エロ系小説 真希×ユウキ

「あーシャンプーが切れてるよ。ちょっとお母さん!シャンプー取ってくんない!」
真希が風呂場の中から声をあげる。
「今母さんいねーよ!」
テレビを見ながらユウキが外から叫ぶ。
「じゃあ、ユウキ取ってくんない!」
「えー俺がかよ。しょうがねえな。」
ユウキはしぶしぶ立ち上がって風呂場へシャンプーを持っていった。
「持ってきたぜ。」
「ありがと。」
 そういって真希が風呂場の戸を開けて手を伸ばす。タオルで前を隠してるものの、申し訳な
い程度で、右半分の胸は丸見えであった。
 思わぬ姿に、たまらずユウキは真希の後ろに視線をそらした。
「ん?どうかした。」
「何してんだよ。風邪引くぞ。」
「あ、そうだね。あはは!」
 真希はそういって戸を閉めた。
 ユウキは黙って部屋に戻り再びテレビを見るもののそれには全然意識はなかった。
 (真希ちゃんいつの間にか胸がでかくなってたんだな…)
 もう一度真希の風呂場の姿を思い出したが、はっと我に返り思わず頭を振る。しかし、何度
忘れようとしてもその時のシーンが頭によぎる。
 昔は真希とユウキはよく一緒に風呂に入ってたものでユウキも真希の裸は見慣れたものだった。
しかし、大きくなるに連れて次第に一緒に入ることもなくなり久しく真希の裸はお目にかかってな
かった。中学に入った頃の真希はお世辞でも胸は大きくなかった。よくユウキは真希をペチャパイ
とからかっていた。しかし、ここ最近はめっきり女性の体に成長し、服の上からでも胸のふくらみ
ははっきりわかるまでになっていた。血のつながった姉の体のことなので大して気にもとめてな
かったが先ほどの風呂場で直にまざまざと見せられると考えずにはいられずにいた。



「おいユウキ昨日テレビでお前の姉ちゃんまた出てたよな。すげーな。ところで今日学校きてる
 か?」
「今日はいねーよ。」
「何だ、ちぇっ!だったらさ、今度会わせてくれよ。」
「あんまし事務所の人にむやみにそうしないでくれって頼まれてるから無理だよ。」
「何だよけちくせー。それなら姉ちゃんのパンツくれよ。」
「馬鹿やろ!何でそんなことしなきゃいけねえんだよ!」
「おいおい怒るなって、冗談だよ冗談。それにしてもいいよなー。あの姉ちゃんと毎日同じ
 屋根の下で暮らしてるんだろ。」
「何いってんだよ。何で実の血のつながった姉と一緒に暮らして喜ばなくちゃいけないんだ
 よ。大体あんな女のどこがいいんだよ。」
「お前は一緒にいるから姉ちゃんの良さにきづいてないんだよ。」
「だから俺と姉ちゃんは兄弟だって!なんで兄弟で好きにならなくちゃいけないんだよ!」
「お前、血つながってんだよな…。だったらキス…」
「馬鹿!気持ち悪いんだよ!このホモ野郎!」
 真希がモーニング娘。でデビューしてからはこんな調子で学校の友達からしょっちゅう真希
のことで話をもちかけられた。その度にユウキは呆れていた。確かに家での真希のだらしない生
活ぶりを見てたら呆れるのは無理もない。部屋の汚さが真希の性格をそのままあらわしていた。
そりゃ、顔はかわいいかもしれないが、性格が悪いのはテレビでも明らかだし、がさつでだらし
なくて男みたいな真希のどこがいいのだろうか?女性上位の後藤家ではどうしてもユウキの肩身
は狭かった。何かあるたびユウキはこき使われる毎日であった。そのせいかユウキの好みのタイ
プは真希とは正反対のおとなしく控えめなお嬢様タイプの女の子であった。ちょうど同じモーニ
ング娘。のメンバーの中でもユウキの一番のお気に入りは石川であった。だから世間では石川が
目立たず、身内で姉であることを差し引いても真希が一番脚光を浴びてるのも理解できなかった。



 そういうこともあってかユウキは今まで真希を女として見ることはなかった。
実の姉で一緒に暮らしていて、さらに男みたいな性格である。女としてみろとい
う方が無理な注文であったといえばそうであった…
 風呂場の真希の姿を想像する。体を洗う真希。首から徐々に下の方を洗ってい
く。ふくよかな乳房にを、乳首のほうまで入念に洗う。そして腹からへそ、そし
て大事な秘部のところに指がかかる。体を洗う手をとめて指でそこをいじりだす。
快感に浸り思わず声をあげる。次第に濡れだす膣。ついにはいってしまいぐった
りする真希。
 真希が風呂場でオナニーをする姿を想像してユウキの股間が次第に膨れ上がって
きた。
「……って馬鹿か俺は!実の姉だぞ!」
思わず右手で自分の頬をしばく。」
「あんた何してんの?」
後ろを振り向くと真希がバスタオルを体に巻いて立っていた。
「あ、ああ虫がいたから…」
 驚きのあまりユウキの声が上ずる。
「そうなんだ。」
風呂上がりの真希の体から湯気が立ち上がり、顔はほんのりとピンク色に染まっ
ていた。
 バスタオルの裾からムチムチとした太ももが惜し気もなくすらりと出ている。思
わず目がいってしまう。
「どしたの?顔が赤いよ。熱あんじゃないの?」
「大丈夫だよ!それより何だよそのかっこう!ちっとは女らしくしとけよ!」
「今更何でそんなこというんだよ。別に今までもずっとこうだったでしょ。」
「とにかく!そんなんだからパンチラ写真撮られるんだよ!学校で恥ずかしい目に
会うのは俺なんだぜ!」
「別に見せても減るもんじゃないし見たいやつは勝手にしておけばいいじゃん。何
怒ってんの?せっかく心配してあげてるのにもういいよ!」
 そういって真希は部屋を出て行った。
「何一人で勝手に舞い上がってるんだ、俺は…」
 


ユウキは意外であるかもしれないが童貞であった。決してもてないわけでない。
真希に似て綺麗な顔立ちをしているユウキは、むしろ常に学校でも目立つ女子の憧
れの存在であった。女子に告白されることは珍しいことではなかった。当然何人か
と女の子と付き合ったことはある。しかし、ユウキの好みは控えめなおとなしい子
であったせいかどうしても奥手な女の子ばかりと付き合っていた。中学生というこ
ともあり、奥手な女の子はセックスを拒みがちである。ユウキも無理矢理にするわ
けにはいかず、うまくセックスに持ち込めないまま終わってしまうパターンばかり
であった。キスはしたことはあるが、唇を軽く触れ合う程度で舌をいれるディープ
キスなんかはもってのほかだった。当然、下はもちろん胸さえも触ったことはな
かった。
 ユウキもごく普通の中学生同様毎日セックスに憧れ妄想し、自慰行為にふける
毎日であった。
(確かに俺の姉はモー娘。の一番人気の女の子だ…)
(顔も確かに普通の女の子に比べたら全然かわいいんだよな。俺の今まで好き
になった女の子なんか真希ちゃんと比べると大しことないといえば大したことな
いんだよな…)
(普通の男から見ると俺ってたしかにうらやましがられるよな…)
 その夜は悶々として眠れなかった。



 次の日学校から帰ってきたら真希が居間で寝ていた。珍しく今日は仕事がない
ようだ。
 真希はいつも家ではもっぱら短パンにブラもつけずにシャツ1枚というかっこ
うであった。外でも眠くなれば場所も気にせずどこでも寝る癖は家では当然のよ
うに同じであった。
 気持ちよさそうに毛布もかけずに大の字になって寝ている。シャツが小さいの
かへそが丸見えであった。
「全くこれでも女かよ…」
 そういいながらもユウキは毛布を取ってきた。
「ううん・・」
 真希が寝返りを打ち横向きになった。短パンから真希の白いパンツがちらりと
見える。慌ててユウキが毛布をかける。
 そして真希の寝顔を見つめた。寝相は悪いが寝顔自体はとても穏やかであった。
きちんと口も閉じて静かな寝息を立てていた。家であるためか全くの警戒心のな
い寝顔であった。もっともテレビで見た、楽屋で寝ていた真希も家のように眠って
いたが…
 ふと真希の唇に目がいった。少し厚めの唇が艶やかに光っていた。姉とはいえ
少しなまめかしいものであった。ユウキはそっと真希の唇に指を当てた。
(うわ、柔らかい…)
「あは…あはは…」
 突然真希が笑い出した。ユウキは焦って後ろへ退いた。よく見てみるとただの
寝言のようであった。
「焦った…それにしても気持ち悪い寝言だな…」
 ユウキは自分の部屋に戻った。真希の唇に触れた指を見つめた。そしてその指
を自分の唇に当てた。
(これって間接キスだよな…)
 小さい頃はふざけて真希と抵抗なくキスもしていた。今さらとバカバカしく思
いながらも胸の高鳴りを抑えることはできなかった。



 数日後。
 学校から帰ってくると誰もいなかった。いつものようにカバンを自分の部屋に
置いて着替える。真希の部屋の前を通りかかった。部屋の戸は開いていた。部屋
の前で立ち止まり部屋を覗き込む。突然ユウキの頭の中で真希の部屋に入る好奇
心と、それを抑える理性が葛藤した。ずいぶん悩んだがとうとう好奇心には勝て
なかった。
(誰もいないからばれないよな…)
 ユウキは廊下に誰もいないかを確認して中に入った。
「うわ、相変わらずきったねー部屋。」
 物が散乱としていて足の踏み場を探すのにも苦労した。散らかっている机の上
を物色する。一冊の黒いノートを見つけて手にとって開いてみた。
「『真希の黒い日記帳…○月×日。今日ブタと一緒に風呂に入った。腹を見る
と3段にたるんでいた。自分のお腹をつまんでみる。ブタほどではないがぶよぶ
よしていた。やっぱりここんとこ太ったせいかもしれない。やっぱダイエットし
なくちゃ。とりあえず1日7食を5食に減らそうと思う。…』…なんだこの日
記…これ以上読まない方がいいかもな…」
 ノートを元の場所に戻す。
「一応太ったことは気にしてるんだな…」
 あたりを見回すと真希のタンスが目に入った。
「見るだけなら問題ないよな…」
 真希のタンスを開ける。下着がいっぱい詰まってあった。いけないと思いつつ
も純白のパンツ1枚を取り出した。ユウキはその臭いを嗅ぎだした。
「何かすげーいい匂いがする…1枚くらいならばれないよな…」
 ユウキは脱兎のごとく部屋からパンツを持って、出て行った。



「こんなの持ってきてどうするんだ…」
 ユウキは自分の部屋で真希のパンツを見つめていた。真希のことを色々想像し
ていた。真希が着替える姿、真希がシャワーを浴びる姿、真希が自分の部屋でオ
ナニーをする姿、真希が男から服を脱がされる姿、真希が男の肉棒をしゃぶる
姿、真希が愛撫であえいでいる姿、真希が男と一つになる姿…
 ユウキは自分が勃起していることに気がついた。自分の股間に手を当てる。
「何で立つんだ…」
 色々とあれこれ想像しだすととまらない。落ちつかせようとするがかえって暴
走するばかり。
 無意識にズボンとパンツを下ろしだし、自分の陰茎を握りしめ、そのままオナ
ニーを始めた。ユウキのしごく手が段々と早くなる。
「う、ううう…」
 いきそうになった。しかし、手元にティッシュがないのに気づいた。ユウキは
たまらず、そのまま真希のパンツに向けて射精した。
「はあ、はあ…やっちまった…」
 息を荒げながらユウキは自分の精子でどろどろになった真希のパンツをみつめ
ていた。
「なんか俺やばくなってきた…」
 この日を境にユウキは初めて真希を姉ではなく女として見るようになった。真
希のことを姉ではなく、女として好きになった自分の豹変に戸惑いも感じずには
いられなくなった。真希を抱きたいとも思ったが、一線を越えることにはさすが
に抵抗はあった。
 それからユウキは隙があれば真希の部屋に忍び込んでは色々な物をあさってい
た。真希の日記帳や、アルバム、服に下着。最初はびくびくしながらやっていた
が、回数を重ねるごとに慣れてきたせいか、大胆に真希のベッドに寝転がって自
慰行為にふけることもあった。



 その日は学校から帰ってきて家に誰もいなかったので当然のように真希の部屋
に忍び込んだ。ベッドに真希の制服が置いてあった。どうやら今日は学校から一
度家へ帰ってからまたでかけたようだ。
 真希の制服を手に取り、臭いを嗅ぐ。香水の残り香が神経をくすぐる。ユウキ
は真希の制服をベッドに広げ、自分の体をうつ伏せに制服の上に置いた。こうし
ていると真希の上に乗っかっているような感覚が湧き起こる。ユウキは激しく興
奮して、ズボンを下ろした。そして、自慰行為を始めた。その時であった…
 「もう!なにしてんの!」
 ユウキが後ろを振り向くと真希が立っていた。慌ててズボンを上げようとする
がうまくいかず、自分の陰茎をチャックで挟み込んでしまう。
 「イタ!」
 ユウキはベッドから転げ落ちてしまった。
 真希はつかつかとユウキに近づき思い切ってユウキの腹を蹴り飛ばした。
 「最悪!」
 ユウキはあまりの痛さに声をあげることもできずもがき苦しんだ。ユウキはお
そるおそる真希の顔を見た。自分の部屋に勝手に入られて、色々されたのである。
当然怒っているようであった…



 「あのさ…これには色々と理由があってその…」
 「いい訳はいいよ!まったく…最近下着が色々なくなったりノートを置いてい
たとこが違ったりしたから変だなとは思ってたんだよね。ひょっとして私のファン
のストーカーが忍び込んだんじゃないかって心配してたんだけど。そんでさっき
帰ってみると部屋から物音が聞こえるからのぞいてみると、まさかユウキだった
とはね…何でこんなことしたの!」
 真希が口をとんがらせ、頬を膨らませる。
 「え、いやその…」
 「私の制服でオナニーまでしてんじゃないわよ!そんなにたまってたの!?あ
んた彼女とかいたでしょ!」
 「だ、だってよ…中学生だとそう簡単には…」
 「だからって姉ちゃんの部屋をあさるわけ!」
 「ご、ごめん!」
 「もう!お母さんにいいつける!」
 「ちょ、ちょっとそれだけは勘弁してよ!」
 部屋を出ようとする真希をユウキが引きとめようとする。一家を女手一つで育ててきた母である。当然甘やかすことはせずに、厳しい母親であり、ユウキだけではなく、真希を含め兄弟姉妹みんなが恐れる存在であった。そんな母に告げ口をされたらどんな目に会う
か…。
 「もう!はなして!」
 「お、お願い!何でも言う事きくからさ!ねえ、真希ちゃん!」
 「ほんとに?」
 さっきまで怒っていたのが嘘のように、きゅうに笑顔になりいたずらっ子の顔
をしてニヤニヤしだした。一瞬で豹変した様子が逆にユウキにとっては怖いもの
を感じた。
 「ふふふ…いいよ。黙っといてあげる。その代わり何でもいうこときくんだよ。」
 「う、うん…」
 ユウキは母親に告げ口されないためとはいえ、とんでもないことを口走ってし
まったと後悔した。



 「じゃあ、パンツ脱いでオチンチン見せて。」
 「ちょっとそれは…」
 「何でも言うこときくっていったじゃない。」
 「そうだけどさ…」
 ユウキはしぶしぶパンツを下ろした。
 「手もどけて。」
 「恥ずかしいよ…」
 「じゃあ、お母さんにいいつける。」
 「わ、わかったよ!」
 ユウキはかんねんして、股間を隠している手をどけた。
 「じゃあ、ベッドに横になって。」
 「え?」
 「早く。」
 「う、うん…」
 ユウキはベッドに横になった。その上に真希が四つんばいになった。
 「な、何すんの?」
 ユウキはただひたすら焦るばかりだった。
 「まったく…素直にいえばいつでもしてあげるのに。」
 真希はユウキの唇にキスをした。ユウキは突然意表をつかれた驚きのあまり身
動きがとれず全身ガチガチになった。
 真希がユウキの口に舌をいれてきた。ユウキも舌を動かし真希の舌と絡めだした。
 (にゅるにゅるしてて気持ちいい…)
 静かな部屋でただ舌を絡める音だけが響く。唾液がぴちょぴちょと音を立てて
いるのがいやらしい。濃密な長いキスの後、ゆっくりと真希が顔をあげた。真希
の口とユウキ口の間には少し粘りっ気のある唾液が糸を引いていた。
 「なんかユウキにキスすると顔が似てるから自分にしてるみたいで変だね。
シャツ脱がしてあげるから腕あげて」
 ユウキは真希のいうままにした。
 真希がユウキの耳元で囁く。
 「今から気持ち良くしてあげる。」
 真希がユウキの耳に息を吹きかけ、耳の穴に舌を入れ、耳たぶを唇ではさむ。
 「はあ…」
 ユウキが全身を震わせる。
 真希はユウキの乳首をなめだした。
 「ま、真希ちゃん。くすぐったいよ。」
 ユウキは男の乳首には普通は性感帯はないものだということは知っていた。乳
首をなめられこんなに感じて興奮することに違和感を感じていた。


 乳首を舐めてる間、真希の胸が服の上からユウキのペニスに何度もこすりつける形になって
いた。落ち着いて改めて真希の着ている服装を見た。いつもどおりだがキャミソールにミニス
カートという実に露出の激しい服装である。くっきり見える丸みを帯びた肩のライン。胸の谷
間。真希は意識しなくともユウキにとっては挑発的なかっこうである。キスの間にユウキのペ
ニスは激しく勃起し、血管が浮き出ていた。ユウキの息も次第に荒くなっていった。
 真希の舌はだんだんとユウキの体の下の方へ向かって這っていった。ついにユウキのペニス
に舌がたどりついた。
 「わーかわいい。まだカムッテんだ。」
 「やっぱやばい…?」
 「大丈夫だって。こうすれば…」
 「いたっ!」
 真希がユウキの亀頭の皮を下のカリ首にまで強引に剥いた。
 「ほら。」
 真希は剥いたあとの亀頭を舌先でツンツンと突付く。
 「ま、真希ちゃん…やばいってそれ以上は…俺達兄弟でしょ…」
 「いいじゃん、細かいことは。気持ちいいでしょ?」
 真希はユウキの熱く煮えたぎった肉棒をしごきだした。
 「う、ううう…気持ちいいけど…はあはあ、だけどさ…」
 今までに味わったことのない快楽に身を委ねながらも、わずかに今の相手は姉であるという
理性が残っていた。
 真希が肉棒を握りながらしごいていた手をとめる。



