トライアングル・ブルー


−プロローグ−

梨華ちゃんと付き合い始めて、1年たつ。
告白してきたのは、梨華ちゃんの方なのに、なんだか最近は冷たい。
1年なのに、もう倦怠期?
最近じゃ、迫っていっても、邪険に扱われているような感じがする。
今では、私の方が梨華ちゃんにゾッコンって感じ。つまり立場が逆転している。

−はぁ、なんだかつまんない・・・。

そして、梨華ちゃんと半同棲になってから早半年。
週の半分くらいは、梨華ちゃんちに泊まっているし合い鍵も勿論持っている。
でも、なんか違う。

最初の頃は、「あなたとイチャイチャして過ごす日曜〜♪」
でもなく、しょっちゅうイチャイチャしてたのに。
あの頃は、多少うざく感じたりもしたけど、今となっては懐かしい。

つまり、欲求不満なんだ。


今日も仕事から帰って、梨華ちゃんちでダラダラTVを見ながら寝そべっていた。ごっちんが出ている「マリア」を見ている。

(ごっちん可愛いなー。いつも一緒に仕事してるけど別人みたいだよ。 パジャマ姿かわいいな〜。陽世かわい〜)

「はぁ…」
思わず溜息が出たらしい。

「なに、よっすぃ〜」
横目で見ると、梨華ちゃんが睨んでいる。
私、なんかしたっけ?
私が梨華ちゃんに手を伸ばして触ろうとすると、はねのけられた。

「いたっ☆なにすんだよぉ…」
少々オーバーに言うと、梨華ちゃんは更に睨んだ。

「どうせ、ごっちん可愛い〜とか、思って見てたんでしょ?」

(うわっなんで分かったんだろ?)

「そんなことないよ〜。なに言うんだよ〜」
それでも一応否定をする私。


「よっすぃ〜の目がいやらしかったもん」
「いやらしいって失礼だなー」
しかし、そうは言ったものの内心、ヤバイなと思ってしまったのも事実。

「だって、最近って言うか、ここんとこ全然・・・梨華ちゃんと…」
と言いかけて口ごもる。

「最近、なに?」
「いや・・・」
分かってるクセにわざと言わせようとしてるなんて、意地悪な梨華ちゃん…。
でも、好きなんだよなぁ。怒ってる顔も好きなんだよ。

じっと見てる私を見て、梨華ちゃんは私の手を握って来た。

「え?」
寝そべってる私の顔に自分の顔を近づける。
もう少しでくちびるが触れ合う所まで来たところで、梨華ちゃんは動きを止めた。

「今、キスすると思った?」
「…うん……」
私は正直に答えた。


梨華ちゃんは、また自分の座ってた位置に戻ると
「よっすぃ〜は、いつも、そんなコト考えてるんだね」
そう言って、TVの画面に視線を戻した。

「それっておかしいかな?だって私、梨華ちゃんのコト好きだし。
 キスしたいとか、思うのっておかしい?」
私は反論してしまう。だって、ヘンじゃないよね?付き合ってるんだもん当然の事じゃない?じゃない?

「おかしくないけどさ…」
それだけ言うと、またTVに視線を移した。

私は納得出来なくて、思わず梨華ちゃんの腕を掴んでしまった。

「あんまり冷たくすると浮気しちゃうぞ!」

一瞬梨華ちゃんは、固まった風に見えた。
でも梨華ちゃんもカチンと来たのか、こう言ったんだ。

「…してみれば?」

「あ、そう。じゃぁそうするよ!」

あの時は、冗談で言った言葉だったんだけど、こんな事になってしまうとは。

些細な口げんかから、私と梨華ちゃんの仲は・・・。




−1−

「「おはよ〜ございます」」
二人揃って楽屋入りをすると

「相変わらず仲良いじゃないのよ〜」
保田が、チャチャを入れてきた。

「そう見えますかぁ???」
(全然そうじゃないんですけどっ)

保田に笑顔で答えながら石川は溜息をついた。

メンバー内では既に公認になっている、吉澤と石川の仲。

結局、昨日はアレから一言も口を聞かなかった。

一言謝れば良かったのに、お互い一歩も譲らずに、そのまま朝を迎えてしまった


(あの時、キスをすれば、こんなコトにはならなかったのかな…)
石川は、後藤の隣りに座っている吉澤を見ながら、内心後悔していた。

付き合い出した当初は、吉澤が石川の家に来るたびに、愛を確かめ合っていた。
しかし、いつしかなれ合いでしてしまう関係を恐れて、なんとなく吉澤と距離を置くようになった。
時々する方が、新鮮な関係を保てると思ったから。
今思えば、そういう事もキチンと吉澤に話せば良かったのだが後の祭りである。
吉澤は逆に、石川との愛の行為に溺れてしまったようだった。
甘えてくる、吉澤が、たまらなく可愛いのと、「今日はダメ!」と
おあずけくらった時に見せる残念そうな顔が凄く好きだったのでわざとじらしてみたり。

(よっすぃ〜があんな事言うなんて……)
石川は昨夜を思い返してみる。確かに昨日は自分も少し冷たくしすぎた感があった。
後藤に少し嫉妬している自分がいたのも否めない。

『あんまり冷たくすると浮気しちゃうぞ!』
吉澤も本心では言ってないのは分かっていたが、意外にも自分の口から出た言葉は予想外のものだった。
『…してみれば?』
真に受けた風に取って、なんて事を言ってしまったんだろう。

そして、吉澤も『あ、そう。じゃぁそうするよ!』
お互いつまらない意地を張ってしまった。


(今、謝れば、まだ間に合うかな…)
そう思っても、なかなかきっかけが掴めなかった。
そんな石川の思いとは裏腹に、吉澤は後藤と楽しそうに話をしている。
(なによ、なんかムカつく…)

石川の様子を見ていた保田は肘をつついた。

「あんた達、喧嘩でもしたの?」
我に返った石川は適当に誤魔化した。
「まぁ、ちょっとした喧嘩ですよ。なんでもないです」
保田も大して気にもとめない風だった。
「まぁ、あんた達は仲良いから、すぐ仲直りするもんね」
「はぃ…」
(今回は、どうかな。なんか…自信ない……)




−2−

後藤と世間話をしながら、吉澤は石川の視線を感じていた。

(あ〜ぁ、勢いで、あんな事言っちゃったけど、どうしようかなー。
 今さらひけないしな…。でも浮気をする!って断言する恋人が
 どこにいるんだよ。ヨシコは、やっぱりバカなんでしょうか?)

「どしたの?よっすぃ〜?バカとかなんとか・・・」

「へ?そんな事言ってないよ〜。なに言ってんの?ごっち〜ん!」
自分では、手加減したつもりだったが、後藤の背中を思い切り叩いてしまった。
バシーンと大きな音がして、メンバーが一斉に吉澤達に振り向いた程だった。

「いったぁ☆ちょっと、なにすんのよ〜!」
後藤は、涙目になっていた。
「ご、ごめん。つい・・・」
「ついって、なによ!手加減してよね〜!」
「ごめんごめん。お詫びに、なんかご馳走するよ…」
「高くつくよ〜!」
後藤は、背中をさすりながら、言った。


『ご馳走』と言う言葉に、辻と加護が飛びついてきた。

「「よっすぃ〜!私も〜!!」」
吉澤にまとわりつきながら、辻と加護が声を揃えて言う。
「保田さんにご馳走してもらえよ〜!」
今は、二人の相手をしたくなくて、保田に話を振ってしまった。

「「保田さぁぁ〜ん!」」
辻と加護は、すぐ吉澤から離れると、保田の方へ行く。
「なんで私に話振るのよ!吉澤!!」
保田の声を背に、吉澤は一人になりたくて席を立った。

トイレの個室にこもると、吉澤は一人考え込んだ。
石川が追いかけてくるかと思ったが、来なかった。


(大体梨華ちゃんは、私のコト分かってないんだよ。 浮気の1つや2つしてやろうじゃないの!)

いつの間にか、吉澤は石川と仲直りするコトよりも誰と浮気しようかと考えていた。
根本的に、話がずれて来るのである。

飯田さん…もし付き合ったとしても、梨華ちゃんと同じタンポポだから、何かとマズイか。
リーダーだし。いきなり宇宙と交信されても困るし。却下。

保田さん…同じプッチモニだけど、梨華ちゃんの教育係でもあったからもし告っても、無理だろう。
結構その辺はきちっとしてる人だし。却下。

矢口さん…私の教育係だった矢口さん。妥当かも知れないけど、やっぱりちょっとダメかな。
それに中澤さんにバレたら怖いし、却下。

安倍さん…悪い人じゃないけど、対象にはならないかなぁ。却下。

辻と加護…何も言わずに却下。

ごっちん…同い年だし同じプッチメンバー。話も合うし、最近は仲も良い。

(やっぱり、ごっちんしかいない!食事にも誘ったし、ヨシ!アタックしてみっか!)

吉澤は、楽しんでる風に見えた。


「よっすぃ〜!もう始まるよ〜!いるんでしょ?」

意中の後藤が呼ぶ声がした。

慌てて、吉澤は個室から飛び出すと、出て行こうとする後藤を呼び止めた。

「ごっちん!今日、いいかな?」
「え?」
「さっきの、食事の件」
「うん。いいけど?」
「良かったぁ!」
思わず吉澤は後藤に抱き付く。
「ちょ、ちょっと、よっすぃ〜?」
「ん?」
後藤が気まずそうな顔をした。
背後に石川がいたらしい。石川が睨んだ顔で見ていた。
しかし何も言わずに行ってしまう。

「いぃの?」
吉澤より後藤の方が心配している。
「いいんだ〜。さっ、行こう行こう!」

かなり楽観的な吉澤だった。
 



−3−

吉澤は、仕事中も、どうやって後藤をくどこうかと、そのコトばかりで頭がいっぱいだった。自然に顔がにやけてくる。

一方、石川は吉澤の態度に不安を感じながらも、腹を立てていた。
(なんだか、凄い嬉しそうなのが、気に入らない。何考えてんのよ!よっすぃ〜!)
こちらから謝るのも馬鹿馬鹿しく思えて来た。

今日の仕事が全て終わると、吉澤は上機嫌で、後藤に声を掛けた。

「ごっちぃ〜ん。行きましょうかぁ!」
石川に当てつけるかのように、帰り支度をしていた後藤の腕に、自分の腕を絡めた。
「い、いいの?」
石川を尻目に、吉澤は強引に後藤の腕を取って出ていってしまった。

石川の姿が見えなくなると、吉澤は後藤から腕を離した。
「ちょっとぉ、いいのぉ?」
「いいんだよ。ちょっとは梨華ちゃんも私のありがたみを知ってもらわなきゃ」
「ありがたみって?」
「いやいや、なんでもないよっ。行こっ!」
後藤は腑に落ちない顔をしたが、そのまま吉澤の後からついていった。


