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影の輪舞曲[ロンド] 第1夜:現し身[うつしみ]の影-鈴凛
アスペルギルス 著


 新番組予告

  鈴凛でーす!

  最近、どうもメカ鈴凛の調子がおかしいのよねぇ?妙にレスポンスが悪かったり、ぼーっとしてたり。

  ロボットがぼーっとするっていうのも変だけど、他にどうにも言いようがないの。

  そんなある夜、寝苦しい夢から覚めたあたしは、メカ鈴凛の信じられない秘密を見てしまったの。

  製作者のあたしですら知らなかったメカ鈴凛の秘密とは何か?

  新番組「影の輪舞曲[ロンド]」

  「第1夜:現し身[うつしみ]の影-鈴凛」絶対見てよね、兄貴!

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

  寝苦しい夜。

  蒸し暑い澱んだ空気の中であたしは、そのひとの愛撫に身をまかせていた。顔のない人。見えているはずなのに、見えない。ただ、優しい手の動きだけがそっとあたしに触れていく。

  指先がそっと、あたしの乳房に触れる。あまり大きくない胸。胸の大きさなんて気にしたこともなかったのに、その繊細な動きがふとあたしを不安にさせる。

  誰だかもわからない、なのになぜだか懐かしい人。ずっと昔から知っているような気のする人。

  あたしは動けない。その人の愛撫から逃れることも、積極的に身を任せることもできない。ただされるまま。

  気持ちよかった。その人の指の動きに一つ一つに翻弄されていく。もっと強く、もっと激しく…!そんな恥ずかしいことを言ってしまいそうになる。

  あたしは確かに、その人を知っている。とても近しいひと。とてもよく知っている人。

  …兄貴?

  だったらいいなと、思っただけかもしれない。けれど、それはいつしか確信に変わっていく。

  …兄貴、大好きな兄貴。

  兄貴の指が、あたしの脚の間に入ってくる。優しい指が、下着の上からあたしのオンナノコの部分をさする。電流のような快感が、あたしの全身を駆ける。

  もどかしい愛撫。あたしは、もっと脚を開いて指を迎え入れたかった。けれど、体を動かすことができない。直接触ってって、お願いしたかった。けれど、声を出すことができない。

  じれったい快感。それがだんだんあたしの全身に水が真綿に染み渡るように広がっていく。

  そのうちに、なんだかとても激しいものがあたしの奥底から湧き起こるような予感。もうすぐ、もうすぐ…今にも訪れそうで、なかなかやって来ない。すぐに来てほしい、けれど怖い…。

  エクスタシーとか、オーガズムとか、そんな雑誌で読んだだけのような言葉がいくつも頭のなかでぐるぐるダンスを踊る。

  …そして、頭の中が真っ白になる。

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

  (がばっ)

  …あたしは、そこで目を覚ました。

  「…まただ…」

  自分の部屋の、自分のベッドの上だ。誰に見られるはずもないのに、思わず周囲を見回す。もちろん、誰もいるはずがない…。あたしは、大きくひとつため息をつく。

  「あーもう、なんて夢見るわけ?鈴凛ちゃんてば、欲求ふまーーーーん?」

  なんだかひどく疲れた気分。汗びっしょりかいてて気持ちが悪い。

  着替えをしたい。喉が渇いた。ベッドから降りようと立ち上がろうとした時、腰に力が入らなくて足がもつれた。ベッドに座り込んでもう一度、深々とため息をつく。

  下着がびしょびしょに濡れているのは汗のせいだけじゃなかった。夢とはいえ、そこで感じた快感は、まぎれもなくホンモノだ。

  このところ、毎日のように同じような夢を見る。夢の中に現れる人は、いつも顔がない。けれど、何故だか懐かしい気のする人。よく知っているはずのひと…

  …アタシハ、兄貴ト、アアイウコトヲ、シタガッテイル…?

  あたしは大きく首を振って、そのアブナい想像になりそうだったものを追い払うことにした。

  気のせいだよ、気のせい!健全な婦女子にはよくあることさぁ!…たぶん。

  咲耶ちゃんにでも相談してみようかなぁ…でも、恥ずかしいな…。

  「ま、いいや、ここで考え込んでてもしょうがないもんね!」

  あたしは、とりあえず目前の不快を取り除くことにした。パジャマを着替える。ついでに、下着も替える。

  そして、ひどく喉が渇くので、水を飲みたいと思う。

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

  廊下で、メカ鈴凛とすれ違った。メカ鈴凛はあたしの姿を認めると軽く頭を下げて歩いていった。

  …って、え?