 「ねえ、ユウキって女の子とこんなことするの初めて?」
 「そ、そうだけど…」
 ユウキは息を荒げながらもなんとか答える。
 「じゃあ、この際だから色々経験しちゃおうよ。」
 「真希ちゃんはあるの…?」
 「私?あるよ…」
 「誰?」
 「嵐の二宮君。その時はまだジュニアだったけど。」
 「そうだったんだ。」
 真希と二ノ宮が付き合ってるという話はよく耳にした。実際になんとなく付き
合ってるのは感づいていた。しかし、モーニング娘。に入るちょっと前には別れ
たようだ。
 「どうだった?」
 「どうにもこうにも最低。いきなしほとんど強引に押し倒してきたの。それが
初めて。その後にも何度かしたけど、自分勝手で自分がイクことばかり考えてガ
ツガツやって全然優しくないの。やる前はかっこよくて憧れてたけど幻滅してね。
最後にやってる途中チンポを思い切って噛んでやって、そのままほっぺたしばい
てこっちからふってやったんだ。相当痛がってたよ。ひょっとしたらまだ噛んだ
傷が残ってるかもよ。相当思い切って噛んでやって血も出てたから。向こうは自
分からふったっていいいふらしてるみたいだけど誰も信じてないみたい。いい気
味だね。他のジャニーズの人もそういう人多いみたい。だからもうジャニーズは
全然興味ないし、連絡もとってないよ。なのになんでジャニファンのやつは私の
ことを色々言うんだろうね。嫉妬するんだったら自分が付き合えばいいのにね。
あはは!」
 「その後は?」
 「ないよ。そこまで私はすいらんじゃないもの。」
 「すいらん?淫乱じゃないのか?」
 「そうだった。あはは!」



 真希は再びユウキの肉棒をしごきだした。しごきながら、玉袋を舐めだした。
 ユウキは目をうつろに真希をみつめ、口を小さく空け、ただ息を荒く吐くだけ
であった。
 真希は舌でユウキの裏筋を舐めだし、カリ首のまわりを舐めだした。そして亀
頭の先をベロベロと舐めだし、亀頭の先の割れ目を舌先でコチョコチョと舐めた。
 「さっきからガマン汁がどんどん出てくるよ。」
 真希は舐めながらとうとうユウキの肉棒を咥えた。
 「ああ…・」
 この時、ユウキの理性はすべて吹っ飛び、ただ真希の舌技に酔いしれ本能の
ままに快楽に浸りだした。
 「きもひいぃ?(気持ちいい)」
 真希が咥えながら話す。」
 「す、すごいよ真希ちゃん…何か変な感じ…」
 真希がユウキの男根の根元を右手で支え、ひたすら首を上下に動かし続けた。
その間も舌を肉棒にからませることも忘れなかった。ジュポジュポと音をたてな
がら真希は口を動かした。その音がなおさらユウキの興奮を高めた。
 真希のフェラチオのリズムとユウキの息遣いがピッタリと合いだす。互いにリ
ズムが早くなる。ユウキが絶頂にいこうとしていた。
 「い、イキそう…」
 真希が右手でユウキの肉棒を咥えたまましごきだす。
 「ああ!イク!」
 ユウキの肉棒が真希の口の中でピクピクと大きく動き、亀頭先から射精した精
子が飛び出す。真希は手をとめずユウキの肉棒をしごき続ける。
 「はあはあはあ……」
 ユウキは快感のあまり全身を振るわせた。



 「んー、んーん…」
 真希はすぐさま頭を上げてユウキに顔を近づけ、ユウキと口付けを交わした。
 ユウキは目を閉じて真希と口付けに身を任せた瞬間であった。真希の口から生
ぬるい液体がユウキの口に流れ込んできた。今まで味わったことのない嫌な味に
たまらず顔をそむけ咳き込んだ。
 「ゲホッゲホッ!ぺっ!何すんだよ!」
 同時に真希も口の中に精子をため続けられる時間の限界を越えユウキに向かっ
て咳き込んだ。真希の口から飛んだ精子がユウキの顔にかかる。
 「うわ!やめろよ!…最悪だ〜、顔にかかってしまったぜ…何が悲しくて自分
のやつを顔にかけられなくちゃいけないんだよ…」
 「ゴホゴホ!…ふ〜…てへへ、ごめんごめん。だってユウキの濃いし量も多く
てなかなか飲めないんだもん。」
 「だからって何で俺の口に入れてくるんだよ!」
 「焦ってどこか吐き出すところないかなって探したら、ちょうどユウキの口が
目に入ったから。」
 「他にあるだろ!」
 「まあまあいいじゃん。どうせ自分のなんだから。」
 「自分のだけど普通飲まないよ!それに顔にまでかかってしまったよ!どうし
てくれるんだよ!」
 「じゃあとってあげる。」
 真希はユウキの頭を腕で包むように抱いて、ユウキの顔についている精子を
丁寧に舐め拭きだした。真希の生温かい舌がユウキの頬、鼻先、額、瞼とつたっ
ていく。ユウキは小さい頃母親に抱きかかえられ、包み込まれるような心地よさ
を感じた。
「ほら、とれた。ユウキ…今度は私の体を触ってみる…」
「うん…」
 真希は下になってユウキの手を取り自分の胸にあてた。ユウキは服の上からぎ
こちなく真希の乳房を揉みだした。



 「真希ちゃんのおっぱいすげー柔らけーや。そういや、やっぱ最近太ったの気
にしてる?」
 「もー気にしてるんだから。結構やばいんだよ。」
 「でも胸は大きくなったんじゃないの。」
 「へへー実はそうなんだ。ブラのサイズBからCに変えたんだー。」
 「じゃあ揉んでもっと大きくしてあげる。」
 「何オヤジみたいなことをいってんのさ。」
 「へっへー。」
 ユウキは真希のキャミソールを脱がした。
 「あれ?これどうやって外すんだ?」
 ユウキがブラを外すのに手間取る。
 「後ろの金具をねじるようにして…」
 「こうか…?あ、とれた。」
 ユウキは真希の乳房を揉みながら、乳首を舌先で転がすように舐めだした。
真希の乳首が次第にツンと硬くなりだした。ユウキはそれを唇ではさみながら
すいだした。
 「真希ちゃんの固くなってる…」
 「なんかすごい…ユウキほんとに初めて…?」
 真希は全身の力を抜き腕をダランとベッドから下げ、ユウキの愛撫を感じていた。
 「ユウキ…下も見てみたいでしょ…」
 「うん…」



 ユウキは真希のスカートを脱がしパンティ1枚の姿にした。純白のパンティが
興奮して濡れていたせいか少し湿っていた。ユウキはそれもゆっくり下げていった。真希の陰部の毛がうっすらと生え揃っていた。
 「ユウキの好きなようにして…」
 真希は自分の足を広げた。陰部の割れ目から内側のピンク色の肉ひだがヒクヒク
と動いている。
 ユウキは初めてみたその陰部の光景に、今まで自分が想像していたのとは全然
かけ離れていたモノに驚き、顔を近づけまじまじと見つめた。
 「なんか想像してたのと全然違うや。」
 「あんましジロジロ見ないでよ。こういうカッコすんの恥ずかしいんだから。」
 ユウキはためしに割れ目に沿って真希の陰部を指でいじりだした。
 「ん…」
 真希の体が電流が走ったようによじれる。
 そのまま指をいれて出し入れする。
 (濡れている…)
 ユウキは真希の精液で濡れた自分の指を舐めた。
 「舐めていい?」
 「いいよ…」
 ユウキは鼻先を陰部の毛の茂みにうずめ陰部を舐めだした。



 「はぁぁ…」
 真希はベッドのシーツをぎゅっと握りしめた。
 ユウキはどうすればよくわからなかったが、見たことのあるアダルトビデオで
男優がやっていたプレイを思い出しながら舌を動かした。舌を膣内の奥にまで入
れ込み上下に動かす。
 「ううん!」
 真希が上半身をくねらす。ユウキの愛撫は確かにぎこちないことはぎこちな
かった。しかしユウキの舌技が正直ここまで感じるとは予想もしていなかった。
最初は努めて冷静にしようと思ったが快感に耐えられず声を漏らし始めた。
 「ああ!そのまま続けて!」
 真希はユウキの頭を力いっぱい両手で押さえ込んだ。
 (うわ!息ができねーや!真希ちゃんのやつ馬鹿力だから頭あげらんねーや!
ええい、こうなったらやけだ!)
 ユウキは息ができなく苦しみながらも無我夢中で舌を動かしつづける。
 「ん、ん、ん!はぁー…もうだめ!イッちゃう!ああ!」
 真希の膣内から洪水のように精液がユウキの口に押し寄せてくる。ユウキはそ
れを一滴も逃さないようにひたすら舐め続けた。
 真希がぐったりとして顔を横に向ける。
 真希のユウキの頭を抑えていた手の力が抜けようやくユウキは顔をあげること
ができた。
 「ぶはー!ハアハアハア!ふー死ぬかと思った!」 
 「自分でオナる以外でイッタの初めてだよ…」
 真希はまだ絶頂にいったショックで力が入らず顔をユウキの方を向けず横に向
いたままつぶやく。



 その様子を見てユウキは今までやられっ放しの状態が逆転し、真希をいかせた
という達成感で男としての自分に満足して意気揚々とし、誇らしくなってきた。
 少し体に力を取り戻した真希が起き上がり改めてユウキを見つめる。腹筋が自
分同様に割れている。よくよく見ると顔だけでなく体の骨格まで自分に似ている。
同じ性別ならわかるが、ある程度成長した姉と弟がここまで似てるのも珍しい。
しかし華奢な体つきだが、肩はがっちりとしていて腕も筋肉質で真希よりも一回
りも太くたくましい。喉仏もしっかりと出ている。今まで生意気なガキでしかな
かったユウキが真希の中で立派な一人の男性として頼もしく見えてきた。その中
には幼い頃に亡くなり、わずかしか覚えてない父親の姿がダブッて見えた。
 ユウキも真希の豊かな胸、丸みを帯びたウエストやヒップのラインに女性らし
さを感じた。がさつで男のような性格のため、姉というよりは兄に思えた真希で
あったがこうしてみると立派な一人の女性である。今まさに真希の女性らしい魅
力を実感した。
 しばらく沈黙が続いた後、真希が口を開いた。
 「お互い舐めっこしようか。まだ元気でしょ。私が上になってあげる。」
 真希がユウキの陰茎を手に取る。まだ硬さが幾分残り勃起はしているものの、
一度いったせいで先程よりは大分小さくなっている。真希はそれを口に咥えた。
するとすぐに口の中でユウキの陰茎が再び大きく硬くなり元に戻る。



 「私のも舐めて。」
 真希はユウキを仰向けに寝かせ下半身をユウキの顔の方へ運ぶ。
 「うん。」
 ユウキは少し頭を上げ真希の陰部を舐めだした。
 最初のフェラに比べると、ユウキの愛撫が加えられた分真希の興奮は更に増
した。真希のフェラが最初からハイペースで進む。
 「うわ、真希ちゃん激しすぎるよ…こうなったらお返しだ!」
 ユウキも同様に興奮は増し激しくクンニする。
 「んん!…」
 真希は喘ぎながらも手を休めずにフェラチオを続ける。
 「だめ!ガマンできない!ユウキ!お願い、いれて!」
 「え!?だけどゴムなしでやばくない?」
 「中に出さなきゃ大丈夫だって。」
 「本当に大丈夫なのか…」
  真希は再び下になる。
 「やっぱこの体勢が一番好き。お互い密着できて顔がじっくり見れるもんね。」
 ユウキが自分の陰茎を真希の陰部に挿入しようとする。
 「あれ?なかなかはいんねーや。」
 ユウキが何度も挿入しようとするがうまく入りこまない。
 「手伝うから…」
 真希はユウキの陰茎を掴み、カリ首までを自分の陰部にゆっくり差し込んだ。
 「そのままゆっくり…」
 ユウキはゆっくりと差し込んだ。ある程度差し込むと今まで苦労したのが嘘の
ようにスルリとスムーズに入った。



 「はいった…」
 「後は腰を動かして…最初はゆっくりとね…」
 生ぬるく、柔らかな物体が奇妙な動きをしながら陰茎を弄びながら微妙な力加
減で締め付ける。
 ユウキは少しずつ腰を動かす。
 (すれて痛い…けど気持ちいい…)
 ユウキの腰使いが次第に早くなっていく。
 「ああ…すごい変な気分…真希ちゃん…こんなの初めてだよ…」
 「はあはあ…すごいよ…奥まで当たってるよ…」
 「なんか勝手に動いてとまらねーよ…」
 「血が繋がってるから相性がいいのかな…最高だよ…」
 「真希ちゃん…」
 ユウキがそのまま真希に覆い被さってきた。
 ユウキと真希が互いに激しく唇を奪い合い舌を絡める。興奮した真希がユウキ
の背中に腕をまわす。真希の爪がユウキの背中にくいこみ、ユウキの背中から血
が流れ出す。しかし、ユウキは興奮と快感により痛みが微塵も感じられない程に
真希を求めることに精一杯で無心に腰を動かし続ける。今二人が一つとなる。



 「真希ちゃん…またイキそうだよ…」
 「そのまま出していいよ…」
 「うう…もうガマンできない…」
 「ああん…私もまたイッチャいそう…一緒にイコう…」
 「く…イク!ああ!」
 「もうだめ!」
 再び生産された精子がユウキのカリ先から真希の膣内へ飛び込む。ユウキはそ
のまま力なく真希に倒れ込み身を任せた。全身金縛りにあったようにピクリとも
動かない。
 真希は精子の生温かさに心地よく感じていた。ユウキにのられている体の重み
が安堵感を覚える。真希がにこやかな顔をしてユウキの頭を撫でる。



 しばらくいった余韻にひたりじっとしていた二人だが、お互いの顔を確認し直
すと再びキスを始めた。互いの指を絡めあい、強く握り締めた。1秒でも長くイッ
タ余韻を楽しもうと二人は求め合う。
 「えへへ…いっちった。」
 真希が屈託なく笑う。
 「なんか初めてだからわけわかんなくて。」
 「でも気持ちよくて最高だったよ。」
 「女の子の体ってこんなにすごかったんだ…」
 二人はゆっくり体を起こしユウキが挿入していた陰茎を抜いた。真希の陰部か
ら濃厚な白濁色の液体が溢れ出てくる。
 「いっぱい出たね。入りきらないからでてきちゃってるよ。そうだ、ユウキの
キレイにしてあげる。」
 ユウキの陰茎は自分と真希の精液でねっとりと濡れていた。いくら若いとはい
えさすがに短時間で2度イクと元気はなかった。先程まで真希を突いていた物
体とは思えないほど縮み、ふにゃりと頼りなく萎えていた。真希はそれを手にと
り舌で丁寧に舐め取った。



 「中に出してしまったけど大丈夫かな…」
 「大丈夫、今日は安全日だから。」
 「なんでそんなことがわかるの?」
 「うーん…なんでだろう?あはは!まあまあ気にしない!」
 真希が脳天気にユウキの肩をポンと叩く。
 「相変わらずだな…」
 再び二人が口付けを交わす。急に二人の体を脱力感による疲れが襲う。
 「ふー疲れちった。」
 「力がはいんねー…」
 「ふぁー眠いね…」
 「こんなカッコのままで寝るなよ。」
 すでに真希が寝息を立てていた。
 「ホントねちまったよ…たくどこでも寝るんだからこいつは…でも俺もまじで眠いや…」
 ユウキは真希の顔を覗き込みキスをしてそのまま隣に横になり眠りについた…



 ユウキと真希との関係はそれからも続いた。ユウキは今が思春期で、やりた
い盛りの年頃。当然のごとく毎日真希を求めて抱いていた。真希も、ユウキが
求めてきたら別に嫌な顔一つせずそれを受け入れていた。最近は真希の仕事も
忙しく、ぐったりして帰ってくることはしょっちゅう。ユウキも無理強いさせ
るわけにはいかず、少し欲求不満気味であった。
 「ユウキ!」
 「なに!?」
 「明日の日曜空いている?」
 「うん。暇だけど。」
 ユウキはいたって平静を装った。珍しく真希から誘ってきたとユウキは感激
した。1週間、真希の体とご無沙汰である。1週間いえども中学生にとってはと
てつもなく長く感じられる。ユウキの胸がワクワクと踊りだす。
「明日ね、ラジオのお仕事があるんだ。スタジオの収録見学こないかってマ
ネージャーさんが言ってたんだけどくる?」
 (何だ〜違うのかよ。てっきり…)
 ユウキはがっかりした。
 「ああ、せっかくだから行くよ。」
 「何か元気ないね。嫌なの?」
 「いや、楽しみだよ…」
 「なら明日早いからね。寝坊するんじゃないよ。」
  こういうところでは真希は鈍感である。ユウキも仕事場見学は滅多にない
機会だからと前向きに考えることにした。



都内某スタジオ。
二人は一緒にスタジオに入ってきた。
「おはようございま〜す♪」
真希がスタジオの中に向かって声は大きいが、どこかだるそうな挨拶をする。
「おー、おはよーさん。今日は遅刻せんかったやん。エライエライ。」
中澤が読んでいた雑誌を置いて二人を見た。
「裕ちゃん、今日はユウキも一緒だよ。」
「お、ユウキ君久しぶりやな。元気してたか?また背が伸びたんちゃうか?」
「裕ちゃん、なんかその言葉オバサンくさいよ。」 
「うっさいわ!」
 矢口がいつものようにちゃかす。
 「ほらユウキ挨拶は。」
 真希がユウキを肘でつつく。
 「あ、おはようございます。おかげさまで。」
 「ああ?ユウキ君久しぶりー。」
 「どうも。」
 吉澤が出てくる。以前真希が家に連れてきたときに会ったこがあったのでい
くらか親しかった。
 「そうや、新メンバーとはまだ顔を会わしたことなかったやろ。吉澤はこの
前会ったって言ってたっけ?他の3人はみんな自己紹介してやって。」
 3人が前へ出てくる。
 「つじのぞみです。ちゅうがくいちねんせいです、てへてへ。よろしくおね
がいしますです、てへてへ。」
 「はい、よろしくです…」
 「加護亜依です。ののちゃんと同じ中学1年生です。趣味は部屋をピンクに
することです。」
 「なんでやねん!」
 矢口が突っ込む。一同大爆笑する。
 「はは…」
 ユウキはおもしろくもなかったが仕方なく笑う。
 テレビである程度は知っていたが、たった1歳しか違わないのにここまで幼
く見えるとは思わなかった。
 「よろしくお願いします。」
 「石川梨華です。高校1年生です。これからよろしくお願いします。」
 「あ…はい…こちらこそよろしくお願いします…」
 メンバーで1番お気に入りの石川の姿を初めて生でみたが、テレビのモニ
ター以上の美しさと華やかさが石川にはあった。ユウキはただじっと石川を
見た。顔が少し赤くなる。