食事を終えて、喫茶店に入った二人。
どう切り出そうかと、吉澤が考えていると、後藤の方から話し出した。

「梨華ちゃんと何があったのか知らないけどさ〜、私を巻き込んだりしないでよね」
「え?」
先に後藤に言われて、吉澤は何も言えなくなってしまった。
「やっぱり…。よっすぃ〜もさぁ、もっとちゃんと考えて行動しないとダメだよ」
「だって・・・」
「だってじゃなくてさ、あんな当てつけみたいに腕組んだり抱き付いたりしてさ〜
 子供じゃないんだから。最近、梨華ちゃんと組んでやる仕事多いんだし、あんまり
 やりにくくさせないでよね。私に とばっちり来るんだからさ」
後藤は一気に言うと、コーヒーを一口飲んだ。そして更に続ける。
「いつでも相談に乗るからさ。ちゃんと仲直りしなよ」
「うん」
なんだか悟られた感じがしたが、後藤が言う事は最もだった。
(でも、自分から謝るのはイヤなんだ・・・)


「今日、梨華ちゃんち行くんでしょ?」
後藤とは反対方向なので、駅の改札口で、別れ際に後藤が聞いた。
「今日は行かない…」
「なんでよ。あんまり時間経つと、余計謝りにくくなるよ?」
「昨日喧嘩してから全然話してないし…」
「それだったら尚更じゃん。一人じゃ行きにくいの?」
「それもあるけど」
「私がついていってもいいけどさ〜、多分却って逆効果になりそうだし
 当人同士で解決した方がいいからね。ま、よっすぃ〜も頑張ってよ」
吉澤の肩をポンと叩くと、後藤は手をヒラヒラさせて帰って行った。

「どうしよう…」
無意識に、石川の最寄りの駅までの切符を吉澤は買っていた。
(なるようになれ!…か。)
ここでも、また楽観的な吉澤だった。




−4−

いざ石川の家に辿り着いてみたものの、やはりなかなかドアを開けるのは勇気がいった。

玄関の前でずっと立ち止まったままでいた吉澤だったが思い切って、インターホンを押す。

『・・・』
返事はない。まだ帰って来てない様子だった。

(なんだよ、まだ帰ってないじゃん!どこで遊んでるんだよ!)
自分の事は棚に上げて、怒る吉澤。
鍵を持っているのだから、そのまま開けて入ればいいのだが、ためらわれた。
そのまま玄関の前でしゃがみ込んで待つ事にした。
待つこと数分だったが、長く感じられた。


「…なんで、そんなトコにいるの?」
見上げると、石川がコンビニの袋を持って吉澤を見下ろしていた。
「あぁ、梨華ちゃん…」
「謝りに来たの?」
石川は無造作に鍵を取り出し、ドアを開ける。
「ぃや…」
「じゃ、なんで来たの?」
「それは……」
「用がないなら、帰ってよ。よっすぃ〜と話す事なんてないんだから」
ドアを閉めようとする石川に、吉澤は慌ててドアを掴み閉めさせないようにする。
「なんなのよっ」
「そんなに怒らなくても、いいじゃん」
吉澤の態度にカチンと来た石川は、更に声を上げて言った。

「謝りに来た訳じゃなかったら何しに来たの?」
「…う…。取りあえず中に入れてよ」
「なんで入れなきゃいけないのよ!」
「梨華ちゃぁん…」
(なんだか、振られたのに押し掛けて来た女々しい男みたいだ、私…)

そんな押し問答が続き、なんとか入れてもらえた。




−5−

石川は無言でコンビニで買った物を冷蔵庫に入れたりしていた。

(やっぱり来なきゃ良かったよー)
吉澤は後藤に言われて、なんとなく来たものの、やはり後悔していた。

そのまま突っ立っている吉澤の視線を感じながら石川は苛立っていた。
(全く、何しに来たのよ〜。)
まさか今日はさすがに来ないと思っていたので、ドアの前に座っていた吉澤を見た時は驚いた。
謝るでもなく、一体なにしに来たのか、石川には分からなかった。




「私からは謝らないからねっ」
「・・・」
吉澤は黙っている。
「今日だって何よ、ごっちんと…」
と言いかけて石川はやめた。

「もしかして、梨華ちゃん妬いてるの?」
喧嘩の最中なのに、吉澤の嬉しそうな顔。
やはり、予想通りの答え。
「呆れてるのっ!そんな事したって私は何とも思わないんだから」
「うそ!梨華ちゃん妬いてるんだー!」
嬉しそうに言いながら吉澤は石川に抱き付いた。
「ちがうってば!」
「うれすぃ〜よ!梨華ちゃん!!」
既に石川の話は耳には入っておらず、吉澤は石川の首に顔を埋めた。
喧嘩中と言う都合の悪い事は吉澤の頭からはすっかりキレイに消えているらしい。
一旦、吉澤がえっちモードに入ると何を言っても無駄なのは石川にも分かっているのだが、納得出来ずに、抵抗する。
「やめてよ、よっすぃ〜…」


抵抗するものの、吉澤の力に勝てるハズもなく石川は吉澤に抱っこされるとベッドに運ばれ、そのまま押し倒された。
(こうして、また私はよっすぃ〜に抱かれちゃうんだ…)
吉澤の事は好きなハズなのに、何か釈然としないものを感じて石川は涙が溢れてきた。

さすがの吉澤も石川の変化に気づいたのか、組み敷いていた手の力を緩めると石川から身体を離した。
「梨華ちゃん、ゴメン…」
石川が目をあけて、身体を起こすと、吉澤が背を向けていた。

(ハァー、またやっちゃったよ)
吉澤は自己嫌悪に陥っていた。
石川を見ると抱きたい衝動に駆られて相手の気持ちも考えずに行動してしまいいつも石川にイヤな思いをさせてしまう。
(梨華ちゃんの事好きなんだけどなー。最近スレ違ってばっかだな…)


ずっと黙っている吉澤を見て石川も何か言わなくてはと思い、口を開きかけたが
(私が心配する必要ないじゃない!悪いのはよっすぃ〜なんだから)
自分に言い聞かせると吉澤が話し出すまで黙っていた。
お互い素直になれない二人。

さっきは自分からは謝りたくないと思った吉澤だったがいつまでたっても埒があかないので、やはりここは折れることにした。
「梨華ちゃん?」
おそるおそる振り向いてみる。
しかし石川は膝を抱えて頭を埋めて眠っていた。
(眠っちゃったのかー)
暫く石川の様子を見ていたが起きそうにない。
「梨華ちゃん、ごめんね。素直になれなくてさ。
一番好きなのは梨華ちゃんだよ。昨日はごめんね」
吉澤は眠っている石川に独り言のようにつぶやくとそのまま帰って行った。
鍵をかける音がして、吉澤の靴の音が遠ざかり、またシーンと静まり返る。
石川は眠ったフリをしているだけで、起きていた。
「面と向かって言え!バカよっすぃ〜…」
石川は呟いた。
(明日はあたしも謝ろう…)




−6−

「バカじゃないのー?」
ひときわ大きく後藤が吉澤を馬鹿にしたような声で言った。
「ハッキリ言わないでよー。ヘコむなー」
翌日、楽屋で後藤に昨夜の話をした時の後藤の呆れたような返事。
(分かってますよ、どうせ私はバカですよ…)

石川も謝ろうとチャンスをうかがっているが、なかなかタイミングがあわず、ひたすら吉澤を見ていた。
(今日もごっちんと一緒だ。話しにくいなー)
そんな石川の様子を見ていた辻と加護が面白がって近づいてきた。
「梨華ちゃん、よっすぃ〜にフラれたんれすかぁ?」
「よっすぃ〜は、もう梨華ちゃんポイで、ごっちんに乗り換えたんとちゃうか?」
悪気はないのだろうが(いや、あるかもしれない)この二人の言葉に石川はムカつきながらも、何とか平静を保とうとした。しかし…。
「勝手なこと言わないでよ!」
石川は立ち上がると、そのまま出ていってしまった。


「よっすぃ〜追いかけんでいいの?」
加護が他人事のように言う。吉澤は複雑な表情をすると
「あんたたちが、梨華ちゃん怒らせたんでしょーに!」
後藤は吉澤の袖を引っ張ると
「追いかけたほうがいいって」
と小声で言った。
吉澤はうなづいて立ち上がると、石川の後を追いかけていった。

(なんか調子狂うな〜)
石川は狭い通路を歩きながらため息をついた。

「梨華ちゃん!!」
吉澤の声に石川は立ち止まり振り返った。
追いかけてきてくれたことに素直に喜べばいいのに石川は心とは裏腹なことを言ってしまう。
「追いかけてこなくていいのに…」
吉澤の顔がくもった。
「…まだ、怒ってるの?」
吉澤は壁にもたれかかると、薄暗い天井を見上げた。
「どうしたら、許してくれるのかな…」
吉澤の悲しそうな瞳。
(そんな目で見ないでよ。悪いのは私なのに…)


そこへ二人の状況を知らない飯田が声をかけてきた。
「石川。ちょっといいかな?」
「ハ、ハイ」
石川は飯田の方に振り向くと吉澤を無視して飯田のついていった。

一人残された吉澤は、しばらくそのままぼんやりとしていた。
(私の目を見ようとしなかった。完全に嫌われちゃったかな…)

少しして、様子を見に来た後藤が、吉澤に声をかける。
「よっすぃ〜大丈夫?」
後藤の声に、吉澤は顔を上げた。
「あぁ、ごっちん…」
「なに、情けない顔してんのよ」
今にも泣き出しそうな吉澤の目を見て
「ここで泣いたらプロ失格!ハイ!笑って!笑って!!」
吉澤の両肩をポンポンと叩くと、後藤はニーっと笑った。
「ありがと。ごっちん…」
なんとか涙をこらえて、吉澤は笑うことが出来た。
「よし!その調子、その調子!!」
後藤の励ましもあって、大したミスもなく今日の仕事も無事終わった。
ただ、仕事の話以外は石川と口を聞くことをのぞいて。




−7−

更に数日が過ぎ、二人の仲は相変わらず平行線で、吉澤は後藤と一緒にいる事が多くなった。

仕事帰りに後藤が
「圭ちゃんが言ってたんだけどさ、今度のオフに梨華ちゃんと温泉に行くらしいよ」
「えーーーーーーー????」
寝耳に水だった吉澤は大きな目を更に大きくして驚いた。
「それって二人っきりって事?」
後藤に詰め寄る。
「…やっぱり、知らなかったんだ…」
「そんな事、梨華ちゃん言ってなかった…」

尤もこの数日、二人が交わした言葉は、挨拶と仕事絡みの話しぐらいだったが。


オフの日は、いつも石川と過ごしていた吉澤にとっては、そぉ〜とぉ〜ショックだった。

「梨華ちゃん、圭ちゃんと最近仲良いしね…」
ボソっと後藤が呟く。
二人で買い物に行ったり、食事に行ったり、プライベートでは吉澤の次に保田が仲が良いのは確かだった。

