、二人は謹慎処分を言われた。
吉澤は3日。後藤は1週間の自宅謹慎。
「吉澤は、ちゃんと学校に行くように」と付け加えさせられて。
(ちゃんとって普通は行かせてくれるもんでしょうに…)
吉澤は不満だったが、後藤は至って呑気に、ゆっくり出来るなどと喜んでいた。

後藤の事で頭がいっぱいで、石川の事を考えていなかった吉澤だが、
これでは、ますます、また石川との距離が出来てしまい・・・
吉澤も、また何も言い訳出来ない状態になっていた。
(私、もうダメだ。やっぱり梨華ちゃんとは付き合えない・・・)
石川の事を大切に思っているのに、後藤を追いかけるような事ばかりしてしまう。
これで、もう不信感は募り、石川も呆れているだろう。
吉澤は自分から石川に声をかける事が出来ず、その日は逃げるようにして帰ってしまった。


翌日から、吉澤は真面目?に学校に登校していたが、久しぶりに行く学校は当然面白い訳でもなく、退屈極まりなかった。
授業は進んでいて全く分からないし、友達がいる訳でもない。
(はぁ〜つまんない。早退したいなぁ〜。でも早く帰ったらお母さん怒るだろうし)
かと言って、昼間のこの時間遊んでくれるような人もいない。
吉澤は授業を全く聞いていなかった。
メールでもしようかと考えていると後藤からメールが入った。

<<学校終わったら家に来ない?ヒマで退屈してるんだ。後藤>>
後藤が真面目に家に、こもっているのかと思うと吉澤は笑ってしまう。
吉澤はすぐに返事を打った。
<<オッケー。私も超退屈してる〜。吉澤>>


つまらない学校が終わって一目散に後藤の家に向かう吉澤。
忙しい毎日を送っている吉澤にとって、退屈なのは耐え難かった。
(3日も耐えられないよっ)
後藤の家につくと、インターホンを押す。
「適当に入ってぇ〜。カギ開いてるから」
後藤のけだるそうな声が聞こえてくる。

吉澤はドアを開けると、勝手に上がり込んだ。
「おかえり〜、よっすぃ〜…」
リビングのソファに後藤は寝そべっていた。
「今日は誰もいないの?家の人…」
吉澤はカバンを置くと、後藤の隣りに腰掛ける。
「うん、居ない〜。退屈しちゃって大変だったよ」
見ると、雑誌やお菓子が散乱していた。
「よっすぃ〜は、まだ学校あるし3日だからいいけどさ〜。
 私なんか1週間だよ〜・・・」
手持ち無沙汰で、後藤は自分の髪の毛を指に巻いてくるくるしている。
「自業自得じゃん」
後藤は起きあがると、吉澤の制服姿を見て目を細めた。


「そう言えば、よっすぃ〜の制服姿見るのって初めてかも」
「そうだっけ?」
「いや〜レアだねぇ…」
「何、感心してんの?」
吉澤は急に恥ずかしくなり、後藤から目を逸らした。
「私なんか、ごっちんの制服姿見た事ないよ」
「あ〜、私の方がレアだよね。すぐ辞めちゃったし」
そう言って、アハハと笑う。
「行ってもつまんないけど学校…」
これだけ仕事が忙しくて、殆ど学校に行けてない状態では、
本当に、行っても行かなくても同じなような気がする。

「でも似合ってるよ、よっすぃ〜の制服姿」
後藤は顔を近づけて言った。
「そ、そうかな?」
吉澤は一瞬ドキっとした。
(キスされるのかと思った…。まさかね…)
一瞬期待した自分に恥ずかしくなる。
「よっすぃ〜,今、何考えてた?」
急に話を振られ、何も言えない吉澤に後藤はこう言った。
「私もよっすぃ〜と同じコト考えてたよ…」
後藤は吉澤に再び顔を近づけると、吉澤の顎を軽く指で上に押しやり軽くくちづけをした。




−19−

「よっすぃ〜何固まってんの?」
後藤はくちびるを離すと、茶化すように笑った。
「べ、別に・・・」
自分の心を見透かされてるのか、吉澤は動揺した。
「ごっちんこそ、勝手にキスしたりして……」
吉澤は後ろを向いた。
(なに、動揺してんだよ私・・・。バカみたい...)