 ユウキの態度が微妙に変化したのを真希は隣で見逃さなかった。ユウキが石川
のことを気に入っていたのは知っていた。鈍感な真希にしては、よく気がついた。
真希は少しムッとした。
 「ユウキ君いるとごっちんもお姉さんになるね。本当はいつも家ではこうなの?」
 保田がからかう。
 「全然。家でもだらしないですよ、真希ちゃん。」
 「もう、何いってんの!」
 真希がユウキの頭をげんこつで殴る。一瞬ユウキの目の前が真っ白になる。さっ
きのこともあって自然と力も入った。真希は下手な男よりも力があるので本気で
叩かれるとかなり痛い。
 「いってー!何すんだよ!」
 ユウキが真希の鼻を殴る。真希の鼻から血が流れてくる。
 「いったー!もうきれたんだから!」
 真希がユウキの胸ぐらをつかみ取っ組み合いの喧嘩を始めた。
 「コラ!やめんか!」
 中澤がとめるが声は一切二人には届いていない。
 「ちょっとみんなきてくれや!ごっちんとユウキ君が喧嘩おっぱじめたわ!」
 騒ぎを聞きつけたメンバーが集まりだす。
 「うわぁーすごい!本物の喧嘩だ!」
 安倍が感激したように唸りをあげる。ことの重大さがわかっていない。
 「バカ!それどころじゃないでしょ!」
 矢口がすかさず安倍につっこむ。
 「ようし!私がとめる!」
 飯田が二人に近づく。
 「私もごっちんをとめてくる。」
 吉澤も真希を抑えにかかった。
 モー娘。の巨漢コンビとはさすがに体格差は歴然。あっさり二人は取り押さえ
られ、引き離された。
 「ほら、落ち着いてごっちん。」
 「ちょっと二人とも頭冷やしてきまい!怪我もしとるし治療してやらんとな。
吉澤はごっちんの治療してやって。ユウキ君は…石川がええやろ。石川あんたが
一番ましそうやから頼むわ。控え室いったら救急箱あったやろ。連れて行ってやっ
て。落ち着かせるために部屋は別々の方がええやろ。」
 「私ですか?はい…じゃあ、ユウキ君いこうか。」
 石川がユウキににっこりとする。
 「え?ああ…はい…」
 突然のシチュエーションにユウキの顔が赤くなった。憧れていた石川と二人っ
きりになるのだから。二人は廊下へ出て控え室へ向かった。ユウキはただうつむ
いて石川のそばをついていった。



 部屋に入ると石川が薬を取り出した。
 「口から血が出てるから、一応お薬を塗っておきましょうね。」
 「は、はい…」
 石川がユウキの口に薬を塗ったガーゼをあてる。
 「いた!」
 「ごめん!痛かった!?」
 「大丈夫ですよ!真希ちゃんのパンチに比べたら。」
 「でも、相当思い切って叩かれたのね。頭のたんこぶがすごいもの。」
 「あいつほんと馬鹿力だから。」
 「兄弟だから仲がいいのね。」
 「へ!?」
 突然の石川の切り出しがユウキにとっては理解不能だった。他の人も同じこと
であろうが…
 「なんかうらやましいな、そういうの。」
 (そういうことね…)
 「ほら、喧嘩するほど仲がいいってね。」
 話の展開が支離滅裂だが、ユウキはいいたことはだいたいわかった。
 「ほら、これで大丈夫。」
 石川が傷口にバンソコを貼って、笑顔でユウキに顔を向けた。
 そのスマイルがユウキにとっては一番の薬であったのというのはユウキの思い
込みだが、ユウキにとってはまさに天使の笑顔であった。憧れの石川が献身的に
治療(アカチンを塗って、バンソコを貼るだけだが…)をしてくれた。ユウキは
胸が張り裂けそうになった。
 「じゃあ、後できちんと仲直りするのよ。」
 石川が立ち上がる。
 「わかりました。あの石川さん!」
 「何?」
 「ええと、お仕事頑張ってください!」
 「ふふ、ありがと。」
 石川はそう言って部屋を出て行った。
 ユウキは黙ってそれを目で追いかけた。空いていたドアの前を保田が通り過ぎ
る。通り過ぎる瞬間チラリとこちらを見た。その時錯覚だろうが目が光ったよう
な気がした。ユウキはなぜかしらないが悪寒が走りぞっと背筋が凍った…



 「あーむかつく!」
 「ごっちん、落ち着きなって。」
 吉澤がなだめる。 
 「でも〜!」
 真希は頬をふくらましふてくされる。
 鼻を殴られたことも頭にきたが、それよりもユウキが石川についていった時
のデレデレした顔がもっと許せなかった。そういう顔は自分には一度も見せた
ことはないからなおさらだ。ユウキが石川を気に入っているのは本人から聞い
たことあるから知っていた。それはそれで、応援する気持ちはあるからよしと
しよう。しかし、毎日といっていいほど自分の体を求めておきながら、自分の
前であんな顔するのかよという気持ちもあった。ユウキとは体の関係はあった
にしろ、恋愛感情というものはなかった。だが、自分より石川の方に気持ちが
向いているのは女としてのプライドが許せなかった。
 「どうせいつものことでしょ。喧嘩は?」
 「そうだけどさ…」
 さすがに吉澤にはユウキとの関係を言うわけにはいかなかったので本心は黙っ
ておくしかなかった。
 


「ところでさ。」
 「何ヨッスィー?」
 「ユウキ君って彼女いるの?」
 「え!?いないって!いないよ!」
 「何でそんなに強調するの?」
 「え?あはは…」
 真希はただ笑ってごまかすしかなかった。
 「ほら、ごっちんに似て男前じゃん!」
 「なんで私に似てるのが関係あんの?」
 「だって、ごっちんはいくら私が愛してもどうせは女。しょせんごっちんは
私に興味はなくて叶わぬ恋。だったらごっちんと同じ顔してるユウキ君と!」
 「ヨッスィー熱あんじゃないの。」
 「もー冗談だって。」
 「目が本気だよ。」
 「ごっちんひどいわ〜」
 「あはは!ごめんごめん!」
 「でも彼女いないのなら、好きな人くらいいないの?」
 「好きな人というか、メンバーの中では梨華ちゃんのことが1番気に入って
るみたい。」
 「えー、梨華ちゃんを!うーん、こりゃあ強敵だな〜。よーし俄然やる気が
でてきたぞ〜!」
 吉澤が両手でガッツポーズを作る。
 「ヨッスィーさ、ユウキのことまじなの?」
 「う〜ん、どうでしょう〜♪」
 「もう、教えてよ。」
 「ナ・イ・ショ!」
 「もう、教えないとこうだぞ〜!」
 真希が吉澤の脇腹をくすぐる。
 「いや〜!やめて〜!くすぐったい〜!ほんとに何にも考えてないってば〜!」
 ドンドン。
 突然ドアのノックする音が鳴った。
 「収録始まるよ。」
 保田の声だ。
 「は〜い!」
 二人が一斉に返事をして部屋を出て行った。


 ユウキはブースの外からラジオの収録を見学していた。今まで和気あいあいと
したメンバーの様子が一転して真剣な眼差しであった。特に辻と加護の真剣な様
子はさっきまでのが嘘のように大人に見えた。真希といえば…いつもどうりにや
る気なさげに眠そうにしていた。
 ユウキは石川を見た。相変わらず展開を無視した場違いのトークで周りを困惑
させていたが、ユウキだけはそんな石川の必死な様子に感動していた。石川と目
が合った。石川がにっこりとユウキに笑った。ユウキは頭をかきながら照れた。
そんな二人のやりとりを真希は見逃さなかった。ぼーっとしていてもこういうと
ころだけは頭が冴える。
 収録が終わってメンバーが出てきた。
 「石川さん!お疲れ様です!」
 「ああ、ユウキ君。お疲れ。見ててもつまらなかったでしょ?」
 「いいえ、勉強になりました。」
 「ふふ、それなら良かったわ。それじゃ、ユウキ君またね。」
 石川はスタジオを出て行った。
 「な〜にが勉強になりましただよ。」
 真希が思いっきり嫌味っぽくいいながら出てきた。その後に吉澤も出てきた。
 「うるせーな。関係ないだろ。」
 「もう、でれでれしちゃってバカじゃない!」
 「なんだと!」
 「まあまあ二人とも。お腹が空いてるからイライラするんだよ。何か食べに
いこ。」
 吉澤は二人の様子を察して仲裁に入った。



 三人は駅前のベーグルショップにきた。吉澤が何か食べようといったら決まっ
てベーグルである。真希も別にベーグルが嫌いじゃないので毎回ベーグルでも不
満もない。保田はさすがに楽屋でもベーグルは嫌と言っているが。
 「二人ともいい加減仲直りしなよ。」
 真希とユウキはさっきから目も合わさず黙々とベーグルを食べている。
 「ところでさ。」
 吉澤が話を仕切る。
 「ユウキ君って梨華ちゃんのどこがいいの?」
 「う!」
 ユウキはベーグルが喉に詰まり慌ててコーラを飲む。
 「なんで知ってるんですか?」
 「ごっちんに聞いたんだよ。」
 「なに勝手に言いふらしてるんだよ!」
 ユウキが真希を睨みつける。真希もユウキを睨み返す。
 「秘密って約束してないもん。」
 「あのな!」
 「まあまあ、どういうところ?」
 吉澤が二人に喧嘩する間も与えず話しつづける。
 「どういうところってさ…」
 「梨華ちゃんは女の子らしいからね。」
 真希が嫌味たらたらに言う。
 「ああ、そうか。やっぱり梨華ちゃんは私達と違って女の子らしいものね。私
達男みたいだからあはは!でもユウキ君学校でもてるでしょ?なんでわざわざ年
上の梨華ちゃんを…そうか、年上好み?ひょっとして意外に甘えん坊?」
 「違うって!」 
 ユウキは必死に弁解する。しかし吉澤の言葉は的を得てる。
 「ヨッスィーだってもてるでしょ!」
 ユウキはなんとか言い返す。
 「うん、もてるよ。でも女の子にね。私の学校は女子中だから男の子はさっぱ
り、あはは!私ってどうしても男役になるみたい。だから梨華ちゃんは私のもの。
ねぇ、ごっちん。」
 「う、うん…」」
 「もう、ごっちん嬉しいんだから。」
 「ははは…」
 「梨華ちゃんを譲るのは悔しいけどユウキ君のために私がなんとか梨華ちゃん
との仲良くなるために一肌脱ぐか。ごっちんももちろん協力するよね?」
 「うん…」
 吉澤のペースに翻弄され怒る気力は二人にはなかった。
 「あ、もうこんな時間。埼玉だからもう電車に乗らないと遅くなっちゃう!そ
れじゃ今日はこのへんでね。また相談にのるからねユウキ君。」
 吉澤は足早に店を去った。



 二人も店に残る理由もないので店を出た。二人はずっと無言のまま電車に乗っ
てから駅を降りての家路を歩いていたが、真希が口を開いた。
 「ユウキさ、梨華ちゃんのこと本気?」
 「好きとかそういうのじゃないよ。」
 「別にいいよ、協力しても。あんた最後に付き合った彼女にふられてから結構
経つじゃない。」
「ふられてないよ!俺がふったんだよ!」
「あれってあんたが全然リードしてやれなかったから気まずくなって別れたよう
なもんじゃない。あんたほんと女の子と付き合うの下手くそだからね。ヨッスィー
みたいに友達なら全然話せるのに、彼女だと喋るどころか目も見れないからね。」
「ほっとけ!」
「でも梨華ちゃんと付き合うのならあんたしっかりリードしないとだめだよ。梨
華ちゃんは自分から積極的って性格じゃないから。」
「だから気に入ってるだけで好きってわけじゃないって。」
 ユウキは痛いところをつかれた。



 ユウキはたしかにもてる。しかも目立つ。学校では常に女子の憧れの存在で
ある。ユウキは黙っていても向こうから告白される。ユウキは気に入ったら付
き合えばいい。選びたい放題で女には困ってなかった。しかし、いざ付き合い
だすと話は別である。ユウキと付き合って別れた女の子は決まってこういう。
 「かっこいいけど、つまらない。」
 「優しいけどそれだけ。」
 ユウキが浮気していたということが原因は一度もない。ユウキもこう見えて
好きになると一途な性格だ。恋愛に関しては真面目といってもいいであろう。
ユウキの友達の女の子には普通に話せるが、恋人にはなかなか自然な態度で接
することができない。デートしてもきまずくなるばかり。内気な女の子だと黙っ
たままで話が進まない。だからといって積極的な女の子相手だとユウキがひい
てしまい、難しい性格である。お世辞にも女の子の扱いは上手いとはいえない。
見た目はプレイボーイだがそこらへんの普通の厨房どころかそれよりも女の子と
付き合うのが下手である。だからこそ真希と関係をもつまで童貞であったのであ
る。天は二物を与えないとはまさにこのことである。
 そういう意味で少し恋愛には臆病になっているのである。石川は今日会ったこ
とでテレビだけの憧れから一人の女の子として好きになっていたが、ふられるの
が怖いせいで素直になれずにいた。真希もそういうところは当然気づいていた。



 「そういや最近ヤッテないね。溜まってた?」
 「うん…」
 「今日やる?」
 「やる。」
 今日の喧嘩が嘘のように二人はあっさりベッドインした。その日は今まで溜
まっていたものを爆発させるように激しくエキサイトした。すぐに忘れるのが
後藤家の良い所といえばそうであろうが…。ただユウキは頭の片隅で少し、石
川のことを考えると少し罪悪感もあったが、しょせんは厨房。性欲には勝てな
かった。


 真希はユウキがもしメンバーの誰かと付き合ったらどうかと考えた。
 中澤…年が離れすぎ。
 石黒…人妻なのでアウト。
 保田…ユウキが嫌がる。
 安倍…個人的に嫌。
 飯田…安倍と同じく。
 加護・辻…犯罪。
 市井…あげない。
 矢口…矢口は個人的には嫌いではない。ユウキも昔は矢口も気に入っていた。
矢口も結構ユウキはお気に入りだ。しかし付き合うとなれば別問題であろう。小
さくても高3である。厨房のユウキとはさすがに付き合わないであろう。
 吉澤…もちろん賛成であるが全く謎である。ユウキのことはどう思っているの
であろう?意味深な素振りは見せているがいつもの冗談だけである可能性も高い。

 こう考えると一番石川がやっぱりしっくりきそうである。



 真希は石川が一人になった隙を見計らって声をかけた。
 「梨華ちゃん。」
 「あ、後藤さん。」
 まだ入って間もないせいで、年上でも真希にはさんづけをしている。
 「別にそんな堅苦しい呼び方しなくていいよ。ヨッスィーだってもう呼び捨て
だし。梨華ちゃんなんか私よりも年上なんだから。」
 「わかってるんだけどさ、部活とかやっててどうしても上下関係の厳しいとこ
ろだったからどうしても抵抗があってね。」
 石川が少し戸惑い気味に話す。その表情と仕草がいかにも女の子といったかん
じである。これはユウキも惚れるわけだと思った。真希までが石川に少しドキド
キしてしまうほどである。
 「これから長い付き合いだからそんなんじゃ疲れるよ。うちらだってそうやっ
て呼ばれると気ぃ使うし。」
 「じゃあ…ごっちん?でいかな?」
 「いいよ。あは。」
 真希は屈託無く笑う。少し抜けたこの笑顔が相手の緊張感をときほぐすのに
役に立つ。本人は抜けているつもりは一切ないであろうが…



 「今、彼氏とかいる?」
 「残念だけどいないわ。」
 石川は力なく笑う。
 「昔は?」
 「昔は…」
 「いたんだ。」
 「そういうわけじゃ。」
 「隠さないで教えてよ。どんな人?カッコ良かった?」
 「学校の一つ上の先輩。背は高かったけどカッコいいってわけじゃなかったよ。」
 「へー。なんで別れたの?」
 「向こうの親の仕事の都合でね…」
 「そっか…今は好きな人はいないの?」
 「いないわ。でもお仕事の方が楽しいから。」
 「もったいないよ。どんどん好きな人作らなくちゃ。」
 「でも作っちゃ怒られるじゃない…」
 「大丈夫。彩っぺなんか子供まで作ってるしあはは。」
 真希はおもしろいであろうが、石川はひいてしまって笑えない。他のメンバー
でも同じであろうが。他に誰かが聞いていたら大問題になっていたであろう。
 「梨華ちゃんってどんな人がタイプ?」
 「うーん、おもしろい人かな。」
 「顔はどんなのがいい?」
 「顔はこだわらないわ。いくら顔が良くてもやっぱ性格が…」
 これは少しユウキに厳しいかもと真希は思った。
 「ユウキとかはどう?」
 真希はさりげなく(?)聞いた。
 「ユウキ君?カッコイイよね。」
 「付き合ってって言われたら付き合う?」
 「どうだろう?まだ性格わからないし…それにユウキ君みたいにもてる人が
私みたいなのを相手にするわけないし。」
 それが違うのだなと真希は内心呟いた。



 「石川!出番だ!」
 「ごめん、行くね。」
 「うん。」
 入れ替わりで吉澤が出てきた。
 「梨華ちゃんに色々探りをいれてたの?」
 「まあね。」
 「どう?」
 「悪くは思ってないみたい。でも付き合うとなるとね…」
 「そっか…」
 「ヨッスィーはユウキのことどうなの?」
 「私?そりゃユウキ君はカッコイイよ。でも友達の兄弟ってなんか家族みたい
であんましそういう目でみれないじゃん。」
 「そんなもんか…」
 真希は妙に納得した。



 数日後。
 ユウキの携帯に真希からの電話がかかった。
 「どしたの?」
 「今家にいる?」
 「いるよ。」
 「今いる仕事場が学校から近いからきなよ。電車で20分くらいだよ。梨華
ちゃんもいるよ。」
 「仕事場に行ったら悪いって。」
 「なにいってんの。梨華ちゃんと仲良くなるチャンスじゃん。仕事が忙しい
んだからこういうチャンス滅多にないよ。」
 「しょうがねぇな。じゃあ行くよ。場所はどこ?」
 口では嫌々ながらも口調は活き活きしている。真希も電話の向こうからユウキ
がそわそわしているのがすぐにわかった。
 「○○駅の近くの××だよ。ほらあっこの駅から歩いて15分くらいでマック
があったでしょ。その向かい側に青いビルがあるからそこにきなよ。近くにきた
ら電話ちょうだい。迎えに行くから。もし繋がらなかったらヨッスィーにかけて。
仕事あるから切るね。早くきなよ。」
 電話が切れた。
 「よっしゃ!」
 ユウキは飛び上がるように駅に向かって走って行った。