「温泉なんて…」
(もし保田さんに私との事相談して、そのまま保田さんと…)
吉澤は良からぬ想像をして、慌ててうち消した。

「よっすぃ〜、私がついてるヨ。慰めてあげるからさ」
「う、うん。ありがと」
吉澤は力無く答えた。




−8−

「でもさぁ〜。仲直り出来ないの?」
場所を変えて、後藤は缶コーヒー、吉澤は缶チューハイを片手に公園のベンチに腰をおろしていた。

「なんか避けられてる気がしてさー」
吉澤は残っている缶チューハイを一気に飲み干した。
「大丈夫?よっすぃ〜お酒強くないじゃん」
「だってぇ〜〜〜。私はこんなに梨華ちゃんの事愛してるのに…。
 なんでだよおおおおおおぉぉぉ〜!…そう思うでしょ?ごっち〜〜〜ん!」
かなり酔いが回り始めてるらしい吉澤は後藤に絡み始めた。

ここ数日、散々石川の愚痴を聞かされ続けている後藤もさすがにいつまでも話が前に進まない二人に苛立ちを覚え始めていた。
今、吉澤のそばにいるのは、後藤なのに、吉澤の心は石川が占めていた。

(なんか、面白くない…)
何に対して怒っているのか、まだ、この時の後藤には分からなかった。


「梨華ちゃん、哀しいよぉぉぉ〜」
今度は泣きついてきた。
思い切り拒否するのも可哀相なので、後藤は吉澤を、やんわり拒絶した。

「梨華ちゃん。仲直りのキスをしよう!」
そんな後藤の態度は、一向に気にせず、吉澤は後藤を自分の方に向かせると腰に手を回して来た。
(ちょっちょっと…。マジ!?)
後藤が焦って、一瞬ひるんでいる間に既に、吉澤の顔が目の前にあって気が付けば、くちびるを奪われていた。


「!!!!!???????」
(いっいやだ!!)
しかし、抵抗するものの、すっかり石川だと思っている吉澤は、しっかり後藤を抱きながら、今度は舌を入れてきた。
「…ん...」
少しアルコールの入った吉澤の唾液が後藤の口の中に流れていく。
そして、吉澤の舌が微妙に後藤の歯や歯茎をなめ回していた。

「やめてよっ!!!」
後藤は力一杯、吉澤を突き飛ばそうとしたのだが、実際には、吉澤から少しからだが離れただけだった。
「私は梨華ちゃんじゃないんだからっ!!!!!」
うっすら涙を浮かべている後藤は、吐き捨てるように言うと、立ち上がってくちびるを拭うと、走っていってしまった。


「……ごっちん!?」
すごい剣幕で怒鳴られて、吉澤の酔いもいっぺんに醒め、我に返った吉澤は後藤を追いかけた。


後藤は早足で駅へと向かいながら、涙をふいていた。
女とキスをしたのは初めてだった。
それも、吉澤は自分を石川だと思ってしたのが、許せなかった。
(私は後藤真希で、石川梨華じゃない……)


後藤は一旦立ち止まって、振り返ったのが、吉澤が追いかけてくる気配はなかった。
(梨華ちゃんの時は、すぐに追いかけていったくせに!)
ますます腹が立った後藤は諦めて、また歩き出した。


その頃、吉澤は道を一本間違えていた。
(なに、やってんだ私は…。それにごっちんになんてことを…)
先ほどの自分の行為を思い出すと恥ずかしくなった。

(もしかして、よっすぃ〜、そのままベンチで眠りこけてるとかじゃないよな)
そう考えて、後藤は自分に腹を立てた。
(心配する事ないじゃん!!)
しかし、後藤の足は、元来た道を引き返していた。


「おかしいなぁ。絶対追いつくハズなのに…」
吉澤は首を傾げながら、仕方なく後藤にメールを打った。
<<ごっちん、今どこにいるの? 吉澤>>

さっきの公園に戻って来るが、ベンチには誰もおらず、後藤は舌打ちした。
(まったく…)
後藤はやり場のない怒りを覚えた。
そこへ吉澤からメールが入る。
後藤はさすがに腹が立って、メールでやり返した。

<<日本。 後藤>>

「はぁー?」
さすがの吉澤も困ってしまった。
<<日本のどこ?>>
<<あててみ>>

数回のメールのやり取りで、吉澤も公園の方に戻っていた。

<<後ろにいます>>
タンポポよろしく、メールをした吉澤だが、振り向いた後藤は怖い顔をしていた。

「ごめんなさい!」
吉澤は平謝りで謝った。
謝って済む問題では、ないのは承知なのだが。




−9−

「ごっちん、ごめん。私…」
「謝らないでっっ!!」
吉澤は後藤の声にビクっとすると、恐る恐る後藤の顔を見つめた。

「謝られたら、惨めになるよ…」
後藤は吉澤の視線をそらし、夜空を見上げた。

「あ、あの…」
言いかけたものの、適当な言葉が見あたらない。
(いくら、酔っていたとはいえ、キスするなんて最低だ…)
吉澤は自分を責めていた。

「あの時、何考えてた?」
後藤が、ゆっくりと吉澤を見つめた。心なしか目が潤んでいる。
後藤まで泣かせてしまったのかと思うと吉澤の心は痛んだ。

「なにって、梨華ちゃんと仲直りしたくて…」
と言いかけて口をつぐんだ。

「やっぱり、梨華ちゃんなんだね…」
後藤は、ふぅーっとため息を漏らす。


「キスしたのは、謝るよ。謝るって言うか、申し訳ない事したと言うか。
 それに酔っぱらってたし」
「私が怒ってるのは〜!」
後藤が遮る。
「キスで怒ってるんじゃないんだよ」
「?」
(なに、言ってるの?ごっちん??)
吉澤は、すぐには分からなかった。

後藤は再び、吉澤から視線を外すと、背中を向けた。
「私の立場は?」
「え?」
ふと、吉澤は、後藤が言った言葉を思い出した。
(『私は、梨華ちゃんじゃない!』そう言ったっけ…)
吉澤は、やっと後藤の言っている意味を理解すると
「ごめん…」
ぽつりと言った。




「どうしたら、許してくれる?」
同じ事を数日前、石川に言った事を思い出して吉澤は苦笑いした。
(梨華ちゃんは、答えてくれなかったけれど……)
石川とギクシャクして、その上、後藤とまで仲が悪くなるのは絶対に避けたかった吉澤は、なんとか許してもらおうと思っていた。

後藤は暫く考えていたが、振り向くと
「よっすぃ〜私のお願い聞いてくれる?」
「お願い?」
「さっきのキスは事故だったとして・・・」
「う、うん」
「もう1度キスしてくれない?後藤真希として」
「へ?」
思いもよらない後藤のお願いに、吉澤は驚きを隠せなかった。
後藤を見つめる吉澤。
後藤は、冗談とも本気とも取れるような表情をしていた。


「さっきは、石川梨華としてキスしたんでしょ?」
「……」
何も言えないで困った顔をしている吉澤。
(そんな事出来ないよ……)
二人の間に沈黙が流れる。

後藤は吉澤に近づいて来た。
「私とだとキス出来ないの?」
「そんな事ないけど…。なんで…」
吉澤は後ずさりする。
「なんでって、私もよっすぃ〜の事好きだから…。
 だから、梨華ちゃんを想ってキスされたのは許せない」
思いがけない後藤の告白に、吉澤は目を白黒させた。
(冗談だったらひどすぎる。でも私がした行為は、もっとヒドい…ね)
「ごっちん、そんな事、今まで・・・」

「嘘だよ。冗談に決まってるでしょ?本気にしたの?」
後藤は、吉澤から離れると笑った。
(私だって気付いたのは、さっきなんだよ。
 それも、よっすぃ〜にキスされてね。皮肉なもんだよね。
 でも気付かせてくれたんだから、梨華ちゃんに感謝しなきゃいけないのかな…)
後藤は、その事は口には出さなかった。


「よっすぃ〜、早く帰れば?もう遅いよ?私も、もう帰るわ」
「うん」
しかし、帰りづらいのか、考えているのか下を向きながら立ち止まっている。
そんな、吉澤を後藤は、ぼんやりと見つめていた。
(よっすぃ〜、やっぱり、そのまま帰っちゃうよね。私って意地悪だなぁ。
 よっすぃ〜を困らせてるんだから。帰りにくいなら、やっぱり私から先に帰った方がいいのかな)
そう思った後藤は、駅の方へと帰りかけた。
と、ふいに後藤は腕を掴まれて、吉澤に正面に向かされた。
「さっきのお願いって冗談じゃないよね?…ごっちん、そんな事今まで冗談で言った事ないもん」
吉澤はいつになく、真剣な表情をしていた。

「いいよ、無理しなくてもー。意地悪して言っただけだから」
「いや、私が悪いんだし。ごっちんが望むなら…」
「いいって。梨華ちゃんに、秘密を増やしちゃうよ?それに好きでもない相手とキスなんか出来ないよね」
自分で言っておきながら、後藤もいやらしい言い方をする。
「好きに決まってるじゃんかー。ごっちんは意地悪だよ」
吉澤は、さりげなく後藤の腰に両腕を回すと、顔を近づけた。


しかし、そう言ったものの吉澤は後藤の告白と自責の念に駆られて、混乱していた。
(どうしたら、いいんだよ……)
「嬉しいよ、よっすぃ〜」
後藤は吉澤の首に両手を巻き付けると、吉澤を見つめた。

今まで、石川としかしなかったキス。それを自分の過ちで後藤としてしまった。
そして更に、またキスを要求されている。
(自業自得か…。さっきの時点で、もう梨華ちゃんの事裏切ってるんだ、私)

吉澤は後藤を見つめながら、数日前の「浮気相手は後藤!」と浮かれて言っていた自分を思い出していた。
こうして、告白?されているのに、嬉しくないのは、やはり自分に負い目を感じているせいもあるのだろうか?
後藤の事は好きだが、それはメンバーとして、友達としてだった。


吉澤の気持ちを察したのか、後藤はこう言った。
「梨華ちゃんの事、すぐに忘れろとは言わないけど私のことも、もっと見てよ。
 キスから始まる恋があってもいいんじゃない?」
「ごっちん……」
「今だけは、梨華ちゃんの事忘れて…」
そう言って、後藤は目を閉じた。

まだ後藤からキスをされれば気も紛れるのに自分からさせるところに、吉澤は躊躇した。

ここでキスしたところで、後藤は満足するのだろうか?
(こういう事考えてるから、いけないんだね。
 でもキスした方がますます辛くなるよ?)