  なんでこんな夜中にメカ鈴凛が一人で動いているわけ?あたしは確かに寝る前にスイッチを切っておいたはず。誰かが起動しない限りメカ鈴凛が勝手に動き出すことなんてない。

  けど、そういえば確かにメカ鈴凛の調子はこのところ変だった。妙にレスポンスが悪かったり、話かけてもなんだかぼーっとしているみたいな感じてなかなか反応しなかったり。インターフェイスの調子が悪いのか、また兄貴に部品代貰ってオーバーホールしないとダメかな…くらいに思ってたけど。

  もしかすると、もっと重大な故障?それとも…

  ともかく、あたしは急いでメカ鈴凛の後を追った。

 

  メカ鈴凛は、あたしのラボまで行って、そこで立ち止まった。そこで突然振り返る。…まるであたしが後ろからついてきていたのを知っていたように。

  「どうしたのよ、一体。誰があんたのスイッチを入れたの?」

  メカ鈴凛に向けて伸ばしたあたしの手が途中で凍りつくように、その動きを止める。

  その瞬間あたしが見たものを、たぶんあたしは死ぬまで忘れない。

  …忘れたくても、絶対に忘れられない。

  その時、メカ鈴凛はあたしの目を見つめ返して、あたしと同じ顔で…。

  あたしと同じ顔で、口元を釣り上げ、にっこりと、微笑ったのだ。

 

  それは、あたしと同じ顔をしたアンドロイド、の、はずだった。笑う機能なんて、つけてない。いや、本当はつけたかったんだけど、微妙な感情コントロールはプログラムがものすごく困難だったので断念したのだ。

  メカ鈴凛は、微笑むことなんてできない。

  あたしと同じ顔をして、微笑むことができるとしたら、それは…誰?

  それは…あたし?そんなはずがない、鈴凛はあたしで、あなたはあたしがあたしと同じ姿に作ったロボット。あなたは鈴凛じゃない、あたしもメカ鈴凛じゃない。だって、ほらあたしだって、微笑むことくらいできる…。

  けれど、あたしの顔はまるで凍り付いたようにこわばったまま動かない。

  「あなたは…誰?」

  「わたしは…あなた」

  メカ鈴凛は、微笑みを浮かべたまま両腕を広げ、あたしに近づいてくる。

  「そして、あなたは…わたし」

  あたしと同じ顔の人形が、あたしを抱きしめようとする。

  「イヤぁぁぁぁ!」

  あたしは悲鳴を上げて、メカ鈴凛を突き飛ばした。メカ鈴凛はガシャガシャと機械音を立てながら床に転がる。微笑みを浮かべたまま。ゆっくりと立ち上がる…。

  「…ずいぶんと冷たい仕打ちじゃないか、鈴凛…きみの、分身だというのに…」

  物陰からの声に、あたしは初めてその場にもう一人の人物がいたことに気付く。

  床まで届く長いマントに身を包んだその人が、道化の仮面を静かに顔からはずす。

  「…千影ちゃん!」

  メカ鈴凛は、一歩進み出た千影ちゃんに駆け寄っていった。千影ちゃんは片手でマントを翻し、メカ鈴凛をその中に抱く。

  「どうして…」

  千影ちゃんは、あたしの質問に答えず、メカ鈴凛を抱いてその胸を撫でた。

  「ひっ!」

  あたしの乳首に突然何かで刺されたような感覚が走る。けれど、不思議に痛くない。それはたちまち快感に変わる。続いて、あたしの胸を優しくまさぐる指の感触…そう、あの夢と同じ…。

  「ひゃ…はぁ…はぅん…」

  あたしは見動きできない。目は千影ちゃんに愛撫されるメカ鈴凛からそらすことができない。

  千影ちゃんは、メカ鈴凛の脚の間に自分の手を入れる。

  「ひぁっ!…いやぁ…!」

  千影ちゃんの指の動きが、離れたところからあたしを気持ちよくさせる。夢の中と同じ…ううん、もっとずっとずっと大きな快感が、あたしの中に満たされていく。

  メカ鈴凛は、あたしがこれまで想像したこともないようないやらしい表情を浮かべて、千影ちゃんの腕の中で愛撫に身を任せている。

  あたしも、あんな顔してるの…?