「あ、もしかして考えてるコト違ってたかな?…
 だって、よっすぃ〜さっき顔近づけた時、一瞬目ぇ閉じたからさ、したいのかと思った・・・」
そう言いながら、後藤は後ろから抱きしめて来た。

吉澤はいつも思う。どうして後藤は、こういう雰囲気の持って行き方がうまいのだろう?
そして、そんな後藤を待っている自分に気づいてしまう。
気づくと後藤を求めている自分がいる・・・。


「違うってば…」
「本当にそう?…」
そう言われてる時には、既に後藤の手は制服を脱がしにかかっていて…
気づいた時には、ブラも外されていて、後藤の手が吉澤の胸を弄んでいるのだ。
「こんなに立っているのに?」
吉澤の胸の突起は、すでに固くなっていて思わず吉澤は後藤の手を掴んだ。
「ダメだってば・・・」
「そっか…」
後藤はあっさりと手を引っ込めると、また寝ころんで雑誌をペラペラと捲り始めた。
「なっ……」
何も言えないでいる吉澤に後藤は知らん顔。

― この小悪魔から私は逃げられないのか・・・

吉澤はたまりかねて、後藤の身体に抱き付いた。
吉澤を抱きとめると、後藤は嬉しそうに言った。
「待ってたよ。よっすぃ〜…」




−20−

後藤はズルイ。自分から誘うような事をしておいて、結局吉澤から誘わせるようにし向けるのだ。

「よっすぃ〜、昨日来てくれて嬉しかったヨ…」
後藤は吉澤の首筋にキスしながら、半分はだけた制服やブラを脱がしていた。
「妙に乱れた方が、えっちな感じするけど、制服を汚したらいけないもんね」
後藤は制服を全部脱がせると、吉澤にまたがり胸を舐め始めた。
吉澤の胸の突起は、既に立ちまくっていた。

「よっすぃ〜と、えっちするのって久しぶりだよね…」
後藤の髪が、吉澤の身体を撫でて、くすぐったい。
「もぅ、よっすぃ〜とは、えっち出来ないと思ってた...」
今日の後藤は良く喋る・・・。それより、家の人は帰って来ないのだろうか?
リビングでいきなり、えっちしてるなんて…。
「ごっちん、家の人帰って来ないの?」
「心配?平気だよ。こんな時間には、まだ帰って来ないよ」
そんな保障はどこにあるのか?言い切れないと思うが、また帰って来るかも知れないと言うスリル感が、余計吉澤を燃えさせるのだった。


後藤は吉澤のショーツの上から撫で始めると、ニヤっと笑った。
「今日も、よっすぃ〜のココは、いっぱいだね・・・」
ショーツの上からでも分かるくらい濡れている。恥ずかしいけど、
吉澤は、早く直接触れて欲しくて、腰を動かした。
「焦らさないで、ごっちん……」
そう言って欲しがる吉澤の目を見て、後藤は安心する。

まだまだ、石川には勝てる望みはあるんだと・・・。
今は身体だけの関係でも、後から心も石川から奪ってみせる自信が後藤にはあった。
試している訳ではないが、ここ数日の吉澤の行動を見て、確実に心も自分の方に向きかけている事を確信する。