 真希のいる仕事場の場所はすぐにわかった。ユウキは真希に電話をかけたが
電源が切れていた。ユウキは言われたとおり吉澤にかけ直した。七回鳴って吉
澤がでた。
 「もしもし、後藤ですけど。今ビルの前なんだけど。」
 「ユウキ君?今ね、ごっちん今出られないから私が今から迎えに行くからちょっ
と待っててね。梨華ちゃんも連れて行くからね。」
 石川もくると聞いてユウキの携帯を持つ手にも力が入った。
 5分くらい待つと吉澤が現われた。
 「やっほい、ユウキ君♪」
 「ユウキ君こんにちは。」
 石川も出てきた。
 「ど、ども…」
 石川を見た途端ユウキの表情が硬くなる。
 「ところで真希ちゃんは?」
 「ごっちね、今日は居残りで帰りが遅くなるみたい。私達は終わったから帰
ろうと思ってね。」
 「せっかくお姉さんを迎えにきたのに残念だったね。」
 「違うよ梨華ちゃん。ユウキ君は梨華ちゃんを迎えにきたの。」
 「ちょ、ちょっとヨッスィー!なに言ってるんだよ。」
 ユウキが慌てる。
 「そうよ、そんなこと言ったらユウキ君も困るでしょ。」
 石川も顔を赤くして吉澤の肩を揺さぶる。
 「まあまあ照れないで。それじゃ私はこのへんで。お二人さんごゆっくり。」
 「あれ?ヨッスィーも一緒に帰るんじゃないの?」
 「だって埼玉の私と神奈川の梨華ちゃんだと乗る駅が全然違うでしょ。駅の
方向も正反対だし。」
 「そうか…」
 「ユウキ君は途中まで一緒でしょ。きちんと見送ってあげるんだよ。」
 「う、うん…」
 「じゃあね♪」
 「ちょ、ちょっと…」
 吉澤は石川が何かを言い出そうとする前に去って行った。
 「じゃあ、私達も帰りましょうか?」
 「そうですね。」



 二人は何を話したらいいのかもわからず駅まで黙ったまま歩いて行った。ユウ
キは恥ずかしくて石川の顔も見れない。石川も照れてユウキをチラチラとしか見
れない。
 「あの…そのピンクのニット綺麗ですね。」(何いってんだ俺)
 ユウキがなんとか口を上ずりながら言った。しかし、言った直後ユウキはしまっ
たと思った。いくらなんでも切り出しが不自然すぎる。
 石川も一瞬「え!?」っという顔をしたが、すぐに笑顔になってこたえた。
 「ほんと?このニットのピンクが綺麗だからお気に入りなんだ。」
 「そういや、プチセブンかなんかでピンク好きって書いてましたね。」
 「プチセブン読んでるの?」
 「いや、別に俺そういう趣味じゃないですからね!真希ちゃんが自分が載って
るって見せてくれたから!」
 ユウキは慌てて弁解しようとするがどんどん裏目に出る。
 「ユウキ君っておもしろいんだ。最初もっとクールかと思ってたけど。そうい
やお姉さんも最初は大人っぽいと思ってたけど会ってみるとテンション高いもん
ね。」
 「そう、そうすか…」
 ユウキの失敗が石川の大きな勘違いにより功を奏した。それをきっかけに二人
の会話が弾んだ。



 「石川さんどこらへんで服買ってるの?」
 「横浜でお洋服は買ってるわ。」
 「お洋服って『お』をつけるなんて丁寧ですね。」
 「え?おかしいかな?」
 「いや、全然。かわいいですよ。」
 「そう?」
 「渋谷なんかこないんですか?」
 「横浜の方が近いからあんましいかないな。もっと行ってみたいけど、どこ行
けばいいからわかんないし…ユウキ君って渋谷から近いからよく行ってるんで
しょ?」
 「まあ…。今度渋谷にきてくださいよ。案内しますから。」
 何気なく言ったつもりであるが、後ですごいこと言ったなと思うと恥ずかしく
なった。
 「ぜひ案内してほしいわ。」
 社交辞令程度のことだろうと石川の言葉にユウキは思った。
 駅についた。乗る線は違うのでここでお別れである。
 「石川さん、携帯聞いていい?」
 ユウキはだめもとでこたえた。
 「ええ。」
 石川は少しも嫌がらずに言った。むやみやたらに携帯番号を教えてはいけない
と事務所から言われているが、見ず知らずの男ならともかく真希の弟ということ
で抵抗は少しも石川にはなかった。
 二人はお互いに番号の交換をした。
 「またメール送るわね。渋谷案内してね。」
 「ええ。それじゃまた。」
 「さようなら。」
 石川は手を振って階段を上って行った。 



 ユウキは家に帰ってからもなんとなくそわそわしていた。後で家に帰ってきた
真希も何かユウキの異変に気づいた。
 「どうだった?」
 「別に。」
 「顔に書いてある。どうなったの?」
 「携帯の番号きいた。」
 「私に聞いたら早いじゃん。」
 「そういう問題じゃないだろ。」
 ユウキは顔がにやけたまま風呂に行った。
 真希はユウキがほとんど話してくれないので少しつまらなかった。しょうがな
いのでテレビを見た。携帯の着信音が鳴ったが自分のではないようだ。テーブル
に誰かの携帯が置いてあった。ユウキのだ。ユウキはまだ風呂に入っている。真
希はユウキの携帯を見た。誰かからメールがきたようである。真希は受信箱を開
いた。
 『試しにメール送ってみます。届いてるかな?そのうち渋谷案内してください
ね(^0^) りか』
 石川からであった。
 「おい、ちょっと勝手に人の携帯みるなよ!」
 ユウキが風呂から出てきていた。
 「梨華ちゃんからだよ。」
 「まじ!?」
 ユウキは急いで携帯を手にとった。
 「良かったね。いい感じじゃん。」
 「ありがと…」
 ユウキは真希がいつもと違い普通に喜んでくれたので逆に少し拍子抜けした。
 今日のユウキは真希の体を求めてこないのは当然といえばそうであろうが少し
寂しかった。



 ユウキと石川はそれからもメールのやりとりを続けていた。続けるうちに
色々と身の上の話をメールでやっていたりした。次第にお互いの気心も知れ
てきて仲も親密になってきた。
 『仕事大変だね。休みなかなかないみたいだね。真希ちゃんも大変そうだ
し。』
『そうなんだ。でも来週はお休みが貰えるんだ。渋谷行きたいんだけど暇あ
る?』
 ユウキは石川から誘ってきたことに信じられずにメールを返した。
 『いいけど、せっかくの休みなのに大丈夫?』
 『大丈夫!』
 『うん、じゃあ駅で待ち合わせしよう。着いたら電話して。』
 『うん、楽しみにしてるね!』
 「やった!」
 ユウキは思わず大きな声を出した後、はっとして夜中であることに気づい
た。しかしそんな心配は無用で真希は熟睡していた。

 約束どおりユウキは渋谷のハチ公前で待っていた。あまりにもべたすぎる待
ち合わせ場所で少し嫌であったが、石川も渋谷では適当な待ち合わせ場所とい
えばそこくらいしかわからないであろうからしょうがないのでそこにした。
 石川はまだきていない。約束の20分前であるから当たり前であるが…
 「ちょっとはりきりすぎたな…」
 「ごめん待った?」
 3分くらい経つと、石川がユウキを見つけて声をかけた。石川は約束時間の
10分前にくるという堅い性格が幸いした。
 「案内があったからハチ公前はすぐにわかったんだけど人が多すぎてなかな
か見つからなかったんだ。ほんと人が多いね。横浜とは比べものにならないわ。」
 「これからどうしようか?」
 「うーん、ユウキ君のおすすめのところでお買い物したい。ユウキ君っていつ
もお洋服はどこで買っているの?」
 「俺は古着屋で適当に。」
 「行ってみたい!」
 「でもあんましギャルっぽいのはないよ。」
 「いいよ。ユウキ君のパーカーとスニーカー見てたらそういうのも欲しくなっ
ちゃった。」
 「そう?それならいこうか。」



 二人は並んで道を歩いた。
 「ユウキ君はいつもそういうカッコ?」
 「まあ、こんな感じかな。」
 「いいな、自然で。渋谷が近いから気張ってないんだ。いいなそういうの。私
なんかいつも考えちゃうもの。」
 「ええとね。ここ。」
 「いい感じぃ〜。」
 「やあ、ユウキ!あれ?今日は彼女連れ?」
 顔なじみのショップのスタッフがユウキに声をかける。
 「いや、お友達…」
 「隠すなって!」
 「いやまじだよ。」
 ユウキはポケットに手を突っ込んでごまかした。
 「初めまして。ゆっくり見ていってよ。」
 「はい。」
 石川も彼女といわれて少し照れていた。
 二人はしばらく店の中を見て回った。
 「このパーカーの色が綺麗!」
 石川がピンクのパーカーを手に取る。
 「ピンク好きだね。」
 「うん、色はピンクが一番好き!」
 「良かったら試着してね。」
 店員が声をかける。
 「じゃあ、これ試着させてもらいます。」
 「それじゃそこが試着室だから。」
 石川は試着室に入って行った。
 「おい、あんなかわいい子を連れてきちゃってやるね。いつから付き合ってん
の?」
 「だから恋人じゃないって。」
 「でも二人でデートしてるっていうことは友達よりは深いだろ?」
 「そりゃ…」
 「どこまでいったんだ?」
 店員がにやにやする。
 「何もしてないって!」
 「何もって手くらいつないでるだろ?」
 「いや…」
 「嘘だろ!中学生どころか今時小学生でもキスくらいするぞ!」
 「だからまだ付き合ってないんだって。」
 「とにかくだ。女はなんだかんだいってそういうのを待っているんだ。早く行
動起こさないと誰かにとられちゃうぞ。男はやる時はやらなくちゃな。」
 「そういうもんか…」
 「そういうもんだって。」
 石川が試着室のカーテンを開けた。
 「どうかな…?」
 ミニスカにパーカーだとプッチモニの衣装みたいで少し違和感があったが、パー
カー自体はとても似合っていた。
 「いいじゃん!かわいいよ!な、ユウキ!」
 「うん…」
 「ほんと?じゃあ、これ買います。」
 「ありがと。ほんじゃ着替えたらレジに着てね。」



 二人はパーカーを買って外へ出た。
 「いいもん買っちゃった。ダンスのレッスンの時に絶対これ使うわ。」
 「気に入ってよかったよ。きれいめが好きそうだから古着屋はどうかと思った
んだけど。」
 「ううん、とってもよかったよ。なんかお腹空いちゃったね。」
 「ほんとだ。何か食っていこうか?何が食べたい?」
 「そうね…パスタがいいかな?」
 「それならいいとこが近くにあるよ。」
 「ほんと?それじゃそこへ行きたいな。」
 「じゃあ決まり。」
 二人はしばらく歩いて店についた。レンガ造りのレトロ感覚を意識した内装で
ある。店の中にはパラソルやシルクハットが飾られてある。
 「俺はたらこ。」
 「私は何にしようかな…スープパスタにしようっと。」
 しばらくして注文の品がきた。
 「おいしそうだわ。いただきます。」
 石川はファオークにスパゲティをまきつけて口に運んだ。口元が妙になまめか
しい。ユウキは黙ってその仕草を見つめた。自分もスパゲティを口に入れるが石
川が気になって味は全然わからない。
 「おいしい!きてよかった!」
 「気に入ってよかった。」
 「ユウキ君って色々知ってるね。毎回女の子はここに連れてくるの?」
 石川は少し含み笑いをしている。
 「毎回って…?それじゃ俺が遊んでるみたいじゃん。女の子をここに連れてく
るのも初めてだよ。」
 「ほんとかな?」
 「ほんとだって!」
 「ほんとに初めてだったら嬉しいな。」
 「信じてよ。」
 「でも学校ではもてるでしょ?」
 「そんなことないって。」
 「嘘いわないの。ユウキ君みたいにカッコいい人は絶対に女の子は放っておか
ないんだから。」
 「俺なんかもてないよ。」
 「ふ〜ん、彼女とかも今はいないの?」
 「いない…」
 「好きな人は?」
 「いない…」
 まさか目の前の人とはいえない。
 「おかしいな。彼女いそうなんだけどそういうことにしておこうかな。」
 石川は笑顔で言った。
 「はは…」
 ユウキも突然翻弄されてまいったという感じだ。しかし石川の意外な一面が見
ることができてそれはそれで嬉しかった。
 店を出ると日が暮れかけていた。



 神奈川の石川はそろそろ電車に乗らないと遅くなるので帰ることにした。ユ
ウキは駅まで送って行った。改札を抜けてホームまできた。石川はユウキの乗
る電車の向かいのホームにくる電車に乗らなければならなかった。
 「ありがと。今日は楽しかった。」
 「俺も楽しかったよ。また言ってくれたらいつでも付き合うよ。」
 「お願いするわ。それじゃね。」
 「ユウキ君!」
 石川は帰ろうとしたが、またユウキの方を振り返った。
 「どしたの?」
 「ううん、なんでもない。さようなら。」
 「さようなら。」
 石川が何度もユウキの方を見ながら階段を上がって行った。石川は向かいの
ホームに立ってもユウキの方へ手を振り続けた。向かいのホームに電車が到着
した。石川は電車に乗っても窓から見えなくなるまで手を振り続けた。



 家に吉澤が泊まりにくることになった。仕事場が真希の家からだと近くてすぐ
に行けるためもあった。
 「いらっしゃいヨッスィー。」
 「今日はお世話になるね♪」
 3人で真希の部屋でゲームをして遊んだ。吉澤がくるので珍しく真希の部屋が
片付いている。ゲームに飽きるとしだいにお喋りを始め手が止まった。
 「ユウキ君、どうよ?」
 「どうよって?」
 「決まってるじゃん。梨華ちゃんとのことよ。」
 「ユウキさ、梨華ちゃんとメールの交換毎日やってんだよ。」
 「そうなんだ!やるじゃんこのこの!」
 「たいしたことないって。」
 「じゃあいつするの?」
 「いつって?」
 「告白に決まってるじゃん。」
 「まだ…」
 「まだってかなりいい感じじゃん。」
 「早すぎるよ。」
 「早い遅いは関係ないって。お互い気に入ってたらそれでいいの。」
 「でもな…」
 「案外照れ屋さんだったんだ。」
 「違うって。」
 「まあ、告白するときはやっぱ電話とかじゃなくて直接言った方がいいよね、
ごっちん。」
 「うん静かなところで二人っきりがいいよね。」
 「『ちょっときてほしいんだ』…なんてね!」
 「イヤー!ヨッスィーかっこいい!」
 「告白のタイミングってどういうときかな?」
 ユウキが尋ねる。
 「私なら告白して欲しかったら別れ際で何度も相手の名前を呼んで引き止める
かな?」
 吉澤がこたえる。
 「そういや…」
 ユウキは石川とのデートでの駅の別れ際のことを思い出した。
 「まさか、梨華ちゃんそういうジェスチャーしたの?」
 「いわれたら…」
 「もうばっちりじゃん!早く告白しちゃえ!」
 「言ってくれたらいつでも告白できるように協力してあげるから。」
 「はあ…」
 真希と吉澤がユウキを放って勝手に盛り上がったまま夜はふけていった。



 真希と吉澤はユウキのために色々と相談にのった。時には石川の様子も教え
た。二人が言うに石川はすでにユウキのことがかなり気になっているようであ
る。ほぼ間違いなくいける状況であるようだ。あとはユウキは告白すれば全て
はうまくいくという状況だがユウキはなかなか行動を起こすことができずにい
た。
 「いつになったら告白するの?」
 「いつっていってもな…」
 「梨華ちゃん、ユウキ君が告白するの待ってるよ。」
 「今はこの関係も楽しいから悪くないからまだいいよ。」
 「ウソツキ。ふられるのが怖いだけでしょ。」
 「なんだって!」
 「ほんとでしょ。かっこばかりつけてしょうがないんだから。」
 「あのな!」
 「学校でもてるから自分が完璧なのを演じようとしているんでしょ。もてる自
分がふられるのが許せないんでしょ。」
 ユウキは何も言い返せなかった。
 「いいじゃん、素直にな自分を見せたらそれで。梨華ちゃんは別にかっこいい
あんたを求めてるわけじゃないよ。梨華ちゃんは優しいんだからありのまま全て
を受け止めてくれるって…」
 真希に言われた通りなので、見透かされたのが恥ずかしく、同時に自分の情け
なさが悔しかった。ユウキの目から涙がこぼれた。ユウキは真希の胸に抱きつい
た。声を押し殺すように泣いた。真希は優しくユウキの頭を撫でた。真希もユウ
キがコンプレックスの塊を持って苦しんでいたのは知っていた。ユウキを許して
受け入れたのも姉としての優しさからであった。
 「大丈夫、絶対うまくいく…」



 次の日。
 ユウキは石川の携帯に電話をかけて呼び出した。真希から石川を呼んで連れて
きてあげるともいわれたが、断った。自分で全てやりたいというユウキの意思の
あらわれであった。
 「どうしたの?」
 石川もいつもと違うユウキの様子を電話からも感じ取ったのであろうかそわそ
わしている。
 「ごめん、突然呼び出して。ちょっと歩こうか?」
 「うん…」
 夜空が明るい星で照らされていた。
 「星がきれいね。」
 「珍しいな。東京でこんだけ星が見えるなんて。」
 「なんかユウキ君といると落ち着く。普段はお仕事で忙しいけど、ユウキ君と
いると時間が止まってるみたい。」
 「俺もなんでかわからないけど楽しいよ。癒されるっていうか…」
 「お上手ね。」
 「お世辞じゃないよ。石川さん。俺のことどう思う?」
 「どうっていきなりいわれても…そうね、カッコイイ。でももっと中味が魅力
的。優しいから。」
 「年下だからガキだなって思うことある?」
 「全然ないよ。むしろ私よりも大人びているな…」
 「そうかな?」
 「そうよ。とっても素敵。」
 「石川さん。」
 ユウキは立ち止まった。
 「俺さ…好きです。年下で頼りないかもしれないけど、俺でよければ付き合っ
てください。」
 石川はしばらくじっとうつむいたままであったが、しばらくして口をひらいた。
 「私でよければお願いします。」
 石川の表情は穏やかであった。照れるあまりに少し目線はユウキからそらした。
 「ほんと?」
 「ええ。これからもよろしくお願いします。」
 「こっちこそ!」
 二人は照れながらしばらくじっとしたまま見つめあったあと、再び歩き始めた。
初めて手を一緒につなぎながら…



 「梨華ちゃん!最近はユウキ君とどうなの?」
 加護が寄ってくる。ユウキと石川が付き合いだしてからはこのことばっかりき
いてくる。
 「もう、いいじゃないの。」
 「そうや、加護。子供はそんなことに興味もたんでええ。ほらほらあっちいっ
た。」
 中澤が加護を追い払う。
 「で、どこまでいったんや?」
 「どこまでって…」
 「裕ちゃん。石川が困ってるじゃん。」
 矢口もよってくる。矢口もこのての話にはすぐに嗅ぎつけてくる。
 「なんや、矢口かいな。あんたやって聞きたいやろ?」
 「そりゃちょっとは…」
 矢口は親指と人差し指でつまむようなジェスチャーをする。
 「チューくらいしたんか?」
 「お前はセクハラ親父かい!」
 「大事なところや!黙っとき!」
 中澤の鼻息が幾分荒い。
 「別に何もしてませんって!」
 石川が恥ずかしがって声を荒げる。
 「まー恥ずかしがってかわいいわ。ほんなら予行演習でうちがチューしてあげ
るわ。」
 「よさんかい!石川さっさといきな。このままじゃ裕ちゃんに唇を奪われちゃ
うよ。ユウキ君のためにもとっておかないとね。」
 矢口も少し冷やかすような笑顔で石川を見る。
 「ええ…それじゃ失礼します。」
 石川はなんとかその場を逃れた。
 「避妊はきちんとしときまいよ!」
 「だからやめっちゅうねん!」
 なかなか息の会っている二人である。