なお、キスをためらっている吉澤だったが、目を閉じている後藤に言った。
「やっぱり、出来ない…よ。ごめん」
後藤は目を開けると"やっぱり…"と言う顔をした。


「だって、ごっちんに悪いから」
「私がいいって言ってるのに?」
「もし、キスするなら、ちゃんとごっちんの事好きになってからしたい。
 さっきのキスは、ほんと悪かったって思ってるけど。だから、出来ないよ」
「じゃぁ、私にも希望はある訳だ」
後藤の目が光った。
「ごっちんの事は好きなんだけど…」
吉澤は言葉を濁す。
「分かってるよ。今でも梨華ちゃんにゾッコンなのは。
 分かってて、私だって言ったんだから」
「そう言ってもらえると助かるよ」
何が助かるんだか、自分でも良く分からなかったが。


「でもさ、さっきは、してくれるって言ったじゃない。ウソついたんだ」
「それは…」
後藤も引き下がらなかった。しかし、ふっと表情を緩めると
「多分、よっすぃ〜の事だから、そう言うと思ってたよ」
「え?」
「よっすぃ〜は、結構恋愛に関しては真面目だからね。
 でも、キスされるとはね…」
「ごめんね、ごっちん」
それを言われると何も言えない。

急に後藤は真面目になると
「よっすぃ〜。目を閉じて。今からよっすぃ〜の事殴るから」
笑って言う。
(なんか恐いんですけど……)
それで気が済むのなら、吉澤自身も多少ラクになる。。
「うん。分かった」
吉澤は覚悟を決めて目を思い切りつぶった。
(殴られた事って今までになかったよ…)




−10−

しかし、後藤の拳が飛んでくると思いきや届いたのは、後藤の柔らかいくちびるだった…。
石川のソレとは、また違った感触のくちびるに、吉澤は、戸惑いつつも、受け入れた。

少しためらいがちに後藤の舌が、吉澤の口の中に入ってくる。
そして、後藤の舌が少しぎこちないが、吉澤の歯や歯茎をなめ回していく。
(ご、ごっちん……)
最初は驚いていた吉澤だったが、最後の方ではしっかりと後藤の舌と自分の舌を絡ませて、後藤のキスを楽しんでいた。
そう、この時ばかりは、石川の事を忘れていたのだ。


後藤の方からくちびるを離すと、吉澤はさっきとは打って変わって切なそうな顔をした。
先ほどの、キスを拒んでいた吉澤がウソのようだった。
「ごっちん、キスうまいね…」
吉澤は、ひさぶりのキスに、酔っているようだった。
「よっすぃ〜のマネしただけだよ…。私、女の子とキスするの初めてだし」
「そうは見えないね…」
吉澤は、もっとキスをしたいような素振りを見せた。
しかし、後藤はそれに気づかない振りをする。
「私の気持ち、よっすぃ〜に届いた?」
耳元で囁く。
「う、うん…」
吉澤は、自分から後藤にキスをしようとくちびるを近づけたが後藤は、吉澤から離れると
「もう帰るね。また明日!」
そう言うと、一人でさっさと帰って行ってしまった。


「ごっちん……」
吉澤は暫くその場に佇んでいた。

(キスしたのって、いつ以来だっけ…)
ふとそんな事を考えて、石川の事を思い出した。
(私ってば、なんて事を!!)
最初のキスは事故で済まされるとしても、今のキスは合意の上でしたようなものだ。
(はぁぁぁ。梨華ちゃん……。弁解の余地がないよ(涙))
時既に遅し、吉澤は自己嫌悪に陥った。


後藤は駅までの道を歩きながら、あんなにあっさりと吉澤が堕ちるとは思っていなかったので、自分でも驚いていた。
(よっすぃ〜は、愛に飢えてるのね。それとも私のキスがうまかったのかな…)
後藤の足取りは軽かった。

どっちにしろ、吉澤と石川の仲が、ますます修復不能になってしまったのは言うまでもない。




−11−

その頃、石川は、吉澤と後藤が、そんな風になってる事は知る由もなく、温泉から帰って来たら謝ろうと考えていた。

保田から誘われたのは、吉澤と喧嘩して、少し経ってからだった。
「今度のオフさ、気晴らしに温泉でも行かない?」
このところ、ずっと保田は石川の事を気に掛けてくれていた。
保田の心遣いが嬉しく、石川はOKした。
「いいですよ」
断られると思っていた保田は、意外な顔をした。
「おかしいですか?」
石川は聞き返した。
「うぅん。分かった。じゃ、また詳しく決まったら連絡するよ」
「はい。お願いします」

このところ、ずっと忙しくオフも、久しぶりだった。
本当だったら、吉澤と過ごすハズだったオフ。
しかし、今回は無理そうだと思った石川は、保田の誘いに乗った。


「気晴らしになるかなー。浮かない顔してても保田さんに迷惑かけちゃうし。のんびりして来ようっと」
石川は独り言を呟くとベッドに横になった。
とは言ったものの、吉澤の事が気になるのは事実だった。
今までも、良く喧嘩はしたが、ここまで長期に及ぶ事はなかった。
どちらかが折れて(大抵が吉澤)それで仲直りするパターンだった。
今回はタイミングがずれて、結局きっかけも掴めないまま早くも1週間が過ぎようとしている。
毎日あった電話やメールも全くなくなり、当然、吉澤は家には来なくなった。

吉澤が追いかけて謝って来た時に素直になれば良かったと後悔した。
あの時、飯田が呼びに来なければ石川も謝るつもりだったが、結局、呼ばれたので吉澤を無視するカタチを取ってしまった。

(これじゃぁ、話しかける事すら出来なくなっちゃうなぁ…。
 温泉のお土産を口実に、よっすぃ〜を家に呼ぼうかな…)

「よっすぃ〜…ごめんね……」
石川は、そのまま眠りに就いた。




−12−

翌朝、吉澤は一番に楽屋入りをしていた。
昨日は殆ど眠れなかった。
(なんで、あんな事しちゃったんだろう・・・)
しかし考えたところで、なんの解決にもならないのは分かっているのだが、吉澤は、ずっと同じ事を自問自答していた。
キスに酔いしれていたが、あれは後藤でなくても良かったのではないか?
そんな事まで考えていた。
(でも、あれが加護とかだったら、そうもいかないよな〜…って また論点がずれてきてる。はぁ…)
後藤に告白された事よりも、キスの方に気持ちが行ってしまっていた。
(キスから始まる恋かぁ……。ごっちん、かっけー事言うなぁ)
自分の事なのに他人事のように感心していた。


ドアがノックされると、後藤が珍しく早く入って来た。
そして、吉澤の姿を見つけると、嬉しそうに近づいて来た。
「おはよ〜。よっすぃ〜〜〜!!!」
そして、いきなり抱き付く。
「おはよぅ…」
(な、なにっ。いきなり……。こんなとこ梨華ちゃんに見られたら!)
まだ楽屋にいるのは二人だけなのに、吉澤は慌てた。
「なに驚いてるのよ〜」
「いや、べつに・・・」
吉澤は恥ずかしくなり顔をそむけた。
そのまま後藤は吉澤の膝の上に乗ってきた。
「あ、あの、ちょっと…」
「なに恥ずかしがってんの?昨日は、もっと欲しそうな顔してたのに…」
「………」
「明日のオフは二人きりで過ごそうよ」
後藤は耳元で囁くと耳たぶを噛んだ。
「うん...」
思わず吉澤は首をすくめた。

誰かが入って来る気配がしたので、後藤は素早く自分の椅子に座った。
「おはよ〜。圭ちゃん!」
「おはよ〜」

積極的な後藤に吉澤は戸惑っていた。

しかし、その後の後藤は、普段通りに接して来ていた。
昨日の事もあって、吉澤は石川と目を合わせる事が出来なかった。




−13−

「温泉に行く事、ごっちんに話しちゃったんですか?」
石川は、保田と一緒に帰る途中、思わず聞き返してしまった。
「まずかったの?」
「いえ、そんな事ないですけど…」
(よっすぃ〜も、もう知ってるんだ、きっと…)
石川と喧嘩してから、殆ど後藤と一緒にいるので当然耳に入っているハズだ。
(きっと、保田さんにやきもち妬いたりしてるんだろうな…。
 前から保田さんの事気にしてたし、よっすぃ〜。何もないのに)
しかし、そんな事より、今日の吉澤の態度が気になった。
今も喧嘩の最中だが、それとは違う"何か"を石川は感じていた。

石川の様子を見て、保田は見かねて言った。
「吉澤と、ずっと仲直りしてないの?」
石川の方が敢えて吉澤の話を避けているのが分かっていたので保田も触れないでおいたが、さすがに気になって聞いてしまった。
最近の二人の様子を見ていれば、一目瞭然なのだが。


「はい。そうです…」
石川は笑って答えた。
「まぁ見てれば分かりますよね」

「私が口出しする事じゃないけど、早くした方がいいよ。
 そんな事言わなくても分かってると思うけど」
本当に心配そうに言う保田を見ていたら、なんだか申し訳なくなってきた。

「保田さんにまで迷惑かけて、本当にすみません」
石川は頭を下げる。
「いや、別に迷惑じゃないんだけど、最近元気ないから。やっぱり気になる」
「これは二人の問題ですから、なんとかしますよ」
とは言ったものの、どうすればいいのか石川自身も良く分かっていなかった。
「温泉から帰ったら、ちゃんとよっすぃ〜と話し合います」
と付け加えた。

「そうしてくれると私も安心」
保田は笑った。
「明日の午後からだから荷物多くなっちゃうけど、そのまま行こうね」
「はい。楽しみにしています」


明日からオフなのだが、午前中は仕事が入っているので、午後からそのまま保田と温泉へと行く予定になっている。

保田と駅で別れてから、自分から、保田と行く事を伝えておきたかったので石川は吉澤にメールを打った。
(なんだか久しぶりで緊張しちゃうな・・・)
最後の一行は削除しようかどうか迷ったが、そのまま送信した。




−14−

(あ、梨華ちゃんからメールだ!!)
仕事の帰り、後藤に気づかれないように、吉澤は、そっと見た。

<<明日から、保田さんと温泉に行きます。
       帰って来たら会ってくれる?  石川>>

(温泉に行く事、わざわざ私に言うなんて梨華ちゃんらしいや)
吉澤は、思わず笑ってしまう。
(会ってくれるって……)
吉澤は携帯の液晶をじっと見つめていた。

「梨華ちゃんと会うの?」
いつの間にか、後藤が携帯を覗き込んでいた。
吉澤は、慌てて携帯を隠した。


「別にいいじゃない。この際だから、梨華ちゃんに私たちの事言おうよ」
「えぇ〜?」
「なに驚いてんの?まさか、よっすぃ〜、梨華ちゃんと寄り戻して
 私とも付き合おうって言うんじゃ…。それは虫が良すぎるんじゃないの?」
「そんなつもりないよ!でも、私とごっちんって付き合ってるって言うの…かな…」
途端に後藤の顔色が変わった。
「昨日のキスはなんだったの?やっぱり騙したんだ…」
急に冷めた声で話す後藤に、吉澤は少し恐怖を感じた。
「別に騙してなんかいないよ。ごっちんのキスは……良かったよ」
「じゃぁ、今、キスしてよ」
「ここで?」
吉澤は、周りを見渡した。人気はないが、少しためらってしまう。
後藤は吉澤の手首を掴むと、昨日の公園へ、また連れて行った。
「よっすぃ〜と私のファーストキスの記念の場所だよ」
後藤は吉澤に抱き付いた。
(梨華ちゃん、もう遅いよ。私は・・・)
吉澤は後藤の顎を少しあげると、キスをした。
「嬉しいよ、よっすぃ〜…。よっすぃ〜は、後藤のものだね」
小悪魔的な笑いを浮かべて、後藤は微笑んだ。