後藤は頷くと、吉澤のショーツを下ろし、秘部を触った。
「こんなに溢れてちゃ、ソファが汚れちゃうよ。今、私が舐めてあげる」
そう言うやいなや、後藤の口は既に吉澤の秘部に移動していて、ピチャピチャといやらしい音をさせて舐め始めていた。
後藤の舌がいやらしく動き、吉澤の蕾を刺激する。
「あぁんっ」
あまりの気持ちよさに、吉澤は声をあげてしまう。
「カワイイよ、よっすぃ〜。大好き。絶対離さないから…」
後藤は夢中で、吉澤の蜜を舐め続けた・・・。
「そんなにされたら、イっちゃうよぅ……」
吉澤は、気持ち良さから、腰を自ら動かしていた。
「えっちぃよっすぃ〜大好き」
後藤は吉澤のくちびるを、強引に奪うと、指を更に奥まで入れて抜き差しを激しく繰り返した。
「はぁあぁあんっ」
そんなに激しくされたら、本当にすぐイってしまう。
すぐに後藤にはイかされてしまうので、今日ぐらいは、我慢してイかないようにするのだが、
後藤のテクニックには敵わず、快楽には勝つ事は出来ずに今日も、吉澤は、すぐにイかされてしまった。




−21−

吉澤は帰りの電車に揺られながら、また自己嫌悪に陥る。
(なにやってんだろ、わたしは・・・)
後藤に誘われると、断るどころか自ら身体を委ねてしまう自分に苛立ちを覚えた。そして、した後に残る罪悪感。
後悔するなら、しなければいい。
分かっているのに一度覚えた味は、なかなか忘れられなくて。
肌の温もりを感じたくて、吉澤は身体を重ねてしまう。
石川を抱く時は、ためらうくせに、後藤には抱かれてしまう。
(私は、ごっちんに何を求めているのだろう?ただの快楽?やすらぎ?)

―私は梨華ちゃんから逃げてるだけだ…。
 本当に大切な物を自らの手で手放してしまった・・・。


吉澤は家に帰ると「ただいま」と言って入っていった。
まだ時刻は夜の7時。こんな時間に家に帰るなんて、1年に数回あるかないかだ。
靴を脱いでいると、母が出てきた。
「ひとみ、石川さんから電話があったわよ」
「梨華ちゃんから?」
ひとみは怪訝そうな顔をする。
「携帯にかけても繋がらないからって。どうしても話したい事があるから夜遅くなるけど家にお邪魔しますって言ってたわよ」
それだけ言うと、母は台所に戻ってしまった。

携帯を確認するが、石川から電話もメールも入っていなかった。
電源は切っていないから、最初から家にかけたのだ。
(ついに私も梨華ちゃんに捨てられる日が来たか・・)
「自業自得だよ」
吉澤は呟くと自嘲気味に笑った。

父を除いて珍しく、母と弟2人と4人で夕食を食べた。
しかし、吉澤は、石川の事ばかり考えて殆ど味など覚えていなかった。


石川梨華…最初会った時から、お互い惹かれあって特にどちらかが告白するでもなく、
気づいたら付き合っていた。そして、すぐに2人は結ばれて・・・。
どちらかと言うと吉澤の方が石川にベタ惚れだったので、しょっちゅう求める吉澤に石川の方は少し辟易していたのかも知れない。
そして、口げんかが多くなり、結局今回のような事までに発展してしまった。
それも2人の問題ではなく、後藤も巻き込んで。

<<今、着きました。遅くなってごめんなさい。 石川>>
石川からのメールで、吉澤はハっとした。
時間は既に0時を回っていた。

吉澤は、そ〜っと部屋を抜け出すと、玄関を静かに開けて外で待っていた。
エレベーターが開く音がして、石川がこちらに歩いて来る。
一体、どんな顔をして、石川を迎えればいいのだろう?