 ユウキは石川を待っていた。場所はというとスタジオのあるビルである。いく
らなんでも仕事場が待ち合わせ場所だとまずいところもあるが、ユウキ自体も
「EE JUMP」でのデビューの準備のために色々仕事があったので石川と仕
事場が同じになることも珍しくはなかったし、その日もたまたま同じところであっ
たので問題はなかった。
 ユウキが待っていると石川がやってきた。
 「ごめん待った?」
 「いや、きたばっか。」
 階段から吉澤が降りてきた。
 「ありゃ、ユウキ君と梨華ちゃんじゃん。」
 「やあヨッスィー。」
 「今からデート?もう熱いわね〜♪」
 「からかわないでよヨッスィー。」
 「梨華ちゃん優しくしてくれるでしょ。」
 「まあな…」
 しばらく吉澤とユウキが話していた。吉澤の性格が真希とどことなく似ている
せいか、姉と弟のように見える。石川は一歩後ろに下がってそれを見る形となっ
た。少しだけ表情が曇ったようにも見えたが、ほんのわずがなので気づくまでで
もなかった。
 「さてと、お邪魔者は帰りますかと。二人とも楽しんできてね。」
 「ありがとヨッスィー。」
 「またね、ヨッスィー。」
 吉澤と別れて二人は階段を降りて行った。階段の踊り場に保田がいた。保田の
眼がキランと光ったようにユウキには見えた。ユウキになぜだがわからないが、
背筋が凍るものを感じた。
 「あれれ?きまずいところに出会っちゃったな。もう二人ともラブラブで見て
るこっちが恥ずかしいんだから。」
 「保田さん、別にそんなんじゃないですよ。」
 「まあ、仲良くね。みんな応援してるんだから。」
 「ありがとうございます、保田さん。」
 保田は二人の前を通り過ぎて行った。保田がユウキの横を通った瞬間、ユウキ
は何かに怯えるように顔が青ざめた。
 「どうしたの?顔色悪いよ。」
 「なぜかわからないけど一瞬寒気がしたんだ…」
 「大丈夫?」
 「ああ、なんとか…」
 「そうだ、今日うちにくる?誰もいないんだ…?」
 「ああ…」
 ユウキの胸が自然と高鳴った。



 二人は神奈川の海辺を歩いていた。石川の家もここから近いところにある。
 「きれいなところだね。」
 「いいところでしょ。小さなところだからあまり人もきてないしね。あまりこ
このことを教えていないんだ。自分だけのとっておきの秘密の場所かな。」
 「俺には教えてくれるんだ。」
 「えへへ…」
 「ところでさ石川さん。」
 「まだ石川さんって呼んでる。」
 「え、だってさ…」
 「ヨッスィーにはあだ名なのに。」
 石川は少しふてくされた顔をしている。
 「ご、ごめん。それじゃ…梨華…これでいい。」
 「うん!」
 石川はすぐに笑顔になった。
 「じゃあ、俺のことも君づけいらないから。」
 「それじゃあユウキ…」
 二人は一緒に笑い出した。
 「なんかいきなしこう呼ばれると照れるね。」
 「さん付け長かったしね。」
 「そろそろ私のうちに行こうか?」
 「うん。」
 「くしゅん!」
 石川がくしゃみをした。
 「この時期でも海辺だとやっぱ寒いね。」
 「大丈夫?」
 そういってユウキが自分の着ていたジャケットを石川に着せてやった。
 「ありがと、優しいんだ…」
 「ちょっとぶかぶかしてるな。」
 「暖かいから平気…」
 二人は見つめ合った。石川が目をつむった。ユウキは静かに石川に顔を近づけ
そっと口づけをした……
 「いこっか?」
 「うん…」
 二人は手をつないで肩を寄せながら海辺をあとにした。



 家に着いた。こじんまりとしていて大きくはないが立派な造りで閑静な雰囲気
を漂わせていた。
 「狭いけどどうぞ。」
 石川は自分の部屋にユウキを案内した。
 「お茶持ってくるね。」
 石川はユウキを残して部屋を出て行った。
 ユウキは部屋を見回した。部屋はピンクを基調とした女の子らしい雰囲気であっ
た。ベッドにはキティちゃんのぬいぐるみも置いてある。ユウキがくるから片付
いて整頓されているのかもしれないが、真希の部屋と比べると天と地の差であっ
た。ゴミ箱を覗きこんだ。何も入ってなかった。テレビでいってたような綿棒は
なかった。
 石川がお盆にポットとカップを置いて持ちながら部屋に入ってきた。
 「おまたせ。紅茶でいいなか?」
 「ああ、いいよ。」
 「お砂糖はいくつがいい?」
 「じゃあ、二つ…。なんかこういうの慣れてないから落ち着かないな。女の子
の部屋って真希ちゃんの部屋みたいなのばかりだというイメージがあるからな。」
 「ごっちんの部屋ってどんなんなの?」
 「汚い。」
 「それだけ?」
 「うん。」
 二人は笑った。それでリラックスもできたのか、二人は談笑しながらくつろいだ。
 「ねえ、中学のときの写真ってある?見てみたいな。」
 「ええ〜、恥ずかしいから嫌だな〜。」
 「いいじゃん。」
 「笑わない?」
 「笑わないって。」
 「しょうがないな〜。」
 石川は机の棚からアルバムを取り出てユウキに渡した。ユウキはそれを最初か
ら開いていった。写真のほとんどは友達と一緒に写っているものであった。
 


「あれ?ユニフォ-ム姿じゃん。そういや、テニスしていたっていってたね。
初めて見たな。かわいいな。」
 ユウキは石川が所属していたテニス部の集合写真に目がとまった。
 「足が太いのが目立つからあんまし見て欲しくないな。」
 「いいな、こういうのも。」
 「もう、いやらしい。」
 「何言ってんだよ。部活仲間がいていいなって言ってるんだよ。別にユニフォー
ム姿がどうのっていってるんじゃないぜ。」
 「そっか。」
 石川は顔を赤くして苦笑いする。
 「部活なんかやってないから、こういうのちょっと羨ましいな。この右の人は
誰?」
 「この子は同い年で一番仲が良かった子。」
 「その隣は?」
 「この人は女子部の部長さん。」
 石川はユウキがたずねていくのに一人ずつ答えていった。
 「じゃあこの梨華の左の人は?」
 ユウキはハンサムで穏やかな,人の良さそうな表情をした男性を指した。
 「この人はわね…男子部のキャプテンよ。」
 梨華は少し言葉に詰まったがユウキは気づかず質問を続けた。
 「背が高いねこの人。」
 「180あったから。」
 「カッコイイしもてたんじゃない?」
 「うん、女の子はみんな憧れてたな。それでもって男の子からも頼りにされて
たし…」
 「ふーんそうやってなんでもできるって人やっぱりいるんだ。それじゃこの眼
鏡の男の人は?」
 「その人は…」
 石川は一通り写真に写っている部員の紹介を終わらせた。



 写真を見ている間に二人は知らないうちに肩を寄せながら距離は急接近してい
た。写真を見終えて互いの顔がすぐ隣にあることに気づく。
 「梨華…」
 ユウキは石川にキスをしてそのままゆっくりと横に寝かせた。
 「いい…?」
 「うん…」
 石川は覚悟ができていたのか少しも抵抗する素振りはない。ユウキは上の服か
ら一枚ずつ脱がせていった。
 「恥ずかしいから、あんましじろじろ見ないでね…」
 石川は自分の下着だけの姿の恥ずかしさのあまりユウキからめをそらす。ユウ
キは首筋に軽く口付けをしてゆっくりと顔を下に運んでいく。石川の細い体から
は想像できないほどの胸の膨らみに興奮が抑えられなくなり、ユウキはそれに顔
を埋めた。ほどよい弾力間が顔に心地よくこのまま眠ってしまいたいほどである。
 「優しくしてね…」
 「ああ…」
 ユウキはブラを外して乳首をいじりだしてそのまま赤ん坊のように吸い付いた。
ユウキは段々と顔を下にずらしていって下半身のところまでもってきた。
 ユウキはパンティをゆっくりとずらしながら脱がした。毛は生えているものの、
真希とは違いうっすらとしている。ユウキは指先で軽く触れた。
 「や…」
 ユウキは指でいじりながら舐めだした。鮮やかなピンク色をしている。穴が小
さいせいで指が奥まで1本しか入らない。石川も興奮が抑えきれず腰をくねらす。



 「いれるね…」
 ユウキはゆっくりと陰茎を差し込んだ。穴が小さいためになかなか入らない。
少しずつ押し込むようにしてなんとか根元まで入り込んだ。ユウキはゆっくりと
腰を動かし始めた。
 「ああん…」
 石川はシーツをぎゅっと握り絞めて歯を食いしばりながらなんとか声を出す
のをこらえている。
 石川は特にこれといったペッティングをユウキにはしていない。しかし、それ
でもユウキは今までにない快感があった。なぜなら石川の仕草になんともいえな
いものを感じたからである。今までの真希とのは、自分から恥ずかしげもなく服
を全部脱いで、そのままフェラをして上にのってくるというほとんど逆レイプに
近いプレイであった。そのせいか、石川への征服感というものがユウキの興奮を
倍増させていた。
 石川の膣の狭さでユウキはすぐにイキそうなのを我慢して、バックの体勢をとっ
た。ユウキの征服感がさらに増す。
 「はあはあ…」
 「い、いい……」
 ユウキの腰のリズムに合わせて石川が荒く息を吐く。石川の長い髪は汗で肌に
べっとりとひっつき、乱れきっていた。バックの体勢を支える腕にはすでに力が
残っておらず、そのまま顔をベッドに押し付ける形となってぐったりとしている。
 「い、イクよ…うう…」
 ユウキは耐えに耐えたありったけの精子を石川の丸みを帯びた尻にぶちまけた。
石川は力尽きてそのまま体勢を崩して仰向けになった。
 「はあはあはあ…」
 ユウキはそのまま石川の上に覆い被さりキスをした。ユウキは石川へ欲望をぶ
ちまけたことへの満足感でいっぱいであった。



 「よかったよ…」
 「私も…」
 二人は手を取り合い、少しでも長く余韻に浸れるようにキスを続けた。
 しばらくして,廊下から電話が鳴りだした。
 「お父さんかも。ごめん,ちょっと出てくるね。」
 石川は上着をはおって部屋を出ていく,数分後戻ってきた。
 「ごめん。電話の話が長くなりそうだから風邪ひかないように何か着て暖かく
しててね。」
 石川はすぐさま部屋を出ていった。
 ユウキはしばらく退屈しながらごろごろしていたが,徐々に部屋を勝手にあさ
る悪い癖がでてきた。ユウキは手始めに机の引き出しを開け始めた。最後の一つ
のの引き出しだけが,鍵がかかっていてあけられない。しかし大抵こういう鍵は
同じ机のどこかにあるという読み通り,すぐに見つかった。ユウキは鍵をあけて
中をのぞいた。
 


 引き出しの中には一冊のアルバムと手帳が置いてあった。ユウキはアルバムを
手にとって開いた。石川と男性が二人で一緒に写っている写真がある。どのペー
ジをひらいても同じその男性とのツーショットの写真ばかりであった。その男性
はすぐにわかった。石川がテニス部で集まって写っていた写真に一緒にいたテニ
ス部のキャプテンであった。その二人の様子は明らかに恋人同士である。最後に
は二人でキスをしている姿を彼氏が自分でカメラを持って映したと思われる写真
まであった。ここまで大胆なことをするとは石川も,その彼氏も見た目はおとな
しそうだが意外な一面を持っているようだ。手帳には二人で撮ったプリクラがた
くさん貼ってあった。フレームの8割がハートであった。ユウキはアルバムと手
帳をわからないように元に戻し,引き出しに鍵をかけて鍵も元に戻した。
 激しいなんともいえないものがこみ上げてきた。もちろん今は別れていて
過去のことであるのであろうが,それでもあのような写真を急に見せられる
と動揺しないではいられない。写真はユウキと変わらない中学生の頃のであ
ろうが,その彼氏はユウキよりもはるかに大人びていた。年上ということも
あるのであろうか,石川もユウキには見せたことのないような表情で甘える
ように寄り添っている。それが一番ユウキは悔しかった。男としてはやはり
ひっぱってやりたいが,現状はどうしても石川が必ずどこかでリードしてい
る。それが自分の不甲斐なさのせいであると自分を責めた。
 「待たせてごめんね。」
 石川が部屋に戻ってきた。ユウキは無言で石川をベッドに押し倒した。先
ほどのこともあり,どうしても荒々しくなってしまう。
 「ちょっとどうしたの・・・」
 ユウキは返事もせずに,石川の服を脱がしてそのまま強引に石川の唇をキ
スで塞いだ。
 石川はさっきまでの優しかったのが豹変したかのような様子に少し恐怖も
感じた。荒々しくて本当は手を振り払いたかったが,好きな男のためになる
のならという優しさがそれに勝ってユウキを黙って受けいれた。



 石川は学校から帰り,いつものように駅に降りた。下校時間なので同じよう
に高校生がたくさん歩いていく。当然カップルもたくさんいる。仲良く手をつ
ないだり腕を組んだりして歩いていく。石川はじっとその様子を見ていた。季
節はもうじき冬を迎えようとしていた。石川は中学の頃を思い出した。

 中学に入った頃,テニス部で活躍する彼のことはすぐに覚えた。性格はおと
なしかったが,ルックスも良く背も高く,テニス部のエースで成績優秀,女子
の隠れファンも少なからずいた。石川もそんな中の一人であった。彼目当てで
テニス部に入ったというわけではなかったが,部活の時間は彼を見ることがで
きてそれだけで幸せであった。部活中は熱心に外には目もくれず練習に励んで
いる彼であったが,練習が終わると男女問わず部員全員に声をかけて相談にのっ
たり練習相手になってやったりして,そこがまた彼の良いところでもあった。
テニス部自体は小規模ということもあり,男女入り混じってのアト・ホームな
雰囲気であった。石川もちょくちょく練習中にアドバイスをもらった。フォー
ムを見てくれと頼んだら,嫌な顔一つせずに時間をかけて見てくれた。そうい
う彼に石川の憧れは強まっていった。
 ちょうど冬を迎えようとしている頃であった。いつも通りに部活を終え,帰
宅しようとしていた石川に彼が声をかけた。彼は10分位,緊張した面持ちで
言葉を濁しながらあれこれいったが,意を決して石川を見て彼女に交際を申し
込んだ。石川は信じられず,何度も本当に自分でいいのかと聞き返した。彼も
本気だと何度も言った。石川は夢のような気持ちでそれを受けた。彼も不安だっ
たのであろうか,それを聞いてほっとしたような嬉しそうな表情をした。緊張
していたために汗もびっしょりかいていた。その時の印象は今でも忘れていない。
付き合ってみるとドジでおっちょこちょいという意外な一面も見えた。それが
かえって石川にとっては遠い憧れの存在であったのが,近くて親しみやすい存
在にしてくれた。それでもやはり普段はしっかりしていて頼もしかった。甘え
てくる石川をしっかりと受け止めてくれた。
 毎日一緒に普通に帰るだけでも楽しかった。二人で映画にも行った。ショッピ
ングもした。海へ遊びにも行った。ぎこちなかったがファーストキスもした。



 しかし彼が卒業するとき、石川が14歳の時であった。彼が親の仕事の都合で
大阪へ引っ越すことになってしまった。神奈川と大阪では学生の身分ではなかな
か会いに行くこともできなかった。さらに石川も3年最後の部活に受験と多忙な
毎日であった。彼が引っ越してからも電話やメールでやりとりは続けたが、次第
にその回数も減ってきた。すれ違いの日々が続いた。そして彼から久しぶりに電
話がかかってきた。別れようといわれた。嫌いになってはいないが、遠くに離れ
てから心まで離れてきたのは薄々感じていた。石川もそれを静かに受け入れた。
 頭ではわかっていたが、別れた傷はなかなか癒されることはなかった。ユウキ
という恋人もできてそのことも忘れようとしていたが、心のどこかではまだそれ
を引きずっている自分にも気づいており、それがまたたまらなく自分に嫌でしょ
うがなかった。
 傷心の石川が追加メンバーの募集をASAYANで見たのは偶然であった。忘
れるために思い切ったことをしてみたかった。気が紛れたら何でも良かった。石
川はとりあえず応募した。まさか本当に入るとは夢にまで思っていなかった。入っ
てから何度も辞めたいと思うこともあったが、新しいやりがいのあることが見つ
かった。傷心も少しずつ癒されていった。そしてユウキにも出会えた。



 石川ははっと我に返った。石川は内心ユウキに誤って反省した。
前を向くと先程から長身の高校生がこちらをじろじろずっと見ている。ストーカー
騒ぎがあったばかりなのでどうしても神経質になって気になる。その高校生はや
がてこちらへ近づいてきた。石川の手も自然と力が入る。
 「梨華?やっぱ梨華だろ?」
 「せ、先輩…?」
 「やっぱ梨華か!」
 その男は嬉しそうにした。石川の昔の恋人、まさにその人であったのである。
 「いやー、最初見たとき梨華じゃないかと思ったんだよ。俺のことすぐわかっ
た?」
 「髪が少し伸びてたから最初誰かわからなかったんだけど、近くにきたらすぐ
にわかりましたよ。」
 「久しぶりだな〜。元気にしてたか?」
 「ええ、先輩はまだテニスは続けてるんですか?」
 「ああ、こっちに帰ってきて今はこっちの高校に通ってて、ぼちぼちテニスも
続けてるよ。」
 「こっちに帰ってきてたんですか?!」
 「そうなんだよ。大阪へ行ってからしばらくして親がいきなし、予定よりも早
くこっちに帰れそうだから先に帰っておかって。だったら最初から一緒に引越し
なんかさせるなっていうんだよな。まったく迷惑な親だぜ。」
 「そうだったんですか…。今どこの高校行っているんですか?」
 「S高だよ。」
 「すごい!だってあそこの編入試験むちゃくちゃ難しいじゃないですか。」
 「たいしたことないって。石川はどこ行ってるんだ?」
 「私はAです。」
 「そういや、前から行きたいって言ってたもんな。彼氏とか…できたか?」
 「忙しくて全然…」
 石川は罪悪感を感じながらも嘘をついた。