−15−

<<楽しんできてね。  吉澤>>
ホントは行って欲しくない。特に保田とは…。
しかし今更言っても仕方ないので、後半のレスには答えずそれだけ打つと石川に返信した。

後藤は再び、覗き込むと、
「ふぅーん。うちらも楽しもうね。ひ・と・み・ちゃん!」
後藤はわざと名前で呼ぶと、吉澤に抱きついて、頬にキスをした。


吉澤のメールを見た石川はため息をついた。
(会ってくれないのかな…)
お互い様々な想いを抱えたまま、二人はそれっきり、またメールも電話もしなかった。

116 名前 : Triangle Blue-15-   投稿日 : 2001年09月06日(木)23時13分19秒  

「ねぇ、えっちしようか?」
抱きついて離れない後藤を更に強く抱き締めると吉澤が囁いた。
「え?」
今まで、消極的だった吉澤からの思わぬ発言に、後藤は、聞き返した。
「そんなにビックリする事ないじゃん。明日するのが今日になっただけだよ。
 それとも、お楽しみは明日に取っておく?」
まさか吉澤が、そんな事を言うとは思わなかった後藤は即答出来なかった。
しかし、すぐに吉澤は腕の力を緩めて後藤から離れると
「冗談だよ。明日の午前中は仕事あるしね。今日は帰るよ。
 明日は、ゆっくり楽しもうね。ごっちん…」
吉澤は、後藤に言うと、再びキスをした。
「おやすみ…」


ポカンとしている後藤を残して、吉澤は、そのまま帰って行く。
(もう後戻りは出来ないんだ…)
吉澤は既に開き直っていた。
(どうせ明日はごっちんと…。梨華ちゃんだって、もしかしたら保田さんと……)
そんな言葉を繰り返しながら、吉澤は駅へと足を早めた。


『えっちしよう』
後藤は、今吉澤が言った言葉を頭の中で何度もリフレインさせていた。
吉澤らしからぬ発言に、後藤は動揺していた。
『冗談だよ』と言ったが、そういう事を言うような性格じゃない事は後藤も知っていた。
(本当に、後藤のコト、真面目に考えてくれるの?よっすぃ〜…)




−16−

吉澤はドアの前に立つと一呼吸置いて、ためらいがちにインターホンを押した。
ここへ来るのは、もう1週間振りくらいだろうか。凄く久しぶりな感じがした。
この時間だと、丁度シャワーを浴びてる頃かも知れない。
ほどなくして、石川の声がした。
「…はい……」
「吉澤だけど…」

「よっすぃ〜?」
突然の吉澤の訪問に石川は驚いたようだった。
すぐにドアが開いた。
一番会いたかった女性(ひと)。石川梨華…。
「一言謝りたくて…。ごめん。あとメールありがと」
伏し目がちに吉澤は答えた。

「私もごめんね。ずっと意地張っちゃった…」
石川も照れたように答えた。
案の定、お風呂から出たばかりらしくTシャツに短パンだった。


「梨華ちゃん……」
吉澤は涙が出そうになるのを、ぐっとこらえた。
「ん?なに??ねぇ。どうして突っ立ってるの?中に入らないの?」
石川が吉澤の手を取ろうとした。
「今日は謝りに来ただけだから。それに、梨華ちゃん明日の準備とかあるんでしょ?すぐ帰るよ」
「何言ってるの?明日の準備よりも、よっすぃ〜の方が大事だよ」
吉澤は、思わず胸が熱くなった。今日の石川はやけに優しい。
しかし、吉澤にはその優しさが却ってツラくさせた。


「うぅん。もう帰るからさ。早く梨華ちゃんも休みなよ」
それだけ言うと、吉澤は帰ろうとした。
「待ってよっすぃ〜」
「なに?」
石川が何を言うか分かっていたが、わざと知らない振りをした。
「いつものアレはないの?」
「今回は出来ないよ。もうする資格もないし」
(梨華ちゃん裏切っちゃったんだもん。する資格なんか…)
「じゃぁ私からしてあげる」
石川は吉澤の首に両手を絡ませると
「仲直りのキス…」
と言って、自分からキスをしてきた。
(梨華ちゃん……。)
吉澤も細い石川の腰に手を回すと、それに応えるように優しくキスを返した。
(さようなら…梨華ちゃん……。最後のキスをありがとう…)


吉澤は、くちびるを離すと切なそうな顔をした。
「ありがとう。梨華ちゃん…。やっぱり梨華ちゃんは最高だよ。
 好きになってよかった」
石川は不思議そうな顔をして吉澤を見つめていた。
「どうしたの?よっすぃ〜。おかしいよ?」
「なんでもないよ。じゃぁ、梨華ちゃんおやすみ!」
吉澤は急に涙が出て来たのを慌てて手で拭いてごまかすと、石川の方を向かないで、ドアを閉めた。
(結局、お別れの言葉は言えなかった……。)
吉澤はため息をつくと、流れてくる涙を必死にこらえながら、自分の家へと帰って行った。


吉澤と折角仲直り出来たと言うのに、何故か石川はしっくり来なかった。
(よっすぃ〜の様子もおかしかったし…。それに…)
吉澤に抱きついた時に、ほのかに香った香水の匂い…。
あれは、後藤が付けていたものに良く似ていた…。
石川の心に、また一つ不安が広がっていた……。




−17−

吉澤が家に着く頃には、もう午前0時を回っていた。
マンションのエレベーターを出ると、吉澤の家の前に誰かが立っていた。
思わず吉澤は身を隠した。
オートロック形式なので、安易に部外者は入れないハズだ。
恐る恐る覗いて見ると、それは後藤だった。
(なんで、ごっちんがいるの!?)
今まで石川のコトで頭がいっぱいだった吉澤は急に現実に引き戻された。

「ごっちん……」
俯いていた後藤がこちらを見た。
「遅かったじゃん。あれからすぐに追いかけたからよっすぃ〜と同じ電車に乗ったと思ってたのに」
「梨華ちゃんちに行ってた…」
後藤にウソをついても仕方ないので、吉澤は正直に話した。
「そう…」
「取りあえず中に入ってよ。もう家族はみんな寝てると思うけど…」
後藤を中に入れると自分の部屋に通した。


「今夜は遅いから、泊まってくでしょ。私のベッド使っていいから」
部屋から出て行こうとする吉澤を引き留める。
「よっすぃ〜は?」
「私はソファかなんかで寝るからいいよ」
「なんでよ」
「なんでって二人で寝るには狭いし…」
後藤は吉澤を抱き締めるとベッドへと誘う。
「さっき言った言葉は、ほんとに冗談だったの?」
「あれは…」
あの時は本心だった。でも今は……。と言うよりも今夜は抱く気にはなれなかった。
「ごめん。ごっちん。今日はそういう気分になれない…よ」
今日…。明日だって、そんな気分には……。それとも後藤が忘れさせてくれるのだろうか?
泣きたいくらいなのに、一人になりたいのに…。
今更ながら、吉澤は石川に会ったコトを後悔しだしていた。
温泉前に仲直りと言う形を取っておいた方が石川も保田と気兼ねなく楽しめるだろうと思っての配慮だったが、
逆に自分が辛くなるだけだった。


「梨華ちゃんと何かあったの?」
「なにも。仲直り出来たよ、たぶん」
「たぶん?」
「あとはお別れの言葉を言うだけだよ。おのぞみの結末でしょ」
吉澤は自嘲気味に笑った。
「…それで、いいの?」
「ごっちんがそうしろって言ったんでしょ!二股はイヤだって」
後藤は慌てて吉澤の口を押さえた。
「シーっ!よっすぃ〜声大きいよ。家の人起きちゃうって」
「場所変えようか」
吉澤は後藤の腕を取ると、マンションの前の小さな公園へと連れ出した。


ベンチに腰掛けると、暫く二人は無言だった。
「…本当に、梨華ちゃんと別れるの?本当は別れたくないんでしょ?」
「別れるって言ってんじゃん!」
吉澤はウンざりと言う顔で少し苛立って言った。

(本当は今でも梨華ちゃんの事好きなクセに……)

吉澤が一度でも後藤とキスした事を知ったら石川は許してくれないだろう。
吉澤と石川にとっての「キス」はえっちに匹敵するくらい重要な意味を占めていた。

「私だって、よっすぃ〜の事が好きなの。付き合うなら100%私の事を見てほしい」
真っ直ぐな後藤の瞳を向けられ、吉澤は困惑した。しかしすぐに視線を落とす。
「ゴメン…。すぐには無理だよ。あと、さっきはゴメン。
 ごっちんの事、抱けない。抱いたら、最低な人間になる…」
吉澤は自分に言い聞かせるように言った。
「…それでもいいって言ったら???」
後藤は哀しげな眼差しで返して来た。
「ごっちんを、これ以上傷つける事は出来ないよ」
吉澤の目は優しかった。


「よっすぃ〜は、お人好し過ぎるバカだね。私の事なんかフッて、梨華ちゃんと元通りになれば一番簡単なのにさ。
…でも、よっすぃ〜のそんなところがたまらなく好きなんだけど」
そう言って後藤は吉澤の肩にもたれた。
「隠しておけるほど、私は器用じゃないし、梨華ちゃんも許さないよ、きっと」

「梨華ちゃんも真面目なんだ…」
「…うん。好きだったよ。もう過去形だけど」
吉澤は後藤の肩に手を回し、もう片方の空いてる手で後藤の両手を握った。
「明日はさ、二人でメチャメチャになろうか…」
「メチャメチャって?」
「色んな意味でさ」
後藤が意味ありげに言った。
「私が、よっすぃ〜のコト、抱いてあげる」
後藤は吉澤の首筋にキスをした。
「忘れさせてくれる自信あるの?」
「もちろん」
自信タップリに後藤は言った。
「楽しみだね…」
吉澤は夜空を見上げながら、石川のコトは既に遠い過去のように思えて来た。




−18−

翌朝、吉澤と後藤が揃って、楽屋に行くと、既に石川は来ていた。

「「おはよ〜、梨華ちゃん…」」
「おはよ。よっすぃ〜、ごっちん」
後藤はカバンを置くと、飲み物を買いに、すぐ席を外した。
石川は後藤が昨日と同じ服装であるコトを見逃さなかった。
不安が確信へと変わる・・・。