「お仕事お疲れさま」
吉澤は微妙に笑みを浮かべた。
「遅くなってゴメンね。今日に限って仕事が押しちゃって…」
吉澤はドアを開けると、石川を中に入れた。
「なんか飲む?」
「…平気。気を遣わないで」
「…うん」
自分の部屋に石川を入れると、吉澤はベッドに座った。


「…今日もごっちんと逢ってたでしょ」
まさか最初から、そんな事を言われるとは思わなかった吉澤は思わず石川を見つめた。
「何となく分かるヨ。だてに1年以上も付き合ってないもの。
 それに、よっすぃ〜が、ごっちんに心も身体も惹かれてるコト…」
石川は寂しそうに言った。
「よっすぃ〜は、同時に2人を愛せる程、器用じゃないってコトも」
「……」
吉澤は何も言えなかった。
「よっすぃ〜のコト信じようと思ったけど、もう信じられなくなっちゃった。
 私の事は放っておくクセに、ごっちんばっかり追いかけて。
 ごっちんが家に押し掛けて来た時、
 よっすぃ〜が私の事かばってくれたのは凄く嬉しかったけど、
 その後もごっちんのコト追いかけていったよね。
 よっすぃ〜は矛盾してるよ。…私、もう疲れた」
「梨華ちゃん」
吉澤は、言う言葉が見つからず、ただただ俯いて今にも泣き出しそうな石川を見つめているだけだった。

・・・・・・・長い沈黙が続く。
吉澤は石川の言葉を待っていた。

「・・・別れよう…」
石川は落ち着いた声で言う。

しかし、その後に続いた言葉は…吉澤の予想外のものだった。




−22−

「…って言いに来たと思った?」
石川の顔は憎しみに満ちあふれていた。
「私と別れてごっちんと、くっつこうったってそうは行かないんだから」
「ごっちんとも別れるつもりだよ、私」
「そんな言葉、私が信じると思ってるの?」
石川は吉澤に詰め寄る。
散々、石川を裏切ったのだから、信じろと言う方が無理な話だろう。
「まぁいいよ。勝手にして。どうだっていいから。
 よっすぃ〜と別れるか別れないかは、私が決めるコトだよ。
 その答えは……まだ、出さない。よっすぃ〜は、これからも今まで通りに接してくれればいいよ」
そう言って、石川は微笑んだ。


「今まで通りって…」
「仲良い素振りを見せてくれればいいヨ。他のメンバーにバレないようにね」
「そんなコトして何になるの?」
「よっすぃ〜は、私の言う通りにすればいいの。分かった?」
「う、うん」
吉澤は、すっかり圧倒されて、ただ頷くしかなかった。
吉澤は、思い出したように、机の引き出しからカギを出すと、石川に返そうとした。
「梨華ちゃんちのカギ、返しておくよ」
「それは、まだ持ってて。必要だから」
石川は冷めた目で言う。
(梨華ちゃん、一体何を考えているの?)
吉澤は、石川が急に怖くなった。
(これだったら、まだ刺された方がいいかも…)
「言いたいコトは、それだけ。じゃぁ帰るから」
「帰るって、もう終電ないよ?」
「タクシー拾って帰る。よっすぃ〜と一緒にいたくないから。
 じゃぁね。送らなくていいからね。おやすみ、よっすぃ〜」
冷めた口調で言うと、石川は部屋から出ていった。
「明々後日から、楽しみだね…」
と言い残して・・・。




−23−

石川は行き先を告げると、タクシーのシートにもたれた。
吉澤に、あんな事を言ってしまったが、具体的には石川自身もあまり考えていなかった。
ただ、許せなかった。吉澤が・・・。
それでも、まだ吉澤を好きな自分にも腹が立つ。

(このままじゃ、絶対許さないんだから、よっすぃーもごっちんも)

吉澤が後藤と別れると言ったのは本当だと思う。
でも、きっと後藤がそれをすんなり受け入れるハズがない。
うまく丸め込まれてしまうだろう。
そして、吉澤は結局、後藤と別れられないのだ。

自分から吉澤を奪った後藤。
元はと言えば、後藤が出てこなければ私達は・・・。

(標的は、ごっちんだね・・・)