 「先輩はどうなんですか?」
 「俺?全然。」
 「先輩ならすぐにできますって。」
 「お前こそなんでいないんだ?そうだ携帯ある?番号教えてくれよ。またテニ
ス部のみんなで遊ぼうぜ。」
 「それが…」
 ためらう石川に、彼もしばらくして気がついた。
 「そうだったな…」
 彼はしばらく間をあけた。
 「帰ってきてからお前にも連絡取ろうと思ったんだけど、全然連絡つかなくて
な。そうこうするうちにお前のことは色々知ったよ。びっくりしたぜ、モーニン
グ娘。に入ったんだってな。」
 「ええ…」
 「ASYAN見てなかったから、後で聞いたんだけどな。向こうでいるときは
知らなかったんだけど、帰ってきてからみんながお前の話題で騒いでいてな。た
まにお前がテレビに出てるのを見るよ。なんか不思議な感じだな。なんか売れっ
子になっていつの間にか遠くへいってしまったかんじだな…」
 「そんな、私なんかまだまだですよ…」
 「ごめんな。ひょっとしたらこうやって二人で話しているのもやばいかな…」
 「大丈夫ですって。これくらいなら。」
 「そっか…」
 二人は黙ってうつむいた。
 偶然ユウキがその場を通りかかった。しかし石川はまだ気づいていない。ユウ
キは遠くからだがその二人が石川と昔の恋人だということはわかった。ユウキは
その場で立ちすくみ黙ってその様子を見た。



 「あのな。別れてからしばらくしてから段々とお前が本当に大切だった人だっ
ていうことに気がついてきたんだ。でもああ言ったてまえもあってなかなかやり
直そうっていえなくてな。今考えたら馬鹿なことだけどよ。神奈川に帰れるって
聞いたときは真っ先にお前のことを考えたよ。本当はそれを聞いてからすぐにお
前に連絡したらよかったんだけどな。でもやっぱり俺から一方的に言っておいて
今さら勝手だろうってこともあってなかなか踏ん切りがつかなくてな。だったら
帰ってきてからでもって思ってるうちにお前はすでにデビューしてたって話だっ
たんだ。バカだよな…」
 石川は思いもよらない衝撃的な言葉に驚いて言葉が出なかった。
 「ごめんな、余計なことべらべら言ってな。じゃあそろそろいくな。あんまし
長いこと話しているとほんとまずいし。もう会うこともできないだろうけど応援
してるよ。じゃがんばってな…」
 「先輩…」
 彼は石川の肩をぽんと叩いてそのまま去って行った。石川は何も言えずただそれ
を見ることしかできなかった。
 二度と会うことができないだろうという現実が痛烈に石川を襲った。石川はこら
えきれず涙を流した。良かれと思ったことが結果的に裏目に出てしまった。すれ違
い続きの二人の運命を呪った。
 しばらくして石川がユウキがいることに気づいた。
 「ユウキ…」



 石川は驚いて急いで目をこすった。
 「さっきの人ね。」
 「中学のときの恋人でしょ。」
 ユウキは遮るように言った。」
 「違うって、テニス部の先輩で…」
 「それで恋人でしょ。いいよ知ってるから…」
 「そうなの…」
 「でも今は関係ないからね…」
 「俺って頼りない?」
 「突然なにいってんのよ…」
 「やっぱ年下ってガキ?」
 「そんなことないって。」
 「でも向こうに比べたらガキでしょ。」
 「ユウキにはユウキの良さがあるんだから比べようがないよ。」
 「あっちの方が甘えられるからやっぱ良かった?」
 「さっきからなにいってんのよ!私はそんないい加減な気持ちでユウキとは付
き合ってないんだから!私は本当にユウキのことが好きなのに…もっと自信持っ
てよ!」
 石川は走って行った。ユウキは引き止めようと声を出そうとしたが、結局でき
ずにじっとその行く手を見ることしかできなかった。悔しかった。石川がずっと
昔のことをひきずっていたのを目の当たりにしたときに、自分が石川を包みきれ
なかったという情けなさがたまらなく悔しかった。ユウキはキッと唇を噛んだ。



 それからユウキと石川は一言も言葉を交わすことはなかった。
 真希も二人の様子に感づき色々問いただしたが、二人ともはぐらかして何も話
そうとしなかった。再三、話したが真希も半ば諦めかけていた。
 ユウキは休憩室にジュースを買いに行った。先客に石川もやってきていた。二
人は目を合わせたが、黙ってそらした。石川は無言でお茶を買うとそそくさと逃
げるように出て行った。ユウキもつまらなそうな顔をしてコーラをを買って休憩
室のソファーに腰をおろした。
 吉澤がやってきた。さっきのことの一部始終を見ていたのが、心配そうな顔を
している。
 「まだ仲直りしてないの。」
 「別にする気もないし。」
 「もういいの?」
 「付き合ってみると気が合わなかったんだよ。」
 「嫌いじゃないでしょ?ちょっと喧嘩しただけでしょ。」
 「いいじゃん。関係ないでしょ。」
 「関係ないことない!」
 「なんでだよ!」
 「関係ないことない!私はユウキが好きなんだから!」
 「へ…」



 ユウキは狐につままれたような顔をした。吉澤もしまったという顔をしていた。
 「これはもののはずみということで…」
 吉澤は必死に言い訳をしてごまかす。ユウキは神妙な顔をしてじっとその様子
を見ていた。
 「ヨッスィー…」
 ユウキは今までの吉澤とのことを思い出していた。考えてみれば吉澤にはたく
さん面倒を見てもらっていたが、単なる友達の弟にしては親切すぎていた。それ
はユウキへの想いがあったからであろう。ユウキは改めて吉澤を見た。そして吉
澤のことをだんだんと一人の女性として見ずにはいられなくなった。
 「まじ…?」
 「違うって…」
 吉澤は顔を赤らめてる。
 「俺さ…ヨッスィーのことが…」
 「だめ!それ以上は言っちゃだめ!」
 吉澤はユウキの口を押さえた。
 「一時の感情に流されちゃだめ。」
 吉澤はその場から離れようとしたら、ユウキが後ろから吉澤を抱き締めた。
 「待って。」
 「ちょっと誰か見てたらまずいって…」
 「ヨッスィーのこと、好きになっちゃったみたい…」
 「ユウキ…」
 ユウキは吉澤は前に向かして強引にキスをした。
 吉澤は石川のことが頭によぎっていた。ユウキは一時期の感情に流されている
だけで、本当に好きなのは自分でないかもしれないということも頭ではわかって
いた。それでも体がユウキを拒みきれなかった。



 カラン

 空き缶が二人の足元に転がってきた。
 二人ははっとして空き缶の転がってきた方向を見た。石川がじっとして二人を
見ていた。そして勢いよく走って行った。
 「梨華ちゃん!」
 吉澤が追いかけようとするがユウキが肩を掴んで引き止める。
 「ちょっと!今追いかけないともうだめになっちゃうよ!」
 「いいんだ…」
 「でも。」
 「俺はヨッスィーのことは本気だ…」
 そう言われると吉澤後ろめたそうに石川の去って行った方向を見ながら黙って
ユウキに従った。後ろめたい気持ちもありながら内心ユウキが自分に振り向いて
くれたという嬉しさもあった。同時にそんな自分がたまらなく嫌でしょうがなかっ
た。



「ちょっとどうなってるの二人とも!」
 真希が猛烈に怒鳴った。ユウキが座ってじっと無表情にそれを見る。
 「さすがにあたしでもちょっとまいったよ!」
 ユウキ、石川、吉澤の三角関係のことはすぐさまメンバー内に知れ渡った。特
に石川と吉澤のぎくしゃくした関係は他のメンバーにまで悪い影響を及ぼしてい
た。真希も少なからず自分に責任も感じていた。真希なりに関係を修復しようと
したが改善できずにいらいらが募りついに爆発した。
 「梨華とはもう終わった。新しくひとみと付き合った。何が悪い?」
 「そりゃそうだけどね!」
 「ならいいじゃんか。」
 ユウキはやれやれといったようにした。



石川と吉澤が廊下ですれ違った。石川は無表情で通り過ぎる。少しばつが悪そ
うに吉澤が石川を見る。もう2ヶ月ちかくまともに口をきいていない。
吉澤は何とか石川と話す機会を設けたかったが、話し掛けようとするとすぐに
石川がはぐらかされる始末であった。
石川は何がなんだかわからない状態であった。ユウキのことは今はわからない。
でもユウキと吉澤がキスをしている場面に出くわすまでは間違いなく好きで、仲
直りもしたかった。もちろん自分に非があったのはわかっているし、充分に反省
もしている。再びつまらないすれ違いで終わる恋だけはしたくなかった。また吉
澤のことにも驚いた。吉澤はユウキだけでなく、石川に対しても色々ユウキとの
ことで仲を取り持って世話をしてくれた。吉澤もユウキが好きだったのには気づ
かなかった。自分ばっかり舞い上がってたと思うと恥ずかしかった。学年が違う
とはいえ、早生まれの石川と吉澤は生まれた年は同じで、誕生日もわずか2ヵ月
半しか違わない。同時期に加入したライバルしてはもちろん友人としても常に一
番気にかかる存在であった。それだけに複雑な考えが絡み合っていた。悩みすぎ
ているせいか最近は体がやけに重くけだるく感じている。仕事のハードスケジュー
ルのせいもあるのだろうか。最近は貧血が多い。体は細いがテニスで鍛えていた
だけあって体は人一倍丈夫なつもりであったが、こんなに調子が悪いのは初めて
だ。段々とまた目がかすんできた…………何か後ろから吉澤の叫び声が聞こえる。
どうしたんだろう?

石川は気を失って倒れた。吉澤が叫びながら慌てて駆けつけた。その騒ぎに次
第に人も集まった。



「ほら加護泣かないの。」
飯田がずっと加護を慰めている。
「私のせい…私のせいだ…」
吉澤はずっと放心状態のまま同じ言葉を繰り返す。
「あんたのせいじゃないって。そんなに気にしないの。」
矢口は石川が運ばれてからメンバーを落ち着かせようとやっきになっている。
先頭にたって大勢を落ち着かせるのは想像よりもはるかに疲れる。普段の中澤の
苦労が身に染みてわかる。
(裕ちゃん、ほんと毎日よくやってるよ…)
中澤が帰ってくることがこれほど待ち遠しいことはない。
矢口の祈りが通じたのか中澤が帰ってきた。
「あ、裕ちゃん!石川は?」
矢口が駆け寄る。
「疲労が溜まってただけや。しばらくは安静やけどすぐに復活できるで。だか
ら心配せんでええで。」
「大丈夫ですか?」
加護が心配そうに聞く。
「大丈夫や。」
「そっか良かったね、加護。裕ちゃん、加護さっきから泣いてばっかで一番心
配していたんだよ。」
加護がほっとしたように、笑顔を見せる。側にいた吉澤も静かにほっとした様
子を見せていた。
「しばらく石川が抜けるけどその分みんなでがんばって石川のぶんも補ってや
ろな。」
中澤は精一杯笑顔で振舞った。しかし、真希だけは一瞬だけ見せた中澤の雲っ
た表情を本能的に察知した。しかしそれだけで深くは考えなかった。



真希は石川の病室に向かっていた。本当はお見舞いは自粛するように事務所か
ら言われたがいてもたってもいられなくなった。
―昨日―
「私のせいだ…」
少し太りかけていた吉澤だが、ここんときめっきり頬がこけてきていあのは誰
の目にも明らかであった。悩みつづけている心労のせいであろう。
「それは違うと思うよ。」
「私どうしたらいいの…」
「ヨッスィーはユウキのことは本気なの?」
吉澤は黙って頷いた。
「なら気にしなくていいよ。ユウキが梨華ちゃんよりヨッスィーを選んだんだ
から。」
「でも、ユウキは本当はまだ梨華ちゃんのことが好き…」
「そう言われると私もどうしようもないな…こういうのってお互いの気持ち次
第だからね。」

とりあえず石川の気持ちが知りたかった。ユウキはなんだかんだいってはっき
りしない。それなら石川はと考えた。真希は石川の病室の前にきてノックしよう
としたとき中から話し声が聞こえてきた。真希は戸に耳をあてて聞き耳を立てた。
どうやら石川の両親がいるらしい。
「相手は誰なんだ?黙っていてもしょうがないだろ!」
「ちょっとお父さん。梨華は妊娠しているんですからおさえてくださいな。」
真希は一瞬、わけがわからなくなったが落ち着いてみるととんでもないことだ
ということがわかった。真希はショックのあまり足元がふらつきながら、石川に
も会わず病院をあとにした。



 真希は帰宅して靴を脱ぎ捨てて一目散にユウキの部屋に駆け込んだ。
 「どしたんだ?」
 ユウキは寝転んで呼んでいた雑誌を置いて起き上がった。真希は間髪あけずユ
ウキの頬をこぶしで殴りつけた。
 「いってー!いきなしなにすんだ!」
 ユウキは真希の胸倉をつかんだ。真希は突然涙を流し始めた。
 「梨華ちゃんが…妊娠していた…」
 「なんだって…」
 ユウキは力なく真希から手を離した。
 「冗談でもいっていいことと悪いことがあるぞ。」
 「聞いたもん。病室の中から梨華ちゃんのお父さんとお母さんと3人で話して
たのを聞いたもん。」
 「嘘だろ…」
 「あんた、どうすんのよ…」
 真希はへなへなと座り込んだ。ユウキもそれにつられた。
 「俺どうしたらいいんだ…」
 「わかるわけないじゃん…」
 「そんなこというなよ。」
 「自分でやってできちゃったんでしょ。自分でなんとかしなさいよ。」
 「そうだけどよ…」
 ユウキは頭を抱え込んだ。真希も座り込んだなとうとう声をあげて泣き出した。
 「ばか!あんたのせいで梨華ちゃん辞めちゃうかもしれないじゃない!」
 「俺…梨華に会ってくる。場所教えて。」
 「会ってどうなるのさ。」
 「とりあえず会って、それから考える…」
 ユウキは静かに立ち上がった。真希はそれを見上げた。ユウキの目は明らかに
困惑していた。



 ユウキは石川の病室の前に来たものの、なかなかノックすることができず何
度も部屋の前でうろうろと歩き続けるだけであった。ユウキは正直まだ石川の
妊娠が半信半疑であった。どじな真希が聞き間違えて、慌てて勘違いしたもの
であろということも考えたし、そうであって欲しかった。完全に信じられない
とはいえ、もし本当だったらと思うと怖くてなかなか石川に会うこともできな
かった。ユウキは立ち止まって大きく深呼吸をした。もう一度部屋のドアの前
にきたらノックしようと決意した。
 「あれ?ユウキ…」
 突然後ろからドアが開く音がして、石川が頭を出してユウキを見ていた。
 「やあ…」
 ユウキは気まずそうに手をあげた。
 「た、倒れたって聞いたから…お見舞いに…」
 ユウキは緊張のあまりに声がうわずった。
 「ほんと!?ありがと!病院だとすることがなくて退屈してたから嬉しいな!
そんなところで立ってないで部屋に入ってきてよ!」
 「うん…」
 ユウキは会うともっと気まずい空気になるとばかり思っていたが、石川のあっ
けらかんとした態度に安心しながらも少々拍子抜けした。心の中で、もう俺のこ
とはどうでも良くなったのかなとも考えずにはいられなかった。
 「みんな忙しくて全然これないからつまんないんだ。学校のお友達も神奈川
からだと遠いからなかなかこおれないし。病院だと携帯使っちゃだめだからメー
ルもできないんだ。」
 「体は大丈夫なのか?」
 「うん、もう平気。ほんとは早く退院したいんだけどなかなかお医者さんが許
してくれなくてね。」
 「心配したぜ。」
 「心配かけてごめんね。でも心配してくれたんだぁ。嬉しいな。」
 「そりゃするよ…」
 「ヨッスィーとはどう?」
 「え?まあ、それなりに…」
 ユウキは石川が吉澤とのことをためらうことなく、挨拶のように軽い感じで聞
いてきたのに変な感じがした。
 「そっか、ヨッスィー遠慮してる感じがしたからさ。ヨッスィーらしくないか
ら気になってたの。ひょっとしたら私のせいなのかなって…」
 「そのさ…ごめん。」
 「何で謝るの?だってお互いの気持ちをはっきり整理したからいいじゃない。
ユウキとヨッスィーはお互い好きな人同士。だったらそれでいいじゃない。」
 石川は満面の笑みで話した。ユウキはこの様子なら石川の妊娠は真希の勘違い
であろうと思ったが、不安なので念のため聞くことにした。



 「あのさ、真希ちゃんが梨華のお見舞いにこようとして実は昨日きてたらしい
んだ。」
 「うそ!なんできてくれなかったの〜。」
 石川は両手で膝を叩きながら残念そうにする。
 「それでこの部屋の前にきて中から、話し声が聞こえてきて、その…梨華が妊
娠してるみたいだって言うんだよ…全くほんとバカだよなあいつ。」
 石川の顔がさっきまでとは一変して青ざめた表情になった。漫画のようにわかり
やすいくらいのリアクションであった。ユウキはカウンターパンチを喰らった気
分であった。
 「まさか…」
 「ま、まさかそんなことないよ。」
 石川は大きく手を振って必死に否定する。ごまかそうとすればするほど、裏目
にばればれである。どうやっても石川は嘘がつけないたちである。
 「いつ妊娠に気がついた?」
 「倒れてから、お医者さんにいわれたの…」
 「みんな知ってるの?」
 「事務所の人の一部と中澤さんは…」
 「ごめん!」
 ユウキは頭を床にこすりつけるように土下座した。
 「やめてってそんなこと…」
 石川もおろおろしてとまどうばかりである。
 「俺、どうやって償えばいいか!」
 ノックする音がして石川の両親が部屋に入ってきた。
 


 「あら?あなたはたしか、後藤さんの弟さんじゃないの?」
 石川の母親がユウキに気づく。
 「どうしたのですか?そんな恰好で?」
 「あのぉ、お腹の子供の父親って俺みたいです。」
 「は?」
 「ちょっとユウキ…」
 「君、冗談にもほどがあるぞ。心当たりがあるのならともかく。」
 石川の父親が少しむっとした表情になる。
 「心当たりもあったり…」
 ユウキはおそるおそる石川の父親の顔を見た。言うまでもなく顔は真っ赤に
なっている。
 「まさか梨華と?」
 石川の母親がユウキに尋ねる。
 「付き合ってたりしました…」
 「きさま、よくも!」
 石川の父親は我を忘れてユウキの襟首を引っ張り上げ、床に叩きつけながら
ユウキの顔面を殴った。鈍い音が響き渡る。父親は倒れ込んだユウキに馬乗り
になってマウントポジションをとってさらに殴りつづける。
 「お父さんやめて!お願いだからやめて!」
 石川が必死に腕をつかんでユウキからはなそうとするが歯が全く立たない。
 「石川さん?どうなさったんですか?」
 看護婦が駆けつけてきた。石川の母親がナースコールで呼び出していたので
あった。仕方なく石川の父親も殴るのをやめた。