「梨華ちゃん良く眠れた?」
「う、うん。よっすぃ〜は?」
「私は、あんまり…」
実際、吉澤は、あまり寝ていなかった。あの後家に戻り、狭いベッドで二人は寝たのだが、吉澤は色々考えて殆ど寝付けなかった。
隣の後藤は良く寝ていたのだが。
「そうなんだ…」
(まさか、ごっちんと…)
二人が仲直りしていた事は、保田も今朝、石川から聞いていたが二人の微妙な空気を保田も感じ取っていた。
吉澤はよそよそしいし、石川も遠慮がちである。
(私の気のせいなら、いいんだけど…)


後藤がジュース片手に戻って来ると
「圭ちゃん、梨華ちゃんと水入らずで楽しんで来てね〜」
ニヤっとして言う。
「後藤、なに、その"水入らず"ってぇ〜!」
「別に深い意味はないよ」
舌をペロっと出す。
「後藤は、オフどうすんの?」
保田は何気なく聞いた。
すると、後藤は吉澤の腕を絡めて笑顔で言った。
「私もよっすぃ〜と二人っきりで過ごすの。ねぇ〜よっすぃ〜?」
吉澤は多少、顔を引きつらせながらも同意した。
「うん。そういうこと」


(そういうことって、どういうコトよ、よっすぃ〜?)
石川は、吉澤を見るが、まるで避けているかのように、さっきから決して石川の目を見ようとしなかった。
それに今までは、吉澤から、わざと後藤に抱き付いたり、腕を絡ませたりするコトがあっても、
後藤から吉澤に、そういうコトをするのを見た事がなかった。

「あんたたち仲良いのも、ほどほどにしなさいね。石川が妬いちゃうでしょ」
無言の石川を見て、保田はフォローしたつもりだったが
「圭ちゃんだってさぁ〜、梨華ちゃんと二人っきりで温泉じゃない。なんか、やらしいよ」
後藤に、そんな風に返されて保田は顔を真っ赤にさせた。
「ヘンなコト言うんじゃないよ!まったくぅー!からかうのもいい加減にしなさいよ」
後藤はケラケラ笑っているが、石川は黙ったまま席を立った。

「梨華ちゃん?」
「ちょっとぉ〜!石川怒っちゃったじゃないの!」
吉澤は、まだ後藤と腕を絡めたまま、ぼーっとしていた。
「吉澤!追いかけなさいよ!ホントに、あんたたち、どうなっちゃってるのよ?(怒)」
保田が、少々キレ気味で、吉澤にキツく言った。
吉澤は、渋々立ち上がると石川を捜しに行った。


石川はすぐに見つかった。
「梨華ちゃん…」
石川はすぐには振り向かなかった。
「ごっちんの言ったコト気にしないでね」
「…よっすぃ〜もヘンな想像してるの?」
「え?」
「保田さんと、どうにかなっちゃうって思ってるの?」
石川は振り向くと、涙目になりながら訴えて来た。
「いや、それは…」
初めて聞いた時から、そんな事が脳裏にかすめた事は事実だった。
「ごっちんと仲良くしてるのは、ソレの当てつけなの?」
「それは関係ないよ。だって……、もう、私はごっちんと付き合ってるし…」
石川は信じられないと言う顔で、吉澤を見つめた。

「梨華ちゃんと喧嘩してる最中に、ごっちんと親密になっちゃってさ。
 私から告ったら、ごっちんも受け入れてくれて。口げんかの元の"浮気"がホントになっちゃったヨ。
 だから、梨華ちゃんが保田さんと、どうなろうと私には、もう関係ないから…」
吉澤はヘラヘラしながら、一気に喋った。
「じゃぁ…昨日、なんで謝りに来たの?」
石川の声は震えていた。
「一応、謝っといた方がいいと思って。必要なかったかな」


バシっと乾いた音が突然すると同時に、吉澤の頬に痛みが走った。
「……最低だよ………」
石川は平手打ちをすると、泣きながら走っていってしまった。

「…っつ…」
吉澤は頬に手を当てた。徐々に頬が熱くなり、じんじんしてきた。
(ホント最低だ…。私って…)
あそこまで言うつもりはなかった。
気づいたら、わざと石川を傷つけるような事を言っていた。
(これで完全に嫌われたかな……)
どうせだったら完全に嫌われた方がマシだった。
これからの仕事に支障をきたすかも知れないし、飯田や保田に何か言われそうな気がしたが、それも一時的なものだ。
もともと、石川と組んで仕事をする事なんて、今までだって殆どなかったしソレが今までの唯一の不満であったが、
逆に今ではホッとしていた。




−19−

「バカだよ、よっすぃ〜は」
午前中の仕事を終え、後藤の家へと向かう途中で、また"バカ"と後藤に言われた。ここ1週間で何回言われてるんだろうか。

「そこまで言う必要なかったでしょ」
「そうだけどさ…。嫌われるには、それくらい言わないと」
「ウソつき。告ってないじゃん!それに親密にだって…」
「これから、なるじゃない。予告みたいなもんだよ」
「何それ」
「ごっちんは梨華ちゃんと、やりにくくなっちゃうね。ゴメン」
「それはいいけどさ…」

こうして吉澤と石川の仲は更に悪くなり、後藤の元に来た吉澤だったが何とも後味が悪かった。
(梨華ちゃんは何も悪くないのに…)
ライバルながら、石川の今後を考えると可哀相でならなかった。


吉澤が一番気がかりなのは、やはり石川の事だった。
午前の仕事も、ミス続きで、飯田に怒られていた。

保田には申し訳ないが、今、石川を慰められるのは保田しかいないと思っていた。
(任せたよ、保田さん…)
いっそ、保田とくっついてくれた方が吉澤も少しはラクなのかも知れない。
(みんな私のせい。保田さんとくっついたって私は何も言えないんだ…)

思い詰めた表情の吉澤を見て、後藤は明るく言った。
「パァーっと行こうよ、パァーっとさ。ひさぶりのオフなんだから」
「そうだね」
吉澤も努めて明るく言うと、後藤の家まであと少しの道のりを足早に歩いて行った。


「今日は誰もいないからさー、気兼ねなくくつろいでいいよ」
後藤の家に着き、後藤の部屋に入ると、後藤は荷物をどさっと置いた。
「いっつもくつろいでるよ」
吉澤は、適当に荷物を置くと、座った。
吉澤も後藤の家には何度か遊びに来ているが、特に気兼ねをした事はなかった。

「夕方くらいから渋谷に行こうか?よっすぃ〜ドンキホーテ好きだったよね」
吉澤は、ドン・キホーテや100円ショップと言った類の店に入るのが好きだった。
「そうだね〜。あとカラオケ行こうか!」
「カラオケぇ?」
「ごっちんの歌声好きなんだー。ヨシコの為に歌ってよー」
「う、うん。ちょいとシャワー浴びてくるね〜」
「ほーい」

吉澤は一人になると、石川の事を思い出した。
(今頃、梨華ちゃん電車の中かなぁ。私の事恨んでるかな。
 保田さんとうまくやってるかなー。メールでも打ってみるか…)
吉澤は携帯を出すと、保田にメールした。




−20−

移動中の電車の中で、石川は終始無言で、外の流れる景色を眺めていた。
保田は、声をかけられずに雑誌を見ていたが…。
(まったく、吉澤のヤツ、一体石川に何言ったのよ…)
石川が楽屋に戻って来た時から、様子がおかしかった。
そこへ、保田の携帯にメールが入る。

<<梨華ちゃんの事は任せました。 吉澤>>
(噂をすれば…。なんなのよ、任せるって!)
保田は席を立つと、デッキに立ち、吉澤に電話しにいく。


石川は、ずっと吉澤に言われた言葉を思い出していた。

(振られちゃったのかな。信じられないけど・・・。
よっすぃ〜は、もうごっちんの方が好きなんだ。
私の事をずっと好きだと思ってたのは自惚れだったんだ。
でも、昨日のよっすぃ〜もウソだって言うの?演技だったの?
あのよっすぃ〜は、本物だと思いたい…よ。)


石川は、今でも吉澤の言動が信じられなかった。
思わず石川は手を挙げてしまったが、自分の心も痛かった。
(あそこまで酷い事言わなくてもいいのに)
吉澤の行為は許せないものだったが、石川は自分にも落ち度があったのかと懸命に考えていた。
失った時に、気づく吉澤の大きな存在。
(もう、遅いんだね…。でも、今でもよっすぃ〜が一番好きだよ。
 もう一度話し合わないと)
石川は真意を確かめたかった。


保田は吉澤の携帯に電話をした。
【はぃ】
すぐに吉澤は出た。
『吉澤?今、メール見たんだけど、一体どういう事?』
【そのまんまなんですけど…】
『任せるってなに???』
【保田さんが梨華ちゃんに相応しいと思うんです】
『はぁ?』
保田は何を言ってるのか分からなかった。
【もぅ、切りますよ】
吉澤は一方的に電話を切った。
(まったく、任せるとか、相応しいとか、何を言ってるのよ吉澤は!)

保田は再び席に戻ると、雑誌を読み始めた。
石川は相変わらず外をぼんやりと見ていた。
いつまでも黙っているのも空気が重苦しいので、保田は思いきって話しかけようとするが、
いきなり世間話をするのも、なんだか白々しいので結局そのまま現地まで無言のままの二人であった。




−21−

後藤がシャワーから浴びて戻ってくると、吉澤はベッドにもたれて眠っていた。

(あ〜。昨日良く眠れなかったんだね…。私はガーガー寝ちゃったけど)
後藤は、タオルで髪を軽く拭きながら、吉澤の寝顔を眺めていた。
今までも、吉澤とはプライベートでも仲良かったので色々と遊びに出かけたりした事があったが、意識して見た事はなかった。
今も付き合ってる感じがしない。友達の延長と言うか、石川の事がなければ今まで通りの付き合いが続いていたのだろう。
自分の気持ちも気づかずに…。

「よっすぃ〜……。好き…」
後藤は吉澤の額にくちびるをつけた。
「梨華…ちゃん・・・」
寝ぼけて口にした吉澤の言葉は、やはり石川だった。
勿論、昨日の今日で吉澤が石川の事を忘れられるハズがなかったが後藤は、今も吉澤の心を独占している石川が羨ましかった。
吉澤を、ここで奪ってしまいたい衝撃に駆られたが、後藤は我慢した。
(よっすぃ〜とは、夜までおあずけ…)
後藤は、この後の事を、ちゃんと考えていた。


夕方近くまで吉澤は眠っていた。
「あ、私寝ちゃったんだ…」
そばで、雑誌をめくっていた後藤が顔を上げた。
「起きた?」
軽く吉澤は伸びをすると、後藤の方を向いた。
「ゴメン。眠くて、うとうとしちゃった」
「かなり寝てたけどね…」
慌てて時計を見て、吉澤がギョッとする。
「うわ〜。折角のオフなのに…もう夕方じゃん!」
「別にいいよ。よっすぃ〜の寝顔見れたし」
後藤が微笑んだ。
「恥ずかしいなぁ…」
(今まで、梨華ちゃんにしか見せてなかったのに。あ゛ごっちんにも見られてるか)
ずっと石川を基準にしてしまうクセがついてきてしまったので、このクセも直さないといけない。吉澤は苦笑いした。