今、吉澤に味方なのは、後藤真希。
彼女をなんとか、陥れなくては・・・。

その前に、保田を味方にしなくては。
(もう保田さんは、私の味方か)
石川は思いついたように、運転手に行き先の変更を告げた。


石川は保田のマンションの前に立っていた。
思いついたものの、深夜2時近くに行くなんて、どうかしてると自分でも思った。
でも、こんな時間に来るからこそ、ただごとではないと保田も思ってくれるだろう。
石川はためらわずに、インターホンを押した。

『・・・・』

やっぱり寝てるんだろう。携帯で起こすしかないか・・・と思っていたところへドアが開いた。

にゅぅ〜〜っと保田の顔が石川の目の前に近づいて、石川は思わず大声をあげそうになった。そして、石川は顔をしかめた。
(お酒飲んでるの?保田さん・・・)
「石川ぁ???」
へへへーっと笑うと、保田は石川にもたれかかった。
保田の部屋に入ると、空になった缶ビールが何本も転がっていた。

「一体、幾つ飲んでるのよ!保田さん・・・」
なんか悩み事でもあるのだろうか?
新メンバーも入ってきて、サブリーダーとしても色々考える事もあるのだろう。
自分が原因だとは知らずに、石川は勝手に納得した。


なんとか保田をベッドに寝かせると、保田は、一言呟いた。
「石川・・・好き……」


「へ?」
石川は一瞬耳を疑った。
しかし、保田はそのまま眠ってしまった。

―好きって、どういう意味??そういう意味???
寝ぼけてる割に、ハッキリと好きと言われた。

今は保田の事を考える程、石川には余力がなかった。
でも、保田を味方につけるには、絶好ではないか?
弱味を握れば、保田は石川の言いなりになる。
石川は微笑むと、服を脱いで、保田のベッドに潜り込んだ。




−24−

翌朝、保田は目が覚めて、ギョッとした。
石川が下着姿で自分の隣りに眠っていたのだ。

「うわぁ〜〜〜!」
その声に驚いて、石川も目を覚ました。
「どうしたんですか?保田さん!」
石川も思わず素で返してしまった。
(いけないっ!素に戻ってどうすんの!保田さんを騙さなくちゃ)

「な、なんで石川がいるの???」
保田は驚異の目で見つめていた。
(こ、怖いです。保田さん・・・)
しかし、保田はすぐに頭を押さえた。二日酔いと言うヤツだろうか。

「お、覚えてないんですか?保田さん……」
急に石川は寂しそうに言うと視線を落とした。


「私、石川に何かした・・のかな・・・」
保田は真っ赤になりながら聞いてきた。

この調子なら、昨夜の事は覚えてないらしい。

保田は必死に昨夜の事を思い出そうとしていた。
石川の事で、考えて酒を飲んでいたのは覚えているが、その後の記憶がない。
大体、いつ石川が来たのかも、全く覚えてないのだ。

「保田さん、いきなり私を押し倒して・・・」
「なっ……」
保田は絶句した。
(私が、石川にそんな事を・・・!その前に、私は石川に何か言ったのかしら?)
「でも、いいんです。私は忘れますから…。その変わり、私のお願い聞いてくれますか?」
そう言って、石川は保田を見つめた。

(いいって、私は全然良くないって!)
それにしても、石川が平然としているのが気になった。
石川を押し倒して、犯ってしまったのだろうか?
その事ばかりが保田の頭の中を巡った。
その辺の話を詳しく聞きたいのだが、その話は石川にとって、どうでもいいように取れ、保田は少々ショックだった。


石川を好きな気持ち。それには恋愛感情はないハズだった。
それなのに、日増しに石川を想う気持ちが強くなって・・・。
でも、石川には吉澤がいる。しかし、その吉澤と最近うまくいってないらしい。
保田が悩んだところで、なんの解決にもならないが、石川を見ていると自分までもツラくなるのだった。
最近酒の量が増えたのもそのせいだった。
それなのに、泥酔して、訪ねて来た石川を襲ってしまうなんて?