 「いえ、なんでもないです。」
 石川の父親が自分の服の埃をはたきながら立ち上がる。
 「そうですか…病院ではくれぐれもお静かに。」
 看護婦は不審そうな顔をしながらも渋々引き返す。プライベートなことなので、
干渉することはやめておいたのであろう。
 「ユウキ大丈夫!」
 石川がユウキを抱きかかえながら起こす。父親がつまらなさそうにその様子を
見る。ユウキの頬が痛々しく腫れ上がっている。
 「とりあえず冷やしておきましょう。ごめんなさいね。突然こんなことをして…」
 石川の母親が申し訳なさそうに濡れたハンカチをユウキの頬にあてる。
 「いて!いえ、悪いのは俺ですから…」
 「君の年はいくつだ?」
 石川の父親が語気を荒々しくしながらもなんとか落ち着こうとする。
 「14歳です…」
 「まだ中学生じゃないか!どうやって責任を取るんだ!」
 「それは…」
 「梨華にだって育てる力は全くない。」
 「私が一人でも育てる!」
 石川が父親の言葉を遮るように強く言い放った。
 「なにをいっている!お前だって同じだろ!金はどうする?面倒はずっと一人
で見ることができるのか?だいたい、お前の年齢だと無事に出産できるかどうか
だってわからないんだぞ!未熟者同士から生まれてくる赤ん坊がいちばんいい迷
惑だ!」
 「お父さんそこまでいわなくても。」
 母親がなんとか父親を落ち着かせようとする。
 「絶対産むんだから!」
 「なんだと!絶対産まさんぞ!」
 「お父さんの言いなりにはならないわ!」
 「ばかもん!」
 父親が石川の頬を叩いた。乾いた音が鳴り響いた。ユウキはたまらず目を閉じ
た。時間が止まったように静けさが部屋を包む。



 石川はわけもわからず自分の頬を抑えている。父親も信じられないような顔を
して自分の手のひらを見つめる。
 「お父さんなんてことを…とにかく今日はこれで終りにしましょう。ユウキさ
ん、あなたの言ったことは間違いないんですね?」
 ユウキは元気なく頷く。
 「では後日きちんとお話しましょう。今日は悪いですけど、この辺でおひきと
りください。それとお父さんも今日は家に帰ってゆっくり一人で頭を冷やしなさ
いな。」
 父親はドアに八つ当たりするように、出て行った。
 「それじゃ…」
 「ごめん、ユウキ。」
 石川は涙を流してユウキに詫びた
 ユウキもすごすごと部屋を出る。
 ユウキはエレベータにのって一人になると泣いた。自分がこれほど情けないと
思ったことはない。石川を守ることができなかった。自分が何もしてやれなかっ
たのが悔しかった。自分の未熟さを恨んだ。



 中澤はみんなのいる楽屋の戸の前で大きく深呼吸した。

 〜石川の倒れた日〜

 「梨華ちゃん!しっかりしてや!」
 加護が泣きじゃくりながら担架で運ばれる石川の手を握る。
 「誰か付き添いの人もきてください。」
 「それならうちと、マネージャーさんで。矢口、留守番頼むで。」
 「うん…」
 「それでは急いでください。」
 救急車はサイレンを鳴らし急いで病院に向かった。石川はほとんど意識がな
かった。到着したらすでに医師達が待機していた。石川は急いで手術室に運ば
れて行った。中澤とマネージャーは待合室のソファーに案内された。二人はそ
こで待つことにした。
 手術中という赤いランプが寂しげに点灯している。流れる時間がやけに長く
感じる。二人は無言のままじっとしている。用意されたお茶は一切口をつけら
れておらず、すでに冷め切っている。
 ようやくランプが消えた。手術にあたった医師と看護婦達が出てくる。中澤
とマネージャーが立ち上がって駆け寄った。
 「先生、石川は大丈夫ですか?」
 「命に別状はありません。すぐに回復しますよ。」
 二人は胸を撫で下ろした。
 「一応彼女のご両親には連絡してあるのですね?」
 「はい。ですが道が渋滞していてかなり遅れるようです。
 「そうですか。詳しくお話したいのでとりあえず…」
 医師は診察室に二人を連れて行って座らせた。
 「最初に率直に言わせていただきます。」
 医師は幾分渋い表情をした。
 「彼女は妊娠しています…」
 「今なんて?」
 中澤は医師の言った唐突すぎて理解がなかなかできなくて聞きなおした。
 「彼女のお腹には子供が宿っています…」
 「嘘でしょ…」
 「検査の結果妊娠が判明しました。2,3ヶ月はたっています。」
 「そんな…」
 「彼女が未成年で歌手ということもあり、もちろんこのことが外部に漏れな
いように万全は期します。その点はご心配要りません。最終的な判断は彼女と
彼女のご両親に任せます。」
 最終的な判断とは中絶をするかしないかということであるのは明らかであった。



 「先生は、この場合どちらを選んだ方が良いと思いますか…」
 「出産すれば色々な弊害があるでしょう。だからといって中絶すれば彼女の心
の傷は一生残るでしょう。私には何もいえません。もちろん最大限努力はいたし
ますが…」
 医師は努めて医者として冷静に語った。
 マネージャーが事務所に連絡をいれていた。やはり黙っておくわけにはいかな
かった。マネージャーの顔は青ざめている。それもそうであろう。自分の受け持っ
たアイドルが妊娠である。責任問題は免れないであろう。
 「今から緊急会議を開くって。社長と幹部達も参加するみたい。つんくさんに
も連絡してくるように言ってるって。中澤さんもくるように指示されたわ。それ
とこのことはまだ他のメンバーには内緒にしておいてだって…」
 「そうですか…。すんません、私の管理が行き届いてなかったせいで…」
 「中澤さんはお仕事に集中していたらそれでいいのよ。石川も中澤さんも立場
は同じ。中澤さんに責任は無いわよ。あるのはマネージャーの私…」
 二人は沈痛な面持ちでタクシーに乗って事務所に向かった。



 会議にはたくさんの幹部がきていた。和田マネージャーは現在出張中というこ
とで参加できなかったが、事情は連絡済であるようだ。会議といってもほとんど
社長の山崎から一方的な指示ばかりであったが。しばらくは他のメンバーには内
密にしておくことが指示された。もちろんこの会議の内容は他の社員にも内緒で
ある。どうやらユウキと石川の交際についてはある程度感づいているところもあっ
たようである。石川のお腹の子供の父親がユウキであるという可能性にもある程
度認識があったようである。中澤はこみ上げてくるものを抑えながら黙って話を
聞いた。
 


会議が終り、各々が部屋を出ていくなか、つんくが中澤に声をかけた。
 「色々大変やな…」
 「すみません、つんくさん…」
 「中澤が謝ることやない。石川やってこの業界入ったからにはもう大人なんや
からあいつ自身の責任や…それにしてもやっぱり石川とユウキはできてたんやな。
なんとなくそうなんちゃうんかっては思ってたけど…」
 「私は知っていたから、きちんとそのへんのケジメをつけておくべきでした…」
 「恋愛はどうしようもないわ。好きなもんは抑えることはできんしな。それに
そんな仕事のために恋愛を捨てるようなやつは、俺は選んだつもりはないからな。
でも、妊娠はえらいことやな…石黒のときとは違ってえらい問題がたくさんある
からな。石黒のときは相手が社会的にも経済的にもきちんと自立できてたし、な
により石黒の年齢が子供ができても全く問題なかったからな。けど石川の場合は…」
 「なんとかならないんですかね…」
 「今のままじゃ中絶せなあかん状況に間違いなくなるやろな…」
 「けどそれは…」
 「あ、すまん。女の立場からだといくら自分が痛い目にあってもおろすのだけ
は絶対避けたいことに違いないな。男は子供よりも母親のことを第一に気遣うも
んや。そこからのギャップの差を埋め合わすのも大変や。すまんな、何も力になっ
てやれへん。いつもお前に押し付けてばっかりや。これでも、仕事のときは父親
代わりのつもりでいるつもりやけどこれじゃあかんな…父親失格や…」
 「いえ、つんくさんが責任を感じることじゃないですよ…」
 「とにかく、早くみんなのところへ行ってやれ。石川のことを心配してるやろ。
お前は嘘をつかなあかんから辛いやろうけどな…」
 「わかりました。それじゃ失礼します。」
 「ああ…」
 中澤は部屋を出て扉を閉めた。そしてこらえていたものがとうとう我慢できず
に流れ出してきた。元々泣き虫の彼女である。今まで精一杯気丈に振舞えたのが
嘘のようである。しかし、その分の反動は大きい。すすり泣く声は部屋の中のつ
んくにも痛いほど聞こえていた…つんくはこぶしをぎゅっときつく握り絞めすぎ
ていて、手は真っ赤になっていた。



 中澤は先ほどマネージャーから正式に石川の脱退が決定したことを伝えられた。
石川本人が自分で脱退を決めたと連絡あったようである。マネージャーは気を使っ
て、自分が他のメンバーにこのことを伝えると言ったが、中澤はそれを丁寧に断っ
た。今までメンバーをだましていた罪悪感にけじめとして自分の口から伝えるこ
とを、強く希望した。
 中澤はノックして楽屋に入った。
 「ようしみんな聞け!」
 さっきまで騒々しく騒いでいた楽屋が静まり返る。
 「今まで、事務所の指示で黙っていたけどこれはほんまのことや。ようく覚悟
して聞くように。」
 「なに、いつなくシリアスになってんのよ。」
 「矢口、すまんけどこれは大事なことや。ちゃかさんでちょうだい。」
 いつもと違う中澤の剣幕に、矢口も何かを感じてかそのまま黙った。他のメン
バーもそれには気づいているようだい。
 「黙っていたというのは石川のことや…」
 中澤は全員をちらりと見た。みんな石川と聞いて動揺はさすがに隠せないよう
である。不自然な石川の入院が、何かあるのではないかと少なからずみんな思っ
ていたようである。だだ、真希だけは不気味なほど落ち着いている。



 「率直に言うな。妊娠しとる…」
 一斉に驚きの声が飛び交う。
 「静かに、最後まで聞かんかい。それで、娘。を脱退することになった…」
 あまりの展開に皆が言葉を失っていた。鉛のように重い空気が漂う。喋ろうと
してもその空気の圧迫に何もいえない。加護がようやく重い口を開いた。
 「中澤さん。それって本当ですか?」
 「あのな、こんなこと冗談で言うわけないやろ。」
 中澤は努めて優しく言った。
 加護がしくしくと泣き出した。水面の波紋のように次々とみんなが涙を流し始
めた。
 「なんで今までいわなかったの!」
 飯田が激しく感情を剥き出して叫ぶ。
 「事務所の指示や。それに時期というものがあるやろ。」
 中澤の口調は静かだが、飯田を黙らせるには充分過ぎるほどの威圧感があった。



 「ごっちんは冷静やな。別に嫌味と違うで。それくらいのほうがうちも助かる
んやけどな…」
 「知ってた。梨華ちゃんのことは知ってた。偶然病院で話しているのを聞いた
から。」
 「なんや、そうか…」
 「やっぱり、ユウキ君の…」
 保田がポツリと呟く。
 「それはわからん。プライベートなことや。軽はずみにそんなことをいうもん
やない。」
 「そうだね。ごめん…」
 中澤は吉澤を見た。メンバーの中でも一番ショックが大きい様子である。それ
もそうであろう。妊娠、脱退だけでもその衝撃は大きいであろう。それに加えて
ユウキとのことを考えるとそのショックは計り知れないものであろう。
 「伝えることはこれで全部や。みんな最後は笑って石川を送ってあげような。
ほんなら、うちはまだ話し合いが残ってるからいくで。くれぐれもこのことは内
緒やで。ほんなら解散。」
 中澤は楽屋を出て廊下を歩いて行った。安倍が楽屋から出てきて中澤を呼んだ。
 「裕ちゃん!裕ちゃんが一番つらかったでしょう…一人でずっと苦しんでたで
しょ…ありがと…裕ちゃんじゃないと私達は絶対自分がどうにかなってたと思う
よ。やっぱ裕ちゃんはリーダーだよ…」
 「あほ。まいどのことや…」
 中澤一度も安倍の方へ振り向かずエレベータに乗った。
 「あすかといい、あやっぺといい、さやかのときもそうや。何でみんな誰にも相
談せんと勝手にやめるんや。なんのための仲間や。石川も妊娠してたって出産し
たら続けたらええやんか。ママドルが娘。にいて何が悪いんや…」
 中澤は座り込んでとうとう涙腺が耐え切れず涙をこぼした。ダムの堤防が崩れ
たときのように涙を流した。



 「ユウキ…」
 「ひとみか…もう聞いたんだろ。最低だろ、俺。結局二人を嫌な目に合わせて
しまったしな…」
 「私はいいから梨華ちゃんを支えてやって。」
 「そうしたいけど子供の俺には何もできないよ…」
 「だらしないね。しょせんユウキってその程度だったんだ。付き合って損し
ちゃった。」
 「なんとでもいえ。」
 「あんたはそうやって落ち込んでさえすればいいわよ。でも梨華ちゃんは子供
を産めなくなっちゃったら絶対に一生心に傷を負ったまま生きていくことになる
んだから。」
 「恨まれるんだろな。」
 「恨まれるだけならまだましよ。下手すりゃ一生子供産めなくなったりするん
だから。もう男の人が怖くなったり…私は女だからそのへんはよくわかるな…」
 「悔しいよ…悔しいよ…でも俺は何ができるんだよ!ちくしょ!」
 「側にいてあげて。」
 「へ?」
 「そばにいてあげるだけでいいわ。」
 「そばにいてあげる?」
 「そう、一緒にいて梨華を安心させてやって。ユウキにできるのは一緒にいて
あげることよ。」
 「本当にそれで俺は梨華を支えてやれるのか?」
 「うん…」
 「わかった…俺はずっと梨華の側にいる。」
 「やっとわかってくれたんだから。」
 「ひとみ、ごめんな…」
 「いいってことよ。私のことは気にしないでいいから。」
 「ひとみ、ありがと!」
 吉澤は涙を流しながらも笑顔でユウキに頷いた。その姿を見たユウキは決して
吉澤の気持ちは無駄にはしまいと誓った。



 「ちょっとユウキ!大変よ!梨華さんが!」
 後藤家には朝早くに電話が鳴り出した。それを母親がとってしばらくして大騒
ぎし始めた。
 「梨華がなんだって!?」

 母親はすでに石川の妊娠のことについては、本人の口から聴いており、石川の
両親とも何度も話し合いの機会を設けている。ユウキは始め話したとき怒られる
と思いある程度覚悟したが、逆に力が抜けたように泣き出した。店を一人で切盛
りしながら子育てをしてきたたくましい母親で、滅多に涙を子供達の前で見せた
ことはなかった。それが泣いた。ユウキは初めて母親に対して申し訳ないという
感情を抱いた。

 「梨華さんが病院から抜け出したって!今朝看護婦さんが見たときにはすでに
いなかったって…それで梨華さんのお母さんからユウキに心当たりがないかって…」
 ユウキはそれを聞いた瞬間に何も考えず上着を取って外へ飛び出した。そして
急いで梨華の入院している病院の方へ向かうため駅に行った。石川はすでに都内
の病院から神奈川に入院先を変えていた。ユウキは電車の中で携帯で石川の母親
からできる限りの情報を聞いた。現金は数千円しか持ってないはずだからあまり
遠くへは行けないはずだということ。一応コートは着て行ったようだがこの冬の
時期には妊婦が歩くにはあまりにも体を冷やしすぎる恐れがあるということも聞
いた。



 ユウキは神奈川に着くとすぐに聞き込みを始めた。難航すると思われたがあっ
さりと石川のことを覚えていた駅員を見つけ、何線に乗って行ったかまで聞けた。
どうやら家の方向に向かって行ったようである。ユウキはすぐに石川の家のある
駅まで向かった。この調子でいけば案外簡単に見つかると鷹をくくっていたが、
それ以降は情報が全く途絶えた。
 小さな町だが一人で探すにはあまりにも広すぎる。ユウキは会う人全てに聞い
て回ったが、全く手がかりはつかめなかった。ユウキはいてもたってもいられな
くなり走り出した。マラソンが苦手ですぐに息はきれぎれしていたがそれでも走
り続けた。息が苦しくなってきた。石川の体のことを考えると焦りばかりの募る。
さすがに体力の限界でとうとう座り込んだ。気がつけば目の前は海とその砂浜が
広がっていた。そこには一人の少女が座り込んでじっと海を眺めていた。
 「梨華…?まさか…」
 ユウキは息を落ち着かせながらその少女を見た。
 「いややっぱりそうだ!」
 よく見ればその海はユウキと石川が初めてキスを交わした場所であった。



 「梨華!」
 少女がその声で振り返った。
 「ユウキ…」
 ユウキは急いで梨華のところへ走った。
 「なんだ、ここにいたのかよ…さあ、帰ろう。体が冷えちゃうよ、さあ。」
 ユウキは石川の手を引っ張るが石川は動こうとしない。
 「どうしたんだよ、ほら。」
 「帰らない。」
 「なんで?」
 「だって帰ったらお腹の赤ちゃんがおろされちゃうもん!」
 石川はユウキの手を振り払った。
 「そんなわけ…」
 「ないって言い切れる!」
 「いや…」
 ユウキは何もいえない。
 「一緒にどっかへ行こう…」
 「それはだめだ。」
 「なんで?そっか…ヨッスィーと…」
 「ひとみとは話はつけた。俺はずっと梨華の側にいる。」
 「だったら一緒にきてよ。なんでだめなの…」
 石川は枯れそうな声ですがりつくように喋った。
 「俺と梨華はまだ親がいないと何もできない。二人だと子供を産むのは絶対に
無理だ。産んでも育てることができない。生まれてくる子がかわいそうだ。」
 「でも産むのは絶対に許してくれないよ。」
 「わかってくれるさ。俺達が真剣な気持ちを必死に伝えたら絶対にわかってく
れる。」
 「でも…」
 「安心してよ。俺が絶対に側にいるから。絶対離れない。」
 「本当に?」
 「ああ、絶対だ。」
 「ユウキ…」
 石川はユウキの胸に身を寄せた。ユウキはそれをしっかりと受け止めた。
 「さあ、体を冷やすとお腹の子供に良くないからいこ。」
 ユウキは自分の着ているジャンバーを石川の肩にかけた。



 病院では石川の両親がユウキから連絡を受けて帰ってくるのをいまかいまかと
待っていた。そうこうしているうちにユウキと石川が病院へやってきた。
 「梨華!大丈夫だったの?」
 母親が駆け寄る。
 「心配かけてごめんなさい…」
 「いいのよ。無事ならそれで。ユウキ君。見つけてくれてありがとう…」
 「いや、俺は…」
 父親もやってきた。ユウキが一緒にいるので複雑な表情だ。
 「とりあえず礼はいっておこう。」
 「あの…」
 「子供のことなんですけど…産むのを許してくれませんか!」
 「何をいうかと思えば。だめに決まっているだろう。」
 「確かに最初はみんなに頼らないと無理だと思います。でも、一生懸命勉強し
て働いて絶対に一人前になって、お返ししますから。お願いです、産むのを許し
てください。」
 「お父さん、私からもお願い。私も一生懸命家事や育児の勉強するから。」
 「あのな…」
 「もういいじゃないですか、お父さん。」
 母親が父親の言葉をさえきった。
 「ユウキ君、梨華。その言葉は本当ね?」
 「はい!」
 二人は揃って返事をした。
 「うん、いい目をしてるわね。お父さんも本当は賛成なんでしょ?」
 「勝手にしろ!もう一人子供ができたと思って俺が責任もって面倒見てやる!」
 父親はポケットに手を突っ込んで病院を出て行った。
 「お父さん!」
 梨華が父親に声をかけた。
 「ありがとう…」
 「これからが大変だからいい加減な気持ちで産むなよ!」