「渋谷に行こうか」
「そうだねー」
二人は渋谷へと移動した。




−22−

渋谷に着くと、ドンキホーテに行き、色々と買い込み、カラオケへと入った。

「ごっちん、歌ってよ!”愛のバカやろう”」
吉澤は勝手に、次々予約を入れてしまう。

『愛のプライドなんて もう捨ててしまえ 時間は過ぎてく
嫌だよ サヨナラ I'm Crying Crying Crying
熱がある時だって Ah 悩んでたって あなたがいたから 生きてこれたのに
I Miss Everyday Everynight I'm Crying Crying Crying』

(なんか、今の私には、キッツイなぁ……。梨華ちゃんに歌われたら泣きそうだよ…)
吉澤は、またも石川の事を思い出していた。
後藤は手を抜かずに、きちんと歌ってくれた。

「やっぱり、うまいね〜。ごっちん…」
「当たり前っしょ。持ち歌なんだし」


「次は、プッチモニね〜。ベビ恋っ」

『こんなにこんなにこんなに 愛したことって まったくまったくまったく はじめて
 電話が電話が電話が1日12回
 メールもメールもメールも20回』

(そんくらいやったなぁ…。いや、それ以上かな)

『あなたに会って 変わった 強くなれた 気がする
 Baby! 恋は Endless!全てがあなた 夏になったって 止まんない!』

(止まっちゃったよ、わたしの恋・・・(涙)自分で止めたのか…)

「ちょっと、よっすぃ〜!さっきから私ばっか歌ってんじゃん」
気づくと、後藤がマイクを握りしめて吉澤を見ていた。
「あぁ、ごめん…」
「私のオンステージじゃないんだからさー、よっすぃ〜も歌いなよ」

この後、吉澤も適当に歌ったのだが、殆ど何を歌ったかも覚えていなかった。
それは、お酒のせいでもあるのだが…。


「なんでお酒飲ませるのよ〜。弱いの知ってるっしょ」
吉澤は後藤の肩に、寄りかかりながら、まだ酔いが回ってるらしくフラフラと渋谷の街を歩いていた。
「よし!休んでいこう」
後藤は吉澤の腕を掴むと、ホテル街へと入っていく。
渋谷区円山町と言えば有名なラブホテル街だ。
最初から、後藤は吉澤と入るつもりでいた。
わざと宿泊OKの時間まで、カラオケ屋で過ごしていた。

吉澤は後藤に言われるまま、ついていく。
後藤は適当に入ると中へ入った。
今は、女性同士でも入れてくれるところも多くなっている。
尤も、吉澤は深い帽子にサングラスをしていて一見男に見えなくもない。
適当に空いてる部屋のパネルを押すと、後藤はエレベーターに乗り込んだ。

(良かった。フロントレスのところで…。)
顔を見られると言う事もまずないと思うが、ここは精算から、全部オート式らしかった。
自らホテルに入った事がなかったので、後藤も少しドキドキしていた。




−23−

現地に着くと、保田は石川を誘って温泉へと入り、宿でくつろいでいた。
料理も、まずまずだったが、石川と会話が殆どないのが保田に取ってもツラかった。
(なんのために連れて来たんだか・・・)


「保田さん…」
「なに?」
食事の後もう一度温泉に入り、あとは寝るだけになった夜遅くに、やっと石川が口を開いた。
保田も無理に聞き出すのも、なんだと思い黙っていたのだが、正直ほっとした。

「わたし・・・振られたんだと思います…たぶん」
「えぇ?」

保田になら、話していいと思い、石川は、昼間、吉澤に言われた事や、喧嘩の発端になった話をポツポツ話しだした。
話を聞き終えて、保田は憤慨した。


「ちょっとそれ、吉澤が一方的に悪いじゃないの!(怒)
 帰って来たら、吉澤にガツンと私から言ってやるから!」
保田は、先ほどの吉澤の電話の意味がやっと分かった。
(任せるとか相応しいとか、一体、吉澤は何を言ってるんだ!!自分が良ければいいのか!)

「保田さん!」
怒っている保田を石川がなだめる。
「よっすぃ〜だけが悪いんじゃないんです。私にも悪いところあったんだと思うし」
振られたのに、吉澤の肩を持つ石川に、保田は少々腹が立った。
「石川は振られたのに、いいわけ?」
「よっすぃ〜の事、思わずひっぱたいちゃって。痛くなかったかな…」
「石川!あんた、振った吉澤の心配してどうするの!(怒)
 あんなヤツ、殴っても殴り足りないでしょ」
珍しく保田は本気で怒っていた。
(石川を哀しませるなんて、たとえ吉澤だって許せない!)

「ありがとうございます。保田さんは、やっぱり優しいですね。話をして良かった…」
「石川?」
石川は、そのまま保田の肩にもたれた。
「少し、このままでいさせて下さい…」
石川の肩が震えていた。
保田は石川の肩に手を置くと、暫くそのままの状態で黙って石川を抱きしめていた。


「保田さんの肩、あたたかかったです」
並べて布団を敷いて、灯りを消してから、石川が呟いた。
「いつでも私に言って。石川のコト、見てるから」
「保田さん、優しいし大人ですね」
「大人?」
「はぃ。私も保田さんのような大人になりたい」
「おだてたって、何もあげないよ」
保田は笑って言った。
「分かってますよ。また、誘ってくださいね。これに懲りずに」
「うん。分かった。おやすみ。石川…」
「おやすみなさい。保田さん…」

石川は、それからも考えていた。
さっき保田に身体を任せた時、そのまま保田とどうなってもいいと思っていたが保田は何もせずに、抱きしめてくれた。
ただ、それが石川には嬉しかった。




−24−

ホテルの部屋に入ると、吉澤は、そのままベッドへとうつ伏せに倒れ込んだ。
「あ〜。気持ち良い……」
後藤はすかさず、吉澤を仰向けにさせると、水を持って来て飲ませた。

ここで吉澤に寝られては、なんのために連れて来たのか分かったもんじゃない。
(別に、やる気まんまんって訳でもないけど…。)

「多少は落ち着いた?」
水を飲んで、少しは意識がはっきりしたのか、吉澤は部屋を見渡しギョッとした。

「ここ、どこよ?」
広いベッドに、部屋から浴室は丸見えになっている。
照明も暗くて、なんだかいやらしい。天井は鏡張りになっている。

「もしかして、ラブホテル???」
「うん・・・」
後藤が恥ずかしそうに答えた。
(今さら恥ずかしがるコトなんてないけど…)
「よっすぃ〜も来たコトあるでしょ?」
「私は一回だけ…。ごっちんは?」
石川と付き合い始めた頃、好奇心で一度だけ入った事がある。
「私も勿論あるよ。でも…」
「ん?」
「自分から入ったのは初めて・・・」
「あぁ、そうなんだ」
(そりゃそうか。女から誘うってのもねぇ…)


吉澤は手をついて、天井を見上げる。後藤と自分の姿が映し出される。
「えっちな気分になるのかなぁ。こんなんで…」
後藤も、足をブラブラさせながら天井の鏡を見る。
「盛り上がるんじゃないの?」
「そう言えばさ、ベッドって回転するのかと思ったらしないんだよね。
 つまんないって梨華ちゃんと笑ったなぁ…」
「それ結構前の話じゃないの?梨華ちゃんと行ったんだ…」
「だって、私、梨華ちゃんとしか付き合った事ないもん」
後藤は吉澤を軽く押し倒した。
「なんかさ〜、全然やらしい雰囲気にならないね。私たち・・・」
後藤は吉澤の上に乗ると、吉澤を見つめた。
「だって、ごっちんとは友達みたいなんだもん…」
「友達かぁ。その一線を越えたいんだけど、後藤は・・・」
そう言って、後藤は吉澤のくちびるに自分のくちびるを重ねた。
「まだ、お酒くさいでしょ」
「お酒の味は、よっすぃ〜の味だよ」
後藤は、吉澤の服を脱がしにかかった。
しかし、吉澤はその手をどけると「先にシャワー浴びてくるよ」と言って、浴室へと行ってしまった。


(なんか、やっぱ緊張するなぁ。ガラス張りだから、丸見えだし…)
シャワーを浴びながら、何気なく、ベッドの方に目を移したが後藤の姿が見えなかった。
あれ?っと思った時には、後藤も浴室に入って来ていた。

「きゃ!」
慌てて後ろを向く吉澤に後藤は
「なにを今さら…」
と言って、吉澤を座らせるとボディシャンプーをスポンジに塗りたくる。
確かに、今までだって後藤と一緒にお風呂やサウナに入った事はある。
しかし、意識した事はなかったので平気だったのだが、今日は違う。
「洗ってあげるよ」
「うん」

いっぱい泡立てると、吉澤の全身を泡だらけにさせて、後藤が洗い始めた。
最初は、スポンジでこすっていたのだが、いつの間にか後藤の手が吉澤の胸の辺りに伸びていて、円を描くようになぞっていた。
(ごっちん、そんな事されたら・・・)
吉澤は、思わずビクっとなるのを後藤に気づかれないようにしながら黙ってされるままになっていた。
しかし、先ほどから、後藤の胸の先端が、必要以上に背中に当たり気持ち良い気分にもなっていた。


「ご、ごっちん…」
やっとの思いで、吉澤は言うと
「あとは自分でやるから、いいよ…」
これで、下の部分まで責められたら、吉澤は、どうにかなってしまいそうだった。
いや、すでにどうにかなっていたのだが…。
しかし、後藤がここで止めるハズもなく
「まだ、これからじゃない…。それに、よっすぃ〜のココも、まだ洗ってないよ…」
後藤の手が下の方に伸びて来た。
「ひゃぁ…」
思わず吉澤は声をあげてしまい、ビクっとしてしまった。
「よっすぃ〜、やらしいなぁ。もう、こんなになってる…」
後藤は嬉しそうに言うと吉澤を振り向かせてキスをした。
「嬉しいよ。感じてくれてるんだ…」
キスをしながらも、後藤の指は吉澤のソコを刺激していた。
「はぁぁ…。ダメだよ、ごっちん……ハァ…ハァ」
吉澤の呼吸は、すでに少し荒くなっていた。


「本当にダメなの?よっすぃ〜のココ、凄く大きくなってるよ…」
後藤は吉澤の大きくなった下の突起を今度は優しくなで回した。
「ダメ、ごっちん…、もぅ、イきそう……」
吉澤は、後藤にしがみついた。