  「ひぃっ!…だ、だめぇ!」

  あそこを直接触られる感覚。優しい指の動きからまるで直接快感が送り込まれているみたい。あたしとメカ鈴凛は、同じ顔で、同じいやらしい声をあげて、きっと同じ淫らな表情を浮かべたまま果てた。

  あたしはもう立っていられない。腰が粉々になったような感じ。その場に座り込んでしまう。

  「人形[ひとがた]というのは、魂を映すんだよ…自分にそっくりな人形[にんぎょう]なんて気軽に作るものじゃない」

  そう言いながら千影ちゃんは、深い闇の色をした瞳に笑みを浮かべた。

  「…悪い人に利用されたら、たいへんなことになるからね」

  「どうして…こんなこと…」

  「きみが知る必要はない」

  千影ちゃんは、再びメカ鈴凛の体に触れた。あたしの体をまたもや快感が襲う。あたしにはもう何も言えなかった。

  「…少なくとも、今は…ね」

 

  それから、夜明けまでその宴は続いた。千影ちゃんは何度もメカ鈴凛と、そしてあたしを弄び、あたしはされるままに何度も何度も快感の絶頂に導かれた。

  けれど、その最後の時、千影ちゃんはなかなかあたしにとどめをさしてはくれなかった。もう少し…あともう少しでイけるのに。もう一息のところで千影ちゃんはあの意地の悪い笑みを浮かべて手を離してしまう。

  「ち…かげ…」

  「私に、従うか?」

  必死に頼むあたしに、千影ちゃんは普段見せたことのない冷たく、暗い声で問う。

  あたしは、何も言えないまま懸命にうなづく。

  「私に、服従を誓うか?」

  あたしは、必死で何度も首を縦にふる。何でもする…この体の内側で荒れ狂うものを鎮めてくれるなら。

  「ならば…、この、山羊のペニスにくちづけを…」

  千影ちゃんは、あたしの目の前にそれを差し出した。切り取られながらも硬く、巨大に膨れ上がり脈打つ肉の塊。見るからに醜悪で強烈な臭いを放つそれを、あたしはためらうことなく口に含んだ。あたしの口の中でそれは瞬く間にさらに膨れ上がったようだった。

  その肉塊の邪悪な脈動は、あたしを絶頂の高みへと押し上げていく。声にならない叫びをあげながら達したあたしの中に、赤黒い肉塊が熱い精を放つ。それはあたしが何もしなくても勝手にあたしの喉を降りていく。

  「あとは…好きに楽しむといい…」

  千影ちゃん…千影さまは、放ってもなお硬いままのそれを、メカ鈴凛の股間に付けた。それは見る間に人形のそこと一体化する。

  メカ鈴凛が、あたしに覆い被さる。あたしは自分から脚を開き、メカ鈴凛の股間にそそりたつそれを自分の中に受け入れた。

  「あ、あぁ、イく、またイっちゃうぅ!」

  あたしたちは…メカ鈴凛とあたしは…それともあたしと鈴凛は…

  もう、どちらがどちらだかわからない。メカ鈴凛があたしを貫いているのか、あたしが鈴凛を犯しているのか。

  あたしたち二人は…あたしとあたしは、山羊のペニスに結ばれたまま夜明けまで、果てしない快楽を貪りつづけていった。

  薄れていく意識の中で、あたしは、千影さまが指についた愛液を舐めながらつぶやくのを、聞いた。

  「…これで、次からは手を汚さないで済むな…」

  そしてあたしの意識は、果てのない暗闇の中に呑み込まれていった。

 

  ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

 

 次回予告

  咲耶です。

  鈴凛ちゃんにお呼ばれで出かけていったわたしを待っていた罠、また罠。

  これははっきり言って乙女のピーンチ!

  でも、信じているわ、お兄様。そんな罠から、お兄様がきっとわたしを助けに来てくれるって。

  果てしない暗闇の中で目覚めるものとは何?

  次回「影の輪舞曲[ロンド]」

  「第2夜:影に咲くもの-咲耶」絶対見てね、お兄様!

 

 

 


解説

 さて、なんだか無謀なことを始めてしまったような気がしなくもないが。

 千影「…ほんとうに続くんだろうね、作者くん…このままでは私はまるで悪人じゃないか…」

 だって千影がいちばん悪人似合うんだもん。

 千影「…安易だね。…だいたい、全12話ということだが、ほんとうに最後まで話はできているのかい?」

 そんなわけがない(きっぱり)。とりあえずネタがあるのは3話までとラスト2話。残りはこれから考える。

 千影「…不安だ…」

 大丈夫、ネタと根気が尽きたらいつでも話端折ってラストへ飛べる作りだから。

 千影「…自慢には、ならないと思うよ…」

 では、機会があったらまたお会いしましょう。

 


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