 「ふふふ…お父さんと私も昔はあなた達二人のような状況だったのよ。梨華、
あなたにはまだ話したことなかったわね。」
 母親は二人をソファー座らせて語り出した。
 「私とお父さんは高校が同じでね。付き合ってたときに妊娠しちゃってね。
17歳のときだったわ。私のお父さん、そう梨華のおじいちゃんね。ほんとカ
ンカンでね。お父さん必死に土下座して謝るばかりでね。でも私は産みたかっ
たの。おじいちゃんの反対を押し切るように出産しちゃってね。私はほとんど
家から勘当状態。二人とも高校辞めてね。お父さんはそれからは必死に働いて
ね。でも高校中退じゃなかなかいい仕事もなくてね…お父さんは働きながら必
死に勉強して大検も受けて、それから大学行って勉強しようと考え出してね。
そうしてるうちにおじいちゃんもお父さんの頑張りを認めてくれて学費の援助
してくれるようになってね。でもお父さんは大学でてからはきちんと全部返し
たわよ。そういうこともあったからこそお父さんはそういう苦労をさせたくは
ないから反対したのよ。」
 「そうだったんだ…」
 「ユウキ君。あなたは若いけど責任はもうあるんだから自覚してね。私達も
協力するけど最後に頼れるのは自分だけよ。」
 「はい!」
 「梨華もユウキ君と一緒に頑張るのよ!」
 「うん、お母さん!」
 二人の返事を聞いて母親は満足そうに微笑んだ。



 時は経ち季節は秋になり再び厳しい冬を迎えようとしていた。
 「梨華。調子はどう?」
 「聞いてユウキ!子供が中でお腹を蹴ったのよ!」
 「まじで!」
 ユウキは石川のお腹に耳を当てた。

 石川のお腹はすっかり妊婦らしく膨らみ、もうじき出産を迎えようとしていた
ため病院に入院していた。
 石川の脱退は正式にマスコミに発表された。いくらかの会社は石川の妊娠にも
感づいていたが、未成年で高校生ということもありモラル的なものも考えほとん
ど自粛したためで大した騒ぎにはならなかった。バーニングが圧力をかけて揉み
消したというのも周知の事実ではあった。どちらにしろ石川は静かに辞めること
ができ、ユウキも芸能活動を続けることができた。

 「あ!動いた!」
 「でしょ!」
 「もうじき産まれるんだな。そろそろ名前も考えないとな。」
 「私考えたんだけどさ。」
 「どんなの?」
 「ユウキだから男の子だとゲンキ。女の子はユウキと私からとってユウリ。ど
うかな?」
 「それでいいんじゃないか?」
 「ほんと!じゃあそれにしよ!」
 石川のセンスも恐るべしだが、それにあっさり認めるユウキの適当さは相変わ
らずであった。
 「そうだ。真希ちゃんからビデオ預かってきたんだ。」
 「どんなの?」
 「みんなからのメッセージビデオだって。」
 「ほんと!」
 石川は手を上げて喜んだ。
 脱退してからは、やはりどうしても事務所的には会うことが許されず一度も顔
を会わしていなかった。メールでのやりとりは続いていたが、時間が経つと少し
ずつそれも減ってきた。最近はたまに加護が個人的に送ってくるだけであった。
 「絶対見せろって念を押されたからな。早速見ようよ。」



 ユウキはビデオをセットすると、画像が流れ出した。映像にはハイテンション
なメンバーが映っている。真希が前へ出てきた。
 「梨華ちゃん!これを見てるってことはちゃんとユウキが見せたってことだ
ね。今からね、梨華ちゃんが無事に赤ちゃんを産むようにみんなから応援のメッ
セージを送るね!じゃあヨッスィー、しっかり撮ってね!」
 「任せて!」
 どうやら吉澤がカメラマンをしているようだ。
 「じゃあ、最初はなっちいってみよう!」
 「梨華ちゃん、ハッロ〜!元気してる?いや〜なんか梨華ちゃんがお母さんに
なるってなんか信じられないね。なっちもなんだか赤ちゃんが欲しくなってきた
べ。赤ちゃん生まれたら絶対だっこさせてね。なっちでした。」
 飯田が出てきた。
 「石川、久しぶり。早いもんだね。石川がタンポポに入った頃はまさかお母さ
んになるなんて夢にも思わなかったよ。石川は真面目だからきっといいお母さん
になるよ。どんな子供になるか今から楽しみだね。がんばってね…」
 飯田が横にずれると矢口があらわれた。
 「まったく圭織がでかいから見えないじゃんもう!石川、元気か〜!いや〜お
母さんになるんでしょ。幸せなんだろね〜羨ましいよまったく。ユウキ君とまだ
結婚はできないけど、一緒にこれから家庭を作っていくんだね。もうこの幸せも
の!夢見る乙女、矢口でした〜!」



 後ろから加護・辻のコンビが走って矢口を押しのけるように出てきた。
 「あい〜ん!」
 二人同時にやった。
 「あんたらそれいつまで続けるんだよ!」
 矢口が突っ込む。
 「りかちゃん、げんきれすか?つじはげんきれす、てへへ。りかちゃんはとう
とうおかあさんになります。りかちゃんのこどもはつじよりもおおきくなるんれ
しょうか、てへへ。りかちゃんやめてからあいちゃんないてばっかれす。あいちゃ
んをなぐさめてやってくらさいれす、てへ。」
 「ののちゃんいらんこと言わんといてや!梨華ちゃん、もうすぐ産まれるん
やろ?うちのお母さんも早く私を産んだけど梨華ちゃんはもっと早いってお母さ
んもびっくりしてたで。お父さんはユウキ君は早すぎやっていってたで。ユウキ
君はうちといっこしか違わんのにもうお父さんなんやな。なんか信じられへんわ。
赤ちゃん生まれたら一緒にコンサートきてや。絶対に赤ちゃん見せてや。約束や
で!ほなリーダーどうぞ!」
 「石川、ごっつ久しぶりやな。あんたほんまおとなしそうな顔をして、うちよ
り早く子供産むなんて。ほんま、うちは寂しくなるいっぽうや。こうなったらほ
んま早く相手見つけて子供産んだるで。そんで石川より早く二人目作ったるんや!
ようし、どっちが先に野球チームが作れるか勝負や!あら?なんか圭ちゃんが早
くって顔をしてるわ。ほんまこれからがえとこなのに。しょうがないな〜圭ちゃ
ん喋りまい。」
 「裕ちゃんなによそのいいかた。おほん。久しぶり、石川。もう1年位経つん
だね。私達は元気にやってるよ。石川がいなくなってから、ただでさえ男みたい
なメンバーなのに余計男っぽくなっちゃって困っちゃうんだよ。石川がいたとき
は女の子がいたって感じだったのに。ちょっとはみんな女の子らしくしなくちゃ
だめね。特にごっちん、ヨッスィー。」
 「ひどいよ圭ちゃん!ねぇヨッスィー。」
 真希が映る。
 「ひどいわ、保田さん。でも当たってる!」



 「そうかも、あはは!まあということなんだけど、梨華ちゃん、ユウキみんな
応援してるんだからがんばって子供産んで育てるんだよ。夫婦仲良くするんだよ。
このビデオは私とヨッスィーが考えたんだよ。感謝してね。ほらヨッスィー、さっ
きからカメラまわしてて自分が映ってないじゃん。私がカメラ代わってあげるか
ら早く出てきなよ。」
 「えー!恥ずかしいからいいよ!」
 「ほらそういわず。」
 真希が吉澤からカメラを奪い取る。吉澤も渋々カメラの前に立つ。
 「梨華ちゃん…長いこと会ってないね。お腹の子供順調だし、ユウキ君とは仲
良くやってるそうだね。ごっちんから色々聞いてるから安心してるよ。二人なら
絶対にいい夫婦になれると思うよ。色々迷惑かけちゃったけど…応援してるから。
何か相談があったら遠慮せずにいってね。弟の面倒で子供慣れてるから赤ちゃん
の世話いつでも手伝うからね。梨華ちゃん、子供産まれたら子供と一緒にまた遊
びにいこうね。」
 吉澤は少し涙ぐんでいた。
 「ありゃ、もう仕事の時間だ。しょうがないから最後にみんなで。私だけ映れ
ないじゃん。そうだ、ここに置けばいいんだ。みんな、まん中に集まって!よう
しこれでオッケー!」
 真希が最後に集まり全員が映った。
 中澤が合図をいれると一斉にみんなが手を振り出した。
 「梨華ちゃん、ユウキ君、がんばってね!」
 しばらくして映像がきれた。



 「みんな、ありがと…」
 石川は大粒の涙をぽろぽろと流していた。
 「みんなのためにも絶対に幸せになろうな…」
 「ええ…」
 ユウキは石川の手を静かに握った。



 「ハイ、オッケー!お疲れさまでした!」
 ユウキはその声と同時に挨拶を手短にして急いで控え室に戻り荷物をまとめた。
 「よし、ユウキ。タクシ−呼んでるから急いで病院へいってやれ。」
 「和田さん。ありがとうございます。」
 病院から石川が産まれそうになったという連絡が入ったが、収録の途中だった
ので途中で抜け出すわけにもいかずかなり時間は経っていた。
 ユウキはタクシーに乗って運転手に行き先を告げた。しかし、道はすでに大渋
滞となっていてほとんど進まない状態になっていた。ようやく動き出したと思っ
たら前方で衝突事故があったようで身動きがとれない状態になってしまった。
 「運転手さん!こここで降りるよ!ありがと!お金は事務所につけといてね!」
 「はい、ありがとさん。気をつけなよ。」
 ユウキはタクシーを降りて走り出した。ユウキは走りながら、石川が無事に出
産を終えた後のねぎらいの言葉を考えていた。しばらく走った後駅にのり、その
まま病院前の駅についた。ユウキは受付で場所を聞いて、看護婦の注意にも耳を
貸さずそこへ向かった。
 近づくと、中からすでに赤ん坊の大きな泣き声が聞こえてきた。
 「ああ、もう産まれたんだ!良かった、元気な子みたいだ!」



 石川の父親がいた。なぜかソファーに座って複雑そうな表情をしていた。
 「お父さん!もう産まれたんですか!?」
 「ああ、元気な男の子だ…」
 「ほんとですか!中にもうはいっていいんですか!」
 「ああ…」
 ユウキは急いで扉を開け中に入った。
 「梨華!やったじゃん!」
 ユウキが入ってくると同時に中の医者と看護婦が一斉にユウキを見た。石川が
横になっていて、その手を石川の母親が握っていた。
 「おめでとうございます。3000グラムの元気な男の子です。奥様はよく頑
張りました…」
 それだけいうと医師たちは出て行った。それだけかとも思ったがユウキは気に
せず石川のところへ行った。石川の母親は泣いていて目が真っ赤になっていた。



 「あ、どうもお母さん。梨華、がんばったな。疲れたんだな。ぐったりしてる
じゃん。」
 先ほどから声をかけても石川の反応がない。ユウキは少し変に思いながらも石
川の手を握った。出産後は体力がなくなっているから血行が悪くなっているせい
か手は冷たい。さすがに冷たすぎて驚いた。まるで死人のようである。
 「梨華。さっきから黙ったままじゃん。どうしたの?」
 ユウキは石川の手を握って振るが反応は全くない。
 「お母さん。寝ちゃってるんですか?」
 「梨華はね…出産に体力が追いつかなくて…追いつかなくねて!」
 母親は頬を石川の手にすりつけながら泣き出した。ようやくユウキも事態を飲
み込み始めた。
 「まさか…嘘だろ…嘘だろ梨華!返事しろって!こんなの笑えねえよ!」
 ユウキは必死に石川の体を揺らす。
 「梨華!梨華!……梨華…頼むから返事してくれよ!梨華!」
 ユウキは我を忘れて涙を流し始めた。しずくが石川の頬に落ちる。
 石川の顔は周りの騒ぎが嘘のように安らかであった。



 〜数年後〜

 石川が死んでから子供は父親がいる方がいいだろうということで後藤家が引き
取ることになった。名前は石川の希望どおり「元気」となった。後藤家は新しく
弟ができたように喜んで迎え入れた。もともと赤ん坊の世話はしていたので、ユ
ウキの赤ん坊の育児は手慣れたものであった。真希もよく手伝ってくれた。性格
は完璧に後藤家の性格になっていた。どこでも寝るし、あんまりウロチョロする
こともなくいつもおっとりとしていた。おとなしいから普段はあんまし手がかか
らないが、何かやらかすときはとんでもなく大きいことをやらかす。石川の血も
こういうところで受け継いでいるようだ。
 ユウキは19歳となり逞しく成長していた。仕事は辞めようと思ったが和田の
説得もあり子供のためにも続けることを選んだ。仕事も軌道にのってきていてな
にもかもが順調に進み始めていた。石川の父親もユウキの様子を見て、それなり
に任せられると安心しているようだ。
 モーニング娘。はどうかというと、ちょうどユウキが18歳のときに解散した。
その後はメンバーの増員脱退もなく手堅くやってきたが、それぞれが新しいこと
を始めたく、そろそろ潮時かということで解散を決めた。
 ほとんどのメンバーは芸能界に残って、各々活躍を続けている。
 真希は日本代表の若手エースのサッカー選手、彼女のまさに理想な完璧な人と
電撃入籍した。子供も生まれ、10代で結婚するという夢はみごとに叶えた。今
は彼の海外移籍についていって外国で生活している。
 吉澤は…他のメンバーが華やかなその後を迎えているのとは違い、静かに芸能
界を引退した。本当は石川が死んでからすぐに辞めたかったが、まわりの説得も
ありなんとか続けた。今では肩の荷が下りているようだ。



 「おい、元気!いくぞ!」
 「は〜い♪」
 ユウキがとぼとぼと歩いてくる。まだ歩行に安定感がない。
 仕事が休みの日はいつもどこかへ元気を遊びに連れて行ってやることにしてい
た。今日は電車に乗って隣町の公園に行くことにした。
 公園に着くと元気は嬉しそうに走り出した。
 ユウキは滑り台を上から降りてくる元気を下で受け止めてやる。元気の体が前
よりも一段と重くなっていたのを感じた。
 後ろを振り返ると母親とその子供がブランコで一緒に遊んでいた。元気もその
様子を見ていた。
 「なんでパパはいるのにママがいないの?」
 「ママは…雲の上にいるんだよ。」
 「なにしてんの?」
 「元気が病気にならないように見てるんだよ。」
 「へ〜!」
 元気にはずっと石川の写真を見せていたから、石川の存在はわかっているが、
母親というものはいまいち何かわかってないようである。
 ユウキが仕事で面倒を見れないときは家族や石川の両親に面倒を見てもらって
いたが、さすがに母親がいないことは気になっていた。石川の両親は、元気のた
めにもいい人がいたら石川に遠慮せず結婚しろといってくれるが、やはり石川へ
の想いをなかなか断ち切れずにいた。



 「元気、ママ欲しいか?」
 「ママっておこらない?」
 「元気が悪いことをしないと怒らないよ。」
 「ならほしい!」
 「そっか…おっともうすぐ暗くなっちゃうから帰ろうか。」
 ユウキは元気と手をつないで帰り出した。
 「あれ?ユウキ?」
 後ろからどっかで聞いたような声がした。振り返るとすぐにわかった。吉澤
であった。最後に会ったのは真希の結婚式のときで会ったから、ちょうど一年
ぶりとなる。二十歳にはなっていたが、元々大人っぽい顔つきをしていたので
雰囲気はそんなに娘。時代と変わっていない。



 吉澤は走って追いかけてきて、追いつくと一緒に歩き出した。
 「ヨッスィー!久しぶりじゃん。」
 「元気君と遊んでたの?」
 「ああ。ところでこんなところで何してんの。」
 「言ってなかった?短大いっててちょうどこのへんなのよ。」
 「そういや、前に聞いたな。」
 「ごっちんは元気?」
 「どうなんだろ。全然連絡してこないからわかんねえや。」
 「元気君大きくなってるね!やっぱ小さい子供は育つのが早いね!顔は段々と
梨華ちゃんに似てきてない?」
 「ああ、みんなそういってるよ。」
 「将来絶対にカッコ良くなるよ。楽しみだね。」
 「ほら、元気。ひとみお姉ちゃん。真希ちゃんの結婚式のときにいただろ。」
 「おぼえてるわけないよ。だってずっとあの時寝ていたじゃん。」
 「そういや、そうだったな…全く真希ちゃんの悪い影響だ。」
 「寝る子が一番よ。そういや元気君ってそろそろ幼稚園に入る頃じゃない?」
 「うん、今度の春に入るんだ。」
 「どこ?」
 「とりあえず近場でAっていうところ。」
 「うっそ!あのね、大学卒業したらそこに勤めることになってるんだ!」
 「まじで!ヨッスィー保母さんになるんだ!」
 「そうなのよ!じゃあこれからちょくちょく会うことになるね。よろしくね。
そうだ、ユウキはまだ結婚しないの?」
 「する予定ないよ。相手いないし。」
 「もてるのにもったいないな。お母さんいた方が絶対元気君のためにもいいよ。
小さいうちだとすぐになつくしさ。」
 「そっか…ところでヨッスィーは彼氏いんの?」
 「もうね、女子大だから出会いが全然ないのよ!でも今は保母さんのお仕事が
大事だしね。」
 「ひとみお姉ちゃんってママ?」
 「ちょ、ちょっと!」
 吉澤が驚く。
 「何言ってんだよ元気!ごめんな、こいつまだママの言葉の意味がいまいちわ
かってなくてな。」
 「ははは、それもいいかのね!」
 「え?」
 「あ、いっけない!友達と会う約束してたんだ!いかなくちゃ!じゃあね、ユ
ウキ!」
 「ああ、バイバイ。」
 吉澤は手を振りながら走って行った。



 「ひとみお姉ちゃんってママ?」
 「違うよ。ひとみお姉ちゃんはママのお友達。」
 「ひとみお姉ちゃんがママになったらいいな。」
 「まじで?」
 ユウキは少し驚いてためらいながら聞いた。
 「うん!」
 「そっか…まあ一番ママにはいいかもな。ようし元気、肩車してやる!」
 ユウキが肩車してやると元気がはしゃぎだした。

 眩しく輝く夕陽の方へ向かってユウキは歩き出した。

 (まあそのうちなんとかなるだろ・・・)



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