普段の吉澤なら、このくらいではイかないのだが、とにかく久しぶりな事もあって
身体が敏感になっていたのであろう、すぐにイきそうになってしまった。

片手で吉澤を支えながらも、後藤は指の動きをやめなかった。
「よっすぃ〜、凄くやらしい顔してるね。カワイイよ」
後藤は言葉責めをしながら、更に指の動きを早めた。
「あぁ…ん、はぁ・・・あ、もぅダメだよ、ごっち…ん……」
「まだダメだよ…」
後藤は更に刺激しながら、指を挿入した。
すんなり吉澤の中に入ると、後藤はゆっくりと指を動かした。
「んぅ…」
吉澤のザラザラした感触が後藤の指を刺激する。


「よっすぃ〜のザラザラしてて気持ち良いよ」
「ぃゃ…。恥ずかしいよ…。お願いだから、もうイかせて…」
懇願する吉澤の顔を見ていると更に後藤はいじめたくなったが
「分かった。イかせてあげる」
そう言うと、後藤は吉澤の胸を揉みながら、吉澤のそこを指で激しく動かした。
吉澤は背中を少し反らせると、あっと言う間にイってしまった。

「もう、よっすぃ〜ったら、いやらしいんだから…」
泡にまみれて、吉澤の中から出て来たぬるぬるしたモノを後藤は手に取るとわざと吉澤に見せる。
「やめてよー。恥ずかしいな…」
吉澤は顔を覆った。
「いいじゃん。二人っきりなんだから、楽しもうよ」
後藤は満足げに言うと、吉澤の身体を洗い流した。




−25−

バスタブに浸かっても、後藤の攻めは続いた。
浴室から出て来た時点で、既に吉澤は既に何回もイかされグッタリしていた。
(ごっちん、すごい。ほんとに初めてなの?…)
吉澤は久しぶりのえっちで、かなり萌えていたが同時に後藤のテクニックにも驚いていた。
ほどなくして、後藤も出て来ると、ベッドに滑り込む。

「まだまだ、これからだよ…」
吉澤の耳元で囁くと、後藤は手をすぐ下に這わせた。
「もぅ、濡れてるじゃん…」
後藤はニヤリとして、顔を下へと埋める。舌でソコをつつくと、吉澤の身体がしなった。
「ごっちん……」
吉澤は切ない声を漏らす。
「よっすぃ〜。凄くカワイイよ…。大好き」
「ぁあぁん…」
吉澤のよがる声を聞きながら、後藤は更に興奮した。
何度目か、またイかされて、吉澤の身体は汗と愛液でベトベトになっていた。


シャワーを浴び終わると、吉澤は
「今度は、私がしてあげるよ」
そう言って、後藤を押し倒した。
「いぃよ。今日はよっすぃ〜を満足させたいから…」
「ごっちんも、してないんでしょ?えっち…」
吉澤は、後藤にキスの嵐を降らせる。
「う、うん…」
後藤は吉澤の背中に手を回した。
後藤の胸をしゃぶりながら、指は胸の蕾をゆっくりと撫でる。
既に蕾は固く立っていた。
「ごっちんも、カワイイよ…」
指で摘みながら、吸い付くと、後藤は小さく声を上げた。
「あぁ…ん」


吉澤は向き合って座ると、後藤の胸に口を這わせながら後藤のあそこも指で這わす。
「ごっちんだって、もう濡れ濡れじゃん…。えっち」
吉澤は勝ち誇ったような顔をすると、後藤のあそこに指を挿入する。
「おいしそうだよ、ごっちんのラブジュース…」
吉澤は、あそこに顔を近づけると、後藤の溢れ出るジュースをおいしそうにわざと音を立てて飲み込んだ。
そのいやらしい音に、更に興奮する吉澤は、ますます萌えてしまった。
「ごっちんのコト、ぐちゃぐちゃにしたい…」
吉澤は再び、指を入れると、ピストン運動を繰り返した。

その後、吉澤は狂ったように後藤を抱いて、何度もイかせた。
そして、二人の熱い夜は何時間も続いたのだった。


朝、吉澤は目を覚ますと、隣りで寝ている後藤を起こさないようにシャワーを浴びた。

皮肉な事に、後藤と身体の相性は、かなり良かった。
いや、久しぶりだったからかも知れないが、吉澤はかなり満足していた。
行為の最中は、石川の事は完全に忘れていた。
しかし、心は全部は満たされなかった。
(どこかで、梨華ちゃんを求めてる・・・)
こんな気持ちで後藤を抱くのは罪悪感があった。
ただ、後藤の事も少しづつではあるが、愛し始めている自分にも気付いていた。
(私は、どうなってしまうんだろう…。もう後戻りは出来ないけど…)
ふとした瞬間に思い出すのは、やはり石川の事である。
(昨日は、梨華ちゃんも保田さんに抱かれたのかな…)
想像するだけで、胸が痛くなるが、自分だって後藤と初めてなのに数え切れないほど、してしまった。
(梨華ちゃんの事は忘れなきゃ…)
しかし、忘れようにも同じメンバーで毎日のように顔を見合わせていると忘れる事なんて出来なかった。
(でも、また同じメンバーとして見ないといけないんだよね。自分がそうさせたんだから…)


「よっすぃ〜?」
後藤に急に呼ばれて、慌てて振り返った。
後藤は吉澤に抱きつく。
「どうしたの?」
「起きたら、よっすぃ〜が隣りにいなかったから…」
「私は、ここにいるよ?」
「ずっと後藤の側にいてね」
「もちろん」
吉澤は後藤を抱き締めると優しくキスをした。




−26−

吉澤は、石川に呼ばれて、指定された駅に来ていた。
あの後、石川からメールで呼ばれたのだ。
後藤を説得するのに、時間がかかったが、なんとか納得させて後藤とは別れて来た。
後藤は夕方から仕事が入っており、もともとそんなに一緒にはいられなかったのだが。

ふいに肩を叩かれて、吉澤は振り返った。
「よっすぃ〜、ちゃんと来てくれたんだ」
少し石川は嬉しそうだった。
「う、うん…。どこ行くの?」
「私の家」
「だったら最初から、そう言えばいいのに…」
「最初から家にしたら、よっすぃ〜来てくれないかと思って」
「・・・」
確かに、家に呼ばれたら、後藤から反対を受けたかも知れないし吉澤も躊躇したかも知れない。


石川の家に着くと、吉澤も続けて入った。
遠慮がちに玄関で立っていると、石川が苦笑いした。
「あがってよ。前は自分の家みたいにしてたのに・・・」
「うん・・・」

吉澤は帽子とサングラスを外すと、居間に座った。
(なんか、落ち着かないなぁ…)
昨夜、後藤とやりすぎたせいか、あんまり寝ていないので、また寝不足だった。
(このまま寝てしまいそうだよ…)

「梨華ちゃん、帰ってくるの早かったんだね」
無難なところから話を持っていった。
「うん。保田さんには悪かったけど先に帰って来ちゃった」
「そうなんだ。楽しかった?」
昨日、自分から酷い言葉を投げつけておきながら、楽しかったもないもんだ。
自分で言って、吉澤は愚問をしたと後悔した。
「保田さん優しかったから、行って良かったとは思ってるよ」
(優しかった・・・)
その言葉に、吉澤は軽い嫉妬を覚えた。
「よっすぃ〜だって、ごっちんと一緒だったんでしょ」
「まぁ…ね」
後藤の話はしたくなかったので、吉澤は曖昧に答えた。


「昨日、考えたんだけど・・・」
「うん」
「私って、よっすぃ〜に振られた訳だよね」
「・・・のつもりだけど・・・」
(つもりってなんだよ。歯切れ悪いな、自分・・・)
吉澤は俯いた。

と、石川が吉澤の頬に手を触れた。
「痛くなかった?」
昨日の事を言っているらしい。丸一日経っているのに・・・。
石川に軽く頬を撫で回されると、何故だか急に吉澤はドキドキしてきた。
(悪いのは私なのに、心配してるの?梨華ちゃん)

「よっすぃ〜、私のコト、嫌いになったの?」
じっと見つめる石川に吉澤は視線を外せなかった。
「・・・」
(嫌いになるハズなんて、ないよ。絶対・・・)
「私は、よっすぃ〜のコト、今でも大好き。
 保田さんにも言ったけど、やっぱり失いたくないものってあるよね。
 でも、ごっちんのコトも好きなんて許せないよ、やっぱり」
そう言うと、石川は吉澤に顔を近づけてキスをした。
抵抗すれば、避けられたのに吉澤は敢えて抵抗しなかった。
「私は、よっすぃ〜と別れないから」
くちびるを離すと石川は、そう言った。




−27−

(別れない???じゃぁ、なんで私は、わざわざ梨華ちゃんに酷い事を言って、傷つけたのか。
無意味だったんだ。一体なんだったんだ!)
吉澤は、取り乱していた。

「なんで驚くの?…やっぱり別れたかったの?」
石川の今にも泣き出しそうな顔に、吉澤は慌てて否定した。
吉澤は、この顔に弱いのだ。すっかり、石川のペースに呑まれていた。
「別れたくないけど、でも・・・」
そう言って、慌てて口を押さえたが、既に遅かった。
(つい本音を言ってしまった!はぁぁぁあ。吉澤最悪の事態でございます…(涙))
石川はニヤリと笑うと『やっぱり』と一言言った。
(やっぱりって、騙された!ちっ。くそー梨華ちゃん・・・やられた)
吉澤は下を向きながら、舌打ちをした。


いつもそうなのだ。吉澤は基本的にウソをつく事が出来ない。
それを簡単に石川に見抜かれてしまう。今回だって…。
浮気が発覚して、小さくなって弁解出来ないでいる旦那の気分だった。
勝ち誇った石川の顔が浮かんだ。

昨日の夜までは石川はかなり落ち込んでいたが、夜な夜な吉澤の今までの傾向と対策を考えて、石川が出した結論だった。
(ホントよっすぃ〜って分かりやすいんだから…)

しかし、吉澤も負けてはいなかった。(既に負けているのだが)
「梨華ちゃんだって、保田さんと〜!」
「保田さんと何よ?何かあったとでも言いたげね。何かあった方が良かったと思ってるんでしょ?
 私はよっすぃ〜と違って、おいそれと寝たりしないんだから!」
凄い剣幕でまくし立てているのだが、石川のアニメ声では、迫力がなかった。
しかしながら、石川の言っている事は最もなので(一部引っかかる部分はあったが)
吉澤は言い返せないが保田と何もなかった事を知り、吉澤は安心した。
「安心した?」
まるで、吉澤の心を読んでいるかのように、タイミング良く石川が言った。


「これからどうするの?」
問題はこれからなのだ。後藤と関係を持ってしまったので、ますます複雑になってしまった。
今までは、石川と吉澤の2人だけの問題であったがこれからは、後藤も含めて3人の問題になってくる。
吉澤の心はたちまちブルーになった。
そう、トライアングル・ブルーの始まりだった。


第2部に続く


 

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