「保田さんは、私の味方ですよね?」
石川はにっこり微笑んだ。
(石川、あんた一体何考えてんの?)
保田は石川の顔をまじまじと見てしまうのだった。


先に仕事に出かけた石川を見送って、保田は溜息をついた。
「保田さん、ごっちんが出て来た日、よっすぃーを誘って時間潰してもらえません?」
保田にはすぐに予想がついた。後藤を誘って何をするつもりなのだろう?
しかし、保田は断れなかった。
(本当に、私は石川を抱いたのかしら?)
まだ引っかかっている保田だったが石川がウソをつくハズがないと考え納得した。
「また、何かあったら協力してくださいね、保田さん!」
そう言って、石川は保田の頬にキスをしたのだった。
あのキスには、どんな意味が込められているのか保田には分からなかった。




−25−

謹慎処分2日目。
吉澤は、憂鬱な気分で学校に行った。さぼろうかとも思ったが、
ここでまた問題を起こす訳には、いかないし、授業を受けていれば多少は気が紛れるかと思い、登校した。

今日も、後藤から連絡があるかも知れないと思った吉澤は敢えて、携帯の電源を切っておいた。

そして、何事もなく帰宅する。

「あら、今日は早いのね」
ひとみの母が驚いたように言う。
「うん。真っ直ぐ帰って来た…」
それだけ言うと、吉澤は自分の部屋に入る。


そして携帯の電源を入れ、チェックすると案の定後藤からメールが入っていた。
<<今日は真面目に授業受けてるんだね〜。感心感心。 後藤>>
<<よっすぃ〜は明日で謹慎終わりだね。羨ましい〜! 後藤>>
どうでもいいメールなのに、吉澤は思わず微笑んだ。
しかし、笑ってもいられない。後藤にも別れを言わなければいけない…。
それを考えると、また吉澤は憂鬱になる。
吉澤は後藤にはメールを返信しないで、また電源を切った。


謹慎処分3日目。

今日で学校行くのも終わり。謹慎で学校に真面目に?登校するのもおかしな話だが、
さすがに3日連続で登校した事に、クラスメートも驚いているようだった。
どうでもいいけど。もう・・・。
今の吉澤には、学校なんか、どうでもよかった。
午前の授業が終わりそうな頃、窓際の吉澤は退屈そうに校庭を眺めていた。
校庭のところに、誰かが立っている・・・。
何気なく見ていた吉澤だったが・・・。
(まさか、あれごっちんじゃないだろうなぁ。まさかね。だって場所知らないハズだし…)
しかし、何となく気になって、その人物を見ていた。
吉澤は携帯を出すと、こっそり電源を入れる。
タイミング良くメールが入った。

<<よっすぃ〜、校門見てる?今、いるんだけどさ〜。 後藤>>
(なっなんで・・・)
吉澤は授業中なのを忘れて、思わず声をあげそうになった。
どうして、こう後藤は行動的なのだろう。


吉澤はチャイムが鳴ると同時に、カバンを持って駈けだして行った。

校門の前でもたれて立っている後藤に、吉澤は息を切らしながら声をかけた。
「なっなんで、来たの???」
「なんかよっすぃ〜の様子おかしかったから…」
「べっ別に、そんな事ないよ」
「うっそだぁ。その顔はなんかある顔だよ」
後藤はサングラスを外すと、吉澤の瞳を覗き込んだ。
「なにもないよっ」
慌てて吉澤は目を逸らす。
「良く、ここが分かったね」
吉澤は話題を変える。取りあえず、ここから場所を移動しなければ。
「ご飯食べに行こうよ〜」
後藤は笑うと吉澤の腕を取った。


「ごっちん家抜けて平気なの?」
「大丈夫だって。自宅転送を携帯にしておいたし。電話に出ればOKでしょ?
 今さら言ったってしょうがないじゃん?よっすぃ〜だって午後の授業ぶっちしてきたんでしょ?」
それを言われると吉澤も何も言えない。
「少し時間ずらさない?」
丁度昼時で、どこも店は混んでそうだ。
「人目気にしてるんだ。かわい〜ね。よっすぃ〜」
「だって私、制服だしさぁ…」
「じゃぁ人目のつかないところに行こうか?」
「・・・」
後藤はニヤけると
「今、いかがわしい場所想像したでしょう?」
あははっと後藤は笑う。
「違うってば…」
(どうして、いっつもそっちに話持ってくんだか…)
「天気も良いし、なんか買って公園で食べよ?」
再び、吉澤の腕に絡めると、コンビニへと向かった。




−26−

ご飯を食べ終わったところで、吉澤は、ためらいがちに口を開いた。

「あ、あのさ・・・」
「なに?」
「別れようよ、もう…」
吉澤は後藤を見ないで言った。後藤は、どう反応するのだろう?

しかし、後藤はそれには答えずに
「梨華ちゃんと何かあったんだ」
「何もないよ……」
「じゃぁ何か言われた?」
「梨華ちゃんは関係ない。その前から、別れようと思ってたし」
これは本当だった。
「別れる理由なんて、ないじゃない。どうしてそんな事言うの?」
確かに理由なんてないのかも知れない。
でも、ここで後藤と関係を続けていたら、ますます石川を裏切ってしまう事になる。
「別れようよ・・・」
吉澤は更に繰り返した。
「どうしてよ?納得出来るように説明してよ。一昨日だってあんなに…」
「やめて!ごっちんは私から離れた方がいいよ」
「やっぱり、梨華ちゃんに何か言われたんでしょう。言ってよ!よっすぃ〜!!」
「ごっちんを巻き込みたくないから・・・」
吉澤は声を落とした。
「もう巻き込んでるじゃない。今さら何言ってんの?」


吉澤は諦めて後藤に昨夜あった事を話した。

「梨華ちゃんが何考えてるか分からないけど・・・。私はよっすぃ〜の味方だよ」
「でも、ごっちんの事考えると・・・」
自分だけならいいが、後藤にまで矛先が向いて、後藤に万一の事があったらと思うと、吉澤は気が気でなかった。
「いくら梨華ちゃんでも、殺したりはしないでしょ?」
「前、ごっちん言ったじゃん。梨華ちゃんってストーカーっぽいから気をつけなって」
「私は例え刺されたって構わないよ。それだけよっすぃ〜の事愛してるから…」
後藤は吉澤を真っ直ぐな瞳で見つめる。
「身体を愛すだけじゃなくて、ちゃんと見てるよ私は」
「ごっちん……」
思わず吉澤はウルウル来てしまう。
(そんなにまで、こんな私の事・・・)
「泣かないでよっ。よっすぃ〜には私がついてるんだから」
そう言って、ハンカチを差し出す。
「明日からの事は、また考えようよ…。ね?」
「うん」
吉澤はハンカチで目を押さえながら頷いたのだった。


そして吉澤の自宅謹慎が解けて4日ぶりに仕事に復帰した。

「おはよう!よっすぃー」
嬉しそうに真っ先に石川が吉澤に近づいてきて、腕を絡めて来た。
「お、おはよぅ梨華ちゃん…」
この前の夜の事を思い出して吉澤は身震いをする。
石川は満面の笑みを浮かべて、吉澤の隣りに座った。

後藤は、まだあと4日間来ない。その間に石川との間に何もなければいいのだが。

そして、石川はそっと吉澤に耳打ちをする。
「今日、家に来てね♪」
その一言で、吉澤は今、一瞬期待した事を消されてしまう。
(一体、何を考えているの?梨華ちゃん・・・)

そして不安気に見守る保田の姿もあった。
(石川、どうするつもり?)

怯える目をする吉澤を見て、石川は満足気だった。
(裏切った分だけ、倍にして返してあげるよ、よっすぃ〜…)



Triangle BlueU The END 3部に続く。



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